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朝まだきの夢物語


「今朝もまた同じお花畑の夢を見たよ」
 目覚めて間もなく武瑠が意味深げに呟く。
「へぇー、そうなの?」
 智香はあまり関心がないという風。伸びとあくびをして武瑠の方へ体を向けた。
「実はね、二日連続なんだよ、昨日に続いて」
「………………」
「夢の中だけじゃなく目覚めてからも、ずっと満たされた感覚が後引いてて。……もしかするとこれが俺の理想郷ってものなのかもしれない」
「死ぬんじゃね」
 うまいツッコミ返しをしたという顔で笑っている。
「なんてことを」
「じゃあ、天国?」
「マジでそんなこと言うのやめてくれる? いま余韻と感動に浸っているとこなんだけど」
「ぶち壊してやる」
 智香が武瑠に覆いかぶさってきてキスしようとする。
「やめて、やめて」
「やめない。一人だけで勝手に」
「ホントやめてくれる?」
「どうしてそんなに拒む。……マジでぶち壊してやる」
「マジでやめろ。真面目に聞いてくれないか?」
 やんわり体を押しのけて、武瑠は真剣な顔つきで頼んだ。
「コスモス畑、いや畑じゃないな。小高いなだらかな丘のうえ。溢れんばかりに紅やピンクや、黄や白のコスモスが咲き誇っている。その上を小さな羽虫の眼でドローン撮影しているような感じで滑ってく」
「ん? 私にも見えた!」
「えっ?」
「とってもきれい」
「凄くいい気持ちなんだよ」
「とっても軽くて、タンポポみたい」
「……………」
「ふわふわ、緩やかに揺れながら、漂って、時に舞い上がって……」
「おいおいおい」
「とっても素敵。魅惑的な微香に包まれて……」
「ホントに見えてんの?」
「浸ってるよ、いま」
「これって、マジで共有できてるってことなのか」
「とっても、幸せ」
 智香が武瑠の腕をさらに強く抱き、顔を埋めてくる。
「あったかい」
「マジかよ」
 レースのカーテンに縁どられた東の空がひときわ神々しい輝きを増している。
 もう間もなく、二人の一日が始まる。
「もう一日続けて武瑠が同じ夢を見たら、もっともっと素晴らしいプレゼントがあるよ、きっと」




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