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MaaSは、現代版「周遊券」になってほしい

ビジネス界隈では最近、「MaaS」(マース)という言葉を聞くことがふえた。ごく簡単に言うと、スマートフォンなどのテクノロジーを活用して、都市の交通事情を改善したり地方の観光を活性化するなど、「移動」にまつわる様々な課題を解決する取り組みだ。たとえばJR東日本は東急電鉄と組んで、伊豆地方の鉄道やバスを便利に利用できるサービスを提供している。

この話で思い出すのが、JRが1990年代ごろまで発売していた「周遊券」というきっぷだ。すでにご存じない世代の方も多いと思うが、特定のエリアのJR線が乗り放題になる切符で、例えば「北海道ワイド周遊券」は、北海道内のJR全線が乗り放題(主要観光地のバスなどもOKだった)、特急列車にも乗車できたので、思いのままに移動することができた。そのようなきっぷが北海道から九州まで全国のおもなエリアに設定されていて、私もよく利用していた。

当時、「旅行の計画を立てる」イコール「どの周遊券を使うか思いを巡らせる」感覚があった。旅の流れはこうだ。まずはどの地域に行くか、つまりどの周遊券を利用するかを選ぶ → そのエリア内の中でどのように旅をするか妄想(計画)する → 旅に出る、そして時間に余裕さえあれば現地で予定をフレキシブルに更新しながら旅行ができた。

つまり周遊券は、旅の思いたちから、計画、そして旅行中にわたる一連の体験がギュッとつまった存在であり、ふつうの切符は「移動手段」の購入であるのに対して、周遊券は「体験」を手に入れる感覚があった(むかしの思い出バイアスでやや大げさに…笑)。

旅行会社から販売されているパック旅行もそうじゃないかという気もするのだが(まさに旅がパッケージされたものだ)、自分の意思で旅を組み立てる面白さが欠けていて、パック旅行を申し込んだ時点で、すでにその旅の運命がほぼ決まってしまう(!)ところが、けっこう違うのだ。

私はよく「北海道ワイド周遊券」を使った。とりあえず往復の手段だけおさえて道内に入り、ユースホステル(これも知らない世代の人が多そうだが…)に泊まって、ほかの旅人たちと情報交換しながら明日からの計画を練る「楽しい旅」を体験してきた。もちろん90年代の時点で実際に周遊券がどの程度利用されていたのかは定かではなく、もはや市場全体ではごく僅かな鉄道好きな人たちだけが利用していたのかもしれない。ただ、これがなくなった変化によって、気軽に旅を計画できなくなったのは事実だ。少なくとも私にとっては周遊券の存在は、「旅のスイッチ」が入る重要なきっかけのひとつになっていた。

さて、本題のMaaSだが、私はこれによって、むかしの周遊券のような「楽しい旅の体験」が現代版にアップデートされて欲しいと思っている。最近、インバウンドだけでなく日本の若い世代のあいだでも、国内の「面白そうな場所」を発見し、「興味深い体験」を求めて旅する(そして映え写真をアップする!)行動がふえてきたと感じている。MaaSは、ビジネス的な言葉で説明すると、「旅行者の移動を簡単にする」「地域を活性化する」「交通事業者のコストを削減する」になると思うのだが、私たち旅行者の視点では、国内の魅力的な地域や旅のテーマが、分かりやすくパッケージになっていて、思い立ったら自由な旅ができる「すてきな体験」のきかっけ作りと実行をナビゲートしてくれるものになってほしい。

もう少し具体的なアイデア(妄想)など、またあらためて書いてみたい。

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