見出し画像

台風後、井の頭公園の湧水復活と地下水話

台風19号の翌日、井の頭公園で、湧水が復活していました。

場所は北西のエリアで吉祥寺通り裏崖線下あたり。七井の池と呼ばれただけあって、まさに七ヶ所ぐらいの湧水があちこちに。結構な流量で触るとすこしぬるい感じ。崖線直下ではなく、公園のゆるやかな平場を進み、池の園路舗装の手前で噴き出しているパターンがほとんどだった。台風の後、関東ローム層下の武蔵野礫層が飽和して、池周辺の園路付近まで地下水位が上がったのだろう。

画像2


同じく北側のハンノキ林が生えていたエリアでは、最近の公園管理で窪みが掘られていて、湧水や表流水を集め、まさにいい感じのレインガーデンになっていた。自然のバイオスゥエル(Bioswales)といった感じ。参考:NYC Department of Environmental Protection: Rain gardens

画像1

ここでいったん浸透貯留して、泥水が池に直接流入しないという仕組み。もともとこの付近は湿地エリアで、湿性適応のハンノキ林が存在していたのだろう。湿地としても定着するかもしれない。水草が生えると嬉しい。

画像3


幾たびの台風で倒れた倒木や枝を束ねて粗朶を作り、園内の露出して踏み固められた土面からの表流泥水が池に流れ込んで、水を汚すのを防ぐ仕掛けが細やかに作られているところに関心。

画像12

画像12

園地から表流水が池に至る直前に細かく掘った浸透溝なども。維持管理に参加している生態工房さんの技。こういうハンドメイドなグリーンインフラは楽しいし可能性を感じる。

画像11


弁財天がある弁天池付近にも、広い背後落葉樹林があるので、湧水があるかなと思ったが、そちらでは見かけなかった。弁天池淵は標高47mで御茶ノ水池付近の湧水地よりわずか50cmほど高い。このわずかな差が地上に露出する地下水位の差を生んでいるのかもしれない。ただ、弁財天付近の水中は透明度が増していたので、水中には湧水が発生しているのだろう。

画像11

井の頭池から流れ落ちる神田川上流端は普段より流量があり、渓流のような雰囲気に。

画像11


今回の台風では善福寺公園でも2年ぶりに湧水が復活した。どこから湧水がやってくるのか、その集水域やみずみちを知りたい。

少し古い資料だが、藤本治義、新藤静夫氏による「井の頭池・善福寺池・三宝寺池周辺の地形・地質と地下水、東京都教育委員会、文化財の保護、第五号、昭和48年3月」という研究があり、武蔵野台地の自由地下水面が描かれている。 自由地下水とは、深層の被圧地下水でない、浅層の武蔵野礫層に滞留する地下水で、浅井戸や池の水はこの自由地下水(不圧地下水)を水源としている。自由地下水は降雨の影響を受け、台風の後などには地下水位が上がる。その勾配は武蔵野台地の勾配と似ているが同じではなく、北東方面にすこし偏位している。大泉付近から白子川沿いに、谷のような格好をしているのは、地下に埋没した過去の河道の跡だとも言われている。

スクリーンショット 2019-10-14 21.26.39

自由地下水の挙動の把握はなかなか難しく、短期的には周辺の樹林や畑地、庭などの浸透域に降雨した雨の影響を受けるが、中期的には上の図のようにもう少し上流の国立、立川あたりに降雨した地下水が移動してきたり、もうすこし長いスパンでは多摩川から浸透した地下水が武蔵野礫層を伝わって移動してきているとも考えられている。

また、次の図のように、夏と冬では井の頭池付近の自由地下水位の高さが異なる。これは、夏季は上流域の三鷹市、武蔵野市で産業・生活用水として深層の被圧地下水からの汲み上げが多くなり、その結果、自由地下水が汲上孔を伝って、深層の被圧地下水帯に流れ落ちているからだと推測できる。冬季は揚水量も減るので、自由地下水位も上昇し、地形に沿った自然の状態に戻る。

スクリーンショット 2019-10-14 21.26.25

武蔵野台地の標高55m地帯では、三宝寺池、善福寺池、井の頭池などの崖線下の湧水があり、これらが東京の神田川などの都市河川の源流となっている。武蔵野台地の池の湧水は、現状ではほぼ枯れていて、深層地下水の汲み上げ、千川用水の環境用水流入などによりなんとか池と川の水量を保っているのが現状である。(下の写真にように、2018年の冬の井の頭池かいぼりの際に露出した御茶ノ水池底には、武蔵野礫層の石と共に湧水が見られたので、降雨の後は湧水は微量だが残っている。しかし池の水量を補う程ではない)

画像11

では、武蔵野台地の湧水の復活に向けてどうすればよいのか?もちろん、池周辺の台地に浸透域を増やすために、緑地や畑地、レインガーデン、バイオスエルなどのグリーンインフラを導入することは重要である。しかし、それだけでは短期的な期間での湧水復活にとどまる可能性もあり、中長期的な湧水を再生させるためには武蔵野台地全体の水循環を健全化させる必要がある。そのためには、地下水がどこからくるのか、湧水をうみだすためのみずみちはどうなっているのかをしらべる必要がある。これには水素酸素同位体という水の中に入っているマーカーを使って、その地下水がどこからどのタイミングで流入したのかを調べる手法がある。著者も一員である善福寺川を里川にカエル会の研究者メンバーでは、住民と連携して、この調査を行うことを試み始めた。今回の台風では善福寺池でも湧水が復活したので、早速メンバーがペットボトルに採水を行った。こういうサンプルが増えていけば、池周辺の水がどこから来たのか明らかになっていくのが楽しみである。その結果を踏まえて、武蔵野湧水復活のビジョンを描いていきたい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?