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フルーティな環境の実現

 今年もちゃんと孵化幼虫が摂れました。

孵化初令幼虫管理

 昨年までは、基本的に卵回収個別管理からの幼虫を孵化後約24時間待ってから200cc菌糸cupに投入し、その後は3令加齢まで管理、という流れだったのですが、「成長の初速が大事」であるとか、「早期に高栄養な餌を与えないと大きくならない」であるとか、まあ、そういった通説には何の裏付けもなく、それらはブリーダー諸氏のお気持ちに大きく左右された気分的主観測でしかないというのが、わたしの実験観察による結論と相成りましたので、そのような風説に惑わされることなく、3令加齢までは特に菌糸瓶投入に拘らずに管理する方針であります。
 ただし、今年からは共生酵母菌を最重視し、幼虫の消化器官フローラにしっかりと酵母菌を根付かせて増殖維持させておきたいのです。なので、孵化したウスヒラタケ植菌産卵材の中でそのままある程度までは育てたいわけです。この産卵材にはウスヒラタケ菌が生きていますし、その上に共生酵母培養液も添加してありますから、栄養的にも菌糸瓶培地と遜色無く、というか、むしろこちらの方が良いとも考えてのことです。まあ、雌雄判別できるくらいまで成長した段階で産卵材から割り出そうかと考えているところです。

フルーティ・フレーバーを知らぬものには語れまい

 今の時期、カブクワ系YouTuberたちは産卵材の割り出し動画のUpラッシュなわけで、やれ、大量に卵が摂れたの、大失敗だの、やり直しだの、放置しましただの、なんだのかんだのって、要は、視聴カウントが回るような、ある意味、態と意外性のあるネタ繰りをしているわけですよね。それでもって、「掘り出した卵や孵化初令幼虫はバクテリア発酵マットで管理します」と。ほら、あっちこっち、またやってるよ、一番やっちゃダメなやつを。しかし、その理由を仰るには、最善策なのだと。

理由1——菌糸に巻かれて死ぬから——
 いやいや、だから、間違ってます。
 先ず、「菌糸に巻かれて死ぬ」てのはですね、菌糸が強いとか、菌糸が害悪なのではなくて、残念ながら、その幼虫は死ぬべくして死んだのです。ある程度の割合で虚弱な幼虫というのは孵化してくるので、そういう個体の場合、培地の中で動かなくなります。すると、菌は窒素源と認識して分解します。ただただシンプルにそういうことなだけです。「菌糸に巻かれて死ぬ」と聞くと、なんだか菌が幼虫にまとわりついて襲いかかって来るかのようにイメージしますが、そもそも、菌の方が生物としては自分で動き回れる幼虫よりも遥かに弱いんです。
 また、投入後の経過観察が容易であるからと、菌糸瓶や菌糸cupの側面(内壁面)に穴を掘ったところに孵化直後の幼虫を投入される方が居られるのですが、これ、ダメなんですよ。それは、容器の内壁面は空気の導通が高い部分で、謂わばエア・ポケットになっており、ボトル内では上部解放面、蓋裏と並んで最も雑菌繁殖し易いところなのです。此処に投入した時点で幼虫を弱らせてしまうことになっているのです。なので、腐朽菌による菌災ではなくて、実は、飼育者が真犯人の人災なのです。

理由2——消化吸収がしっかりできるようにバクテリアを食べさせておきたいから——
 次、なんでまた消化吸収にバクテリアという発想なのかは、その説に対するわたしなりの考察分析論が前々回投稿くらいの記事に詳しいので、そちらをご一読願いたいのですが(下記link参照)、何度も申しますとおり、発酵マットのような堆肥状の餌は自然界ではオオクワガタの幼虫は食べて育っていません。親♀もそのような場所には産卵はしないのです。本来、孵化初令幼虫に必須なのは、白色腐朽菌と共生酵母のセット。バクテリアは無用ということです。
 それと、発酵マットには状態によって害菌が繁殖していることがよくあります。ですので、卵や初令幼虫の管理には本来は向いていません。幼虫が赤く染まって死ぬ事例があるのですが、これはおそらく細菌感染症による事例だと思われます。致死率100%で、わたしもこれで一気に複数頭失ったことがあります。

 今年の産卵材は、昨年に天然ヒラタケ腐朽材を使用したことを除けば過去イチの最良状態を維持しています。それは、勿論、共生酵母培養液添加の効果が高くてですね、天然の産卵材のあの芳香に極めて近い匂いがします。スィーツのようなフルーティ・フレーバーです。これ、バクテリア材や発酵マットで管理している人には無経験で想像できない匂いだと思うのですよね。この芳香、まったく違いますからね、バクテリア分解臭とは。そう、臭気というより芳香なんです。まあ、早い話が、マット管理信奉者の皆々様方、そういうこと・なん・で・す・よっ。

バクテリア発酵マット飼育の功罪

 はっきり言えば、発酵マット飼育の利点は菌糸瓶よりも安価ということだけに尽きると思います。
「けれども、マットでもちゃんと育つじゃないですか? マットじゃ何故ダメなんですか?」
 また出たな、蓮舫。しかし、今回は組みせぬぞ。
 これはですね、消化器官内のマイクロバイオータ——人で謂うところの「腸内フローラ」。これ、人の場合でも、個人それぞれで保菌環境がまったく違うんだそうなんですね。腸内細菌の種類、その保菌数が。で、これが健康状態の質に現れていると。同じ食べ物を食べたって、その食品の種類によってお腹を下しやすい人が居たり、まったく問題なく消化できたりする人が居たりしますよね。端的に言えば、これが個人の腸内フローラの違いによる変異差。ところが、腸内細菌による影響は消化器官内だけに止まらず、どうやら脳神経にも腸内細菌が働きかけているという研究もあるくらいなんですよね。おもしろいのが、人の場合もですね、お産の際に母親の産道で菌に暴露することで腸内細菌が子供に垂直移譲されるという話があり。そのため、帝王切開で生まれた子供とはいろんな面で違いが生じるなのだとか……。え、それ、オオクワガタと一緒じゃないか! まあ、この話の医学的真偽は確かめていませんので、どうぞ、その点はご留意願います。とにかく、この分野の研究は最近になって解明されてきたことが殆どなんですよね。なので、まだまだ未解明分野なのです。
 同じクワガタ種でも、コクワガタなんかはおそらく、その消化器官内に保菌されるフローラがクワガタ種の中では最も多彩なのではないかと考えられるのですよね。そのように広範囲な餌環境に高順応化しておくことで、繁殖生息可能なエリアを拡大し得ているのではないでしょうか。何せ、「何処でもコクワガタ」と言われるくらい、日本全国に生息しているのですから。従って、オオクワガタのマット飼育というのは、オオクワガタの「人工コクワガタ化」みたいな、食性改良、つまり、品種改良に近い飼育方法ではないかとわたしは思うのです。そして、懸念されるのは、それによって共生酵母菌をロストさせてしまうのではないか、ということです。実際、大型血統ブリード種のような累代のかなり進んだオオクワガタなんかは既に共生酵母をロストしてしまっているのではないでしょうか? オオクワガタのマット飼育はメイク・センスではあっても、羽化結果は菌糸瓶よりも大型化しないのは、消化器官内のマイクロバイオータの標準セットが腐朽菌と酵母発酵ベースとバクテリア発酵マット・ベース環境とでは大きく異なるから(ミス・マッチド)だと考えられます。また、産卵不全、無精卵、蛹化不全、羽化不全や、突然死、それらは血が濃くなったことによる累代障害との説がありますよね。果たして、それらの問題の原因はそれだけでしょうか? 共生酵母菌のロストも大きく関連しているのではないかとわたしは考察しているのですが。読者のみなさまはどう考察されましょうや。
 何れにしても、本来、自然環境下での常態を飼育個体にも再現維持してやった方が良いに越したことはないとわたしは思います。何故なら、人工発酵マット(ぼかし堆肥)と同様の環境は自然下でも存在し選択可能なのにも関わらず、しかし、オオクワガタの♀はそういう環境を産卵場所には選択しないわけです。それは、本能的に他種との競合を避けているため、というだけの理由ではないと思うのですが。

酵母発酵で菌糸瓶をフルーティに

 自然の腐朽材内環境と同様に「菌糸瓶を発酵させないとダメ」というのがわたしの今後の課題なのですが、バクテリアの好気発酵は土台、無理なんです。発熱します。それによって白色腐朽菌も酵母菌も死滅します。これらには親和性がないのです。糸状菌は、経済社会的に比喩すれば、単純に白色腐朽菌の競合他社のような存在で敵対関係です。
 白色腐朽菌に親和性があり、腐朽菌の分解と発酵が同時進行で可能なのは、酵母菌なのです。また、一部の乳酸菌も親和性があると思われますので、ひょっとするとオオクワガタも乳酸菌を消化器官内マイクロバイオータのフローラ・セットに組み入れて利用しているのかもしれません。
 何れにせよ、わたしが観察と実験によって突き詰めたのは、ワイルド・オオクワガタ幼虫の育つ自然下の天然腐朽材中は、白色腐朽菌と共生酵母菌と幼虫との共利共生分解トライアングルで材の中は発酵している、という事実です。それが実現している状態を示す芳香がフルーティ・フレーバーなのです。

 このようにわたしの考え方は大多数の凡庸なオオクワガタ・ブリーダー諸氏とは真逆なので、自頭で考える鍛錬とアンチな精神が養われていない方にはココは少々キツイブログなのです。マイナー・ソサエティです(笑)。

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