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嘘とアホだらけのインセクト業界 —— 菌糸瓶飼育の虚実を暴く

ストップ 思考停止
 わたしはinstagramの投稿でも以前からよく言っていることなんですが、業者や半業界人素人、巷のBloger、YouYuber、みんな勝手にいろいろ仰ってます。今の時代、情報が溢れているわけですが、信憑性に疑いを抱かざるを得ないものがその殆どで、その有用性は精査してからでないと極めて低いです。それらの大半は伝聞であり、発信者自身では無検証のまま流布されているというのが実態なのです。そうでなくとも、野外採集からブリードまで、様々なシーン、フェイズでの偽情報がネットを繋げば蔓延しています。当noteではオオクワガタ関連のみ扱いますので、他種については論外ではありますが、ここで注意喚起したいのは、それらを鵜呑みにせず、一旦、自分で十分に咀嚼してみるということです。思考停止は害悪でしかありません。自身の頭で考え、それでもわからなければ自分の手で実験・検証してみる。そういう手間を惜しんで得られるものなど、所詮大したものではありません。

わたしの場合
 わたしの飼育しているワイルド・オオクワガタはすべて自己採集による京都市産個体群です。それらの採集地は誰に教わるでもなし、自らの足で山野を歩き回って探し出しました。そんな経験を積み重ねて複数年、毎年、コンスタントに採集実績がありますので、生息場所(複数)から、生態環境まで自身で完全に把握しています。また、それらのワイルド個体を持ち帰り飼育している中でも、餌や飼育用材などについては独自に幾つもの検証実験を繰り返し、その結果を得ています。
 自画自賛に受け取られるかもしれませんが、「クワガタ・ブリーダー」と自称他称される人たちでも、わたしほど独自の飼育方法を試されている方は稀ではないかと自負しています。みなさん、使い古しの通説を未だに自信あり気に述べられていたりするのですが、しかし、それらはわたしの得た検証結果とは相反することばかりなのです。経験者にしか知り得ない事実というものがありますが、それを持たない人は他人による情報を然も自分が会得したものであるかのように吹聴されます。
 また、多くのブリーダーは菌糸瓶飼育に於ける肝心要の餌材——菌糸瓶——を市販品に頼られています。これもわたしのように自製されている方は極めて稀だと思われます。菌糸瓶なくしてオオクワガタの大型化飼育は成立しないですよね。しかし、これもみなさん、一番大事なところは何故か他人頼りなわけです。それなのに、菌糸(白色腐朽菌とその培地)についても熟知しているかのような言説を大袈裟に吹聴されています。「菌糸慣れしてない個体なんすよね〜」なんて知ったかぶりで仰います(笑)。そもそも、ワイルド・オオクワガタは自然界では白色腐朽菌あってこそ育つ虫なので、そんな論法はおかしいんです。それは言うなれば、「添加剤慣れ」でしょう。このように、例えブリーダー大家と目されるような人であっても、腐朽菌(きのこ類)についての知識はまったく素人な人が殆どです。けれども、何故かこれがオオクワガタに関する限り、腐朽菌オーソリティーな態度でご解説いただくわけです。これはまったく不思議なことなのですが、知識に乏しい初心者なんかにすれば、そういう言説を真に受けて実践してしまい、結果、回り道をすることになるので(少なくとも1シーズンは棒に振ることとなります——案外、この損失は大きかったりしますよ)、実は大変迷惑なことでもあります。
 それらの情報(言説)の殆どが大嘘なのだということを、今回は幾つかの具体例を挙げてご説明いたします。そして、これらは初歩的にも応用的にも非常に基本的な知識である筈なのに、何故か、誤った情報が罷り通り続けているというのが実情なのだということを周知できればと思う次第です。

  • 菌糸ブロックの白い膜を何故捨てる? —— 貴重な資源

 例えば、あなたはソーセージを食するとき、その外皮膜(腸詰めなので腸の皮膜ですが)をすべて剥がしてから食されますか? ……これと似たことがこの件では言えるということです。
 菌床ブロックの袋の中の白い皮膜のような部分は菌糸体です。それらは主に植菌
製作時に注入された液体種菌の塊と考えられますが、白く見えている限り弊害はありません。しかし、一旦剥がれ落ちて分離すると死んでしまい、腐って褐色化してしまいます。つまり、それらが白くて腐っていない限り資源であり、貴重なオオクワガタの餌の一部であります(というよりも、木質であるオガ屑よりもこちらの方が大事)。なのに、何故にそれを剥がし取って捨てねばならないというのか? その理由をどなたかご存知ですか?
 早い話が、菌糸瓶に詰め直す際に菌床ブロックの塊は粉々に崩しますが、その際に一緒に混ぜ込んでしまえばよいです。すると、菌はコロニーのクランプから外れた白い菌体部分については再分解して消化吸収するんです。生リサイクルです。だって、貴重な窒素源なんですから。

  • 発芽子実体はは害? —— 砕いて培地内に埋め込めばよい

 これも上の白い菌体皮膜の場合とほぼ同じです。子実体は摘み取って千切って砕き、そのまま培地内に混ぜ込めばリサイクルされます。また、新たな培地(炭素源)に漉き込むと、子実体からの菌糸拡大培養が可能です(ただし、これは好条件が揃わないと難しいですが)。いずれにしても、環境が整っており、当該腐朽菌に十分な活性がある場合についての話ですので、その点については注意してください。
 そして、子実体(きのこ)は、それらがもしも食べられる条件(環境)に在るとき、幼虫は選択的に食べます。実際に幼虫が子実体を齧り取って食べているところをわたしは何度もこの目で見て観察しています(ヒラタケ、ウスヒラタケ、シワタケに限り確認)。同じ白色腐朽菌でもカワラタケやシハイタケなどの多孔菌類の子実体については不明です。

  • 旧食痕を新しい培地に入れると良い? —— 菌糸の活性を阻害する微生物・雑菌を増殖させてしまう原因

 これは学術論文の誤読というか、拡大解釈というか、あと、ブリーダー大家たちによる経験則の単純な思考停止継承というか……まあ、そのようなプレシーボ・エフェクトでしょうか。よく目・耳にするのが、「以前に幼虫が居た環境を継承することで落ち着く」などなどの屁理屈……なんですが……、人の場合の……例えば、外泊の際、自宅で使用している自分の枕をホテルに持ち込む人のような感覚を言っているのでしょうが(自宅での環境再現によるリラックス効果)、それを幼虫に押し着せるのもちょっと……と思います。まったく異なった菌糸瓶環境に投入しても落ち着く個体も居れば、そうでない個体も居ます。その原因はまた別にあるとわたしには思われます。
 幼虫は「反芻することでより大きく成長する」ということを大袈裟に吹聴する人が居るんですが、これは100%あり得ないです。国語辞典で「反芻」を引いて確かめてください。クワガタ幼虫にはこれは不可能なことが解る筈です。また、幼虫が
自身の排出した糞を食べ直すという行為も大型化に繋がるとよく言われます(微生物の働きにより糞が再分解され、更に栄養吸収されやすくなるため——という説)。これらの説をもっともらしく吹聴する人は自称専門家の業者さんに多いんですよね。学術論文が出典元ということを盾にしたこの理屈に、プロの技っぽい「知る人ぞ知る」、「如何にも感」、「尤も感」が漂っているからでしょうか? 実際、初心者や未経験者にこういう話を吹聴すると「おお、凄い! やってみます! ありがとうございます!」てなりますよね。このような言説に詐欺っぽいテクニックが潜んでいること、そんな臭気がプンプンするのを嗅ぎ取れるのはわたしだけでしょうか? 擬人化表現話法も詐欺話術テクニックの一つだと思うのですが……。
 まあ、しかし、です、これらの説に果たして確たるエビデンスはありますかね? ——この件は詳しく説明しだすと長くなってしまうので、今回は端的に済ませてしまいますが——では、何故、菌糸瓶の中が、大きく育てるために重要と主張されるその食痕だらけになったら、幼虫を新しい菌糸瓶に入れ替えるんですかね? ……ね(笑)、この事実からだけでも、この論はその乗っけから既に大破綻してるんですよ。何故、こんな単純なギミックに気づかないのでしょうか。まあ、そういう錯覚に陥れるところこそが実に詐欺の手法っぽいわけですが。だから、思考停止は害悪ですよ、と言いたいのです。
 もう一つ注意喚起したいのは、「学術論文だから正しい」ということは決してないんです。その研究結果も、条件など、或る限定的な特定の場合について述べられたものなのであって、その検討を要する詳細な部分などはすっ飛ばして、わかり易い結果だけを無条件に受け入れるという、素人ならではの誤読解釈は如何なものかと思います。
 実験使用検体種がコクワガタの場合での結果が、そのままオオクワガタにも通用するとは限りません。そして、声を大にして言いたいのは、これら研究論文の試験・実験結果は、——市販されている菌糸瓶使用によるものでもなければ、クワガタ飼育者にとって有益となる研究ための目的でもない——ということです。大凡、それら学術研究の目的はまったく別のところにあり(害虫駆除であったり、新薬開発であったり)、事によると、研究費を得んがための盛り盛り論文なのかもしれません。
 話を本筋に戻しますと、基本的に幼虫の糞は老廃物が含まれたものであるので、窒素化しています。それが培地内に残ることで腐朽菌によってリサイクル(再分解・吸収)されることは重要です。自然下の腐朽材中のワイルド・オオクワガタ幼虫はそれを促すために坑道内に糞を硬く詰めているのだとわたしは考察しています。
 がしかし、それも培地内のC/N比によって一定の好条件を保っている場合に限ってのことです。幼虫の糞(食痕)が低C/N比に大きく振れてしまうと空気中の微生物の格好の餌となり易くなり、コンタミを誘発し、培地内に雑菌が急激に増殖し過ぎてしまうリスクが急激に高まります。これは、その製作時から窒素添加剤が含まれている市販菌糸瓶については特に顕著であり、その結果、腐朽菌の活性を弱めてしまい、窒素源を再利用し難くしてしまう原因となります。結局のところ、これこそが菌糸瓶を新しいものに交換しなければならない唯一の理由です。腐朽菌は菌糸瓶内の培地を優占支配し、環境コントロールできているからこそ、長期間、オオクワガタの餌と成り得るのです。そして、菌糸瓶交換時に旧菌糸瓶から幼虫の食痕(糞)を新しい菌糸瓶に導入したからといって、その幼虫が大きく育つという優位性の確証はまったくありません。しかし、上記の理由により、旧食痕を導入しなかった菌糸瓶よりも確実に培地の劣化は確実に早まります。本来、その真新しい菌糸瓶内には存在しなかった菌糸の劣化を促進する因子を自ら新規導入する悪手だからです。
 最後に駄目押しです——幼虫の食痕(糞)の中にセルロース、ヘミセルロースを分解、また、幼虫の消化吸収を助ける微生物(共生酵母)が存在しているということについて、わたしはまったく否定していません。であるのなら、それは幼虫の腸内に常在菌として存在して居るのではないですか? ——なにも、体外に排出された糞を人工的に再導入するまでもなく、幼虫自身が体内消化器官内にその大元を温存していて、必要ならばいつでも体外の環境中に放出できるじゃないですか(というか、消化器官は事実上「体外器官」)。そして、その質量的にも必要にして充分と考えられますが、どうでしょう?

  • 同じ菌株であっても別瓶の培地を混ぜるな —— 菌は一度変異して別株化すれば敵対する

「変異」——ここ数年、世界中の人々がメディア発信でよく耳にした言葉ではないでしょうか。ウィルスと腐朽菌は別種ですが、菌類は総じて変異し易い性質を持っていることは一般的にもよく知られています(というか、よく知られることとなった)。どういうことかと言いますと、元は同じ体組織の一部であったのにも関わらず、一旦、同一コロニーのクランプから外れて離れてしまうと別株に変異し易いということなんです。つまり、元は同じ菌糸ブロックからバラした菌糸であっても、分けて数日も経てば、それらはもう別株化(変異)しているということなんです。
 これも、よく言われることで——余った菌糸を集めて混ぜ込んで……などという話ですが——「それ、成功したことありますか?」と、実際に試したことのある人にわたしは聞きたいんですよね。経験上、その培養はほぼ高確率で失敗します。一旦、変異して別株化してしまった菌と元の菌は決して融和しないからです。分離後、まだ時間経過が浅い場合は偶に上手くいくこともあるにはあるのですが、それは非常に稀なケースです。通常、分離後一定期間を経た双方の菌糸培地を混ぜ合わすと、結果、どちらも生き残れずに死んで腐ってしまい、程なくカビなどの別種の菌類などの餌となって腐敗してしまいます。ただし、例外として、同じ容器であっても、双方の菌培地を混ぜ込むのではなく、あくまで双方を単一体として分離状態(隣り合わせて)で置くなどした場合、両コロニーが生き続けるということは確認していますし、これは自然界でもよく見られることです(同一材中に複数の別種腐朽菌が共生)。

  • 酸欠ヒステリーの闇—— 空気孔が無くとも幼虫も菌も死なない(厳密に真空でさえなければむしろ活性化する場合が多い)

 これもですね、やたら大袈裟に言われることなんですよね。「空気の循環が無ければ幼虫も腐朽菌も死ぬ」と。しかし、実際はそんなことはないんですよ、これも実験検証すればわかることなんですが(つまり、検証してない人がそういうことを言うということです)、容器に充填し、その蓋を密封しても菌は生き続けます。むしろ、人工培養ではこれを菌の活性を促すための操作効果として応用することさえあります。どういうことかというと、これは生き物全般に言えることだと思うんですが、生存危機的状況に置かれることでむしろ生活性が上がるという現象なんです。つまり、生物の種の保存本能ですね。それと、我々には密閉された環境に見えても、実はそうではない——厳密な気密環境にはなっていない——という物理的な問題もあります。要するに、菌が呼吸に必要な最低限の酸素量くらいは通気しているということです。
 これはオオクワガタの成虫・幼虫でも同じでしてね、やたらと擬人化して語る人が多いのですが、菌も虫も、我々、人が必要としている圧倒的酸素量を到底必要とはしていません(そのサイズ比を考慮してみてください!)。マクロとミクロの視点の違いです。ここ、ちゃんと認識し直したほうがいいですよ、本当に。
 ちなみに、昨年から今年に掛けて、わたしは野外採集したワイルド・オオクワガタ幼虫(x 10頭)を菌糸培地を蓋まで隙間なくピタピタに充填した200cc惣菜カップ(クワガタ業界で「プリンカップ」と呼ばれている物と同一品)にそれぞれ1頭づつ入れて約半年間管理しましたが、この容器には空気孔など一切空けませんでした。が、これらすべての幼虫は酸欠死はしていませんし、どうやったってそういうことにはなりません。あなたは、あのような薄い皮膜の樹脂カップの蓋に十分な気密性が担保されていると本気で思われますか? では、何故、当初は無かった筈の、幼虫が食べて消化してしまった培地分の空洞が容器内に存在できるのでしょうね? その空洞サイズに値する容積分の空気は一体どこからやってきたのでしょう? ……つまり、あれくらいの緩さ(隙間)があれば、腐朽菌や幼虫にとっては呼吸にはまったく支障がない程度の空気の流入があるということをこの事実が示しています。というか、むしろ逆に、害菌などの侵入を一定限防止できるので、小穴を開けない方が有益と考えられます。

今回の結び
 さあ、如何だったでしょうか。すっきりしてもらえたのではないですか? もし、ご意見がございましたらば、コメント欄(↓)の書き込みにてお気軽にどうぞ。以上の内容は、わたし自身の観察・実験・検証により得られた結果を見て判断、考察し、解説したものですので、ご質問にも率直にお答えできるかと思います。
 他人の言説に疑いを持たずに易々と受け入れてしまうのは日本人に特化した気質なのでしょうか? それじゃあ詐欺天国国じゃないですか。少なくともそれが美徳であるとはわたしはまったく思いません。
 この今回のわたしの論も含めて、とにかく思考停止しないで、自分の頭でしっかりと考えてみてください。それでも納得いかないときは自分自身で実験検証しましょう。そのようにして得られた結果こそ、あなたにとっても他の誰かにとっても価値ある事実ではないでしょうか。

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