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京極血統・京都市産ワイルド 選抜個体紹介

 これまで採集してきた京都市産ワイルド個体と、それらを始祖としてブリード飼育してきた中からの選抜個体を紹介します。

WB1G03 - 72mm

2019年2令幼虫採集・ワイルド飼育2年化(2020年羽化)個体。

WB1G03 - 72mm

 飼育初年度、3令幼虫時の晩夏には29.9gまで成長していたのに、越冬から羽化までのわたしの菌糸瓶管理が行き届かず痩せさせてしまい、70mm代前半にサイズ・ダウン羽化となってしまったという、悔やんでも悔やみきれない、苦い経験を味わった個体。
 頭部が大きく、前胸、上翅の3バランスは大変良好なのに、明らかに顎の長さだけが寸詰まり感。「もし、幼虫があのまま秋・冬・春に順調に大きくなっていれば……」と、羽化当時は残念でならなかったです。
 しかし、羽化した体躯バランスから、この飼育最終ステージでの管理の失敗結果は、体躯サイズの全体的な表れというよりは主に顎の伸び留まりにだけに集約して表れているのではないかと思いつき、越冬から羽化までの春先あたりの期間に顎の発達形成に何かしらの非常に重要な発育段階があると仮説を立てて考察・研究し、以降の3令加齢後の幼虫管理はその点にフォーカスを絞るようになりました。

KG21101 - 37mm

2021年度ブリード2年化(2023年夏羽化)個体。WB1G03の初代子孫ライン。

KG21101 - 37mm

 KG21102と同腹兄弟ながら、まったく同一餌材使用と同様の環境下での飼育にも関わらず、何故かこの個体だけが2令で越冬し、翌年夏に3令化。そして、2023年夏に羽化した個体。
 これは、3令加齢後に十分に成長しても蛹化しない、いわゆる「セミ化」現象とはまったく異なった事例でます。原因は、遺伝子的な変異ではなく、おそらくは成長ホルモンの分泌不全等の異常によるのではないかと今のところ考察しています。

KG21102 - 74mm

2021年度ブリード1年化(2022年夏羽化)個体。WB1G03の初代子孫ライン。

KG21102 - 74mm

 前出のKG21101と同腹兄弟で、こちらはブリード個体らしく1年化羽化。種親の幼虫期飼育の失敗経験から、顎の発達の伸びを意識した結果、本来の体躯バランスを取り戻せたかと思います。若干、顎が太めに出ています。
 しかし、辛うじてサイズは親超えしたものの、その本来のポテンシャルを完全に活かせたとは言い難く、それは、度重なる餌材の試験・実験の数々による弊害であり、そこに関してはわたしのブリーダーとしての管理反省点になります。

RAB1G06 - 73mm

2021年越冬初令幼虫採集ワイルド・飼育2年化(2022年羽化)個体。

RAB1G06 - 73mm

 これまで採集、飼育してきた中で最も好ましい体躯バランスで羽化してくれた個体。常々、わたしの思うオオクワガタの美しい体躯バランスは、横に平べったくて、しかも、縦方向の面積比率が——顎 1:頭+前胸 1:上翅 1——の視覚バランスだと考えておりまして、それを最も近似値的に表現してくれた個体かなと思っています。
 体躯サイズ的には1mm及ばずなのですが、相対的な比率では上翅(下半身)が非常に小さいので、その分、顎長、頭部と前胸部に関しては当家最大だと思われます。緩やかで自然な弧を描いたワイルドらしい大変細身な顎を持っている反面、横幅があり、ぽってりした体型との取り合わせがとても個性的かと。
 また、これまでの試験的餌材(オリジナル培養菌糸瓶)の研究・実験成果が表れたとも思われる個体で、サイズの伸びにはまだ十分には表れきってはいないので会心の出来とまではいきませんが、現在のわたしの最もお気に入り個体です。

RAB2G04 - 74mm

2021年越冬初令幼虫採集ワイルド・飼育2年化(2023年)羽化。

RAB2G04 - 74mm

 オリジナル餌材の開発使用と共に、WB1G03の飼育での失敗経験以降、冬季から春先——つまり、前蛹期——が成虫原基の形成に最も重要な時期であって、特に顎の発達向上にはピン・ポイント的に前蛹の成長過程に合致した最適環境を整えてやる必要があると考えています。その飼育技術的には今尚試行錯誤中ではるのですが、或る対策によって一定の結果が出ていると感じているところです。
 そのように顎を伸ばす(伸び留めない)秘策は自分なりに研究して掴めた気がするのですが、ならば、体躯を横に平べったく(つまり、太く)表現させるにはどうすればよいのか? ——も、個人的には新たなテーマです。
 果たして、幼虫時代の体躯の「細さ・太さ」——縦横比率——が、そのまま成虫の体躯に表現されるのもなのでしょうか? 完全変態であるオオクワガタの場合、その考え方には少々無理があるような気がするんですよね。他方、上翅サイズであり、下半身の腹部の縦方向の伸びは体長の伸びに相対的に直結はしますが、これはまた、オオクワガタらしい見た目の美観とはまた違った基準観点になります。しかし、これについては、おそらく幼虫時代の消化器官の長さが反映されているのではないかと考察しています。
 まだまだ謎は深淵であります。

まとめ

 こうして並べて見ると、なんとなく特徴的な共通項が浮かび上がってくるような気がするのですが、京都市産ワイルド個体の特色は、強いて謂うならば顎の形質表現によく出ているのではないかと思っています。これは完全にわたし個人の主観になりますが、具体的には:

  • 顎が細く長め(太くない)

  • 曲率が弓形にしっかりとあり、根元から先端まで緩く湾曲(非ストレート)

  • 内歯の出幅が少なく、内側横方向よりも前方先端側に向く傾向が高い

  • 内歯の上向き角度が緩く甘い

 ……と、だいたい、上記のようなところです。
 中国産ホペイの顎の形質の特徴に内歯と外歯との関係特性が似ているのですが、
内歯が外歯のラインに揃い気味な傾向は同様に顕著に見て取れるのですよね。内歯の存在感が薄いというか、主張感がほぼないので、見る角度によると一本歯顎にさえ見えます。しかし、ホペイの場合のように内歯の先端が外歯のラインの同一線上に被るほどまでではなく、また、顎幅は決して太くはない、というのが明らかに異なっている点。
 まあ、表現型可塑性・形質の評価については、あまりにも主観的に左右されるところが多大なので、逆に言えば、顎以外の部位の特徴には個体差によるバラつきが多すぎるようにも思います。つまり、或る特定の特徴を持った形質系に纏めることが困難に思えます。例えば、他の部位とは違って羽化変態時に一気に形成される上翅の形質などはあまりにも個体差が著しく変化幅も大きい。なので、上翅の形質差については評価外としてもよいのではないかとわたしには思えます。ただし、そのサイズ感(表面積率)については腹部全体の発達と関連しますので、また話は違ってきます。
 そもそも、産地地域による遺伝的形質変異差があるものなのか、それはあくまで個体差の範疇と捉えるべきなのか、そこのところはわたしにもまだはっきりとは見えてはきていないのですが、ご覧になったみなさんにはどう見えますでしょうか?
 また、最大サイズですが、75mmの壁が厚かったということを今年も痛感させられました。この僅か1mmのライン超えが喫緊の課題なのですが、我が京極血統としましては、来年羽化の目標は更に高く、♂:80mm・♀:50ということにしています。これは不可能ではない!(キッパリ断言)(笑)
 言い訳になってしまいますが、まあ、わたしの場合、様々な実験検証込みの飼育なので、アグレッシブにエキセントリック且つ、チャレンジングな試験をし過ぎての結果でもあります。しかし、これまでの実験検証による成果も徐々にではありますが確実に得られてきている実感もあります。と言いますのは、ブリード個体群もワイルド幼虫採集個体群も、成虫の最大羽化サイズはほぼ横並びに揃っている、という点です。これは、遺伝的資質よりも発育環境と餌材による変異差の方が羽化サイズ表現に対する影響力は大きいという表れではないでしょうか。
 これまでのように、採集幼虫とブリード幼虫飼育とを並行飼育することによって得られる比較検証のメリットは大きいとわたしは考えています。

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