非サポ論
「うちのオカンがね、こういう人のこと何て呼ぶか思い出されへんらしいんやけど」
「どんな人?ほな俺が一緒に考えたげるからどんな特徴言うてたかってのを教えてみてよ」
「サッカーが好きでな、スタジアムに見に行く人たちや言うねんな。スタジアムに行って食べたり飲んだり満喫する」
「それはサポーターやないかい。その特徴はもう完全にサポーターやがな。歌ったり飛んだりしながら応援するんや」
「いや俺もサポーターと思てたんやけどな、オカンが言うには歌ったりせずにずっと椅子に座って試合観とるだけらしいんや」
「ほなサポーターと違うか。それはただのファンやな」
「オカンが言うには、毎日必ずオフィシャルサイトチェックしてるし、ついついチームカラーの入ったモノ選んだりするらしいねん」
「ほなサポーターやないかい。あの人らは生活の中心にサッカーがあるし、推しチームありきの価値観やからね。間違いないわ」
「でも応援歌は歌えん言うてたわ」
「ほなサポーターちゃうやないかい。サポーターは手洗いしながらでも鼻歌でチャント歌う人らやで」
「でもオカンが言うには、ファンクラブにも入っとるし、年間パスいうのも持ってるらしい」
「サポーターやないかい。所得からまずチケット代を捻出して、何ならアウェイの旅費分も計上して、それでようやく可処分所得になるからね」
「でもオカンが言うにはサポーターやないらしい」
「わからへんな。どうなってんねん、もう」
「オトンが言うには、選手の関係者やろと」
「いや絶対ちゃうやろ!ももええわー」
サポーターの定義とは?
ファンとサポーターの線引きって、どこにあるのだろう。サポーター、略してサポという言葉が便利すぎるため、サッカーが好きな人=サポーター(サポ)というある種のラベリングが成立している訳だが、「わたしゃサポーターじゃないよ」という人もいるという話。
サポーターの定義について日本サッカー協会は次のように説明している。
サポーター(supporter)は直訳すると「支持者」で、「特定のクラブチームなどを応援(支援)する人」という意味があります。ファン(fan=愛好家)とほぼ同義語ですが、クラブは地域に密着していることが多いので、より強い意味の「サポーター」という言葉が好んで使われます。現在はサッカー以外でも頻繁に使われています。
うーん、支援者と愛好家の線引きが曖昧!
先日、スポーツナビで興味深い記事があった。
「自分でチケットを買って3回以上来場していたらファン。年間シートの来場者はサポーター」(Jリーグコミュニケーションマーケティング本部・濱本秋紀氏)という定義でる。なるほどこれなら明確だ。けれども、年間パスで全試合通うが、バックスタンドの片隅で私服のままジッと眺めているだけの人も「サポ」でいいのだろうか?遠方住まいのためなかなかスタジアムには来場できないけど年間5~6試合ゴール裏で熱く応援してる人は「ファン」でいいのだろうか?
応援者と観戦者
ゴール裏で声を張り、熱心にチームのことを応援する人たちのことはしばしば「サポーター論」などとして語られるが、スタジアムの観客席にはそれ以外にも実にさまざまな態度の人たちがいる。なかには連れられてきただけでゲームに興味ない人、試合を見ずに走り回る子供達などもいるが、それらを除けば観客は主に2つのベクトルで試合を見ていることになる。1つは応援のベクトル、もう1つは観戦のベクトルだ。
試合に興味がない人を除けば、客席にいる人たちは必ず「応援:観戦」と比率を持っている。極端だが「応援10:観戦0」の人は試合内容など一切関係なくただ応援しているだけの人(さすがにこれは少ないはず)。「応援0:観戦10」はどちらのチームにも肩入れすることなく、ただ冷静に試合を観察している人。こちらは結構いると思う。そこまで極端ではないにしろ「応援8:観戦2」くらいの人はゴール裏にはたくさんいるだろうし、「応援3:観戦7」くらい人ならばバックスタンドに座っていて、チャンスやピンチの時だけ歓声を上げているイメージだ。「いや私は応援も全力だし、試合内容もちゃんと見てるし」という方もいるだろうが、あくまでも比率の話で、熱量ではない。そういう人は「5:5」である。
あまり語られることのない“観戦者”
たとえ贔屓のチームのゲームであっても、応援よりも観戦のベクトルの強い人というのは確実にいるのである。歌うのが、飛び跳ねるのが楽しい人には理解できないかもしれないが、ジッとピッチを眺めているのが何よりも楽しいのだ。観戦武官のような気持ちで、ピッチを見渡している。もちろんゴールを決めれば歓声を上げるし、失点には頭を抱えたりするが、大概は冷静にゲームの推移を見守っている。観戦力の高い人は、相手チームのことも丁寧に見る。キックオフから5分くらいは、スパイクの色や髪型で判別しながら相手チームの選手名を頭の中で繰り返し唱えている。スタジアムには「サポ」だけでなく、そんな「観戦者」も大勢いる。他ならぬ筆者自身が該当者だ。その人たちは主にメインスタンドやバックスタンドに座る。さて、そういう人たちも「サポーター」だろうか?少なくとも自分はサポーターだと思ったことは一度もない。
非サポのサッカーファンの矜持
Jリーグは基本的にどういうスタンスでサッカーを観ようが自由だ。きちんと観戦規程を守ること、周囲に迷惑をかけないことは前提として。たとえば「レプリカユニフォームを着用しなければいけない」という決まりはない。スタンスが「応援」に寄れば自ずとユニフォームを着用するだろうし、静かなる「観戦者」でもユニを着ている人もいる。逆にアウェイに行って座りたい席(バックスタンド中央など)がアウェイユニ禁止の場合、ユニを着ないことに何のためらいもない。観戦志向の者にとっては好きな席で試合を観ることが重要であり、応援することの重要度は低いからだ。周囲がみんなガッカリする中で、ひとり小さくガッツポーズするのはなかなかの快感だし、周囲が大喜びする中でひとりうなだれる瞬間はなかなか惨め(それが快感という人も…)だ。みんなで応援するより、孤立してでも見やすい席で観たいのだ。それが「非サポ」の矜持である。だから非サポにとってはピッチ全体を見渡せるメインスタンドやバックスタンド中央上部に座れるスタジアムは天国である。ところが本来静かに観戦する者が多いはずのメインスタンドの席で大声を出したり頻繁に立ち上がって応援してる人がいると居心地が悪かったりする。ライブやコンサートで「厄介」と言われる存在に近いかもしれない。席によって応援スタンスの強い席、観戦スタンスの強い席で棲み分けができるのが理想なのだが…(なぜか必ずスタンスが違う人が紛れ込む)。
「応援:観戦」の割合で定義する
結論を忘れていた。ファンとサポーターの境界線は「応援:観戦」の割合の差だと思っている。「5:5」の人は好きなように自称すればいい。自分は「応援2:観戦8」くらいなので、ファン以外の何者でもない。チームをサポートしてるなんておこがましい限り。しかしながら金銭ベースで考えれば、シーズンパス持ち=チームを金銭的にサポートしている、という構図はまごうことなき事実であるので、前述のJリーグの濱本氏の定義はその通リという他ない。それからスタジアムには「応援よりも観戦よりも、マスコットだ!チアだ!グルメだ!」という付随コンテンツのガチ勢もいたりする。マスコットやチアやグルメも観戦に含めていいんじゃないかな。いいと思う。たぶんいい。たとえばV・ファーレン長崎を別に熱心に応援してる訳ではないけど、ヴィヴィくんグッズは買い漁るという人はクラブにお金を落としてくれるという意味では、何よりも大切にすべき「サポーター」ということになる。金銭ベースで考えれば。やはりファンとサポーターの定義付けは難しい。
リーグ再開は無応援か?
Jリーグは現在COVID-19(新型コロナウイルス)の影響により中断を余儀なくされている。「新型コロナウイルス対策連絡会議」による提言において、観客に対する感染予防策として [応援スタイルのリスク] について記述があった。肩組み、飛び跳ねや集団での動きの伴う応援、ビッグフラッグ、大声での声援、ハイタッチ、歌唱+拍手等、「サポーター」の行動の多くがリスクとして挙げられている。一方で、普段から「観戦スタンス=ファン」の者にとっては、ほとんど該当する行動がないことに気づく。スタジアムには、普段からただ座って観戦するだけでもゲームを満喫している人がいるのである。J1開幕戦の神戸vs横浜FC@ノエビアスタジアムでは「無応援スタイル」で実施されたが、中継を見る限り「どよめき」「歓声」「拍手」のみでもかなりいい雰囲気だった。おそらくだが、次にリーグ再開される時はこの日のノエスタのような「無応援」が条件となるだろう。その時には、じっくりとサッカーを「観戦」する楽しみもあることを、お伝えしておきたい。
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