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J2視覚化計画2023〈第20節〉

#J2視覚化計画2023

◎今節のアナリスト◎下輪 毅

軍勢の性質とは、指揮を執る総大将によりて変わりしもの。総大将は自ら戦闘員として槍を振るう訳ではないが(例外も有)、平時の鍛錬しかり、戦さ場での采配しかり、その統率に応じて軍勢は総大将が意図せし性格に寄る。将には様々な類型があり、名将、智将、猛将、闘将、謀将、勇将、凡将、迷将、愚将…など二つ名が付くこともしばしばである。

蹴球の監督職は、しばしば総大将になぞらえられる。とりわけ人々に強い印象を残せし外国人監督は、「ネル将」「リカ将」「ロ将」「モフ将」「ポ将」などと呼ばれて親しまれし者たちがいる。「エス将」もその一人であろう。

かつて千葉軍を指揮した「エス将」こと、ふあん・えすないでる氏は「高守備線・高圧力」なる戦術で一世を風靡。玄米食など厳しき兵糧管理も話題となり、一部では玄米法師なる二つ名にて愛された外国人監督なり。優れた成績を収めたかどうかは微妙であるが、今なお熱烈な愛好家を持つ傑物である。

そのえすないでる氏がこのたび山口軍の新監督に就任し、今節の甲府戦からから指揮を執った。
さて注目の初陣であったが、後半に退場者が出た後、甲府軍の攻撃力を止めることができず四失点の大敗。但し、数的同数の時間帯でも守備線を高く保つことも叶わず、まだまだ「えすないでる色」は薄き様子。むしろ普通の軍勢よりも前線と最後尾が間延びしているようにも見えた。無論、甲府軍の強さもあったが。

そもそも山口軍は、成績不振を理由に名塚善寛殿を解任せしように、早くから残留へ向けての危機感を抱き、それゆえに監督交代と相成った。今節時点で二十位、降格線まで勝点三差と、楽観できぬ状況であることは変わりない。

残留争い、なかんづく日本職業蹴球連盟二部の場合、立て直しの為ならば堅実に守備より整えることが常套の思考である。ところが今回山口軍は、攻撃偏重を武器とせしえすないでる氏を招聘。おおよその失点は織り込みながらも、それ以上に得点力を上積みしたいとの意図であろうが、残留こそ目標ならば、此は「狂気」の人選としか云いようがない。監督就任会見に同席した渡部博文社長は、「六位以内の目標は変わらない」と嘯いたという。何と、見据えし目標は“残留ではない”のだ。

かつて長州藩の兵学師範・吉田松陰は海防を脅かす外国勢力と対抗するためには自ら外国を見聞すべきと考え、敵の本丸とも云うべき黒船に乗り込みての密航を画策し、捕らえられた。この極端すぎる思想こそが、幕末の長州藩全体を突き動かせし原動力となる狂気と云えるであろう。長州は松陰流の狂気をまとってこそ、長州なのである。
『諸君!狂いたまえ!!』―維新未来人生競技場に掲げられし横断幕のごとく、狂気をまとったエスナイデル・レノファが、J2後半戦をエキサイチングにしてくれることは間違いない。

下輪 毅(したわ・こわし)
1970年高知県生まれ。ブルックスやフューチャーズを知る世代だが特に需要がないし話も合わない。座右の銘は「旅は道連れ、二部は情け」

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