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J2視覚化計画2023〈第35節〉

#J2視覚化計画2023

◎今節のアナリスト◎荘家久 まどか

長く慣れ親しんだものが終焉の時を迎えるとき、心に吹き抜けていく風の名前を、かの詩人ならば何と呼ぶでしょうか?
J2リーグは、来季から20チームの編成となります。つまり、現在のように22チームで争うJ2は今季で最後になります。

J2が22チーム制となったのは、今から11年前のこと。当時はまだJ3はなく、22チームをリミットにJFLから「Jを目指す物好きクラブ」が次々と参入してきて22クラブが揃いました。

22チームで全42試合という現在のフォーマットとなったJ2は、2012シーズンから今季まで通算12シーズンの時を過ごしてきたいうことになります。そんな時代もまもなく終わりを迎えます。

この期間を通じてJ2を皆勤したクラブが4つあります。
・水戸ホーリーホック
・ファジアーノ岡山
・東京ヴェルディ
・ジェフユナイテッド千葉

です。このうち岡山は、昇格プレーオフ(2017年まで実施)と参入プレーオフ(2018年から実施)の両方に出場したことがあります(2016年と2022年)。東京Vは参入プレーオフの決定戦まで進出しました(2018年)。千葉は昇格プレーオフで4度の出場を誇ます(2012年、2013年、2014年、2017年)。
いずれも勝ち抜くことができなかったので、12シーズンにわたってJ2皆勤なのですが。水戸が1度も落ちることなくJ2最長在籍記録を更新し続けているのも、経営規模を考えればすばらしいことだと思います。

そんな22チーム制最後のシーズンに、皆勤チームのうち3チームが“悲願のJ1昇格”に手が届くかもしれない位置に付けていることは感慨深いものがあります。

皆勤4チームは、どのクラブもいわば「22クラブ時代のJ2」の歴史を作りあげてきたチームなのですが、この期間のJ2の中でとりわけ色濃い印象を残してきたのは、ジェフユナイテッド千葉ではないでしょうか。

22チーム制のJ2を生き抜くジェフユナイテッド千葉の軌跡

こちらの表を見てわかる通り千葉は当初、J1復帰に限りなく近い存在でした(※2010シーズンは4位/19チーム、2011シーズンは6位/20チーム)。2015年に成績を落としているのは、千葉が弱くなったというよりも、他のクラブが力をつけてきたからだと思います。
個の能力に頼るよりも、戦術面で工夫するチームが増え、J2の戦術レベルが上がりはじめたのがこの頃だったと思います。技術や個人能力ではJ1に劣るものの、J2独自の進化として走力やプレー強度が突出し始めたのもこの時期からでした。

千葉は2017年にエスナイデル監督の元、終盤の奇跡的な追い上げによってプレーオフに進出しましたが、それが最後の徒花だったのか、以降上位に顔を出すことはなくなります。財政面でもJ2ではトップクラスの資金力を持っていましたが、他クラブが成長したため徐々お金の面でのアドバンテージも失い(チーム人件費:2012年度…1位→2022年度…6位)、「J2の古豪」という不本意なポジションで語られるようになりました。

今季は新進気鋭の小林慶行監督の元、序盤からアグレッシブに前から奪って敵陣に人数をかける戦術を展開。大卒ルーキー・小森飛絢の登場など期待を抱かせましたが、ラインの裏を狙われて失点を重ねるなど、早々に失速。7~9節は21位に低迷するなど、一時は残留争いに足を踏み入れていました。

そんな“負け犬”キャラに墜ちていた千葉が、ここにきて4連勝。22チーム制最後の年の秋に急上昇してきたことに、J2を長く見て来た人ほど胸騒ぎを覚えるのではないでしょうか。

今節は、今J2で最も好調なチームのひとつ・栃木SCとのアウェイ戦でした。千葉がここまで浮上してきたキーマンは、夏にFC今治から加入したドゥドゥ選手だと思います。アグレッシブな突破で何度も危険なエリアに侵入する様子をみれば、その「効果」は一目瞭然です。ただ、ファウルをもらいたいがためにオーバーアクションになっているのは気になりました。
栃木も夏に補強したイスマイラ選手が前線で圧倒的な身体能力を発揮。けれど千葉は、粘り強くしっかり身体を寄せることで彼の持ち味を消せていたと思います。

ハーフタイムに、同じ勝点で同じように連勝してきていた岡山がモンテディオ山形に敗れたという一報が入ります。やはり4連勝を5連勝に伸ばすのは、難しいものですね。
一進一退の展開ながら、栃木は残留争いから抜け出したこともあってか、のびのびとプレーしていました。千葉はハードな球際への寄せで対抗していましたが、78分、ゲームは思わぬ展開に。裏抜けしてきた栃木・矢野貴章選手を千葉のキャプテン・鈴木大輔選手が後ろから倒し、これがレッドカード+PKという判定。絶体絶命のピンチでしたが、イスマイラ選手が蹴ったPKをGKの鈴木椋大選手がストップします。劣勢に立たされた千葉の戦いぶりは、ここからが見事でした。
1人少なくなったチームが、守りを固めてゴールを割らせないというパターンはよく見る光景ですが、千葉は球際への強度を落とすことなく、切り換え速く攻撃に出る姿勢を失いませんでした。
アディショナルタイムに入ってすぐ見木友哉選手がレアンドロぺレイラ選手をエリア内に倒しますが、これがノーファウルのジャッジ。そして95分、千葉はロングボールからの攻撃で得たコーナーキックから“奇跡”を起こしました。
鋭いコーナーキックからのヘディングシュートは栃木GK藤田和輝選手の見事なセーブに弾かれましたが、弾かれたボールを押し込んだのは見木友哉選手。いくつも「敗戦」と記された分岐点をすべてくぐり抜けたような劇的な勝利を掴み取った千葉は、これで5連勝、遂にプレーオフ圏内入りを果たしました。

22チーム制のJ2最後の年に、ジェフユナイテッド千葉は“遅れてきた主役”を演じることができるのでしょうか。残り7節も目が離せません。

来ぬ犬を まつどの南に 福ありて
    焼くソーセージの 皮こがれつつ  (まどか)

荘家久 まどか(しょうかく・まどか)
1996年島根県生まれ。報われない者がもがく文学作品をこよなく愛す。陽キャは苦手。座右の銘は「犬が2部向きゃ尾は1部。昇格まだか?」

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