見出し画像

J2視覚化計画2023〈第26節〉

#J2視覚化計画2023

◎今節のアナリスト◎丹生賀 育太郎

J2は全42節を走る長距離レース。マラソンが42.195kmなので、1節=1kmと考えると現在地を把握しやすい。今節ならば折り返し点を過ぎた26kmあたり。このタイミングで大きな補給ポイントがやってくる。夏のウインドーである。

今シーズンの夏のウインドーは7月21日~8月18日(登録期限は~9月8日)

夏のウインドー=第2登録期間は例年7月中旬~8月中旬に設定され、この期間であれば登録できる範囲内(※A契約数等に上限あり)で選手の移籍が可能となる。夏の移籍は、シーズン前~開幕直後の第1登録期間とは意味合いが変わり、シーズン半分を戦って判明した不足分を補ったり、あるいは目論見と違う部分の修正を図るなど、より現実的なアプローチとなる。
一方、ここまで目覚ましい活躍をしていた主力選手を「獲られる」場合もある。J2→J1の語り継がれる夏移籍は、古橋亨梧(2018/岐阜→神戸)が代表例。他には大﨑玲央(2018/徳島→神戸)渡辺皓太(2019/東京V→横浜M)らが現在もJ1の主力で活躍している。夏の個人昇格で特筆すべきは水戸(※下記参照)で、違約金収入が見込める夏移籍でのステップアップをクラブも大きな収入源と考えていることがうかがえる。

《近年の水戸→J1の夏移籍》
伊藤槙人(2019/水戸→横浜)
浅野雄也(2019/水戸→広島→水戸へレンタル)
住吉ジェラニレショーン(2021/水戸→広島)
柳澤亘(2021/水戸→G大阪)
平野佑一(2021/水戸→浦和)
平塚悠知(2022/水戸→福岡)

さて、いよいよ来週には夏のウインドーがオープンする。では夏の“補強”がその後の順位にどのような影響を与えるのか?昨シーズンの夏の移籍動向(下表)から読み解いてみよう。
※左の順位はウインドーが開く前の26節時点→右は最終順位

ずいぶんと長い表になっているので、要点を掻い摘んで説明してみたい。

①夏の個人昇格の減少
J2→J1の夏の個人昇格(※完全移籍)は実は減少気味で、昨季は水戸の平塚と東京Vの山本理仁のみ。2018~19年は活発だったが、2020年が降格なしシーズンだったため0になり、以降減少。活躍度でもインパクトは薄い。

②下位→上位のJ2間移籍
代わりにJ2内で下位の主力を上位を引き抜くパターンが目立つように。山根永遠(群馬→横浜FC)は昇格に貢献する活躍をみせ、輪笠祐士(秋田→岡山)は岡山の後半躍進の原動力となった。

③夏補強でチームの成績が上昇したチーム
3人を補強した山形は中位からプレーオフ進出。特にディサロ燦シルヴァーノ(←清水)の活躍は絶大だった。東京Vは順位こそ1つしか上がっていないが、染野唯月(←鹿島)がハマった終盤に6連勝。岡山は輪笠の他にも、仙波大志と永井龍(←いずれも広島)が十分の働きを見せた。徳島=杉本太郎(←福岡)、大分=金崎夢生(←無所属)も順位を上げたが、要因は補強のみではない。そしてプレーオフを勝ち抜き決定戦に進出した熊本は、平川怜(←FC東京)の加入がヒット。今季の活躍ぶりも目覚ましい。

④夏補強を生かせず順位を下げたチーム
岩手は結果的に夏の移籍を生かせず最下位降格。仙台は要因が補強面だけではないだろうがプレーオフ圏内からも脱落。町田は6位から15位。甲府は恒例の“ブラジル人ガチャ”を回すも順位は低迷(なのに天皇杯制覇!)。長崎は新監督のチーム作りが間に合わず新外国人も迫力を欠いた。それぞれに事情は違うが、補強が当てにできなかったのも一因といえる。

⑤明暗分かれる“補強なし組”
夏のウインドーでまったく補強をしなかったチームが、秋田、新潟、金沢の3チーム。うち秋田は輪笠、新潟は本間至恩と、主力中の主力がOUTになったにも関わらず、秋田は順位を上げ、新潟は優勝。一方金沢は実質IN・OUTなしだか、勝点は伸ばせず順位も落ちた。昨季の新潟のように、主力を固定せずターンオーバーしながらでも戦えるチーム力を養っているのなら、新しい血を入れずとも結束できるという実例かもしれない。

⑥夏の新規外国人の難しさ
昨季補強した外国人選手の中で目覚ましい活躍をした選手はほとんどいない。夏補強の場合、いきなり真夏の日本に来て蒸し暑い気候に慣れるハードルも高い。結構な数が来日したが、及第点以上だったのは琉球のサダムスレイ、甲府のエドゥアルドマンシャくらいだろうか。もっとも、ジェトゥリオ(甲府)のように翌シーズンにはきちんと戦力になった例もある。2021年にはミッチェルデューク(岡山)のような大物の夏加入もあったが…。

⑦主流はやはりレンタル組
昨季のJ2夏補強の主流は、J1からのレンタル組。若手の逸材を破格で借りられる場合もあり、既に名前を挙げた染野や仙波らの他にも、千葉(←川崎)の田邉秀斗は15試合、仙台(←G大阪)の佐藤瑶大は15試合、大宮(←FC東京)の岡庭愁人は14試合などチームの主軸として後半戦に出場。2021年の相模原などは、実に6人が夏にレンタルで加入したが…(結果は略)。

さて、今季は夏移籍がどんな変化をもたらすのだろうか?既に続々と移籍が発表されている(登録できるのは来週金曜以降)。第2のディサロや平川は出てくるのか?あるいはJ2が育てた選手たちのJ1への個人昇格はあるのか?昇格争いも残留争いも、夏のウインドーからが本当の勝負となる。

※ここまで書いたが、「夏のウインドーが関係ないチーム」がひとつある。本稿文末にて触れておきたい。

ここまでの夏加入選手(6月後半以降)

仙台
松崎快(←J1浦和/レ)

栃木
イスマイラ(←J1京都/レ)
石田凌太郎(←J1名古屋/レ育)
ラファエル(←ブラジル/完)

大宮
シュヴィルツォク(←ポーランド/完)
黒川淳史(←J2町田/レ)
飯田貴敬(←J1京都/レ)

東京V
染野唯月(←J1鹿島/レ育)

町田
バスケスバイロン(←J2東京V/完)
鈴木準弥(←J1F東京/完)

金沢
山本義道(←J2磐田/レ)

清水
鈴木唯人(←フランスから復帰)
原輝綺(←スイスから復帰)

岡山
末吉塁(←J2千葉/レ)

山口
平瀬大(←J1鳥栖/レ育)

長崎
ギリェルメ(←ロシア/完)
中村慶太(←J1柏/完)

熊本
酒井匠(←J3F大阪/レ)

大分
鮎川峻(←J1広島/レ育)

※7月16日現在

〈特記事項〉補強禁止を課せられている磐田
今季の磐田はFIFAから選手登録禁止(補強禁止)の制裁を受けている。しかし、補強なしでも上手く回った例が、前述した昨季優勝の新潟だ。条件はターンオーバーを上手く使えるチームであること。今季の磐田も選手を上手く入れ替えながら連戦を乗り切って、今節は自動昇格圏の2位まで浮上してきた。補強できないことを見越してチームを作ってきたことが実を結ぶ可能性は、十分にある。

丹生賀 育太郎(にぶが・そだてたろう)
1979年和歌山県生まれ。気まぐれ文筆家。大学時代は朝ドラ社会学を専攻。座右の銘は「J2でしか見えぬものがある。J2でしか育たぬ者がいる」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?