法制審議会家族法制部会要綱案について
金澄道子弁護士より、法制審議会家族法部会の要綱案(部会資料35-1)の問題についてコンパクトにまとめた文章を寄稿していただきましたので、ご紹介します。
法制審議会家族法制部会の部会資料はこちらから
https://www.moj.go.jp/MINJI/shingi04900001_00229.html
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法制審家族法制部会要綱案について(親権、監護権、養育費等)
1.共同親権では、進学・医療といった子どもの重要な事項について、迅速に決められないし、紛争が起こる危険が増えます。
法制審の要綱案には、「重要な事項について意見が対立したときには、まず父母で協議や調停をして、それでも合意が無理なときには家裁の審判で決める。ただし、緊急性が要求されるときには審判前の保全処分手続を利用できるし、それでも時間がないときには『子の利益のため急迫の事情がある』として単独行使を認める」と書かれています。
しかし、進学先で揉めた父母が裁判所に申し立てをして、進学先を決めてもらった頃には、もう新学期が始まるか,夏休みになっているかもしれません。
そのために、要綱案では、緊急な場合(「急迫の事情」)には単独で親権行使できるとされています。でも、今度は「緊急かどうか」を巡って争いが生じることになります。「緊急とは言えない もっと前に話し合いが出来たはずだ! 俺の同意権を奪った!」と言われかねません。
そして、緊急で単独行使できるとしても、例えば入学契約については、学校から「共同親権の場合には,法律行為だから、両方の親の同意が必要である」として,他方の親の同意書の提出を求められたり、同意書がないときには入学契約を拒否されかねません。
さらに、ワクチン接種、修学旅行への参加、習い事など、さまざまな事項の決定や契約締結といった場面で、同じ事が繰り返されるかおそれがあるのです。
2.共同親権を選びたくない人まで共同親権になってしまう可能性があります。
要綱案では、父母の協議で親権の合意ができない場合には裁判所が決めるとなっており、共同親権を選びたくない人まで、共同親権になってしまう余地があります。
そもそも、当事者間で話し合いが出来ないため、裁判所まで来ているのです。それなのに、裁判所が「子どもの大切なことは、自分たちで話し合って決めなさい」と話し合いを義務付けて、合意ができるでしょうか。これがどれだけ無理なことなのか、わかると思います。そして、親が話し合って合意できなかった時に、一番影響を受けるのは「子ども」なのです。
3.養育費の支払いが確保されず、むしろ減額される可能性があります。
養育費が払われてない子どもが多いのですが(厚労省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」養育費を受け取っている割合は母子家庭で28.1%)、法制審議会の要綱案にあるのは、「先取特権」「法定養育費」の案だけで、国の立替払い、強制徴収(保育料ではあるのに)は提案していません。
共同親権になっても、養育費が確保できるわけではありません。共同で監護することとなると、監護している日数や時間に応じて養育費の減額を主張されることになりかねないのです。
4.共同親権だと、再婚家庭を築くのが、難しくなる。
現在、婚姻の4分の1が再婚です。
離婚後、子どもを連れて再婚をするとき、多くの場合、再婚相手と子どもが養子縁組をします。しかし、共同親権だと、養子縁組するについて、元の配偶者の同意が必要になります。元の配偶者が、再婚相手についていろいろ詮索したり、文句を言うことも考えられます。
養子縁組に同意してもらえないと、新しい家族の中で、連れ子だけは、何か重要なことを決めるについても、元の配偶者の同意が必要になります。つまり、新しい家庭では連れ子の進学先も決められないし、家族揃って引っ越しをすることもできないのです。
5.税金や社会保障制度との関係もきちんと議論する必要があります。
法制審の要綱案では、監護者を決めないことも可能とされています。つまり、子どもの日常の世話する人を決めなくて良いのです。
とすると、例えば、現在の所得税における扶養控除は、どちらが利用するのでしょうか。現実にどちらが多く子どもを手元に置いていたかで決めるとしたら、誰がそれを判断するのでしょうか。児童手当や児童扶養手当は、誰が受給できるのでしょうか。保育園の入居基準になる収入は、父母どちらの収入を基準にするのでしょうか。
さまざまな分野に起こる影響についても、きちんと議論しておかなければなりません。
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金澄道子弁護士による解説動画はこちらから視聴することができます。
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