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家事事件の現場から(1)

  私は日本で14年弁護士をしており、主に離婚をはじめとする家事事件を担当しています。
 日本では、女性の非正規雇用が半数を占めています。正社員どうして比較しても、女性の方が給料が低い状態で、ジェンダーギャップ指数116位であることは、人々の社会生活の中に深くしみついています。
婚姻中に、女性が妊娠すると、女性が離職し、出産育児に専念し、落ち着いたら仕事に戻る、その際に、パート就労しか選択できないという家庭が、非常に多いです。
 日本では、賃金が低く、パート就労では、フルタイムで働いても、月額10数万円しか手元に残りません。
 DVがある家庭では、経済的な事情も、夫が妻を馬鹿にする理由の一つになっています。経済的DVがある家庭では、妻が領収書を示さないと生活費を渡してもらえない、1万円、2万円の生活費しかもらえないということも、手持ちのケースでときに見かけます。
 そのような中で、暴力、暴言、経済的DVなどによって追い詰められた女性が、主に育児を担っているわけです(日本では、男性の育児休暇取得率は、直近の数字で13.97%にすぎず、女性が育児の大半を担っていることは、疑いようのない現実です。なお、女性の育児休暇取得率は、85%です)。
 そこから抜け出すために女性に残された手は、子どもを連れて別居することです。暴力、暴言などを用い、経済的にも対等とは言えない夫と、同居のまま対等な話し合いをすることは、非常に困難だからです。中には、別居できず同居のまま話し合いを続ける人もいますが、力関係が対等でない相手と合意を形成するのは容易でないため、まともに話し合いができず家の中で怒号が飛び交う、時には夫婦の会話が全くないような家庭で、子どもが長期間過ごすことになってしまいます。子どもの精神、脳への悪影響は計り知れません。
 離婚後も、女性の困窮は続きます。パート就労しかできない状況は、離婚後も続くからです。正社員になろうと面接を受けても、「子どもが小さいからパートが良いのでは」と、面接官から言われてしまう社会情勢なのです。
 不足分の生活費を養育費で穴埋めする方法もありますが、日本の養育費の支払い率は、わずか2割であり、到底、子どもを養うに十分な支払いは確保できません。裁判所で決めようとすると、弁護士を雇うなどの費用も掛かり、お金のない母親は、さらに追い詰められ、養育費をもらうことをあきらめる選択をしてしまいます。
 実際、私のところに相談に来た人から「どうやって離婚しようか」と聞かれると、まずは別居を選択するように促します。他に方法が無いからです。同居のまま話し合いを続けると、殴られ、怒鳴られ、お金がもらえなくなるからです。そこには、小さい子どもがいるのです。繰り返しになりますが、そのような劣悪な家庭環境で子どもを長く育てることは、子どもの福祉にネガティブな影響しか与えません。
 子どもを連れて別居し、気を遣わない環境で、心身の健康を整えて初めて、対等な話し合いに臨めるのです。
 DVを始めとする力関係がある家庭で、別居後に子どもの面会交流を決めることに時間を要することがあるのは事実です。これについては、子どもが乳幼児であれば、面会交流に母親の協力が不可欠であるため、傷ついた母親の心を癒すために一定の時間が要することもあります。夫と連絡をすることが怖いのです。日本では、面会交流を支援するシステムもありますが、機関の数、人員、費用共に十分とは言えません。
 他方で、父子に一定の人間関係が形成されていれば、子どものために父親に会わせなければと考え、行動する母親は、私の依頼者にもたくさんいます。大切なのは、父子の人間関係が、同居中にきちんと形成されているかどうかだと思います。
 中には、面会交流を父親側の権利だと理解している人もいます。苦労して面会交流を定めた後で、わずか数年で面会交流を「しなくていい」と放棄する父親もいました。残念ながら日本では、子どもが権利主体であるという認識がきちんと醸成されていないため、再婚などにより、初婚の子どもに会わなくなる親もいるのです。突然親が会いに来なくなることが子どもに与える心の傷は、計り知れません。
 私見ですが、ジェンダーギャップ指数116位の日本において、まず解消すべきは、ジェンダーロール、収入格差の問題です。夫婦ともに家事育児を担い、収入格差の是正も踏まえて家庭内でのある程度の平等が確保され、父子関係を健全に醸成していくことが最優先で解消すべき課題だと思います。
 こうしていくことは、離婚率の低下にもつながり、母親を強くし、父親と対等に話し合いをすることを容易にします。子どもと親との関係が良好に形成されることは、いかなる意味においても、子どもの将来を明るくするものだと信じています。
(小売業)

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