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共同親権への改正案は問題山積みー参議院で議論すべきこと

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  1. 非合意強制型共同親権問題
    -立法事実はあるのか。合意をすることすら合意できない父母に、親権の共同行使を義務づけて子どものためになる場合があるのかという問題。法改正の根幹に関わるにもかかわらず、衆議院でも明確にならなかった。「監護親(同居親)の養育に対して不安がある時」に、非合意の非監護親(別居親)と親権の共同行使が義務づけられることが子どものためになる場合が全く想定できない。現行法のもとで、親権と監護の分属が認められているが、非合意の場合に強制されることはほとんどない。共同親権の場合も、同様の状況がおこる。父母で決められないときには裁判手続きで決めれば良いというが、裁判手続きは一般の国民にとってハードルが高く、DVがある場合には弁護士をつけざるを得ず、弁護士費用の負担も大きい。萎縮効果についても考える必要がある。

  2. 「急迫の事情」が誤解を招く問題
    -法務省は、「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合」と説明するが、一般的な「急迫」という字句の理解とは異なっている。子連れ別居を抑制することになりかねず、深刻な事態を引き起こす。DVや虐待は、暴力の直後に転居を余儀なくされるケースでは、証拠をとることが困難で、計画的に家を出る場合には、「急迫」という字句の意味とかけ離れていく。誤解を招きかねず、DV・虐待の被害者支援の現場での助言が萎縮する可能性が高く、法務省の説明通り、「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合」に修正すべきである。(なお、現時点で、家庭裁判所はパンクしており、期日が2~3か月に1回程度しか入らないことが常態化している。家庭裁判所の手続きを経る場合に、適時の親権行使ができる場合の方が希であろう。)

  3. 制度の複雑化ではないかという問題
    -共同親権制度が導入について、多様な家族のありようの反映と説明されることがあるが、制度の複雑化である。共同親権なのか単独親権なのか。共同親権にした場合に監護者を定めるのか定めないのか。監護者を定めなかった場合に、監護の分掌、例えば、教育は父だが、医療は母などの取り決めをするのかしないのか。はたまた、平日は母が監護し、休日は父などの監護の期間の分掌(交替監護)をするのかしないのか。複数申し立てられた項目の採否を、家裁がすべて判断することになる。ことこまかな養育計画を定めるということになれば、その内容の是非を家庭裁判所が審理することになる。当事者の合意で決めるならそれでもよいかもしれないが、合意がない場合は家庭裁判所が定めることになる。守られなければ、損害賠償請求の対象となるが、それは地裁・簡裁で審理されることとなるが、決め直しは家庭裁判所で行うことになり、家庭裁判所での審理に時間がかかれば、決め直されるまでは賠償義務を負うことになるのか。

  4. 共同→単独→共同と親権者変更が延々と申立てられる問題
    -共同親権と決まった場合に問題が生じれば、家庭裁判所に持ち込んで決めてもらう必要が生じる。エラーケースは、単独親権に変更しやすくすることで対応するというが、問題が生じた場合に、当該個別事情に関する申立てのほか、今後の紛争防止の観点から、単独親権を求める申立て、予備的に監護者指定の申立て、さらに予備的に監護の分掌の申立てもあわせて起こるだろう。単独親権と決まっても、数年後には共同親権への親権者変更が起こされる可能性がある。認められなければ、さらに数年後に共同親権への親権者変更が起こされ、非合意強制型で共同親権へ変更されれば、個別事情に関する申立てがおこる可能性は高い。子どもは、成人するまで紛争にさらされるのか。

  5. 無限ループ問題
    -日常事項は、親権を単独行使できるというが、双方の親が行使できるので、無限ループに陥る可能性がある。例えば、監護親(同居親)がプールに入って良いとプールカードを持たせても、非監護親(別居親)が、学校に電話をかけて不許可と伝えれば、学校はそれを受け入れざるを得ない。その後に、監護親(同居親)がプールに入って良いと伝えれば入れるのか。遅い者勝ち、もしくは、押しの強い者勝ちとなりかねない。結局のところ、日常事項とされても、父母双方の許可がいるということになるのではないかという問題。

  6. Post Separation Legal Abuse問題
    -現在も、面会交流の決め直しが子どもが成人するまで続く問題が起こっているほか、「連れ去り」「面会妨害」等を理由とする損害賠償請求が地裁・簡裁で起こっており、家族の紛争の記録が段ボール3箱以上に及ぶような事案が増えている。裁判以外にも、誘拐罪での刑事告訴や虐待を理由とする児相通告、非監護親(別居親)の両親が原告となって監護親(同居親)を訴えたり、非監護親(別居親)が、監護親(同居親)の両親を訴えるような事案もある。また、監護親(同居親)の代理人弁護士に対する懲戒請求の繰り返しや刑事告訴、民事訴訟も起こっている。Post Separation Legal Abuseが扇動されている状況が続いているが、国はそれを把握していない。改正法が、同居中の共同親権にも及ぶことから、例えば、ワンオペ育児で母親が主として子どもの事項を決めていたような場合は、事後的に、親権の共同行使違反として、損害賠償請求の対象となりうる。いかなる場合に親権の共同行使違反となるのかについて明確化しておかないと、嫌がらせ目的の裁判かどうかという判別も困難となるため、無制限に裁判が起こせるようになる。抑止策は全くないがどうするつもりか。

  7. 高校就学支援金問題
    -文部科学省の担当者は「保護者の定義は法律上、子に対して親権を行う者。共同親権を選択した場合には、親権者が2名となることから、親権者2名分の所得で判定を行うことになる」と答弁。

  8. 児童扶養手当問題
    -共同親権が適用されてしまった場合に、児童扶養手当をどちらが受給するかについて争いになる可能性。法務大臣は、「(支援制度の)細かい規定はさまざまある。各省庁の行政の観点が必ずしも同じではない」と答弁し、「共同親権」導入により、ひとり親世帯の支援制度などにどんな影響があるかを調査していないことを認めている。

  9. 転居はどこまで許可が必要か?
    -居所指定権は日常の行為にはならないが、マンションの隣の部屋に引っ越すにも許可が要るのか。同じ学区内ならどうか。居所を隠匿している場合はどうか。DVや虐待からの子連れ避難の場合、その時点で「急迫の事情」にあたるということになったとして、シェルターからの退所時、母子生活支援施設からの退所時、そのつどに、許可を得る必要があるのか。

  10. 単独行使できる「日常の行為」とは?
    -茶髪にするのに別居親の許可が必要か。進学や退学にむすびつくようなことは日常の行為ではないとすると、離婚後に、何から何まで報告する必要が生じる。通っている学校の校則の厳しさによって、「日常の行為」になるかどうかも変わってくるのか。

  11. 家裁の人員が減らされている問題
    -改正法により、どの程度、家裁の人員を増やそうとしているのか。裁判官も、調査官も、書記官も、調停委員も足りていないだろう。家裁の部屋も足りていないがどのような計画か。計画なくつきすすんでいるのではないか。

  12. 実施までにインフラ整備されるのか問題
    -共同親権制度導入にともなって、2年間でリソース充実できると思えない。2011年に、民法766条に面会交流を明記したときも、インフラ整備をすることが期待されたが、現時点で不十分であり、閉鎖するところまである。

  13. 養子縁組に同意が必要となる問題
    -養子縁組について、他方の親の合意が必要になるため、縁組みしない状態でのステップファミリーが増えるのではないかという状況も懸念される。

  14. 憲法24条問題
    -婚姻において、当事者の合意がない場合には非合意で強制されることはない。共同親権制度の導入において、憲法上24条との抵触は起こらないか。

  15. 「父母以外の親族」との面会交流について
    -制限があるというが、申立権者となれば、父母申立ての一般の事件においても検討せざるをえなくなるだろう。ただでさえパンクしているのに、家裁がさばききれるのか。他方の親の死別のケースでは、死別した親の意思にも反することになりかねないし、行方不明ケースで親族が面会交流の申立てをしてくることは、監護親(同居親)の負担が大きい。他方で、養育費の支払い義務を負うことはなく、無責任な申立ても起こりうる。また、服役ケースや、DVや虐待が合ったケースでも、親族申立てがされることも起こりうる。かつて同居していた親族という限定は、現時点で別居にいたったのであるから、紛争リスクが高い。全体的に想像力が欠けているのではないか。

  16. 改正内容が正しく周知されていない問題
    -法制審議会の附帯決議に、「家族法制の見直しに関する要綱案に沿って民法等の改正がされた際は、その施行に先立ち、その内容が国民に正確に伝わるよう、法制審議会家族法制部会における議論を踏まえ、その改正内容及びその解釈上参考となる事項を適切に周知する必要がある。」とされている。改正案を審議するにあたっても、国民に正確に伝える必要があるが、改正案についての正確な理解がされているとは言い難い。

  17. DVの「おそれ」文言の解釈がまるきり違ってる問題
    -DVの「おそれ」の文言が、「DVがなくてもそのおそれがあれば単独になる」と受け止めている人と、「DVがあっても期間が空いたり反省を表明していればおそれがなくなる」と受け止めている人がいて、前者だと、合意型共同親権の運用に近くなるが、後者だと原則共同親権の運用になる。

  18. 協力義務の文言解釈がまるっきり違ってる問題
    -父母の協力義務についてもいえて、ネットでの暴言やリーガルアビューズ対策になると受け止める人と、DV被害者の拒否感を、協力義務違反といい出しそうなリスクもある規定だと思います。同じ文言が、受け取りようによって真逆の結果を導きかねない。

 以上は、法制審議会の段階から、実務家は懸念しており、具体的なケースにおいてどう運用されるのかについて声をあげてきました。国会で審議が始まってからも、各弁護士会から慎重に検討すべきという会長声明が相次いでいます(札幌、福岡、函館、千葉、金沢、福井、岐阜、愛知、大阪、兵庫。広島)。国民的な議論にならないうちに押し通すということは止めてください。切にお願い申し上げます。

【マスコミの方へのお願い】
 両論併記の体裁をとり、「共同親権への懸念の声」との対比で、「離婚後も協力的関係が築けているケース」が掲載されることがあるが、そこは論点ではない。また、「賛否あるが、多様性が大切」、「賛否あるが、子どもの意思が大切」という論調も見受けられるが、改正案は、多様性を反映する内容にはなっていないし、子どもの意思の尊重も定められていない。議論がある点は、険悪な父母に共同親権の適用が裁判所から強制されるべきかどうかであることを正しく伝えていただきますようお願いいたします。

【参考】自由法曹団共同親権における問題点のポイント(衆・法務委)
 https://www.jlaf.jp/kyoiku/2024/0409_1727.html

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