オーストラリア家族法の2023年改正について
長谷川京子弁護士より、オーストラリア議会ウェブサイトからダウンロードした改正法Billとその説明文書のうち、離婚後の親責任の共同の推定削除、養育時間の分配の義務的考慮削除、長期的重要事項の決定、日常的事項の決定(以上Schedule1)、子どもの独立弁護士(同4)、離婚後アビューズ防止のための改正(同5)に関わる部分の翻訳の提供を受けました。
オーストラリアの2023年10月の家族法の改正は、大掛かりな改正であり、注目される点は以下のとおりです。
1)別居親の関わりを推進する法政策の下、「原則共同(分担)、DV虐待例外」というアプローチでは、危害ある事案をスクリーニングできず、子の福祉を害したという経験に基づいて、
2)「別居親との関係継続(親責任の均等分担)が子どもの利益になる」という推定条項を削除し、子どもの養育(親責任の分配・コンタクト)に関しては、子どもと子どもをケアする親の安全安心を確保することを重要な前提に据えたこと。
3)そのため、いわゆる長期的重要事項の決定について、安全であれば父母の共同を推奨するものの、一方の親が単独で決定することもできることとしたこと。
4)別居親と過ごす時間についても、個々の家庭の事情に基づき決めることとし、従来「均等もしくは実質的な時間」の検討を義務付けていた条項を削除したこと。
5)支配の継続を望む虐待加害者が、法的手続きを被害親子に対する危害の手段として用いるという現象が激化し、これによる被害親子の再被害や疲弊はもちろん、司法リソースも圧迫され、家庭裁判所がますます子どもと監護親を危害から守れなくなる、という悪循環を来たしたことから、濫訴防止の有害手続阻止命令と子の処遇手続き(監護の裁判手続き)を規定したこと。
以下が、翻訳となります。プリントアウトの際はこちらからダウンロードしてお使いください。
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法案の目的
この家族法改正法案2023(法案)は、1975年に制定された家族法を改正するものである。
その目的は、家族法制度をより安全で円滑なものにし、子どもの最善の利益をその中心に据えることである。
この改正は、オーストラリア法改革委員会(Australian Law Reform Commission)が2019年に発表したオーストラリアの家族法制度のあり方に関する報告書からの多くの勧告及びオーストラリアの家族法制度に関する合同特別委員会の調査に対する政府答弁書の内容を実施するものである。
本法案はまた、連邦巡回裁判所法および家庭裁判所法(Federal Circuit and Family Court Act 2021、Family Court of Australia Act 2021 (FCFCOA Act))についても、関連する改正および小改正を行う。
法案の構成
法案は9つのScheduleから構成されている。
Schedule1には、養育取り決めを行う際の法的枠組みに関する改正が含まれる。これには、子の最善の利益のために養育の取り決めを行う際に考慮されるべき要素の変更が含まれる。また、同Scheduleでは、均等な親責任分担の推定を廃止している。
Schedule2には、家族法第7編第13A部ー養育命令および子どもに影響を与えるその他の命令の執行について定めているーの改正案が含まれる。
Schedule3には、家族法における「家族」の概念に関連する定義を定める改正が含まれる。
アボリジニまたはトレス海峡諸島民の文化および伝統をより取り入れたものである。
Schedule4には、家族法手続きにおける子どもの発言力を高めることを目的とした、子どもの独立弁護士(ICL)に関する条項の改正が含まれている。
Schedule5には、家族法およびFCFCOA法の改正として、
事件管理および手続きに関する改正が含まれている。特に:
・ 執拗な訴訟当事者が裁判所の許可を得ることなく新たな申請を提出し、送達することを阻止するための、新たな「有害手続命令」の導入。
・ 家族法の実務と手続き全体にまたがる包括的な目的とそれに付随する義務を、家族法に基づいて行われるすべての手続きに拡大・拡張する。
Schedule6には、家族法第121条の改正が含まれる。
家族法の手続きに関する公開情報の制限を明確にするものである。
Schedule7には、家族に関する報告書を作成する専門家が満たすべき基準や要件を規定する規則を制定するための改正が含まれている。
Schedule8と9は、FCFCOA(オーストラリア連邦巡回・家庭裁判所)法に2つの小改正を加えるものである:
FCFCOA法の見直しを2年前倒しする。
西オーストラリア州家庭裁判所の判事を、連邦巡回・家庭裁判所第1部の判事に任命できることを明記する。
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改正の背景
家族法の現状
家族法制度は、しばしば危機的状況にあると指摘されている。業務量は飛躍的に増加しており、許容できないほど長い遅延が発生している。家族法裁判に関する論争や議論の多くは、家族間暴力(FV)という複雑な問題に対する裁判所の対応に集中している。様々な研究が示しているように、家族法制度の主な利用者は、暴力に関連するものも含め、複雑なニーズを抱える家族である。このような問題をさらに深刻にしているのが、代理人を立てない当事者の数の多さである。その多くは法的代理人を立てる余裕がなく、家族間暴力や子どもへの虐待により心に傷を負い、家族法制度を利用することに困難を感じている。
調査と照会:ALRC報告と合同特別委員会報告
家族法の構造的・制度的改革の必要性をめぐっては、過去20年間にわたり、数多くの照会や報告書が作成されてきた。このような照会のうち、最近でより重要なもののひとつが、オーストラリア法改革委員会(ALRC)によるものである。ALRCはTurnbull政権から、オーストラリアの家族法制度のあり方を調査し、2019 年 3 月に政府に報告するよう要請された。これは1976年に施行された家族法の初めての包括的な見直しである。ALRC報告「未来のための家族法: 家族法制度への照会」は、Christian Porter司法長官により、2019年4月10日国会に提出された。
ALRCは、家族法制度が直面している課題を浮き彫りにし、改革が必要であると結論づけた。同調査は次のように指摘している:
結局のところ、制度改革が必要な理由は、オーストラリアの離別カップルの関係破綻後の紛争解決を、制度が適切に支援していないということにある。子どもたちは一貫して危害から保護されておらず、家族間暴力(FV)を経験した人々も保護されていない。紛争が長期化するのは、裁判所の資源上の制約によるものだけでなく、紛争を迅速かつ穏便に解決することができない、あるいは解決しようとしない当事者の行動によっても、紛争は長期化する。度重なる改正が行われてきた実体法は、もはや明確でも理解しやすいものでもない。
家族法制度に対する国民の認識はまちまちである。この調査に寄稿した人々の大半は、強い不満を抱いていた。女性からの投稿では、特に暴力や虐待をめぐる様々な懸念が、経済的資源に関する情報開示の不十分さとともに浮き彫りにされた。男性は、子どもとの時間が十分でないことや、養育命令が執行されないために子どもに会えないことを問題としていることが多かった。男性も女性も、裁判所の手続や資源が悪用された場合、制度が相手方の訴訟当事者の行為に対処できていないと感じていた。
ALRCは60項目の改善勧告を行ったが、その内容はごく一般的に言えば次のようなものであった。:
管轄権のギャップを埋める: 連邦家族法裁判所、州・準州の児童保護手続き、そして州・準州の家族間暴力FVへの対応の間の隙間に子どもたちが落ちてしまうことを防ぐ。家族間暴力FVの係争は州・準州に返還され、連邦家庭裁判所は最終的に廃止される。
より簡単な財産分与の取り決めを実施する:離別したカップルが同等の寄与を行ったことを起点とすることを含め、現在の家族法に基づく財産分与の取り決めを改める。
子どもの養育命令の変更:子どもの最善の利益を促進するよう生活形態を決定する際に、考慮すべき要素を簡素化し、特定の生活取り決めへの義務的考慮を削除する。
養育命令の遵守率の向上: 家族コンサルタントとの連携を強化し、命令の理解を深め、即時抗告に制限を設ける。
事件管理をよりしっかり行い、円満な解決を促す: 夫婦とその相談者が、紛争をできるだけ早く、安価に、効率的に解決しようとしない場合、どのような結果を招くかを明確にする。
法律をより明確にする: 法律をより分かりやすくするために、家族法(Family Law Act)を改正する。
政府は2021年3月21日にALRCの報告書に回答した 。
AGDは、60のALRC勧告のうち15がこの法案で対処されているとしている。
ALRCの勧告に加え、本法案は、2021年オーストラリア家族法制度に関する合同特別委員会の調査に対する政府回答の一部も含んでいる。
オーストラリアの家族法制度に関する合同特別委員会(Joint Select Committee on Australia's Family Law System)は、2019 年 9 月に国会によって任命され、2 年間に渡る包括的な調査を行った。
委員会は3つの中間報告を出し、最終報告書が2021年11月23日に下院に提出された。これらの報告書は同委員会のウェブサイトで閲覧できる。
合同特別委員会は、その第2次中間報告「家族法手続きの改善」において、家族法の裁判手続の改革のため29の提言を行った。
これらの提言のうち3つは、本法案で一定程度取り上げられている。それらは以下の通りである:
・ 親責任分担の推定を明確化すること(提言17)。
・ 家族法裁判の手続における子の声を高めるために、子どもの独立弁護士の要件を明確にする(提言18)。
・養育命令の遵守と執行に関する規定の簡素化 (提言20)。
法案の草案公開
2023年1月30日、政府は法案の公開草案を発表し、この草案とそれに付随するコンサルテーション・ペーパーに対する意見提出を求めた。
短期間の協議期間を経て、これらの改革を実現するため、家族法改正法案2023が3月29日に下院に提出された。
与党以外の政党/政治家の政策的見解
オーストラリア緑の党は、法案が議会に提出された日のメディアリリースで、オーストラリア緑の党は、「家族法問題において子どもの福祉を第一に考えることを目的とした家族法改正の導入を歓迎する。」と述べた。
Larissa Waters上院議員は言う:
Pauline Hansonによる有害な家族法調査を含む、長年の無駄な時間と有害な誤った情報キャンペーンを経て、ようやく家族法制度の真の改善が見られるようになるかもしれない。
2006年にハワード政権がオーストラリアの家族法を書き換えて以来、私たちは、子どもの最善の利益を最優先するのではなく、共同養育という推定が武器化されているのを目の当たりにしてきた。
ジェンダーに起因する暴力は、家族法制度における多くの問題の核心で あり、私たちは、子どもたちがしばしば暴力的な関係や長期化する法的問題の矢面に立たされることを知っている。
私たちは、被害者遺族にトラウマを植え付け、子どもたちを危険にさらし、憎悪と誤った情報のためのプラットフォームを提供してきた政治的スタンドプレーではなく、専門家の助言に基づく改正を支持していくことを心待ちにしている。[...] これらの改革は歓迎されるものであるが、裁判所や最前線の家族・家族間暴力サービスに対する資金が拡大されなければ、その遅滞、不平等な弁護、支援不足は、女性と子どもを危険にさらし続けることになる。
緑の党を除けば、今日に至るまで、政府以外の政党や無党派の立場についての公のコメントは出ていないようである。
主要な関係団体の見解
オーストラリア法曹会(LCA、連邦の弁護士団体・9万人加入-訳者注)はこの法案を歓迎し、次のように述べている。
「この改正は、子どもの身体的、心理的、精神的健康を保護することを含め、子どもの最善の利益を最優先することを保証するものである」と述べている。
メディアリリースの中で、同会は次のように述べている:
裁判所に持ち込まれる案件は、最も傷つきやすい子どもたちが関わる、最も複雑で困難な案件であることを忘れてはならない。法律は、そのようなケースに適切に対応できるものでなければならず、また、一般市民にとって可能な限り利用しやすいものでなければならない。このような趣旨が本法案および修正案の根底にある限りにおいて、私たちはオーストラリアの家族法制度の改革を心から支持し、家族法制度に関わる人々にとってより良い結果をもたらすことを願うものである。しかしながら、我々は連邦に対し、家族法制度、特にオーストラリア連邦巡回裁判所および家庭裁判所、ならびに法律扶助部門は、特に提案されている改革から生じる義務の増加に対応するため、大幅な資金増強が必要であることを改めて強調する。
法曹会を除くと、法案が議会に提出されて以来、パブリックコメントはほとんどないようだ。
公開草案については、2023年2月の協議の際に多数の提出が司法省(AGD)になされ、そのうちの273件が現在AGDのウェブサイトで閲覧可能である。法案と公開草案は実質的に同じであるため 、これらの提出文書は法案に関する有益な分析を提供している。
総論として、提出書類の中で、Schedule 1 の養育枠組みに関する条項に強い関心が寄せられている。オーストラリア家族問題研究所(AIFS)、全国子ども委員会(National Children's Commissioner)、家族法制審議会(Family Law Council)を含む多くの提出団体は、この改革案を支持している。また、元家庭裁判所判事の Richard Chisholm 教授のように、改正案を概ね支持しつつも、多くの改善提案を行った者もいた。法曹会も52ページに及ぶ提出書類の中で、改善可能な点をいくつか提案している。Women's Legal Services Australia (WLSA)は、「親責任の均等分担の推定が削除され、それぞれの親と子どもが過ごす時間について特定の形態を考慮する要件が削除されたことに明確に表れているように、家族法制度において子どもとおとなの-被害者-サバイバーの安全が優先されている」ことを高く評価した。 WLSAもまた、多くの提出者と同様に、家族法制度にきちんと資源を投入することの重要性を繰り返し強調した。
Patrick Parkinson教授は、2006年法改正に非常に大きくかかわった家族法学者だが、この法案の大部分に賛成しつつも、次のように述べている:
Schedule1は、別居後の子育てに関する法律の中核的要素を改正するもので、現行法の欠陥を是正するために必要かつ正当な範囲をはるかに超えている。
Parkinson教授は、子どもの親との関係の重要性を強調する規定の多くを削除することに対し、親が以前ほど大切にされなくなったというメッセージを送ることになりかねないとして反対している。
女性法律家グループは概ねこの変更を歓迎したが、男性グループは次のような懸念を表明した。
この改正は、子どもと両親を含む、別居家族に現在認められている権利を著しく損なったり、恒久的に変更したりする可能性がある。特に懸念されるのは、子どもたちに対する責任の分担を前提とした部分である。
以下略
p9 Schedule1
主要論点と条項
Schedule1―養育の枠組み、Schedule3―家族構成員の定義
Schedule1は、子どもの養育取決めをめぐる双方親の論争に関する規定を含む家族法第7部を改正するものである。
第7部の概要と改正の根拠
家族法第7部は、離別後の養育取決めをする枠組みを提供している。第7部は、家庭裁判所に、子どものケアと生活上の取決め、親責任、子の福祉に関わると考えられる事項について決定する広範な権限を与えている。
決定に当たり、第7部は、子の最善の利益は至高のものとして考慮されなければならないとしている。しかし、頻繁にそう言われる一方で、現行法は、子の最善利益を推進する取り決めをしようとするときに裁判所に複雑な手順を踏むよう求めている。
なにが子の最善利益であるかを決めるための枠組みの多くが、2006年の家族法改正(共同親責任)法によって追加された。2011年に行われた法改正では、養育に関して安全がより優先するとされたが、なお、明らかに2006年改正法の内容を保持しようと意図したものであった。
現在、家族法では、子の最善の利益が決定において最優先されるという原則を適用するために、裁判所が決定を下すために従わなければならないいくつかの段階を定めている。これらのステップには以下が含まれる:
・ 裁判所は、指定された要素(子どもの安全と両親との有意義な関係に関する2つの「主要な考慮事項」と、13の「追加的な考慮事項」から成る)を考慮し、可能であればそれらについて所見を述べなければならない。
・裁判所は、親責任の均等分担という法律上の推定が適用されるかどうかを決定しなければならない。
・裁判所は、親責任を均等に分担する命令を下すか提案する場合、子が父母それぞれと均等な時間を過ごすことが子どもの最善の利益となるかどうか、またそれが「合理的に実行可能」であるかどうかを検討しなければならない。
・もし裁判所が子どもが双方の親と過ごす時間を均等にする命令を下さない場合、子どもが双方の親と「均等で有意義な時間」を過ごすことが子の最善の利益になるのか否か、また、それが「合理的に実行可能」であるかどうかを検討しなければならない。もしそうであれば、裁判所はそのような命令を下すことを検討しなければならない。そして、
・均等な時間または実質的かつ重要な時間のいずれもが子どもの最善の利益と見なされない場合、裁判所は子の最善の利益になると判断する命令を下すことができる。
p10
ALRC報告は、その調査に寄せられた回答には、この手順について、以下に述べたものを含め、いくつもの懸念が示されたと指摘する。
・ 複雑で反復的であるため、依頼人のコストは増大し、裁判所の効率も損なわれている。
・親責任の均等分担の推定は、一般に子どもと過ごす時間を均等に有するという推定であるという誤解を社会にもたらしている。
・父母の共同決定を求める条項は、どのような決定なら協議を必要としないかについての明確な情報がないため、紛争を誘発する要因となっている。
・決定において、子どもの意見が十分に重視されていない。そして、
・子どもと子どもの監護(ケア)をする者の安全を高めることに、より大きな重点が置かれるべきである。
p11
ALRC報告は養育命令を決める枠組みを以下のように改めるよう提言した。
・ (子どもの最善利益)最優先原則を現行の形で維持する。
・ 目的と原則の規定を削除する。
・ 最善の利益要素におけるさまざまな考慮事項の階層をまとめる。
・ 何が子どもの最善の利益であるかを決定するための考慮事項のリストを明確化、簡素化、修正する。
・ 親責任の均等分担の推定を、長期的重要事項についての共同決定の推定とする。
・ 均等な時間を含む特定の取り決めに関する義務的検討を削除する。
これらの提言の多くは、法案のSchedule1に採用されているが、すべてではない。
改正案
Schedule1は3つの部分に分けられる:
-第1部は、「子の最善利益」に関する改正
-第2部は、親責任の均等分担の推定に関する規定
₋第3部は、裁判所が既存の養育命令を変更する基準の改正。
第1部:子の最善利益
上述の通り、第7部の中心は「子の最善の利益」の原則である。
第60CC条は、裁判所がどのように子どもの最善の利益を決定するかについて定めている。現在 第60CC条は、2つの主要な考慮事項と14の追加的な考慮事項からなる2段階のアプローチを定め、裁判所が子供の最善の利益を決定する際に考慮しなければならないこととしている。
裁判所が考慮しなければならない主要な点は以下の通りである:
・ 子どもの両親と有意義な関係を持つことにより子どもにもたらされる利益。
・虐待、ネグレクト、家族間暴力FVにさらされたり、身体的・心理的危害を受けたりしないよう、子どもを保護する必要があること。
これらの考慮事項を適用する際、裁判所はこのうちの2つ目をより重視する必要がある。
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項目第6は、第60CC条を廃止し、置き換える。新しい条文は、「主要な考慮事項」と「追加的な考慮事項」という階層的な構造を止め、アボリジニまたはトレス海峡諸島の子どもに対する2つの追加要素を加えた、6つの中核的な考慮事項リストに重点を置く。
提案されている第60CC条(2)は、何が子供の最善の利益であるかを決定する際に裁判所が考慮しなければならないリストに、以下の6つの事項を示している。
・どのような取り決めが、以下の者の安全(家族間暴力FV、虐待、ネグレクト、その他の危害からの安全を含む)を促進するか。子ども、および子どもを監護(ケア)する者(親としての責任を有するか否かを問わない。)
・いかなるものであれ子どもが表明した考え
・子どもの発達上、精神的、情緒的、文化的ニード
・その子の養育を行なっている、もしくは行おうとする者が、その子の発達上、精神的、情緒的、文化的ニードを満たせる能力があるか否か。
・それが安全である場合に、子どもが、親そしてその子にとって重要な人々と関係を維持する利益
・その他その子の特別な状況に関連する事項
アボリジニまたはトレス海峡諸島民の子どもに関する追加的考慮事項(略)
新しい目的条項
上述の改正に関連し、項目第4は、第60B条に規定されている現行の目的および原則の規定を廃止し、第7部の簡略化された目的規定に代えるものである。
現行の第60B条は長く複雑で、4つの目的リストと、それに続く5原則のリストを含んでいる。そこでは、子どもがその生活で両親との有意義な関わりを持つことで、子どもの最善の利益が満たされることが強調されている。
提案されている第60B条は、第7部の目的を以下のように定めている:
・ 子どもの安全を確保することを含め、子どもの最善の利益が満たされるようにすること。
・1989年11月20日にニューヨークで採択された「児童の権利に関する条約(CRC)」を実施すること。
この規定は、CRCを国内法に組み込む効果はない。むしろ解釈上の補助として考えられる。家族法がCRCと異なる範囲においては、家族法が優先する。
説明文書によると、第60B条が廃止され代替されたからといって、廃止された目的および原則がもはや意味をなさないことを示すものではない。むしろ、その趣旨は 第7部の解釈を支援し、裁判所が子の最善利益を決める際に考慮すべき事項を上げる第60CC条との重複を避けることにある。
ALRCは、現行の目的および原則の規定が混乱を引き起こしていること、また、原則の法的効果が限定的であることを指摘し、第60B条を廃止するよう勧告した。
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第2部:親責任の均等分担の推定と関連する規定の廃止
現在、第61DA条では、養育命令を下す際、裁判所は、父母が均等に親責任を分担することが子の最善の利益であるという推定を適用しなければならない。
均等な親責任分担の推定とともに、第65DAA条は、裁判所が、子がそれぞれの親と同等の時間、または実質的かつ重要な時間を過ごすことを考慮しなければならないと定めている。
この条項は、第61DA条に基づき「親責任の均等分担」の命令が下された場合にのみ適用される。
これらの改正は導入時に物議を醸し、それ以降もその状態が続いている。項目第16と同24はこれらの規定を削除するとしている。
法廷に持ち込まれる問題は、家族間暴力FV、健康問題、薬物乱用などに関するものであることが多い。
これらは複雑な問題であり、裁判所は非常に慎重に検討しなければならない。このような問題では 裁判所の第一の目標は、関係する子どもたちの最善の利益を満たす取り決めをすることである。
親責任の分担に関する推定や、時間的取り決めに特別な取り決めを考慮することは、子どものニーズに重点をおくことから逸脱する可能性がある。
家族法制度に関する最近の調査は、親責任の均等分担という推定が一般に誤解されていると結論している。親責任の均等分担という命令は、単に、両親に長期的で重要な事項の決定(例えば、教育や健康など)について共同で決定することを求めるものである。しかし、養育に関する問題の大半は、裁判外で解決されている。ALRCの報告書やJSCの調査、また多くの研究により、この部分が、子どもと過ごす時間を平等に持つ権利をもたらすと一般的に誤解されていることを明らかにしている。このことは、親が自分たちの権利について誤った前提に基づき交渉に臨む可能性があることを意味する。その結果、子どもにとって不適切な取り決めがなされたり、親同士の対立が激化したりする可能性がある。
注目すべきは、ALRCが共同責任の推定を全面的に廃止するよう勧告しなかったことである。
その代わりに、「長期的で重要な事項」については、共同決定を行うという推定に置き換えることを提案した 。
ALRCは、親権者の責任分担の推定は、親同士の交渉の出発点として役立つと主張した。
ALRCは、親責任分担の推定は親同士の交渉の良い出発点になると主張し、この概念を維持するよう勧告した。
しかし、ALRCは、「親としての責任を平等に分担する」という用語が均等な時間と混同されることを避けるため、推定の文言を明確にすべきであると勧告した。そして、ALRVは混同を減らすため、61DA条は「長期的で重要な事項の共同決定」に関することと書き換えるよう勧告した。
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第2部での関連する改正
Schedule1の第2部は、上記で論じた主要な論点に関連して、ほかに、以下のものを含む。
• 提案された61D条(3)項(項目第15):その子に関する長期的重要事項の決定責任の配分を定める養育命令では、全部または一部の事項について、共同または単独で決定することを定めることができる。これは、親責任の均等分担の推定規定の削除に伴い、裁判所が長期的重要事項の決定に関し共同決定を命じられる規定を残し、当事者がこれらに関して引き続き合意していけるようにする趣旨である。
• 提案された第61DAA条:(以前は第65DAC条にあった)長期的重要事項を共同で決定することを定めた養育命令の効果を概説する。
• 提案された第61DAB条(これは以前の第65DAE条を反映したものである)は、養育命令に従って子どもがある者と過ごしている場合、その者は、長期的重要事項でない事項について、子の親責任を有する者と協議する必要はない、と規定する。
本条と提案された61DAA条は、家族法をより使いやすくする目的で、ともに第7部の第2部「親責任」に移された。
•提案されている第61CA条(項目第14)は、以下のように規定している。裁判所の命令に従い、安全であるならば、両親は、長期的重要事項について互いに協議することが奨励される、その際、子どもの最善の利益を考慮する。説明文書は、これは強制されないが、親に対し、裁判所の命令がない場合には、長期的重要事項の決定が協議により行うべきであるということ、子の最善の利益を最優先すべきことを示そうとするものであるとしている。
第3部: 終局養育命令の再考
家族法第65条D項(2)に基づき、裁判所は以前の養育命令を解除、変更、一時停止、または復活させる権限を有する。しかし、同法は、どのような場合に当事者が命令の改訂を求めるために裁判所に再度申立ができるかを明記していない。項目第26は、第65DAAA条を挿入するもので、その趣旨は、裁判所がどのような場合に既存の養育命令を再考できるかを明確にすることである。
新しい第65DAAA(1)項は、最終的な養育命令が下された場合、裁判所は、最終的な命令後に著しい状況の変化があったかどうかを検討し、命令を再検討することが子の最善の利益になると判断しない限り、その命令を再議してはならないと規定している。
提案された第65DAAA(2)項には、裁判所が最終的な養育命令を再議することが子供の最善の利益になるかどうかを検討する際に考慮することができる事項のリストが含まれている。
提案された第65DAAA(3)項は、状況に変化がなかったり、裁判所が子どもの最善の利益であると納得していない場合でも、裁判所は、最終的な養育命令の当事者全員の合意または同意に基づき、養育命令を再考することができることを確認するものである。
説明資料によれば、この改正は:
最終的な養育命令が下された場合、その命令が再考される前に、申請者は、その命令が下された後に重大な状況の変化があったことを立証しなければならない。この規則は、子どもまたは子どもをめぐる継続的な訴訟は、一般的に子どもの最善の利益にならないという考え方に明らかにしたものである。
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Schedule1に対するコメント
公開草案に関してAGDに寄せられた提出書類の多くが、Schedule 1 の第1部および第2部で提案された改正案に焦点を当てていた。提出者の意見は様々で、多くの提出者は変更を歓迎し、他の提出者は改善を提案し、またある提出者は変更の影響について強い懸念を表明した。
国家子ども委員会は、以下を含むすべての改正を歓迎した:
・ CRCを十分に理解するための新しい簡略化された対象規定
・CRCのもとで、子どもの最善の利益原則がより明確に解釈されるようになった最善の利益要素
・アボリジニまたはトレス海峡諸島民の子どもの文化、言語、コミュニティ、国とのつながりの重要性を盛り込んだこと。これは「先住民の子どもの文化、言語、宗教に対する権利を明確に認める」CRC第30条に沿ったものである。
・CRCには両親との平等な時間に関する言及がないことを指摘し、第65DAA条に基づく一定の時間の取り決めを考慮することを義務付けをなくしたこと。
AIFSは、Schedule1の改正がAIFSの調査結果に沿ったものであることを指摘し、これを支持する。AIFSの調査は、親責任の均等分担の推定に根強い懸念があることを示しており、提案されている削除を支持するとしている:
家族間暴力や安全への懸念がある事案では、この推定を普遍的に適用しないという強い政策方針があるにもかかわらず、AIFSやその他の調査結果によれば、大多数の係争事案で、親責任分担命令が出されている。
新たな目的条項について、法曹会はALRCの勧告に同意し、「簡素化が改革の目的であるなら...第60B条は完全に削除されるべきである」と指摘している。あるいは、もし60B条を残すのであれば、法曹会は新しい規定が以下のような特徴を持つべきであると提案している:
・CRCへの言及は混乱の元となり、意図しない結果を生む可能性があるため、削除すべきである。
・現行の第60B条のいくつかの特徴を維持することを検討すべきである:
子の最善の利益に合致する最大限の範囲において、父母の双方が子の生活に「有意義な」関わりを持つことにより、子の最善の利益が満たされること(現行の第60B条(1)(a))。
子の安全、特に身体的または心理的危害、虐待または暴力から保護されること(現行60B(1)(b))。法曹会は、一般人がその法的趣旨を正しく理解できないからといって、これらの重要な内容を法律から削除すべきではないと考える。
Richard Chisholm教授は、親責任を均等に分担するという推定に関連して、この規定を削除するのではなく、改正を検討すべきだと主張している。彼は次のように述べている:
現行の均等な親責任に関する規定の問題点は、主に、現行法が均等な親責任分担命令と、裁判所が子どもたちが両方の親と均等な時間、または「実質的かつ重要な」時間を過ごすことを考慮するという要件とを結びつけていることに起因する。両規定で使用されている「均等(equal)」という言葉は、おそらく、現行法が均等な時間を好むという推定を生じさせるという、以前の誤解の一因となった。
Chisholm教授は、均等な親責任分担の規定が家族法に残っていたとしても、このリンクを取り除くことがこの誤解を解くのに役立つだろうと提案している。同教授の提出書類には、同教授が以前提案し、現在も支持している規定の再草案が含まれている:
裁判所は、当該事案の状況において子の最善の利益にならないと判断しない限り、両親が引き続き親責任を継続することが子の最善の利益になると推定する。
Chisholm教授の提出書類には、海外6法域の家族法に関する法律の調査も含まれており、その結果、他の法域の法律では、特定の時間配分やその他の取り決めが優先されたり、特別に考慮されたりするという推定や示唆は一切なされていないことが明らかになったという。同氏は次のように述べている:
オーストラリアは現在、この6カ国の中で唯一、状況によっては裁判所が父母と子の時間を均等にすること、あるいは「実質的かつ重要な」時間を持つことを「考慮」することを義務付けている国である。この点で、今回の改革案により、オーストラリアは今回検討された他の司法管轄国と肩を並べることになる。
法曹会は、構成員の間で第 61DA 条と第 65DAA 条の削除に関する見解が分かれているとしている。一部の構成員は、家族法部会とともに、養育命令を出すための法的枠組みが簡素化されることで、クライアントに法律を説明しやすくなり、状況によっては均等な時間の取り決めが期待されることに関する誤解が解きやすくなる可能性がある、という意見で一致した。
他の構成員は異なる見解を持っており、現行の推定は「裁判所が分担時間の取り決めをどのように決定すると期待できるかを実務家が依頼者に説明する上でシンプルな枠組みを提供するものであり、これを削除すると、親としての責任に関する法律を依頼者に説明することがより困難になる可能性がある」としている。
法曹会の全体的な見解は、実務家の、子どもと過ごす時間を父母で均等になる取り決めを検討するよう奨励する義務が撤廃されれば、結果として、共同養育、あるいは実質的な共同養育の取り決めが大幅に減少することになる、というものである。
また、構成員の大半は、法律家に子どもの最善の利益に主眼を置く義務を課すことで、親が望む時間や親自身の権利から目をそらすことが可能になるとしている。また、法曹会は次のように付け加えている:
当事者が、裁判手続を含め、子どもとの時間の取り決めをめぐる争いをしているという事実は、それ自体、子どもの最善の利益に関連する問題について合意することが困難であり、彼らの関係が対立と信頼の欠如によって特徴づけられることを意味している。
(アボリジニおよびトレス海峡諸島民の子どもの権利の特別な認識に関する改正と、「家族の一員」の意味を広げた改正)略
p21
Schedule 4—子どもの独立弁護士
子どもの独立弁護士(Independent Children's Lawyer、ICL)は、裁判手続において子どもの利益が独立して代表されるべきだと認められる場合、家族法第68L条に基づき裁判所に任命される。
その役割の 範囲については、家族法第68LA条に規定されている。ICL は、入手可能な証拠に基づき、何が子どもの最善の利益であるかについて独自の見解 を形成し、ICL が子どもの最善の利益であると信じるように訴訟手続に関して行動しなければなら ない 。
全国法律扶助が作成し、FCFCOAが承認した「独立した子どもの弁護士のためのガイドライン」(ガイドライン)も、この職務に対する期待を明記している。
ICLは、関連する州・準州の法律扶助委員会により、その州・準州内のICL、または専門的な研修を修了した民間弁護士から任命される。
Scedule4にはICLに関する以下のような規定が含まれる。
ICLの子どもと面会する義務
項目第2は、家族法第68LA条を改正し、以下の場合を除き、ICLに、その最善の利益のために代表者に任命された子どもと面会し、子どもに意見を述べる機会を提供することを義務付けるものである:
・ 子どもが5歳未満である場合
・子どもがICLとの面会や意見表明を望まない場合
・ その義務を果たさないことを正当化する例外的な事情がある場合。
例外的な状況とは、ICL が義務を遂行することで、子どもを安全に制御できない身体的または心理的危害のリスクにさらすか、子どもの福祉wellbeingに重大な悪影響を及ぼす場合を含むが、これらに限定されるものではない。
ICLが例外的な事情のため子どもと面会しないと決定した場合、裁判所は最終的な命令を下す前に以下のいずれかを行わなければならない:
・ 義務を履行しないことを正当化する例外的な事情が存在すると認められるかどうかを判断する。
・ 裁判所がそのような事情が存在しないと判断した場合、ICLに当該義務を履行することを命じる命令を下さなければならない。
説明文書は、この改正に賛意を示して、次のように述べる:
ICLは家族法(第68LA条(5)(b))により、子どもの意見が表明された場合、それ
を裁判所に伝えることが義務付けられている。
現在、ICLには、裁判官の命令がない限り(第68L条(5))、子どもの意見を裁判所に伝える法的義務はない。多くの ICL は子どもと面会し、適切な場合には子どもの参加を促進するよう努めるが、新 68L 条(5A)により、すべての ICL にこの義務が課されることになる。新しい第68L条(5B)および(5C)は、子どもの安全と福祉を守るために、ICLがこれらの義務を果たす必要がない場合を明確にするものである。
ハーグ条約事案でのICLの使用拡大
国際的な子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約(ハーグ条約)は、国際的な親の子の奪取を対象とする主要な国際的な合意で、親が子どもを母国に連れ戻すための手続きを規定し、国際的な子の面会交流の問題も扱っている。親または後見人が子どもの母国と異なる国に住んでいる場合、子どもとの面会交流を実現するのは難しいかもしれない。
家族法第68L条3項により、裁判官は現在、ハーグ条約に基づき提訴された事件において、それを正当化する例外的な事情がある場合にのみ、ICLを任命することが認められている。Schedule4の項目第5は第68L条3項を廃止し、これらのケースにおけるICLの任命の制限を撤廃する。第 68L 条(1)も廃止され、ハーグ条約の手続きを含め、子の最善の利益が最優先または関連する考慮事項 である手続きに第 68L 条が適用されることを示すために改められる(項目第4)。
Schedule4に関するコメント
多くの関係者は、ICL が子どもと面会することを義務付ける改正案に支持を表明したが、実際 の適用に問題があると指摘する関係者もいた。
ビクトリア州法律扶助は、ICL に子どもと面会することを義務付けるという政策的意図は 支持するが、「我々の見解では、面会の時期や誰が同席するかは ICL の考慮事項であると法律に明記することが望ましい」と指摘した :
そうすることで、状況に応じて、ICL は手続 の後の方の適切な段階で、または別の人と一緒に子どもと面会するつもりであることを提出することができる。司法判断によらず、子どもと面会する適切な時期を決定する柔軟性を ICL に与えなけれ ば、追加の審理や不必要な遅延が発生し、その結果、資金繰りが悪化する可能性が高い。
家族法審議会は、子どもとの面会義務に関する改正を支持したが、「例外的な状況が存在することを裁判所に認めてもらうためにICLが裁判所に働きかける義務は、非現実的であり、訴訟当事者やICLの不必要なリソースを消費する可能性がある」との懸念も示した。
法曹会は第4章の規定に多くの懸念を抱いていた。提案されている改革が「ICLがその役割を適切に果たしていることを担保する品質管理措置として機能するだけでなく、子どもを保護するためのセーフガードとして機能する可能性がある」ことを認めつつも、「ICLが子どもと面会することを義務付けることは、実務上およびコスト面で検討の余地がある」と述べている。提出文書はこう述べている:
法曹会は、ICLが子どもと面会することを義務付けるという提案がうまくいくためには、法律扶助機関への資金援助が不可欠であることを、最初に強調しておきたい。
Schedul5 p23
Schedule 5—Case management and procedure 事件管理と手続き
第1部:有害な手続き阻止命令と条項の併設
Schedule 5の第1部は、家族法第11B部(Part XIB)を改正するものであり、その名称を "Vexatious proceedings (執拗な手続き)"から "Decrees and orders relating the unmeritorious and harmful and vexatious proceedings (有益でなく、有害で煩瑣な裁判手続きに関する判決および命令)"に変更することを含む。
改正の内容は以下のとおりである:
・ 提案された第1A部は、有益でなく、有害で煩瑣な裁判手続きに関する決定や 命令に関する既存の規定をまとめたものである。
・第1B部案は、裁判所が有害手続阻止命令を行うための新しい権限に関する規定を含む。
有害手続阻止命令
提案されている第102QAC条は、裁判所に「有害手続阻止命令」を下す権限を与えるものである。
有害な訴訟手続き阻止命令とは、訴訟手続きの当事者が、裁判所の許可を得ることなく、手続きの相手方に対し、更なる申立てを行い、手続の相手方に送達することを禁止する命令である。
この命令によって行動を制限される者は「第一当事者」と呼ばれる。
命令によって拘束される者は「第一当事者」と呼ばれる。
裁判所が有害手続訴訟阻止命令を下すかどうかを考慮する際、以下の事実を満たすと信ずべき合理的な理由があることが必要である。
・ 第一当事者が相手方に対してさらなる裁判手続きを開始した場合、相手方が危害を被る。
または
・ 子どもに関する裁判で、第1当事者が他方当事者に対し更なる手続を開始した場合、事件本人である子どもが危害を被る。
危害には、心理的危害や抑圧、大きな精神的苦痛、あるいは相手方当事者の養育能力に対する有害な影響が含まれるが、これらに限定されるものではない。
提案された第102QAC条(3)は、有害手続阻止命令を決定する際に、裁判所は以下の事実も考慮することができると規定している:
・ 両当事者間の本法に基づく手続の経緯
・ 第一当事者が他方当事者に対して、オーストラリアのいずれかの裁判所または審判所において頻繁に裁判手続を開始または実施しているかどうか
・ これらの手続きに起因する危害の累積的影響または潜在的累積的影響。
裁判所は、自らの判断により、または当事者の申立てにより、有害手続の阻止命令を行うことができる。
裁判所は、ある者について、その者の意見を聴くことなく、またはその者に弁明の機会を与えることなく、有害手続阻止命令を行うことはできない。
提案された第102QAC条(7)は、裁判所が有害手続阻止命令を出す場合、相手方当事者に通知すべきか否かについても決定しなければならないと定めている。
この通知には、申請がなされたこと、および/または該当する場合には、申請が却下されたことを含む。裁判所は、相手方当事者に通知すべきか否かを決定する場合、相手方の意向を尊重しなければならない。(第102QAC条(8)案)。
有害手続阻止命令の効果
提案された第102QAD条(1)は、有害手続阻止命令を受けた者は、提案された第102QAG条に基づく裁判所の許可なしに、手続を開始してはならず、また他者と共同で手続を開始してはならないと規定する。
提案されている第102QAE条は、有害手続阻止命令を受けた当事者が手続きの開始許可を申請するための要件を定めている。許可申請者は、許可申請を行ったすべての機会を列挙し、許可申請に関連するすべての事実を開示する宣誓供述書を申請書に添付しなければならない。
第102QAE条に基づく許可申請は、許可申請を認める第102QAG条案に基づく命令が下されない限り、一方的に(つまり相手方当事者に書類を送達することなく)行われる。
提案された第102QAF条は、宣誓供述書が実質的に同条に準拠していないと裁判所が判断した場合、裁判所は提案された第102QAE条に基づく許可申請を却下することができると規定している。裁判所がその手続きを煩瑣な手続きとみなした場合、裁判所はその申請を却下しなければならない。
提案された第102QAG条は、裁判所は、裁判手続が軽薄、煩瑣、または手続の濫用ではなく、合理的な勝訴の見込みがあると納得した場合にのみ、手続開始を許可することができると規定している。
Scedule5第1部へのコメント
有害手続に関する条項は、ALRC報告書の勧告32に対応するものである。説明文書には、この改正は「Marsden & Winch事件(2013年)50 FamLR 409で引用された、さらなる手続の開始を監視する権限が裁判所に備わっていないことに対処するものである」とされている。 また、「ALRCの報告書は、現行の裁判所の煩瑣な手続と略式却下に関する権限は、一方の当事者が他方の当事者に繰り返し申請を提出し、それらの申請を送達することによって他方の当事者を圧迫するような場合に、裁判所が適切な命令を下すのに十分な効力を有していないことを明らかにした」とも述べている。
説明文書はまた、有害手続阻止命令の権限は、裁判所が「申立人の申立の反復的かつ攻撃的な性質が相手方当事者に与える影響を考慮することを求める」という点で、現在の裁判所の煩瑣手続阻止命令の権限とは異なると説明している。
法律専門家団体と家族法学者は、一般的にこれらの新しい措置を支持している。ビクトリア州法律扶助は、この新しい権限について、「家族間暴力や他の形態の危害を加える手段として裁判を利用する当事者の力を最小化する」のに役立つと述べ、広く支持している。
同様に AIFS は、AIFS の Compliance and Enforcement Project で弁護士と当事者からあがった懸念に対する有害手続阻止命令の導入が「家族間暴力の手段として裁判を利用する法的手続の濫用と、これが引き起こす子どもと当事者のトラウマに対処するうえでの、現行の煩わしい裁判当事者条項の限界に対処する可能性がある」として、この導入案を 支持している 。ビクトリア州法律扶助とAIFSはともに、有害手続阻止命令の対象を、裁判利用だけでなく、他の制度やプロセスの悪用にも言及するよう拡大すべきだと提案している。
p25
Part 2: Overarching purpose of the family law practice and procedure provisions
第2部:家族法実務と裁判手続きの包括的目的条項
Schedule 5 の Part 2 は、現在存在する包括的目的条項を拡大するため、家族法第11部に第1A部案を挿入する改正を行うものである。また、包括的目的を、家族法に基づいて行われるすべての手続に対象を拡大するものである。
説明文書によれば、これには、西オーストラリア家庭裁判所(連邦家族法の管轄権を行使する場合)や家族法に基づく管轄権を行使する簡易裁判所など、他の裁判所で審理される手続きも含まれる。
提案されている95条(1)は、家族法の実施と手続きの包括的目的条項は、紛争を
・ 家族と子どもの安全を確保する方法で
・ 手続に関して、子の最善の利益が最優先され、促進される形で、
・ 法律に従い、
・ 可能な限り迅速・安価・効率的に
紛争の公正な解決を促進することであると規定している。
提案された第95条2項では、包括的目的は以下の通りである:
・ すべての手続の公正な決定
・司法権を行使する裁判所が利用できる司法上及び行政上の資源の効率的な使用
・ 手続を行う裁判所での事件全体の効率的な処理
・ すべての手続を迅速に解決すること。
・ 紛争事項の重要性と複雑性に見合ったコストで紛争を解決すること。
提案された第95条4項は、「家族法の実務および手続規定」を、FCFCOAまたはその他の裁判所の実務および手続に関して、家族法またはその他の法律によりまたはその下で制定され適用できる裁判所規則とその他の規定と定義している。
提案されている96条は、手続きの当事者とその代理人弁護士に以下の義務を課している。
・当事者は、家族法の実務と手続きに関する規定の包括的な目的に沿った方法で手続きを行わなければならない。
•当事者の代理人弁護士は、当事者の義務を考慮し、当事者がその義務を遵守するよう支援しなければならない。
• 裁判所は、当事者の弁護士に対し、訴訟手続に要する期間および訴訟手続に関連して当事者が負担することになる費用の概算を当事者に提示するよう求めることができる。
• 裁判所は、費用を裁定する際、当事者とその弁護士がその義務を遵守しなかったことを考慮しなければならない。
• 裁判所は、当事者の弁護士に個人的な費用負担を命じることができ、弁護士はこれらの費用を当事者に転嫁することはできない。
オーストラリア連邦巡回・家庭裁判所法の改正 (略)
Schedule5第2部へのコメント
Schedule5の第2部の規定は、ALRCの勧告30と31に対応するものである。
(以下略)
以上
原文はこちらから
https://parlinfo.aph.gov.au/parlInfo/download/legislation/billsdgs/9156000/upload_binary/9156000.pdf
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