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離婚後共同親権の導入を定める民法改正案の参議院法務委員会可決についての声明

2024年5月16日

ちょっと待って共同親権プロジェクト
離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会
共同親権について正しく知ってもらいたい弁護士の会

 本日5月16日、離婚後共同親権の導入をはじめとする民法改正案が参議院法務委員会で可決され明日にも成立の見込みとなった。審議入り以降、質疑と答弁が重ねられるにつれ法案の不備な点、曖昧な点が多数明らかになり、DV・虐待当事者、支援者、弁護士などが不安と恐怖に抗いながら声を上げ続けたこと急速に注目が高まりさらに懸念の声が強まってきた。各地の弁護士会による慎重審議を求める声明は国会審議入り後も増え続け、各地の地方紙の社説も法案の問題点に懸念を表明し、医療、教育、福祉関係者などの民間団体の反対声明も相次いだ。2024年1月に開始した共同親権の拙速な導入に反対する電子署名(change.org)の賛同者数は審議入り以降急増し、ついには239,000人を越えた(5月16日現在)。
 審議の過程においては、家族法改正を進める法務大臣や国会議員らが現在の家庭裁判所の人的物的体制の不十分さや実務の運用等を正確に把握しているとは考え難いことや、親権と親子の面会交流に直接の関係はないにも関わらず関係があるように誤解していること、子どもを連れて別居しただけで当然に親権者や監護者に指定されるわけではないこと等を十分に理解していないことも明らかになった。特に、離婚後の法的手続による嫌がらせ(Post-Separation Legal Abuse)については、ほぼ無策であることがはっきりした。
そもそも一体なんのための法改正なのか、立法事実の存在自体が不明であることが露呈し、議論が煮詰まったとは到底言えないこの状況下で、共同親権ありきで採決が急がれ押し切られたことに私たちは怒りを表明し、強く抗議する。

 一方で、私たちの声に呼応した衆参議員の真摯な質疑を通じて、非合意強制型共同親権の導入等、本法案が孕むリスクに対して相当程度歯止めとなる答弁が得られた。例えば法務大臣は令和6年5月14日の参議院法務委員会において、「合意ができない、コミュニケーションもとれないということになれば、必ず単独親権にしなければならない」旨答弁した。このとおり運用されるのであれば、今回の改正家族法が施行されても、現行法における親権者決定の運用との違いはない。更に、衆議院で附則条項を追加する修正がなされ、衆参各法務委で踏み込んだ内容の附帯決議がなされた。
これらの答弁と付帯決議は、多くの市民が法案の問題に疑問を呈して声をあげたことによって得られた、誇るべき重要な成果である。これらの成果は、法律施行後の運用において問題がある運用を封じること及び将来の適切な法改正のための強力な武器となるであろう。
立法者意思が裁判所において適切に反映されるか不安は残るが、法務大臣及び最高裁事務総局が表明した決意が着実に実行されることを強く求める。

 私たちは今後、附則修正、質疑答弁、附帯決議で示された立法者意思を現場の弁護士、支援者などと共有し活用する取り組みを行っていく。また、自治体、関係行政機関等が適切な認識を持ち対応できるよう伝達、共有する努力をしたい。今回、各地の弁護士会はじめ様々な職能団体が声明等を出したが、改正法施行に向けて各分野の団体において、適切な取り組みを進めるよう促し連携を追求する。

 具体的には以下をはじめとする取り組みを進めていく。

  1. 広報——共同親権導入によりDVや虐待の継続を含め被害者を増大させないため、様々な広報手段や映画製作等により、審議過程で得られた法律の解釈を周知する。
    特に、①共同親権とすることは原則ではなく単独親権を主張することができること、②父母間に共同親権の合意がないことは裁判所が親権者を決定する際に単独親権と判定する大きな要素であること、③過去にDV・虐待があった場合には共同親権とすべきではないこと、④改正法が施行されたのちも、改正前に違法と評価されなかった「子連れ別居」に対する法的評価は変わらず違法ではないこと、⑤共同親権であっても監護者を指定することが紛争予防に資すること等の周知が重要と考えている。

  2. レスキュープロジェクト——共同親権導入により加害者からの攻撃が増大することで支援機関が萎縮する、司法機関において被害が軽視されるなどの事案発生が想定される。子が未成年者である限り、様々な法的手続の申立を繰り返し受ける濫訴の被害が予想される。また、改正法施行前の離婚、認知または出生に係る共同親権への変更申立については、当事者は、共同親権への変更申立を受けることを想定しておらず、婚姻中のDVや虐待の証拠を十分に残しておらず証明上の困難を抱えることが予想される。このような被害者を孤立させず、緊急にサポートする支援機関を立ち上げ、必要な支援を受けられるようあらゆる努力をする。

  3. 法改正の影響の検証——レスキュープロジェクトに寄せられた事案を検証し、政策提言を行い、担当省庁等と情報共有を行う研究会を立ち上げる。特に、家庭裁判所の人的・物的体制の不足が深刻であることから現場の運用にどのような支障があるかを調査し、地域間格差是正のための裁判官非常駐支部の解消や、裁判所職員がDV・虐待事案を扱うための適切な知識及び技術の習得(トラウマインフォームドケア等)の実情について検証する。法律についての誤った報道が間違った世論を誘導することのないよう、報道も引き続き注視する。

  4. 立法——今後改正法運用にあたって法務省などがガイドラインを策定する内容に、DV・虐待当事者の声を反映させるべく、パブリック・コメントに準じる形で有識者や一般の意見、地方公共団体や事業者の意見を参考にすることを求める。
    法改正の影響の検証を踏まえ、憲法24条の要請である、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した更なる法改正を実現すべく、あらゆる努力を続ける。

 法案は成立間近ではあるが、今までの運動のあり方や世論の盛り上がり、議員との連携は今後に向けて大いに希望を抱かせるものであった。政治に強くコミットしたことがない多くの市民が動いて声をあげる様子は私たちを勇気づけ、更に運動を盛り上げる原動力となった。私たちは今後も立ち止まることなく、たゆまず前を向いて進む。DV・虐待に苦しむ被害者を減らし、すべての人の個人の尊厳が守られる家族法を実現するために。
                            以上

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