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評⑳オフィスコットーネ『サヨナフ』@シアター711、4500円

 オフィスコットーネプロデュース 大竹野正典没後10年記念公演第5弾『サヨナフ』@下北沢・シアター711、全席指定4500円。
 作:大竹野正典、演出:松本祐子(文学座)、プロデューサー:綿貫凛
 3/11~3/21
、計14回公演。1969年に起きた連続ピストル射殺事件で死刑になった永山則夫(事件当時19歳)の死刑前日の一夜を描いた作品で、回によって本編以外に「母」「姉」の一人芝居(10~15分程度、中村ノブアキ書き下ろし)が続くのもあり。

永山則夫、綿貫凛、中村ノブアキに惹かれ観劇

 なぜ観たか。以下の三つ。
 ①永山則夫に興味。ピストルで4人を射殺し、事件当時19歳だったが、控訴審の無期懲役判決が覆され死刑。現在に至るも、おそらくしばらくの未来も「永山基準」で語られ続ける存在。「無知の涙」を著す。
 
②オフィスコットーネプロデュースの綿貫凛(りん)を評価する声を以前別の場所で聞いた(「ある小劇場系トークから(2021年7月3日)」の時と思う。流山児祥がほめていたか)
 ③中村ノブアキの作品が好み「評⑩JACROW『パブリック・リレーションズ』@雑遊3500円(2021年12月27日)

松本佑子演出

 当日、劇場に行ってから、そういえば文学座の松本祐子の演出と気づく。ということは、結構“まじ”? 別に他の演出家を下げるわけではないが、文学座には女性演出家が結構多い中でも、松本祐子は現在その一番手であろうから。
 ただ、2019年9月に文学座アトリエで観たテーナ・シュティヴィチッチ作で松本演出『スリーウインターズ 』は正直少し寝た。暗いブラックボックスで二面か三面の客席で、青い照明や中身が重かった。しかし、ほめる人もいたし、その作品は読売演劇大賞最優秀演出家賞、ハヤカワ悲劇喜劇賞を受賞したので、自分の眼が節穴かと、でも、いいのだ、自分は自分の感覚で観る。みんながほめるものをほめる必要もない、参考にはする。

シアター711

 シアター711は本多劇場グループで、ザ・スズナリの「隣」。小劇場の匂いぷんぷん。見に来た人と今回の関係者らが「あ、この前の観ました」「今度、演(や)るんです」みたいな会話をしている。ザ・劇場(こや)だ。
 狭そうだが、トイレは男1、女2ある。ただ、そこに行きつくまでの廊下が無駄に長く、スズナリにあるちょっとした待合のようなスペースがない。建物の作りで仕方ないのか。 

大竹野正典

 ここ3年ほど主に東京での芝居を集中的に観始め、演劇史も結構頭に叩き込んだつもりだが、大竹野正典(1960ー2009年)は初めて知った。
 海での事故により49歳で死去。「演(や)りたい時が演(や)り時よ」「社会で普通に仕事をする目線が無くなると、僕は台本をかけない」で、あまり演劇賞に応募しなかったことがあるらしい。
 観劇後、元の戯曲をどう演出したか知りたかったので、3000円はたいて戯曲集を買う。中に、亡くなった事故について連れ合いや友人が書いた部分があった。

当日パンフを先にしっかり読んでしまった

 以下ネタバレあり。
 さて、やっと中身である。
 上演前の舞台は、青い照明。おおい、松本佑子さん、これは『スリーウインターズ 』のデジャヴだよ!(舞台美術の範疇だが演出家の意図はあろう)……始まると、青はそうでもなくなったが。
 時間があったので上演前に、当日パンフをささっと読んでしまった。うう、先に読んでよかったのか悪かったのか、わからない。
 かなり詳細に、永山則夫のことが書いてある。母親に網走に置いて行かれた、長姉セツは精神病院に入退院を繰り返した。則夫は幼いころは次兄の暴力を受け、中学で不登校となり、次は自分が家庭内暴力を起こし、不良少年と交際し、渋谷の高級果物店に就職し半年で退職、貨物船で密航試み失敗、板金見習い、牛乳販売店など職を転々。窃盗。路上生活。米海軍基地に忍び込み、拳銃散弾を盗み、その後、1968年にガードマン、神社警備員、タクシー運転手2人を次々射殺。東京都中野区若宮二丁目アパート幸荘にて、初めての一人暮らしを始める。1969年逮捕、1997年死刑執行。

被害者が次々に訪ねてきて「先生!」と称賛

 始まる。あとでチラシ(当日パンフでなく、事前に宣伝で配布するフライヤー)を読み返したら、最初から永山則夫死刑前夜を描いた、とある、これには気づかなかった。しかし、芝居では、東京都中野区若宮二丁目アパート幸荘、と言っている。なので、最初は、逮捕される直前の様子で始まったのかと思った。
 ただ、そこに、「タクシー運転手」が訪ねてくる。で、自分は当日パンフで被害者にタクシー運転手がいたことを知っているので、ああ、これは幻の設定と合点する。そして舞台にタクシー運転手、ガードマン、警備員が続いてやってくる。しかし、もし、「永山則夫死刑前夜」の設定や、被害者の職業などを知らないで舞台を観たらどんな印象だったろうか。事前知識があった方がいいのか、あまりない方がいいのか、よくわからない。

 そして、死んだ「被害者」たちが、「永山先生!」と称賛する。
 則夫が嫌がるが、ワーワー言って去らない。

別役実の詩

 この辺は、アングラとか別役実の不条理劇のノリに近いな。と思ったら、劇中歌『雨が空から降れば』は別役実作詞であった(戯曲集で確認)。影響はある。

秋田児童連続殺害の『シャケと軍手』を想起

 実のところ、最初は一年前に隣のザ・スズナリで観た、2006年秋田連続児童殺害事件を扱った『シャケと軍手』を頭の中で比較していた(被告は無期懲役が確定)。
 評③『シャケと軍手』椿組版~その1(2021年3月26日)
 評③『シャケと軍手』椿組版2~映画『MOTHER』と比べて(2021年3月28日)
 こちらは、女がなぜその事件を起こしたのか、また、観ている客たちも他人事でなくいつ自分事になるかもしれないというメッセージ、が主だったと思う。
 いわゆる機能不全家庭で育ち、いじめなどに遭った点は共通するが、なんだろう、秋田の場合、舞台で表現された被告(被疑者)は世間が何を言っているのかわからない感があった、アンテナが欠如しているような。則夫の場合、逮捕後に独学し多くの著書を出しており、もともとの読み書き思考能力はかなりあったと思われる。その分、犯罪を起こしたことを「育った環境、社会によるもの」とする傾向があったのかもしれない。読んでなかったので『無知の涙』も買った、これから読もう。
 芝居のどうこうでなく、個々人の違いになってくるが。

被害者の人生、舞台で人が射殺され死体が転がる

 戯曲からいうと、被害者たちが自分たちの生活を語るのが、印象的だった。そう、被害者には家族がいて夢があって。事件当初はものすごく報道されただろうが、数十年も経過した今となっては加害者則夫本人は語られても、被害者は忘れられていく。その意味で貴重かもしれない。

 それから、舞台上で人が次々に射殺され4人の死体が転がっていた。そういえば、最近、あまり殺人場面を舞台で表現するのを見てこなかったか(舞台裏で死んだ想定はある)、それも射殺は日本ではそうそうない、それに死んだ人がごろごろ転がってるって、あまりない。
 戯曲集を読んだら、殺人の場面はあるが、殺されると役者は舞台上から消える。舞台上に転がる死体(遺体)を残したのは、松本演出か。

本編に続くひとり芝居、役者さんたち

 本編の後に、一人芝居のある回。自分は「母」の日。
 水野あや。しみのついた肌化粧で、開き直った母親を演じた。演じ終わった瞬間に、表情が素に戻った。女優だ。
 この方に限らず、役者さんたちは皆、しっかりした演技だったと思う。一人芝居の後、下に降りたら、則夫の少年時代を演じた深澤嵐が誰かと会話していた、彼は爽やかな演技だった。
 最初に則夫の部屋に乗り込んでくるタクシー運転手を演じた本間剛、このつかみが非常に重要で、これが全体の流れを決めたかもしれない。

 大竹野、永山、本も買ったし、もう少しその世界を見てみよう。
 まとまらないが、ここで。

※芝居のタイトル『サヨナフ』は、則夫の母親が則夫らを網走に残し青森に去る時、カタカナ書いた置手紙の「サヨナラ」の「ラ」の部分が「フ」で、「サヨナフ」となっていたことから。芝居の最後に明かされる。 


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