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そよぐ

老舗の定食屋さんの暖簾が
柔らかい微風に揺れている
昼の光が窓辺に差し込んで
テーブルのグラスがじっと汗をかく
騒がしくなく静かすぎず
いくつもの世界が入れ替わり立ち替わる
交差点のような店内は
それでいて静謐なルールを孕む

春でも夏でもない曖昧さが
僕は好きだった
誰ともつかぬ幸福と憂鬱の残滓
どちらともない感情が僕は好きだった

やがて俄かに一筋吹いた風が
遠く黒雲を連れてくる
もうすぐ雨が降るんだろう
望んだ曖昧はますます輪郭を無くす
その不確かさを愛そう
僕もどうせ滲んだ影なのだから

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