また通いたいけど、気まずい…。と思っている方へ。大丈夫、「今」の気持ちが大事だという話。
20年以上お世話になっている漢方薬局がある。
体調を崩したとき、親が「いい先生がいるらしい」と近所の人から教えてもらい、車で1時間ほどの距離を訪ねていったのが最初である。
以来、そのときの体調に合わせて調剤していただいている。
わかってはいるけれど…
といっても、定期的にきちんと通い続けているわけではない。
気になるときは、1日3回忘れずに服用し、手持ちの薬を切らさないうちに次の調剤を依頼する。遠方に住むようになってからは、電話をして宅急便で届けてもらっている。
体調が安定してくると、途端に薬のことを忘れてしまう。アレルギーなので、続けて服用することが大事だと、頭ではわかっている。でも、現金なもので、症状が軽減すると不安も減るので、いつの間にか心の中で、ちょっとばかりどうでもいいことになっている。
服用も1日2回になる。1回になる日もある。
その流れで、なんとなく薬の依頼が途絶えてしまうことも度々だ。そのころには、かなりどうでもいいことになってしまっている。
だから、また薬が必要だと思ったとき、最初に感じるのは、電話することのハードルの高さだ。電話自体が億劫で、まあいいか、明日でもいいか…が何回か続き、電話をしそびれてしまう。
勝手に服用をやめておいて、また必要だからと、すべて自己判断で依頼している。なんて身勝手な。罪悪感を感じながら、ドキドキしながら、ようやく電話する。
「どうされましたか?」
薬局の先生のこの一言を聞くと、一瞬でからだの力が抜ける。何事もなかったかのように、いつも通り症状を伝え、調剤をお願いする。
ああよかった。これからは毎日飲もう。そう心に誓う。
…この20年、ずっとこの繰り返しである。
伝わらないと感じるもどかしさ
私自身、理学療法士として患者さんを迎える側でもあったし、今は整体師として、サロンで施術を行っている立場でもある。
薬局での私のような気まぐれな患者さんや、途中から来なくなってしまった患者さんを担当したとき、ともすれば、がっかりするような寂しいような、無力感と憤りが混ぜこぜになったようなものが湧き上がってくる。
もう少し続けてくれたら、身体はもっと軽くなるんだけどなあ。
いつもそう思い、残念に感じてしまうのは、プロとしての専門的な内容や、自分の思いが伝えられなかったことに、ふがいなさを感じている心の声が聞こえるからだ。自分の非力さを痛感して落ち込んでいる声だ。
自分の説明が足りなかったのか、それとも施術がまだまだ未熟なのか…と、あれこれ考えてしまう。
気まぐれを受け入れてくれるのは、最後は自分の判断にゆだねられているから
気まぐれにではあるが、こんなに長い間、薬局に通い続けているのは、いつでも寄り添って下さる安心感があるからだ。
遠ざかっているときにも、決して漢方薬のことは忘れたことはないのだ。
安心しているから忘れることができるのかもしれない。
そして、この安心感はどこから来るのか。
薬局の先生の、遠からず近からずの距離感で接して下さる姿勢からだ。
見捨てることなく、おせっかいを焼くことなく。
これは同時に、自分のからだに自分で責任を持つことを意味している。
長い間、たくさんの患者さんが訪れたなかで、いろいろな方を診て来られている。何より、自分のからだを良くするのは自分自身だということをよくご存じだから、この距離感は、優しさだけではなく厳しさも十分に含まれている。
だから、薬を服用せずに遠ざかっている期間もまた、自分の責任なのだ。
変わらない先生の在り方から考えさせられること
「最近来ないな、あの人。」と思ったとき、ついつい勘違いしてしまいそうになる。自分の見立てた通りに、患者さんが行うことがベストだと。そうすれば、良くなると。
知らず知らずのうちに正義感が強くなり、ダメな患者さんと決めつけてしまいそうになる。自分が非力だとしても、それを患者さんに押しつけてはいけない。
その人にとって、自分のからだよりも大事なもの、守りたいものがある瞬間が存在しているかもしれない。そこは他人にはわからない事情があり、立ち入ることができないくらいデリケートな思いが隠れているのかもしれない。
行きたいけど、行けない。そんなときもある。
先生の「どうされましたか?」くらいの軽やかさ。今の私には到底そんなところまでいけないけれど、患者さんをそのときの距離感で見守り、離れているときも、その人の生き方を尊重し、そんな人が、また自分のからだを大切にしようと思ったときに気持ちよくお迎えしたい。
余計なわだかまりを持たず、今このときの患者さんの気持ちを大切にできるような施術者になりたい。いや、なるのだ。
立場上、来ても来なくてもいいですよ、なんて言えないけれど。少なくとも、心の中ではいつでもウエルカムでいたい。
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