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5ws+1n 夢をあきらめない 第5話

〇阿部の車の中
外車を運転しながら、ハンズフリーで大輔と話をしている阿部。
阿部「もしかしたら、指名手配になるかもしれない」
大輔の声「ええ?」
阿部「刑事が慶喜の指紋を取っていった。そっちはどうだ?」
大輔の声「翼が昼過ぎにこっちに着くから、それから一緒に探すつもりです」
阿部「そうか・・・」

〇コンビニエンスストア店内
商品を棚に並べる手を止めて、スマホで電話をしている大輔。
大輔「SAKURAのマンションにのぶが行ってたということは確かなんですね」
阿部の声「そうらしい。どっちにしても早く探し出さないとどんどん状況が悪化する」
大輔「そうですね」
電話を切る大輔。
店内に典子が入ってくる。
典子「何かあったの?」
大輔「警察がのぶの部屋を家宅捜索したらしいんだ」
典子「ええ! そうなの?」
大輔「早く見つけないとやばいかも・・・。店を閉めて、瞳をお母ちゃんに任せてから、お前も一緒に探しに行こう」
典子「うん、わかった。のぶ、まさか死ぬつもりじゃないわよね」
大輔と典子、一瞬顔を見合わせる。
大輔「(語気を強めて)馬鹿なこと言うなよ」
大急ぎで臨時休業の用意をする大輔。典子は店のパンとおにぎり、ペットボトル数本を手提げ袋の中に入れる。

〇翼の車・中
車を運転しながらラジオを聞いている翼。
ラジオ「この後台風は夕方四時半ごろに静岡県浜松市付近に上陸すると予想されます。この段階でも勢力は今とほとんど変わらず、中心気圧は九六〇ヘクトパスカル、最大風速は六〇キロメートルと予想されています」
翼「まずいな~」
   ×    ×    ×
ラジオから聞こえていた音楽が終わる。
ラジオ「ここで先程入ってきた、ニュースをお知らせいたします。警視庁はモデルのSAKURAさんの事件で、俳優のヨシキこと本田慶喜を重要参考人として全国に指名手配すると発表しました。警察関係者の話によると、SAKURAさんの死亡したマンションから出てきた男が本田とみて事情をきく予定でしたが、本田は7月3日から行方が分からなくなっているということです」
翼「やっば、急がないと」
アクセルを踏んで前の車を追い越す翼。

〇青山中学校・正面玄関
玄関扉の外にいる翼と典子。
中から大輔が鍵を開けて、翼と典子が中に入る。
典子「鍵の番号が変わってなくって良かったね」
掲示されている校内案内図を見ながら、話をしている大輔、翼、典子。
大輔「日が沈む前に見つかるといいけど」
翼「台風も近づいてるし」
典子「春樹も早く来てくれないかしら」
翼「五時ぐらいになるって」
大輔「翼と典子は左の事務室から、俺の右の職員室から探していく」
典子「わかった」
大輔「よし、じゃあ行こう」
左右に分かれて探し始める大輔、翼と典子。

〇同・事務室
ゆっくりと扉を開けて中に入る翼と典子。
典子「のぶ? いるの?」
翼「お~~い、俺だよ、翼だよ」
事務室の中を見渡すが、いない。

〇同・廊下~理科室
大輔が中に入っていく。
大輔「のぶ~~、かくれんぼは終わりにして、出て来いよ」

〇同・窓の外
雲の流れが速まり、風が出てきて、周周りの木々が揺れている。

〇同・校門前
雨の中、車が停まり、春樹と翔太が降りて、校門を乗り越えて、玄関の方へ歩いていく。ずぶ濡れの二人。

〇同・音楽室
雨と風がひどくなっている中で、大輔、翼、春樹、翔太、典子が集まっている。
大輔「翔太、良く来れたな」
春樹「出てくる直前に翔太から俺も行くって連絡があったから乗せてきた」
典子「訓練とか、大丈夫なの?」
翔太「相模原キャンパスに用事で来てたから、ちょうど良かったんだ」
大輔「三人でかれこれ4時間以上探してるんだけど見つからない。俺たちの動きを読んで、いたちごっこになってるんだと思う」
春樹「そうか・・・」
翼「それにしても、あいつ、どうして逃げてるんだろう」
翔太「なぜだ?」
典子「悪いことしてないなら、正々堂々としてればいいのに・・・」
大輔「まさか、のぶに限って・・・」
春樹「俺は無実だと信じるよ」
翼「俺も」
翔太「のぶは悪いことをするような奴じゃないってことは、俺たちみんな知ってるよな」
大輔「そうだな」
薄暗くなり、窓ガラスに雨が吹き付けている。
大輔「探すのはやめて、あいつが出てくるまでここで待とうか」
春樹「そうだな、ちょうどいいからここで同窓会やろう」
典子「私、一度家に戻って、食べ物とお酒持ってくる(立ち上がろうとする)」
大輔「雨と風がひどくなってきたから、俺が行ってくる。ついでに母ちゃんのところに行って今日は瞳を泊まらせてくれって頼んでくるよ」
翔太「題して、天岩戸作戦」
翼「なんじゃそりや」
翔太「お前、天照大神の天岩戸の神話、知らないの」
翼「天照大神って、作り話だろう」
春樹「じゃあ、俺、ギターを取ってくるよ」
翼「え、春樹、ギターも弾くの? ピアノだけだと思ってた」
春樹「ほとんど楽器は弾けるよ。作曲するのに必要だからね」
翼「確かランタンがトランクにあったから、持ってくる」
翔太「サバイバルは俺にまかせとけ!」
    ×     ×     ×
風雨が強くなり、窓ガラスががたがた音を立てている。
床に食べ物、ビールなどが並べられ、その周りを大輔、翼、春樹、翔太が取り囲んでいる。(一つ空席がある)
翔太「こうしてみんなでざっくばらんに飲むのって何年ぶりだろう」
翼「解散してから、みんなで集まったのは結婚式の時と瞳ちゃんが生まれた時ぐらいだったかな」
典子「みんな、それぞれ忙しかったからね」
春樹「一番忙しかったのはのぶだったんじゃないか」
大輔「おい、のぶよ~、早く出て来い~~~」
翼「そうだよ。お前がいないと全員集合にならないんだよ~~~」
典子「のぶ、準備室に飲み物と食料を置いといたから、食べていいよ~~」
翔太「サルの餌付けか?」
みんな大笑いをする。

〇同・音楽室準備前の廊下(夜)
扉が解放されている。
人影(慶喜)がそっと入っていく。

〇同・音楽室内(続き)
春樹のギターに合わせて、ファイブウイングス時代の曲を歌っている大輔、翼、翔太、典子。
典子「解散してバラバラになったから、最近のみんなのこと、知らないんだよね」
大輔「そうだな、前は何でもオープンだったけど」
翔太「お前たちが付き合ってるの、秘密だったけどな(大輔を肘で突っつく)」
大輔「悪い悪い、それは謝る」
典子「大輔から聞いたけど、中学の時、みんなで私に抜け駆けしないって同盟を結んでたんだって?」
翼&翔太「え?」
典子「でも、私、翼と翔太とのぶから告られたけど」
大輔「そうだ、お前らみんな、同盟を破って知らん顔をしていたんじゃないか」
翔太「まあまあ、もう時効でいいんじゃない」
典子「はい!(手を挙げる)」
大輔「何だよ、急に?」
翼「なに?」
典子「ここから告白タイムにしょう」
春樹「告白タイムって?」
典子「みんなに隠していたことをここでカミングアウトするの」
翔太「なんで?」
典子「隠してるって自分も苦しいじゃない?だから、思い切ってここで言っちゃうのよ。真実をさらけ出してすっきりしよう」
翼「みんなに隠してて後ろめたい気持ち、嫌だけど・・・」
大輔「そうだな・・・、でも、隠してるって相手に対する思いやりもあるだろうし」
典子「じゃあ、私から言う。私、中学の時、春樹が好きだった」
春樹が驚いて、典子を見る。

〇(回想)青山中学校・音楽室(夕方)
春樹がピアノを弾いているそばに典子が近づいていく。曲が終わると、典子が春樹にチョコレートの包みを渡す。
典子「私が作ったの。食べて」
春樹「(受け取って)ありがとう」
典子が急いで音楽室を出ていく。
春樹はチョコレートを置いて、またピアノを弾き始める。
(回想終わり)

〇青山中学校(夜・続き)
春樹「え、みんなにチョコレートをあげたんじゃなかったの」
典子「みんなにはチロルチョコレート。春樹のだけ手作りしたんだ」
大輔「なんだよ、春樹だけ特別だったって知らなかった」
典子「へへへ(笑)ごめんね」
春樹「なんだ。僕も知らなかった」
みんな、大笑いする。
典子「次、誰か勇気を出してカミングアウトしてよ」
大輔「じゃあ、次は俺の番」
典子「何? 浮気でもしたの?」
大輔「浮気なんかしないよ。実は教員免許の勉強をしてる」
春樹・翼・翔太「おお~」
典子「なんだ、それ、私知ってるよ」
大輔「ばれてた?」
典子「いつ言ってくれるのか、待ってたの」
大輔「合格したら言おうと思ってた」
春樹「大輔も中学の時の夢を叶えようとしてるんだな」
翔太「おお~、友よ。一緒に頑張ろうぜ」
翼「そっか、頑張れよ。俺のはちょっと笑えない話」
笑いがやんで、しんとなる。
翼「俺、借金が1千万位あるんだ」
大輔「ええ? どうして」
翼「一昨年映像クリエーターとして独立して、最新の機材を銀行から借金して購入したんだ。でも、なかなか思ったように仕事ができなくて、ローンの支払いができなくなって、それで消費者金融から借り入れをしたんだ。つなぎのつもりだったけど、それがどんどん増えちゃって・・・」

〇同・音楽準備室(夜)
翼の話に聞き耳を立てている慶喜。

〇同・音楽室(続き)
春樹「あのさ~、気を悪くしないでほしいんだけど」
翼「何だよ」
春樹「前々から思ってたんだけど、翼、一緒にやらない? 翼の映像と僕の音楽、一緒ならいいな~と思ってたんだ。だから、うちに来いよ」
翼「お前に助けてほしいと思って、言ったわけじゃないから」
春樹「翼だけが助かるんじゃなくて、合同事務所にすれば俺も助かるんだ」
翼「お前の情けはいらない」
典子「翼、その言い方、春樹に失礼よ」
大輔「そうだよ。春樹に謝れ」
翼「・・・、そうだな、言い過ぎた。ごめん。でも・・・」
春樹「僕は友情とかから言ってるんじゃなくて、ビジネスの話をするよ。M&A、わかる? つまり僕は翼の才能を買い取る」
翼「借金が一千万あるんだぞ」
春樹「翼の才能、一千万円より高いと思ってるから、安い買い物だと思う。それとも、お前、一千万円の価値がないのか」
翼「なんだと」
翔太「おいおい、こんなところで喧嘩するなよ。俺は二人にとって、ウインウインの話だと思うけどな」
典子「そうよ、翼、駄々をこねてないでそうしなさいよ」
大輔「二人なら、最強じゃないか」
翼「わかった、前向きに考える。俺にだって男としての意地がある。なるべく春樹に迷惑をかけないようにしたいから」
春樹「いい返事を待ってるから、よろしく。じゃあ、次は僕の番かな。おい、慶喜、そこにいるんだったら、ちゃんと聞いてくれ。実は、二枚目のアルバム制作で、最後の曲が全然できなくて、その上、突発性難聴になって耳が聞こえなくなったことがあったんだ」
典子「ええ! そうだったの!」
春樹「何日も眠れなくて、夢遊病者のように事務所のビルの屋上に上がっていったんだ」

〇(回想)事務所のビル・屋上
スーパームーンが屋上から見える。
春樹がふらふらとビルの角に向かって歩いている。
ズボンのポケットに入っていたスマホに着信が入り、春樹が電話に出る。
翼の声「おい、春樹。俺、慶喜」
春樹「ああ」
翼の声「あのさ、そこから空見える? 窓開けて空見てみろよ。月がすっごく大きくて、綺麗だぞ」
春樹「月?(改めて空を見上げる)」
翼の声「あのさ~、青中の観測会で月の表面を見ただろう? 覚えてる?」
春樹「観測会?」
翼の声「忘れちゃったの? 月にウサギなんていない、サンタクロースがいないのと一緒だって、信じてる方が幸せかもしれないって、春樹、お前が言ったんだよ」

〇青山中学校・音楽室(夜・続き)
春樹「あのとき、お前からの電話がなかったら、僕は死んでたかもしれない。あの妖しく美しいスーパームーンに引き寄せられて、屋上から身を投げていたかもしれない。それをお前の電話が止めてくれたと僕は思っている。そして、最後の歌詞が、メロディが浮かんだんだ」
翔太「スーパームーン。あの曲、俺のために書いてくれたんじゃなかったのか?」
典子「(歌い出す)無邪気な子どもの頃に戻ると、月にはウサギがいて、(他の三人も加わって)クリスマスにはソリに乗ったサンタがやってくる」

〇同・音楽準備室
慶喜も小声で歌い出す。
慶喜「月にはウサギがいて、クリスマスにはそりに乗ったサンタがやってくる」

〇同・音楽室
大輔「そんなに悩んだことがあったなんて全然知らなかったよ、お前はいつも天才だったから」
春樹「僕はただ音楽が好きなだけなんだ。でも、音楽が僕を好きとは限らない。一生、片思いみたいなもんだね」
典子「それって、女性を思って書いた曲じゃなかったの」
翔太「俺、不倫の曲かと思ってた」
みんな大笑いする。
春樹「どうかな? ご想像にお任せします」
翔太「(立ち上がって両腕を腰に当て)じゃあ、次は俺の番・・・」
慶喜が中扉を開けて、そっと入ってくる。
慶喜「みんな、心配かけてゴメン」
典子&大輔&春樹&翼&翔太「のぶ!」
典子「良かった、出てきてくれたのね」
大輔「早くこっちに来いよ」
翼「おっせえぞ」
春樹「待ってたよ、のぶ」
翔太「おいおい、割り込むつもりか」
ゆっくりとみんなの輪に近づく慶喜。
典子「座って、そこ、のぶの席よ」
慶喜と翔太が抱き合う。
慶喜「トリは翔太に任せるから、よろしく」
翔太が座る。
慶喜「(頭を下げて)ごめん」
大輔「まあ、座れよ」
慶喜と翔太が座る。
慶喜「・・・怖かったんだ。ただ、怖くなって逃げただけなんだ。信じてくれ」
翼「わかってるよ、大丈夫」
慶喜「どうしたらいいのかわからなくて」
翔太「お前、SAKURAとまだ切れてなかったのか」
慶喜「いや、3年前に別れたんだけど、去年の夏、彼女から連絡があって」
翔太「復活したのか」
慶喜「いや、その頃、俺、ゆかりと付き合い始めた頃だったから。ただ彼女、荒れてて。俺の秘密を公表するって言って・・・」
春樹「脅迫されたのか?」
慶喜が頷く。
典子「そんな・・・」
慶喜「昔、SAKURAと付き合っていた頃、彼女から大麻を勧められて遊び半分で吸ってたことがあったんだ」
大輔「大麻か」
慶喜「その時の写真をマスコミに流すって言われて脅されてた」
翼「もしかして、SAKURAがイカロスのヒロインになったのは?」
慶喜「俺が監督にお願いした」
典子「SAKURAさんは何が目的だったのかしら。のぶと復縁したかったの?」
慶喜「彼女は寂しかったんだと思う。本気で好きになった男から捨てられて自暴自棄みたいだった。自分が不幸だから、みんな不幸になればいいと言ってた。だから僕を破滅させるんだと笑いながら言ってた」

*いよいよ次回は最終話になります。お楽しみに~~~!


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