日蓮大聖人の言葉『崇峻天皇御書』すしゅんてんのうごしょ 10

蔵の財よりも身の財すぐれたり。身の財より心の財第一なり。この御文を御覧あらんよりは、心の財をつませ給ふべし。

建治3年(1277)9月11日執筆
『昭和定本日蓮聖人遺文』1395頁

(訳)


蔵の中に山ほども財を積むことができても、身体が弱くてはどうにもなりません。だから蔵の財よりも、自分の身体にそなわっている財のほうがすぐれているのです。また、身体がどのように健康な状態であっても、心が清浄であり豊かでしっかりとしていなくてはどうにもなりません。だからこそ、心にそなわった財が第一であるのです。この手紙をご覧になったら、心の財を積み上げるように心掛けた生き方をしていきましょう。

(解説)

身延に住まわれていた日蓮聖人が、信者である四条金吾(四条頼基)に宛てたもので、「崇峻天皇」に関する内容があることから、後年になってこの名称が付されました。四条金吾は、文永八年(一二七一)に、日蓮聖人が国家権力により殺害されそうになった「龍口法難」の折、決死の覚悟で随従されたのです。そのことを、日蓮聖人はこの手紙にて回顧され、もしも四条殿が地獄に入るならば、私(日蓮聖人)も「同じく地獄なるべし」とあり、このことから別名を「同地獄鈔」ともいいます。四条金吾は、日蓮聖人の檀越の中でも重要な位置にあり、『開目抄』(文永九年二月執筆)が与えられました。
このお手紙は、四条金吾が身延に住む日蓮聖人に、白小袖・銭・柿・梨・生ひじきなどの供養物と富木氏からの手紙を届けたことに対するお礼と、近況を知らせてきたことに対する細かな注意が記されているのです。

(思うところ)
冒頭に挙げた一節は、後半に示されており、「心の財」を積み重ねるように努めなさいという指南があり、日蓮聖人の厳しさと優しさを感じずにはいられません。現在に生きる私たちは、「財(たから)」と聞きますと、金銭や宝石などといった価値がある物や高価な物を連想してしまいます。ですが、本当の財というのは自分自身の身体が健康であることであり、さらには精神も豊かであることということなのです。「財」とは、私たち一人一人の身心が健康であることが指南されていますので、心の充実に励む生き方を心がけていきたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?