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中国 「無印良品」商標紛争から学ぶこと

2021年11月4日付、北京高裁の判決データベースに「無印良品」と「无印良品」の商標で係争中の株式会社良品計画(以下、良品計画)と北京棉田紡織品有限公司と北京无印良品投資有限公司(以下、併せて棉田)の判決や裁定が新たに4件追加された。この内、2件は双方に影響があり、注目される結果となっているので、以下のようにご紹介します。

(1)登録商標4471268「無印良品」(20類、枕など)侵害第二審判決
 良品計画が保有する上記商標の侵害を争った第一審(2020)京0105民初70778号(判決日:2020年11月30日)では、棉田による侵害を認め、侵害差止、損害賠償15万元の支払いと影響除去を被告サイトで30日間の公示を命じた。これに両者が不服で上告した北京知識産権法院の第二審(2021)京73民終961号(判決日:2021年10月13日)では、追加の抗弁がされたものの一審判決が維持され、賠償額も維持されたが、影響除去の被告サイトでの公示が10日間と短くされた。なお、棉田は、自ら保有する登録商標1561046(24類)を20類まで拡張して使用してはならず、両当事者は信義誠実の原則に従って使用するべきと指摘し、さらに棉田の使用には消費者に誤認混同を生じさせ、良品計画の商標の専用権を侵害する一定の悪意があると指摘している点は重い判断といえる。最も新しい本第二審判決は今後への影響があると思われる。

(2)良品計画による棉田の営業妨害を認定した不正当競争一審判決
 棉田は良品計画と無印良品上海(以下、併せて良品計画)を登録商標1561046「无印良品」(24類)及び登録商標7494239「无印良品」(24類)を侵害すると提訴した北京知識産権法院の第一審(2015)京知民初字第763、764号(判決日:2017年12月25日)で、侵害を認定、侵害停止、損害賠償及び影響除去の判決が下され、北京市高級人民法院が第二審(2018)京民終172、173号(判決日:2019年11月4日)で一審判決維持した判決を受けて、良品計画が影響の除去する対応として、2019年11月10日から「良品計画MUJI公式旗艦店」、国内の実体店舗で発表した声明の内容が棉田の営業を妨害する不正競争行為であるとして、損害賠償300万元、影響を除去の公示を求めて北京市朝陽区基層人民法院に提訴した。
 第一審(2020)京0105民初59143号(判決日:2021年7月30日)は、棉田の主張を認め、良品計画らに損害賠償40万元の支払いと影響除去として「良品計画MUJI公式旗艦店」、国内の実体店舗での公示を命じた。
 棉田は、対象となった良品計画の声明書の一部に“「他の会社に「无印良品」の商標を先取りされた」”の一文が含まれており、前後の文章と合わせると、「他の会社」とは棉田を指し、棉田が良品計画の「無印良品」を先取りしたことを公示する内容で、敗訴し影響を除去する声明があたかも被害者のような振舞いであると主張しました。
 ここで注意しなければならないのは、中国語の「抢先注册(先取り登録)」や短縮した「抢注」や「抢先」の表現で、裁判所は、商標法の第32条は未使用の先取り商標を不正行為と指摘し、非合法で否定的な表現となっていることを指摘し、法律に詳しくない消費者から見れば棉田の評判を貶める内容になっていると認定しました。
 ここでのポイントは、棉田の先取りはもちろん否めませんが、棉田は「无印良品」の登録商標1561046と7494239を依然として有効に保有し使用している状況で、良品計画からの登録無効の攻撃を無効審判や行政訴訟で争いながらも維持し、未だ無効化されていない情況で、侵害の判決が下されているということの合法性を無視してはいけないということです。

 そうした状況で、良品計画がこうした表現を使うことは、現状を否定するもので、不正競争行為と言われても仕方ないと言えます。従って、裁判所は、不正競争防止法(反不正当競争法)第11条「事業者は虚偽の情報を捏造、虚偽情報或は誤認させる情報を流布し、競争相手のビジネス信用や商品の評判を害してはならない。」に該当すると判断したものです。

 新聞やサイトなどでの影響除去のための公告や公示の文面は、自社で作成することにはリスクが大きく、通常は経験のある弁護士に素案を作成してもらい、その内容を更にねるのが一般的流れです。諸外国ではこうした判決も多く、その公示をする場合、裁判官に最終確認を求めることはよくあることです。当職も上海在勤の時には何度も同じような経験をしましたので、素案やチェックを同僚と行い、裁判官ともやり取りを行いました。本件ではそうしたステップを取らなかった代理人に問題があると考えるのが普通です。この事務所は以前にも同じような事件を起こしていますので、代理人に丸投げはしてはいけませんし、必要に応じて、セカンドオピニオンを取るべきです。いずれにしても、この代理人は有名な企業を代理しているからなど安易な理由で選定するのはよくありません。

 「無印良品」と「无印良品」の紛争はほとんどの裁判官が知っている事件であり、北京の裁判官は概ね方向性を明確に持って、調整による対応をしている感じが最近の判決からは読み取れます。

 こうした類似文字商標事件は最近かなり少なくなりましたが、商標審査官のレベルの低さ、大量な審査件数の多忙さから類似する商標が登録されてしまうことが今でもあります。本件は、繫体字と簡体字の違いだけなので深刻ですが、年齢の若い審査官は学校で繁体字を習わないので対応する簡体字を知らないため、発生しがちなミスです。相変わらず同じコメントになりますが、自社商標の権利化とウォッチングを必ず行うことで、リスクのある商標出願を発見し、異議申立をしっかり行い、排除することが如何に大切かを常に感じさせる事例です。

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