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中国での透明な材料を利用した製品の意匠特許による保護

中国での意匠特許を調べると、製品全体を透明な材料にしたり、或いはその一部を透明な材料にしたりすることを特徴とする意匠特許登録が増加している。2020年までの7千件台から2021年は1万件に増加し、2022年は12,998件と増加が続いている。一方、民事訴訟による透明な材料に係る意匠特許権侵害などの紛争を調べると多くはないものの、すでに判決が出されている。また、行政による特許保護が増加している現状もあり、透明な材料を意匠設計に含む製品を意匠特許として権利化をすることが今後は重要となろうと考えている。そこで、本稿では、主に透明な材料による意匠特許権の保護について検討した。


1.透明を含む意匠にかかる法規定

1.1 中国の特許法(専利法)関連

 特許法、発明、実用新案に加えて、アメリカのように意匠をその保護のカテゴリーに含めている。現行の特許法(2020年第4回改正)での意匠特許権の保護は、改正で加わった部分意匠を含めて、第2条4項に規定している。
「意匠(外観設計)とは、製品の全体或いは部分の形状、図案或いはそれら組合せ、および色彩と形状、図案の組合せに対してなされた美感に富み、工業上の応用に適した新しい設計をいう。」
 また、侵害判断基準は、第64条2項に規定している。
「意匠特許権の保護範囲は、画像或いは写真に表示される当該製品の意匠を基準とし、簡単な説明は画像或いは写真に表示される当該製品の意匠を解釈するために用いることができる。」
 意匠特許権の保護範囲は、登録公告された意匠特許権の「画像或いは写真」に表示さている主題の製品の図案或いはそれら組合せおよび色彩と形状、図案の組合せの意匠設計を基準とし、被疑侵害品の意匠設計が保護範囲に入るか否かの侵害判断では、出願時に提出された「簡単な説明」を当該意匠設計の適用範囲を解釈するために用いることができると理解できる。
 これらの条文では、第2条4項に2008年の第3回改正で提案されたが導入は2020年になった部分意匠が追加されているものの、透明な材料が意匠特許権保護や侵害にどのように影響を及ぼすか具体的に規定はないことが分かる。特許法実施細則には関係の規定がないが、特許審査ガイドライン(専利審査指南)2010年改正版の第四部第五章無効宣告手続における意匠特許の審査の5.2.3節の製品の外観のみを判断対象の第5段に次のような規定がある。なお、2006年改正版でも5.4節に同様の規定がある。
「表面に透明材料を用いた製品において、人の視覚を通じて観察できるその透明部分の内側の形状、図案及び色彩がある場合、当該製品の意匠の一部と見做さなければならない。」
 このことから、意匠特許の有効性の判断において、意匠設計の表面にあたる部分に透明な材料が適用されている場合、その透明な材料を通して見える内部の形状、図案及び色彩で構成される意匠設計も保護の対象となることが理解できる。
 なお、現在改正が予定されている専利審査指南の改正案で当該節を含み、透明に関する改正の提案はみられない。 

1.2 司法解釈

 最高人民法院は、2009年に公布した「特許権侵害紛争事件の審理における法律の適用の若干の問題の解釈(一)」で意匠特許権侵害の判断方法を示している。この司法解釈では、意匠特許の侵害判断での一般的規則と方法を以下の条文で示している。
「第8条 意匠特許製品と同一或は類似する種類の製品において、登録意匠と同一或は類似する意匠を採用した場合、人民法院は被訴権利侵害意匠が特許法第59条第2項(訳注:現行特許法第64条第2項)に規定する「意匠特許権の保護範囲」に含まれると認定しなければならない。
第10条 人民法院は意匠特許製品の一般消費者の知識水準と認知能力をもって、意匠設計が同一或は類似であるか否か判断しなければならない。
第11条 人民法院は意匠設計が同一或いは類似か否かを認定するとき、登録意匠、被訴権利侵害意匠の意匠設計の特徴に基づき、意匠設計の全体的な視覚的効果から総合判断しなければならない。主に技術的機能から決定される意匠の特徴及び全体的な視覚的効果に影響を及ぼさない製品の材料、内部構造などの特徴については、これを考慮に入れてはならない。
 以下に掲げる情況は、一般的に、意匠設計の全体的な視覚的効果に対してより影響が強いものである:
(1)製品を正常に使用するとき、その他の部分に比べ、直接観察されやすい部分;
(2)登録意匠設計におけるその他の意匠の特徴に比べ従来意匠と違いのある意匠設計の特徴(訳注:当該意匠設計の設計の要点を指す)。
被訴権利侵害意匠設計が登録意匠設計と全体的な視覚的効果において違いがない場合、人民法院は両者を同一と認定しなければならない。全体的な視覚的効果に実質的な違いがない場合、両者は類似すると認定しなければならない。」
 以上のように、透明な材料或いは不透明の材料による交換が意匠特許の権利侵害にどのように影響するかの明確な判断にかかる指針はないが、第11条は「主に技術的機能から決定される意匠の特徴及び全体的な視覚的効果に影響を及ぼさない製品の材料、内部構造などの特徴については、これを考慮に入れてはならない。」と使用時に見えない意匠に対する判断の指針を示している。

1.3 北京高級人民法院の特許権侵害判断指南

 北京市高級人民法院が2013年と2017年に公布した特許侵害判断ガイドライン(専利侵害判断指南)には、意匠特許権侵害判断についての不透明或いは透明な材料の交換に関する判断への影響及び判断指針を明確に示している。2017年版では第91条に規定しており、対応する2013年版の第85条と比べ、第2項の「内部構造」を「形状、図案、色彩」と具体化している。
「第91条 不透明の材料を透明な材料に交換、或は透明な材料を不透明な材料に交換するとともに、材料の特徴を変更しただけで、製品の意匠設計に明確な変化がない場合は、意匠の同一或は類似を判断するとき、これを考慮してはならない。但し、透明な材料が当該製品の意匠の美感を変化させ、一般消費者に当該製品の全体的な視覚的効果に変化を生じたさせる場合、これを考慮しなければならない。
 被訴権利侵害品で不透明な材料を透明な材料に交換し、透明な材料が製品内部の形状、図案、色彩が観察できる場合、当該製品の意匠の一部と見做さなければならない。」 

1.4 国家知識産権局の特許権侵害紛争行政裁決事件処理指南

 国家知識産権局は、2019年に特許権侵害紛争行政処理ガイドライン(専利侵害紛争行政裁決事件処理指南)を公布していが、これは2014年に公布された「特許権侵害判断と特許虚偽行為認定指南(試行)」の内容が概ねそのまま引き継がれており、第5章第二節意匠特許権侵害判定で意匠特許権侵害を判断する方法と基準を以下のように示している。
「意匠特許の権利侵害判定は、被疑侵害品が意匠特許権の保護範囲に入るかどうかを判断する手順であり、当該対象製品類の一般消費者の観点で判断しなければならない。まず、被疑侵害品と係争意匠特許が同一或いは類似する種類の製品に属するか否かを判断する。次に、係争意匠特許の保護範囲および被疑侵害品の意匠を確定し、必要に応じて設計の空間の分析を通じて、意匠の全体的な視覚的効果に影響を及ぼす設計の内容を確定し、全体観察、総合判断を通じて両者の要素(形状、図案、色彩)が同一あるいは類似するか否かを判断する。両者が同一あるいは類似する種類の製品に属し、製品の意匠の設計の要素である形状、図案および色彩が同一あるいは類似である場合、両者は同一あるいは類似する意匠に属し、被疑侵害品は係争意匠特許の保護範囲に入るため、権利侵害が成立すると判定する。」
 しかし、本指南でも透明な材料の場合の判定について明確な記載がない。一つの示唆として、事例5-2-27パッケージ袋を引用している。この事例は不透明な材料を透明な材料に交換した事例ではないが、全体が方形で、上部の表示部分と下部の透明な収納袋体で構成されるパッケージ袋で、袋体に食品などが装填される製品の侵害判断について、次のように指摘している。
「外装に透明な素材を使用している製品である場合、人間の視覚で観察できる透明な部分の内部の形状、図案と色彩は、当該製品の意匠の一部と見做さなければならないが、当該透明部分の意匠設計は当該種類の製品に一般に認知されている常用設計で、透明部分の内部の設計の内容を表示していない場合は除く。本件の判断では、一般消費者の認知能力に基づき、当該透明部位に対する注目は包装された食品が実用的要件に適するか否かを考慮することであり、2つの意匠設計を区別する根拠にはならず、上部の密封部ある図案の意匠設計の内容のほうが一般消費者に意匠設計を区別するために視覚的に目を引く意匠設計の内容である。」
 つまり、透明な材料の部分が特徴的な意匠設計でない、或いは機能的な特徴による意匠設計である場合は、考慮するべきでないと指摘していると理解できる。

1.5 法律規定のまとめ

 このように法規定の情況を確認すると明確な規定は存在していないことがわかるが、北京高級人民法院の指南は、意匠特許権侵害判断についての透明な材料の交換について裁判指針を明確に規定しており、透明な材料への交換が
(1)「材料の特徴の変更だけに属し、製品の意匠設計に明らかな変化が生じない場合、意匠設計の同一類似を判断するとき、これを考慮しない」、
(2)「透明な材料により当該製品の意匠設計の美感の変化が生じ、一般消費者の当該製品に対する全体的な視覚的効果に変化が生じる場合、これを考慮する」と指摘している。
 すなわち、不透明の材料を透明な材料に交換により視覚的効果の変化が生じるか否かを判定し、意匠特許権侵害の有無を考慮する。特に、意匠特許の意匠設計の不透明な材料を透明な材料に交換した後に内部に表示される「形状、図案と色彩は、当該製品の意匠設計の一部と見做さなければならない」(これを考慮する)と指摘している。
 なお、透明な材料への交換が単に透明であることにより、内部を視認できる機能を発揮する場合は、これを考慮しないことも理解することができる。

2.事例検討

 本稿を作成している現在(2023年11月)、中国最高人民法院の判例データベースは日本からのアクセスを制限しているために、意匠特許侵害にかかる判例で、透明な材料或いは不透明な材料を透明な材料に交換したことによる侵害紛争を確認することはできないが、中国のWebサイトやSNSサイトでの紹介されている最近の事例によると、最高人民法院で3件、浙江省と広東省の高級人民法院がそれぞれ4件、北京市と江蘇省の中級人民法院がそれぞれ2件などで、全体で20件ほどの判決を確認することができるが、通常の意匠特許の侵害事件数に比べて、この件数は多くはない。また、リーディングの判例となるような判例もまだないように思われる。ここでは、事例の情況に基づき、以下3つの切り口からいくつか判例を紹介する。

2.1 単純に透明な材料への交換の事例

 単純な素材の交換の事例としては、ビーズ、シリコンの型(ヘアピン用)、水筒、中華鍋の蓋、ティーポット、野菜カッターなどがある。ここでの事例からは、概ね材料の単純な交換だけでは、意匠設計の全体的な視覚効果に変化が生じない、或いは透明の機能が発揮されているだけで、意匠特許の保護範囲に入るとの判断が下されている。
 【ビーズ】不透明のビーズの意匠特許と透明なクリスタルガラスビーズの事例で、裁判所は全体的な明確な視覚的効果に違いを生じさせていないため、保護範囲に入ると判断した。
 【シリコン製の型】不透明のシリコンの型(ヘアピン用)の意匠特許と透明なシリコンの型の事例で、材料の違いは対比判断の対象でないとし、保護範囲に入ると判断した。
 【水筒】不透明の水筒の意匠特許とカバーの付いた水筒で、カバーをとると透明な水筒の事例で、裁判所は基本的に同一の意匠設計で、材料のみの違いは全体的な視覚的効果に影響を生じさせていないため、保護範囲に入ると判断した。
 【中華鍋の蓋】不透明の中華鍋の蓋の意匠特許と透明な中華鍋の蓋の事例で、裁判所は材料の違いは意匠設計に明らかな変化をもたらしていないため、一般消費者の観点からは全体的な視覚的効果に違いを生じさせていないとし、保護範囲に入ると判断した。
 【ティーポット】ガラス製のティーポットを含む茶器セットの意匠特許と白磁のティーポットの事例で、裁判所は意匠設計が類似し、材料の違いは意匠設計に全体的な視覚的効果に違いを生じさせていないとし、保護範囲に入ると判断した。
 【野菜のみじん切り器】不透明の容器を有する野菜のみじん切り器の意匠特許と透明の容器を有する野菜みじん切り器の事例で、裁判所は、容器が透明に設計されているのは容器内の食品のみじん切り状況を観察しやすくするためで、当該意匠設計は機能的な設計であり、比較判断の対象でないとし、保護範囲に入ると判断した。第二審でも、両社の意匠設計の違いはいずれも局所の微細な変化で全体的な視覚的効果に実質的な影響を及ぼさないとし、一審判断を維持した。

2.2 透明の材料への交換により内部が見える事例

 製品自体、或いはその一部の部品を透明な材料に交換したことにより、内部の意匠設計が見える場合の判断事例としては、ピルケース、食品加工機、掃除機のブラシヘッド、水切りラック、カブトムシ玩具、工具箱、ローミングミンサーなどがある。ここでの問題点は、裁判所や製品により判断が分かれていることである。
 【ピルケース】不透明のピルケース(薬入れ)の意匠特許と半透明なピルケースの対比判断に於いて、裁判所は被訴権利侵害品に半透明な材料が使用されているためにピルケース内部の仕切りと仕切り内の小さい円形薬ボックスを見ることができるが、設計の特徴は同一である。ピルケース類の製品について、透明或いは不透明な材質を使用することは比較的よく見られる。一般消費者の知識レベルと認知能力により総合判断を行い、全体的な視覚的効果に実質的な違いはないと認定し、保護範囲に入ると判断した。
 【食品加工機】不透明のパネルで覆われた食品加工機の意匠特許と正面のパネルの略半分が透明のパネルで覆われた食品加工機の事例で、裁判所は被訴権利侵害品の内部構造を観察できるため、両者の視覚的効果は同一でも類似でもないとし、保護範囲に入らないと判断した。 
【掃除機のブラシヘッド】カバーが不透明である掃除機のブラシヘッドの意匠特許とカバーの前部半分が半透明で後部が艶消しとなっている被訴権利侵害品の事例で、裁判所はドラム状のブラシ前部が一部漏れ出ており、一般消費者は製品を正常に使用するときにブラシの形状、図案、色彩を十分に認識し、かりに透明な材料を通して観察できる製品内部の形状、図案、色彩がその製品の意匠設計の一部であるとしても、当該材料の特徴の変更は消費者の製品の全体的な視覚的効果に明らかな変化をもたらしていないと認定し、保護範囲に入ると判断した。第二審では、両社の意匠設計の違いはいずれも局所の微細な変化で全体的な視覚的効果に実質的な影響を及ぼさないとし、一審判断を維持した。
【水切りラック】二段構造の水切りラックで、棚板が不透明平板の意匠特許と透明なワイヤーメッシュの棚板の被訴権利侵害品の事例で、裁判所は透明な材料にすることで視認性を変化させ、透視できる根本的な変化により、一般消費者の当該製品に対する全体的な視覚的効果に変化が生じる場合、意匠設計の同一或いは類似を判断するときにこれを考慮しなければならず、全体的な視覚的効果に実質的な違いがあるとして、保護範囲に入らないと判断した。 
【カブトムシ玩具】カブトムシ玩具の意匠特許と腹部と足を透明の被訴権利侵害品の事例で、裁判所はカブトムシのような模擬玩具のように頭、胴体、足の構造的構成からなるありふれた設計を考慮すると、胴体と足の具体的な意匠設計には比較的大きな設計の空間があるものの、本件では胴体と足が同一の設計であり、腹部と足は透明な材料を採用しており、その内部構造の一部を図案として見ることができるが、全体的な視覚的効果に及ぼす影響は限られ、全体観察、総合判断を経て、両者は依然として類似する構成であり、保護範囲に入ると判断した。
 【薄型工具箱】薄型工具箱の意匠特許と蓋が透明の材料からなる被訴権利侵害品の事例で、裁判所は両者の意匠設計で蓋が大きな正面を占める割合が大きく、主に観察される部位であり、透明の材質であることで箱内部の収納格子や横溝などの具体的形状を直接観察でき、一般消費者が正常に使用するときに観察しやすく、実質的な違いを生じさせるに十分であるとして、保護範囲に入らないと判断した。
 【ローミングミンサー】ローミングミンサー(ミンチ機)の意匠特許と本体部のみが透明の被訴権利侵害品の事例で、一審、二審の裁判所は意匠特許の意匠設計と被訴権利侵害品の意匠設計とには係争特許の不透明な材料を透明な材料に交換を含む5つの違いが存在すると指摘し非侵害と認定したが、最高人民法院は被訴権利侵害品の本体部は透明な意匠設計であり、内部のローラーの形状と筋状の模様が見えると指摘し、両者は各構成部分の相対的な位置関係、本体などの面でいずれも同一でなく、意匠特許と被訴権利侵害品の意匠設計は全体的な視覚的効果が同一でも類似でもなく意匠特許の保護範囲に入らないと一、二審を破棄し非侵害と判断した。

2.3 不透明の材料に交換した事例

 部品を不透明なものに交換したことにより、内部の意匠設計が見えない場合の判断事例としては、バーコードリーダー、小物収納ケース、コップなどがある。裁判所はいずれも非侵害と判断している。
 【バーコードリーダー】透明な手持ち式バーコードリーダーの意匠特許と不透明のバーコードリーダーが被訴権利侵害品の事例で、裁判所は意匠特許のハンドル部分の透明な設計を通して内部の配線及びケーブルカバーが見える設計が従来意匠設計と区別できる特徴であり、製品の意匠設計の美感を変化させ、視覚的効果に比較的重要な影響を及ぼしているが、走査ヘッドの頭頂部の形状、前部と後部の比例関係と具体的な形状、各面間の切替えと移行、走査窓の大きさなどの面において比較的に明らかな差異があり、全体的観察、総合的判断の原則に基づくと、全体の視覚的効果に実質的な差異があるため、両者は同一でも類似でもないため、被訴権利侵害品は意匠特許の保護範囲には入らないと判断した。
【小物収納ケース】表面が半透明の小物収納ケースの意匠特許と不透明の被訴権利侵害品の事例で、最高人民法院は意匠特許がケースの外殻に半透明の材料を採用し、外殻を通して内部構造と形状を直接観察することができるところ、被訴権利侵害品は不透明の材料を使用しており、異なる材料の使用により両社の全体的な視覚的効果には明らかな違いがあり、当該製品の一般消費者の知識レベルと認知能力に基づき、全体観察、総合判断を行うと、外殻の意匠設計の特徴の違いが全体的の視覚的効果に顕著な影響を及ぼし、被訴権利侵害品の意匠設計は意匠特許の意匠設計と実質的な違いがあり、両者は類似しないとし、被訴権利侵害品は意匠特許の保護範囲には入らないと判断した。
 【コップ】コップの意匠特許の事件は、2014年の最高人民法院の判決でやや古いが最初の類似事件と思われる。コップの意匠特許にコップ本体の材料が透明な材料か否かの記載はない。被訴権利侵害品のコップは内外の二層で構成され、外層は透明の材料であり、消費者は外層の透明な材料を通して緑色の内層を見ることができる。最高人民法院は、被訴権利侵害品は、透明な材料を部分的に使用し、透明な部分と不透明の緑色の部分の視覚的コントラストを形成し、製品の全体的な視覚的効果が係争特許と明らかに異なるため、被訴権利侵害品は係争特許とは同一でも類似でもなく、意匠特許権の保護範囲に入らないと判断した。

3.意匠特許出願での考慮事項

 前段の事例検討では、単純に透明な材料への交換の事例、透明の材料への交換により内部が見える事例、そして、不透明の材料に交換した事例に分けて、判例を検討した。
 意匠特許の意匠設計の全体、或いはその一部を不透明から透明の材料に単純に交換した場合で、その他の意匠設計が同一或いは類似である場合、意匠特許の保護範囲に入ると認定されている。反対に、意匠特許の意匠設計の全体、或いはその一部を透明から不透明の材料に単純に交換した場合で、その他の意匠設計が同一或いは類似である場合、意匠特許の保護範囲に入らないと認定されている。こうしたことから、透明な材料を適用した意匠設計の権利範囲は限定的で、狭いものとなることに注意しなければならない。
 中国の意匠特許制度では、類似意匠を10件まで一件の出願に含めることが可能であり、登録後の年金も同額であることから、透明な材料と不透明な材料の両方の意匠設計を一件の出願含め、不透明な材料の意匠設計を基本意匠とし、透明な材料のある意匠設計を類似意匠とするとともに、簡単な説明文にその旨を記載することが望ましい対応と考える。また、透明でなく、特定な色を指定した類似意匠を含めることもできる。なお、中国で関連、類似する意匠設計は、同日の出願でなければ拒絶を受けることになるため、一件の類似意匠出願としない場合は、同日に別の意匠特許出願をすることで対応しなければならないので、この点は注意が必要である。
 次に、前項2.2で事例検討を行った不透明な材料の意匠設計を透明の材料への交換により内部が見える意匠設計の場合であるが、裁判所の判断が分かれてはいるものの、内部の設計が見える意匠設計が適用される製品により分けて対応することができると考えられる。
 製品の意匠設計全体が常用設計で他に特徴のある設計がないために、不透明な材料を透明な材料に交換することで生じる、全体的な視覚的効果に及ぼす影響は限られ、全体観察、総合判断を経て、両者は依然として類似する構成であると判断されるような場合は、不透明な材料を意識した意匠設計のみでの意匠特許出願で必要十分と考えられる。しかし、常用設計であることは無効の可能性を多分に含んでいることから、過去の意匠登録例を十分調査し、類似する先行意匠が数多くある場合は、設計の空間があるとして、一定の独自の特徴や図案、色彩などがある意匠設計とするべきである。
 一方、透明な材料に交換した部品が製品全体に占める割合が大きい場合や、透明な材料を通して内部の意匠設計が見える場合は、その両方を権利化するべきであろう。透明な材料の意匠設計の意匠特許権は不透明な材料の意匠設計に対して権利行使を失敗している前項2.3の事例を考慮すると、透明な材料の意匠設計だけを権利化するリスクは否めないところであり、事業コストが増えることになる。そのため、製品全体の意匠設計が一般に知られた常用設計である場合は、透明な材料の意匠設計のみを権利化し、さらに、内部に見える意匠設計のバリエーションがあるのであれば、その意匠設計を部分意匠及び類似意匠で権利化することができる。また、透明な材料を通して見える意匠設計が部品として成立している場合、部品の意匠として別に権利化することもできる。なお、製品全体の意匠設計に特徴がある場合は、全体の意匠設計に加えて、構成部分の変化、交換の可能性を検討し、類似意匠などを権利化することになろう。
 
 以上、中国における透明な材料を含む意匠設計の意匠特許権による保護について検討した。各位のご参考になることを希望している。また、関係実務者からのご意見、ご指摘を頂ければ幸いである。

一部に参考図の付いたPDF版は有料になります。

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