中国特許法実施細則改正案

中国国家知識産権局(CNIPA)は、11月27日付、特許法実施細則改正案を公示し、意見募集しています。ここでは主に気になる改正案の内容を確認し解説します。

第1章 総則

第2条、第4条は説明省略。
●手続き遅延等の救済措置
第6条2項は不可抗力による期限徒過に対する救済措置を規定していますが、拒絶査定に対する審判請求ができる期間の開始日に、従来の失効通知の受取日に加え、不服申立期限の満了日を追加した。つまり、申立を早くできるようなります。
 新たに、5項が追加され、今回のコロナウィル対策を受けて、緊急事態や異常事態の場合に期限の延長や手続きの簡略化を新設しました。
●ライセンス登録と第三者対抗要件
第14条2項はライセンス登録の手続きに関し、第三者対抗要件としての契約日から3か月以内の届出義務を廃止し、届出がないと第三者に対抗できないと改正することで、届出義務を強化しました。従来は、外国への送金にはこの登録証が不可欠でそのために届出をしていましたが、今後はライセンシーから身分保障を求めるために届出を要求されることが考えられます。

第2章 特許出願

第15条は説明省略。
●出願人による可能な直接手続き
新設1条目は、代理人を利用した出願の場合でも、出願人が直接手続きできる事項として、優先権書類の提出、官費の納付、その他CNIPAが指定した手続きを行うことができます。官費の直接納付はシンガポール条約などからこうした流れになっています。
第16条、第17条は説明省略。
●要約文の文字数制限解除
第23条2項の要約文の代表図と文字数の規定について、代表図は付属図面からの選択に、文字数300文字の制限を削除した。文字数はしばしば問題になるので良い改正です。
●部分意匠
第27条2項と第28条3項を新設して、特許法改正に基づき、部分意匠出願の規定を追加しています。実線と破線を用い、簡単な説明文で保護を受ける部分を明記することになります。なお、特許審査指南で具体的な作成方法を確認することが必要です。
●優先権の回復と国内優先権主張
新設2条目は出願時に優先権主張をしていない場合、優先権主張期限(原出願から12か月)満了日から2か月以内に優先権主張の回復手続きを行うことができるようになります。
新設3条目は願書に優先権主張番号などの記載漏れや記載ミスがあった場合で、優先権主張期限満了日から或いは出願日から4か月以内に追加、補正ができるようになります。
第32条は優先権主張に関し、意匠特許出願に関する部分を書き分けました。発明と実案特許出願に基づく種別変更で国内優先権主張に基づき意匠出願することに加え、新たな制度として、原意匠特許出願に基づき意匠特許出願することができるようになります。また、発明と実案特許出願に基づく種別変更で国内優先権主張に基づき意匠出願する場合、国内優先権主張の基礎出願は基礎の出願は見做し取下と見做さないことも追加されています。

第3章 特許出願の審査と認可

第37条、第39条は説明省略。
●自発補正
新設第4条目は優先権主張の基礎出願に基づき新たに補充補正ができるようにするものです。
第40条1項は出願明細書やクレームに欠落がある場合で、基礎出願に基づき出願日から2か月以内かOAの手続き中に補正ができるようにするものです。
●分割出願手続き簡素化
第43条は3項は分割出願に関し、原出願や優先権主張書類のコピー提出義務を廃止するものです。
●悪意出願対策
新設第5条目は、特許法に新設された第20条1項の規定「特許出願及び特許権の行使においては、信義誠実の原則を遵守しなければならない。」の信義誠実の原則に反する特許出願での不正行為対象として、捏造、偽造、剽窃、寄集めなどを具体例として挙げています。中国では出願人のみならず代理人が補助金目当ての違法な出願が後を絶たず、撲滅に向けた入口規制に活用するために新設されたと判断します。
●審査延期請求
第50条2項が新設され、発明特許及び意匠特許出願について、審査延期の申立てを可能とするものです。審査延期については、特許法改正を待てず、特許審査指南を2019年11月に先行しての改正した経緯があります。特許審査指南第5部7章8.3節の審査延期として、発明特許は実体審査請求時、意匠特許は出願時に申請し、審査延期請求の発効日から1年、2年或いは3年の延期ができます。実用新案特許はなぜか、その対象となっていません。遅延方法としては、出願時に官費を支払わず、失効通知を受けて、回復措置をする裏技がありますが、あまりお勧めはしません。
●特許評価書請求 第三者も可能に
第56条の特許権者或いは利害関係者(実質的にライセンシーのみ)を「いずれの単位或いは個人」と対象を拡大し、日本の「誰でも」と同じ適用になります。また、出願人には認可通知に対する登録料の支払時に評価書作成を請求することができるとし、これまでより早く入手できるようにします。
第57条は作成にかかる期間と作成数に関する規定で、認可時に請求できることにしたため、登録公告日から2か月以内と時期を明確にしています。いずれにしても、誰が請求しても作成するのは1回限りであることに変わりはありません。第三者はその結果に不満である場合、無効取消事件を起こさなければならないのは言うまでもないことです。

第4章 特許出願の復審と特許権の無効審判

第59条、第62条の削除、第61条の改正の説明省略。
●審査前置の廃止
第62条は拒絶査定不服再審(不服審判)で、最初に行う原審査部門への差戻し審査の手続きを規定しますが、削除するとしています。権利確定を早くする観点からは問題ないところです。
●復審と無効審判における職権審判の追加
新設第6条目と新設第7条目は拒絶査定再審と無効宣言請求の手続きにおける審判対象について、出願人が提出していない点も審査の対象とするものです。これは前回の法改正で議論になりながらも最終的に削除され、今回は復活しました。EPOとの交流も多いことから、今回は導入されるものと思われます。
第63条と新設第8条目はこのの追加規定に基づく調整になります。

第5章 特許実施の特別許諾

開放許諾制度の導入
新たに使われていない特許の活用の観点から導入される開放許諾制度に関して4条が新設されました。欧州各国のLoRのように年金を割引く規定は見当たらないのはちょっと残念です。ライセンシー保護が強く、日本企業が保有特許を開放すること十分考えるべきと思います。
新設第10条目は特許権者が開放許諾を専利局に手続きをするときの手順を規定しており、ライセンス料と開放期間を決めておかなければなりません。
新設11条目は開放許諾を認めない場合として、5つの項目を具体的に挙げていますが、ライセンスが存在する場合に加えて、紛争中、年金滞納、質権設定などがある場合は認められないとしています。
新設第12条目は開放許諾の撤回はその公告日に発効する。
新設第13条目は開放許諾契約の届出義務と発効日の確定を規定しています。
知財情報サービス強化
新設第14条目は知財行政部門による行政サービスに関するので説明省略。

第6章 職務発明創造に対する奨励と報奨

発明者と創作者に対する報奨の強化
新設第14条目は、特許法第15条2項の新設に伴い、奨励と報酬の支払い強化を説いています。今回の特許法改正では会社に職務発明や創作の処分権限を認める形になったことで、民法典などで発明者や創作者を保護することとバランスを欠くことになりかねないために、報奨を推奨する規定を設けたと思われます。いずれにしても、会社は職務発明規定を設けて、一定のバランスのある報奨をするべきところです。ノウハウ(営業秘密)や著作権なども同じ考え方ですので、対策は不可欠です。

第7章 特許権の保護

●行政ルートによる権利行使の強化
改正法では行政ルートの執行権限が強化されると期待しましたが、調査権限が広くなった程度で残念です。調停は和解による差止を求めているようなもので、強制力がないため、改正内容は民事訴訟のための現場調査をするような位置づけになったとの感じです。
第79条は担当する地方政府の知的財産部門を下位の特許業務管理部門まで拡大します。
新設第15条目は中央政府のCNIPAが直接担当する重大な事件の対象を明確にしています、例えば省を跨ぐ事件など。
第82条は行政ルートの処理を中止しない状況として次の5項目を挙げています。
(1)申立人が提出した検索報告或いは特許権評価報告書は実用新案或いは意匠特許権が特許権登録条件に適合しない欠陥を発見していない場合;
(2)被申立人が提供した証拠がその使用された技術がすでに公知であることを証明するのに十分である場合;
(3)被申立人が当該特許権の無効宣言請求で提供した証拠或いは理由根拠が明らかに不十分である場合;
(4)無効手続きですでに当該実用新案或いは意匠特許に対する有効維持の決定が下された場合;
(5)専利業務管理部門が権利侵害処理手続きを中止するべきではないと認めるその他の事情がある場合。
第84条は虚偽表示に関し、権利が満了或いは失効した後も継続して特許番号表示をするような場合も虚偽表示の対象とするとしていることに日本企業は注意しなければならない。特に、2項の例外規定が削除されたことには注意しなければなりません。「特許権終了前に法により特許製品、特許法に基づき直接得られた製品或いはその包装に特許表示を表示し、特許権終了後に当該製品の販売、販売を許諾した場合、特許虚偽表示行為に該当しない。」
第85条3項が新設され、地方政府の特許業務管理部門は調停に努力することが明記されています。なお、失効は司法ルートになることに変わりはありません。
新設第16条目はネットワーク事業者が紛争解決に向けて対応する場合に特許業務管理部門に協力を求めることができることを規定しています。
特許期間補償 出願審査遅延と医薬品特許
新設第17条目と第18条目は発明特許出願の審査遅延による期間補償の規定です。特許権者は登録公報発行日から3か月以内に遅延期間の補償を申請しなければなりません。補償期間は実際の遅延日数で、出願人に起因する遅延は含まず、次の事情による場合に限られます;
(1)国務院専利行政部門の出した通知に指定期限内に応答していない場合;
(2)審査延期申請がある場合;
(3)引用補充がある場合;
(4)その他の事情。
新設第19条目から第22条目は医薬品特許に関する期間補償に関する規定です。対象は中国で上場許可を得た化学薬品、生物製品及び漢方新薬製品の特許、調製方法特許或いは医薬用途に関する特許で、最長5年間を延長できます。なお、特許権者は上場申請承認日から3か月以内に申請しなければなりません。
新設第23条目は補償期間の認定手続き、公示、不服申し立てについて規定しています。
第88条は説明省略。

第8章 特許登録と特許公報

第89条、第90条は公報掲載項目の追加で、権利期間補償、開放許諾などが追加される。

第9章 料金

第93条では認可時の登録料と公報印刷料を削除。
第94条では納付方法の規定を簡素化。
第97条では認可時の登録料と公報印刷料を削除。
第100条では納付の猶予を削除。
新設第24条目では期間補償に関する料金の支払い義務が明確にしています。

第10章 国際出願に関する特別規定

第104条1項(5)号は付属図面と要約の選択図面のコピーの提出義務、国際出願が中国語の場合のコピーの提出不要を明確にしています。
新設第25条目は優先権主張の回復に関し、国際段階で出願人が優先権の回復を請求していない場合、或いは回復請求をしたが、受付局が承認していない場合、出願人は移行日から2 か月以内に優先権の回復を請求することができるとしています。
第144条は2項は仮保護による補償金請求権に関し、国際公開日に加えて国内再公開日を基準日としています。

新設 第11章 意匠の国際出願に関する特別規定

●国際意匠に関する特別規定
新設第26条から第36条はハーグ協定に関する特別規定であり、中国を指定国とする意匠国際出願及び特許法第19条2項、3項に基づく国家知識産権局に提出された意匠国際出願を処理する規定になります。国際出願の登録日は、中国での出願日と見做され、国際公開後、中国での方式審査、つまり、委任状、優先権主張、新規性喪失の例外となる展示会出展や学会発表、単一性、簡単な説明の有無などが審査され、問題なければ登録の旨を国際局に通知するとともに国内では登録を公告する。なお、国際局に権利変更手続きをした場合、中国国家知識産権局にも関連証明書を提出しなければなりません。

第12章 付則

第119条2項を新設し、電子出願での電子署名も署名或いは捺印と見做す規定が追加されました。
第121条は紙出願の明細書作成の規定ですが、削除されました。

以上。

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