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中国 上海営業秘密侵害事件典型事例(2015年から2023年)

上海第三中級人民法院と上海知識産権法院は、4月の世界知的財産の日(発明の日)に、2015年から2023年までの営業秘密事件の審理状況と典型的な事件を発表した。科学技術イノベーションの活力を維持、保護する上で営業秘密侵害秘密を効果的に保護するための指針として、発表された典型事例から民事事件と刑事事件での技術秘密に関する内容を要約、仮訳して以下に8件をご参考まで紹介する。中国での営業秘密事件の一端を知る機会となれば幸いです。


(1)民事事件事例

事例1:原告B社vs被告程氏、A社の営業秘密侵害事件
複数の異なる文書から要約抽出された技術情報は営業秘密として保護
 
B社はある営業秘密の権利者であり、関連技術情報は同社の複数の研究開発記録文書に記載があり、これらの文書にはすべて秘密の表示がされている。程某氏はB社の元従業員で、雇用契約書で秘密保持義務を約定し、B社は相応の秘密保持料を支払っていた。双方が締結した「営業秘密、知的財産権、利益相反突に関する協定(关于商业秘密、知识产权、无利益冲突协议)」は、営業秘密の範囲及び程某氏が秘密保持義務を負うことを明確に約定している。程某氏はB社を退職後A社に入社し、A社に前述の営業秘密を開示した。A社は前述の技術を用いて製品を秘密裏に生産、販売していた。B社は程某氏とA社が営業秘密を侵害したとして、裁判所に程某氏、A社に権利侵害の停止、経済的損害6800万元と合理的支出100万元の賠償、謝罪、影響除去を命じるよう提訴した。
結果
 上海知識産権法院は審理を経て、B社が提出した複数の研究開発記録文書は、事件に関わる営業秘密に関する技術研究開発に長期にわたり従事していることを証明することができ、しかも事件に関わる営業秘密の主な内容が現われていると判断した。証拠によると、B社はその主張する営業秘密に対し合理的な秘密保持措置を採っており、営業秘密は程某氏、A社に侵害された。程某氏、A社はすべての秘密のポイントが先行文献で開示されていると考えているが、提出された証拠はその主張を証明するのに十分ではないため、係争情報はB社の営業秘密を構成する。程某氏は係争営業秘密に対する秘密保持義務を負い、A社に係争営業秘密を開示した行為は権利侵害を構成する。A社とB社は同業競争関係にあり、B社は本件で主張された技術情報が営業秘密であることを知りうべきであるところ、依然として取得使用し、権利侵害を構成するため、程某氏とA社に権利侵害停止を命じ、B社の経済的損害100万元と権利維持のために支出した合理的費用30万元を共同で賠償するよう命じた。程某氏、A社は不服で控訴したが、二審法院は控訴棄却、原判決を維持した。
意義
 営業秘密は通常図面、技術プロセス、実験データなどの形式で具体化されており、権利者はその複数の技術資料などの記載文書から秘密情報を総括、要約、抽出する場合、このような総括、要約、抽出が記載文書の中ですべて対応し、技術常識と結合して推定することができるのであれば、秘密性のある情報の技術案として保護されることを認定しなければならない。権利者が一般に知られていない複数の技術文書から合理的に抽出した技術案が、当業者に一般的に知られず、容易に入手できない場合、営業秘密として保護することができる。

事例2:原告Y社、Y上海社vs被告孫某氏の営業秘密侵害事件
立証責任転換の適用
 
Y社はY上海社にその営業秘密の使用を許諾した。孫某氏はY上海会社でサービスエンジニア、サービス主任などの職務で勤務しており、雇用契約で負うべき具体的な秘密保持義務を約定していた。Y上海会社が制定した「従業員手帳(员工手册)」「技術資源使用規定(使用技术资源规定)」などはすべて関連秘密保持制度を規定している。Y社、Y上海社が主張する係争技術情報を載せた図面は、同社のネットワークシステムに格納されており、Y上海社の承認を受けた従業員のみがログインできる。Y上海会社は、孫某氏が同社のシステムから営業秘密を含む図面を大量にダウンロードし、個人の記録装置に保存していることを発見し、孫某氏に雇用契約解除を通知した。Y社、Y上海社は、孫某氏の行為により、会社の営業秘密がいつでも流出する可能性がある危険な状況にあるとして、孫某氏に権利侵害の停止とY社、Y上海会社が支出した合理的費用100万元の賠償を求め提訴した。孫某氏は、Y社、Y上海社が訴求した技術情報は営業秘密ではないと主張したが、証拠は提出していない。
結果
 上海知識産権法院の審理を経て、Y社、Y上海社はすでにその主張する営業秘密の範囲を明確にし、合理的な秘密保持措置を採っていた。事件証拠によると、孫某氏はY上海社のシステムから事件関連営業秘密が掲載された技術図面をダウンロードし外部記憶装置に保存しており、Y社、Y上海社は事件関連営業秘密に対するコントロールを失っており、いつでも公開、使用されるリスクに直面していることから、Y社、Y上海社の主張する営業秘密侵害が明確である。孫某氏はY社、Y上海社の主張する係争技術情報がすでに公開されていると主張しているが、証拠は何も提供していないため、係争情報は営業秘密を構成すると認定しなければならない。孫某氏の行為は権利侵害を構成し、係争営業秘密を開示、使用、或いは他人に使用許諾してはならないと判断し、Y社、Y上海社に係争営業秘密を格納した媒体を提出し、Y社、Y上海社が支出した合理的な権利保護費用30万元の賠償を命じた。孫某氏はこれに不服で控訴したが、二審法院は控訴棄却、原判決を維持した。
意義
 中国不正競争防止法(反不正当競争法)第32条は、証拠提出責任の転換、すなわち営業秘密の権利者が初歩的証拠を提供し、主張する営業秘密に対し秘密保持措置を採っていたことを証明し、かつ合理的に営業秘密が侵害されていることを立証した場合、被訴権利侵害者は権利者が主張する営業秘密が本法に規定する営業秘密に属さないことを証明しなければならない。本事件の営業秘密の技術資料は技術図面で、Y社、Y上海社はこれに対し合理的な秘密保護措置を採っており、孫某氏は会社のシステムから関連営業秘密が掲載された技術図面をダウンロードし外部記憶装置に保存しており、関連営業秘密が違法に取得されたことは明らかである。この時点で、関連情報が営業秘密を構成しないことの立証責任は孫某氏に移転している。孫某氏はY社、Y上海社の主張する技術情報がすでに公開されていると主張しているが、証拠を提供していないため、係争技術情報は一般に知られていないため、営業秘密を構成すると認定しなければならない。 

事例3:原告M社、K社vs被告王某氏の営業秘密侵害事件
営業秘密不正取得行為に対する賠償額の認定
 
M社、K社は共同で資金を投入し195件の技術開発を行った。王某氏はK社の元従業員であり、同社の「従業員規則(员工守则)」によると、従業員が守秘義務に違反した場合、会社に違約金として5か月分の給料を支払わなければならないと規定している。従業員の行為により会社が受けた損害が違約額を超えた場合、会社に追加して損害部分を賠償しなければならない。王某氏はK社に勤務していた間、係争195件の技術文書を含む合計900件以上の会社の機密文書をM社、K社の許可を得ずにUSB記憶媒体に無断で保存することを繰り返した。王某氏は「確認書(确认函)」に署名し上述の事実を認め、上述の機密文書の削除に協力することを承諾したが、その後、もはや従業員でないため返却義務はないという理由で、M社、K社に上述の機密文書を保存したUSB記憶媒体を返却しないだけでなく、上述の機密文書を削除したという証拠も提供していない。M社、K社は、王某氏が不正な手段で195件の技術文書を入手した行為はM社、K社の営業秘密を侵害するとして、王某氏に直ちに権利侵害停止、M社、K社の経済的損害と合理的支出の500万元を賠償するよう提訴した。
結果
 上海知識産権法院は審理を経て、係争195件の技術文書の技術情報はM社、K社の営業秘密に属し、王某氏は係争技術情報をM社、K社の承認を得ずに無断でUSB記憶媒体に保存し、「確認書」に署名後の協力も拒否した行為はM社、K社の営業秘密を侵害しており、権利侵害の停止、損害賠償の民事責任を負わなければならないと判断し、王某氏に権利侵害の停止、M社、K社の経済的損害26万元及び合理的支出24万元の賠償を命じた。一審判決後、双方当事者はいずれも控訴せず確定した。
意義
 営業秘密を違法に取得する行為は権利侵害を構成し、その使用行為がない場合、本事件では被訴権利侵害行為から係争営業秘密がコントロール不能な危険な状況に陥っている。補償の必要性については、権利者の係争営業秘密を第三者が取得、開示、使用することを防止するための権利者の圧力と負担などの要件を考慮し、そして、係争営業秘密の種別、内容、数量、係争権利侵害行為の性質、情状、結果を総合的に判断するとともに、K社の「従業員規則」での従業員の秘密保持義務違反に関する罰則規定を参考に賠償額を確定した。

事例4:原告T社vs被告X社の営業秘密侵害事件
製品レシピは営業秘密を構成
 
T社は大量の人的、物的資源を投入し麻辣熱スープのレシピを開発、創作した麻辣熱ブランドはテイクアウト販売プラットフォームの麻辣熱部門での評価がトップランクであると主張している。T社は元従業員の張某氏が在職中に不正な手段でT社の麻辣湯レシピ5種類を盗み、退職後にX社とT社の麻辣湯底レシピを使用し麻辣湯を販売したことでT社の営業秘密を侵害したと提訴し、X社に権利侵害の停止とT社の経済的損害と合理的支出の合計54.6万元の賠償を求めた。
結果
 上海知識産権法院の審理によると、T社の主張する5種類の麻辣湯レシピは独自の成分と配合で構成されており、市場での競争優位をもたらすビジネス上の価値を備えており、T社がこれに対し相応の秘密保持措置を採っていることから営業秘密を構成すると判断した。被訴侵害レシピはT社の係争レシピの成分と相応の割合を使用しており、T社の元従業員の張某氏は係争レシピに接触した可能性があり、X社が麻辣熱製品の事業を幇助することができた。X社は自ら開発した被訴侵害レシピの証拠を提供しておらず、係争営業秘密をその麻辣熱製品に使用しており、T社が享有する営業秘密を侵害したと認定することができる。事件に関与した店舗の事業を停止していることを考慮し、T社の権利侵害停止の主張は支持しない。裁判所は係争営業秘密の種別、ビジネス上の価値、X社の権利侵害での故意、権利侵害行為の継続時間、権利侵害範囲、権利侵害製品の販売額などの要素に基づき、X社はT社の経済的損害、合理的支出の合計15万元の賠償を決定した。一審判決後、双方当事者はいずれも控訴しなかった。
意義
 本事件は麻辣湯のレシピに関する営業秘密侵害事件である。判決はT社の麻辣熱スープには独特の成分と配合があり、営業秘密を構成でできると認定した。T社のスープのレシピと市場監督管理機関で調達した被疑侵害スープのレシピを綿密に比較した結果、X社はT社と同一或いは実質的に同じスープのレシピを使用しており、営業秘密侵害を構成すると認定した。係争スープのレシピのビジネス上の価値、X社の主観的故意、権利侵害行為の期間が短いなどの要素を考慮し、最終的にX社がT社に15万元賠償することを命じた。本事件の判決は、「小さなレシピ」でも「大きな保護」を受けることができると、裁判所は知的財産権の司法保護に力を入れることを示している。 

(2)刑事事例

事例5:被告周某氏の営業秘密侵害刑事事件
「仮想ライセンス+類推参照」基準を不正入手型営業秘密侵害事件に適用
 
2016年9月から2019年1月まで、周某氏はZ社で設計サービス部主任エンジニアとして勤務し、Z社の営業秘密に関連するデータパッケージにアクセスする権限を持っていた。2017年3月から2018年11月にかけて、周某氏はZ社と締結した雇用契約及び秘密保持契約に違反し、2つのIPデータパッケージを含むファイルを作業用コンピュータのハードディスクにダウンロードし、ハードディスクを取外して上記ファイルを会社から持ち出し、その個人のパソコンに保存した。鑑定の結果、周某氏が取得した上記2つのIPデータパッケージに含まれる技術案は、Z社が主張する営業秘密情報と同じであることが確認された。監査の結果、Z社は営業秘密侵害により128万元以上の損害を被った。
結果
 上海市第三中級人民法院は審理を経て、周某氏は権利者Z社の営業秘密保持義務に違反し、窃盗その他の不正な手段で営業秘密を取得し、権利者に重大な損害を与え、その行為は営業秘密侵害罪を構成すると認定した。周某氏らは自首し、処罰を軽くするか軽減できるため、自発的に罪を認め処罰を認め、そして裁判前に罰金を前納することで、法に基づき寛大な処分を受けられた。これにより、周某氏は営業秘密侵害罪で懲役1年、執行猶予1年、罰金6万元の判決を受けた。
意義
 本事件は営業秘密侵害罪の新しいタイプの刑事事件であり、被告人は権利者の秘密保持規定に違反し、不正な手段で営業秘密を違法に取得したが、まだ公開も使用もされる前に逮捕され、裁判となった。権利者は係争営業秘密を実際に第三者に使用許諾していないため、実際の合理的な使用料基準がない。そのため、本件では2つの問題に関連している。第一は、単純に不正な手段で営業秘密を取得した行為であり、刑事罪と民事犯罪の境界をどう判断するかである。第二は、実際に合理的な使用許諾がない場合、情状が重大をどのように確定するかである。これらの問題は営業秘密事件を審理する難点とキーポイントである。本件で、裁判所は事件の証拠で行為者の違法な目的を実証し、事件に関わる行為が権利者の事業と発展に実質的な影響を及ぼした可能性があるかどうかを判断し、これを刑事罪と民事犯罪の基準とした。同時に、鑑定評価機関の鑑定評価意見と類似の営業秘密の合理的な許諾使用料を参考にし、情状が重大な基準に達しているかどうかを判断した。本件は法律規定と司法実務を結びつけ、この事件の難問を解決し、今後このような犯罪を審理するために一定の参考を提供している。 

事例6:被告李某氏の営業秘密侵害刑事事件
リバースエンジニアリングの弁解を提出するには、リバースエンジニアリングの研究開発過程を主観的及び客観的証拠と組合せて実証が必要
 
李某氏は2012年に機械エンジニアとしてH社に入社し、雇用契約、秘密保持契約を締結した。2016年11月、李某氏は第三者と共同でK社を設立し、2017年2月にH社を退職し、K社に総経理として入社し、主に会社の技術研究開発と販売業務を担当した。その後、李某氏はH社との営業秘密保持契約に違反し、H社の営業秘密を複数の特許出願をするとともに、その取得したH社の技術情報と図面を利用して機械設備を生産販売し、H社に経済的損害は100万元以上を与えた。2020年1月、某区市場監督管理局はK社に法執行検査を行い、現場で組立中の機械設備4台を押収した。
 鑑定の結果、H社の関連技術における営業秘密のポイントは2019年9月30日までは一般に知られていない技術情報であり、営業秘密のポイントはK社が出願した特許により公開されたのである。K社の技術図面に記載されている技術情報は、H社の技術図面に記載されている技術情報と同一であり、H社が主張する営業秘密のポイントに関連し同一或いは実質的に同一である。K社が2019年9月に家具会社に販売した機械設備の技術情報は、H社が主張する営業秘密のポイントの構成と実質的に同一である。
 2020年12月8日、某区市場監督管理局はH社からK社が生産販売する機械設備が当該営業秘密を侵害する可能性があるとの通報と資料を受領するとともに検証後、K社に対し行政処罰決定を下し、K社の営業秘密侵害違法行為は情状が重大であると認定し、直ちに違法行為の停止を命じ、罰金150万元を決定した。K社はこれを不服として行政訴訟を提起し、裁判所の審理を経て、某区市場監督管理局のK社に対する被訴行政処罰決定は事実が明らかで、法律の適用が正しく、裁量が適切であると判断し、2022年7月22日にK社の訴訟請求を棄却する判決を下した。
結果
 上海市普陀区人民法院は審理を経て、李某氏は権利者との営業秘密保持契約に違反し、その取得した営業秘密をK社に開示、使用、使用許諾し、営業秘密の権利者に重大な損害を及ぼしており、当該行為はすでに営業秘密侵害罪を構成する。従って、営業秘密侵害罪で李某氏に懲役1年8か月、罰金50万元を言い渡した。一審判決後、李某氏は上訴したが、上海市第三中級人民法院は上訴棄却、原判決維持を決定した。
意義
 被告が自らの研究開発或いはリバースエンジニアリングで権利者の技術情報を取得したと弁解する場合、相応の主観的、客観的証拠を提供し実証しなければならない。本事件では、複数の顧客会社の生産者の証言によれば、李某氏は上記の会社に主に機械設備の販売のために入社しており、実地測定や測量図の作成を行っていないだけでなく、測量図を作成するために上記の会社の機械設備を分解もしていない。権利者の技術図面に記載される技術情報は、専門技術者が設計計算、製品試作、構造の改良を経て、一定の知的労働と作業時間をかけて最終的に完成する必要があり、観察、測定を通じて部品の構造、寸法のパラメータだけで知ることができるが、特定の技術要件は測定により知ることができず、李某氏の簡単な測量図の作成を経て、自身の経験により主要な営業秘密のポイントを含む機械設備を生産することができるとの弁解は、常識に反しかつ前後矛盾しており、信用すべきではない。
 本事件の審理と判決は、企業の市場での合法的な競争のために、良好で秩序ある法治環境を提供した。同時に執行と処罰の連係の典型的事例であり、事件の捜査に先立ち、某区市場監督管理局は李某氏の所属するK社に行政処罰決定を下したところ、K社はこの行政処罰に不服で行政訴訟を提起したが、裁判所は審理を経てK社の訴訟請求を棄却した。同時に、捜査機関は捜査の過程で、市場監督管理局が収集し、固定した証拠資料を刑事証拠に転換し、裁判所は審理の過程で法律の規定に基づき関連転換証拠の3つの特徴を認定した。被告の犯罪事実から営業秘密侵害罪を構成することは明らかで、証拠が確実十分であることから、行政法執行機関、司法機関は、知的財産権の保護、イノベーション創業を奨励するため、知的財産権侵害犯罪行為を厳しく取り締まる決意を示した。 

事例7:被告張某氏の営業秘密侵害刑事事件
ソフトウェアのソースコードを保護するために営業秘密を使用する場合、営業秘密のポイントの特定が必要
 
2010年から2016年3月まで、張某氏はS社に勤務し、ソフトウェア研究開発エンジニア及び技術サポートディレクターなどの立場でS社のソフトウェア研究開発に参加し、関連するソフトウェアソースコードに接触する機会があった。S社は階層別権限別の秘密保持管理、従業員と秘密保持契約の締結、退職時の資料返却などの措置を通じて関連ソフトウェアソースコードの秘密保持を行っている。鑑定結果、S社のソフトウェアの一部のソースコードは2019年5月16日まで一般に知られていなかった。張某氏は退職後、2016年4月に趙某氏、張某氏と共同でQ社を設立し、S社の営業秘密保持義務に違反し、関連ソフトウェアのソースコードの営業秘密を同類ソフトウェアの研究開発に使用した。鑑定により、公安機関が張某氏のパソコンから証拠保全したソフトウェアソースコードとS社のソフトウェアソースコードは90%以上類似していた。公安機関が調達したQ社の販売しているインストールプログラムとS社の営業秘密が関わるソースコードのコンパイルにより生成されたターゲットプログラムを比較しても類似性が高く、実質的に同じ構成となっている。司法監査の結果、Q社の2016年7月から事件発生までのソフトウェアの対外販売額は合計430万元に達していた。
結果
 上海市普陀区人民法院は審理の結果、張某氏は権利者S社の営業秘密保持義務に違反し、退職後第三者と共同で会社を設立し、取得した営業秘密を開示、使用し、権利侵害ソフトウェアを開発し、特に重大な結果をもたらした。その行為は営業秘密侵害罪を構成しており、それに基づき、営業秘密侵害罪で張某氏に懲役3年9か月、罰金200万元の判決を下した。一審判決後、張某氏は上訴したが、上海市第三中級人民法院は上訴を棄却し、原審判決を維持した。
意義
 ハイテク企業の中核研究開発者が退職した後、元勤務した会社の営業秘密を構成するソースコードを利用して同類のソフトウェアを開発し違法に利益をむさぼり、営業秘密侵害事件において犯罪手段の隠蔽性が強く、権利者の正常な事業活動に対する破壊レベルの大きい典型的事例として、ソフトウェアソースコードの秘密のポイントの認定と権利侵害の同一性の判定は司法実務において難しい問題である。
 本事件ではソースコード営業秘密保護をソースコードの著作権保護の審査と判定規則と区別し、係争中のソースコードの秘密のポイントを正確に認定し、実質的同一性を明確に判定する方法を示している。特に、営業秘密の秘密性の鑑定において、鑑定機構はインターネット検索、リバースエンジニアリング分析、秘密保護措置などを総合的に分析し、関連鑑定意見を発行し、関連ソフトウェアの技術的ポイントに対応する技術情報が当該ソフトウェアに不可欠な技術情報であり、当該技術情報は当業者の公知の常識や業界の慣行に属さず、当該技術情報がインターネット上に公開されておらず、関連公衆が逆コンパイル技術では取得できないと認定した。事件の審理では、鑑定士の出廷及び専門家への質疑などの方式を採用し、検索範囲と鑑定方法、証拠の潔癖性などを再審査し、プログラムの保障などの面から積極的に探索を行い、ソフトウェアソースコードに関する営業秘密犯罪事件を取扱う上で、一定の模範と参考意義がある。 

事例8:被告F社、被告方某氏など7人の営業秘密侵害刑事事件
罪罰を認め積極的に賠償し権利者の了解が得られれば寛大に措置
 平某氏(別件処理)は1995年に日本R社に入社し、2003年に日本R社から上海R社に機械設計部マネージャーとして派遣、招聘され、2008年から営業部マネージャーを兼任している。勤務中、平某氏は会社の規定に違反し、職務上の便宜を利用し、サーバーのデータをダウンロードするなどして、上海R社の技術図面を不正に取得した。2013年6月、平某氏は上海R社を退職、F社に入社し、方某氏を会社の顧問として招聘し、F社の技術指導を担当させた。平某氏は上海R社から取得した技術図面を方某氏に不正に公開し、同時に龚某氏、胡某氏、謝某氏、丁某氏、李某氏、夏某氏ら(いずれも上海R社を退職した元社員)に使用させた。方某氏は技術情報が上海R社の知的財産権を侵害していることを知りながら違法に利益を貪るために、F社の同型の生産設備を開発する過程で、そのうちの9つの技術情報を違法に使用し、生産し、顧客に販売した。方某氏は同時に、胡某氏らにそのうちの5つの技術情報をF社名義で特許出願するよう指示した。鑑定の結果、上海R社が主張する9つの技術情報はF社の関連生産設備の図面に含まれる技術情報と同一である。監査の結果、権利侵害生産設備に秘密ポイント含むユニットの販売よる上海R社の損害額は1220万元だった。上海R社が主張する5つの技術情報は、F社が特許出願した5件と同一であった。2016年7月27日を上記技術情報の無形資産の基準日とし、鑑定及びコンサルティング総額は合計2019万元であった。
結果
 上海市第三中級人民法院は審理において、被告F社、被告方某氏は被告会社の直接責任者、被告の龚某氏、胡某氏、謝某氏、丁某氏、李某氏、夏某氏は被告会社のその他の直接責任者として、上海R社の営業秘密保持要件に違反し、第三者が違法に開示した営業秘密であること知り知り得たとしても、依然として取得使用し、特に重大な結果をもたらし、被告会社と7人の被告人の行為はすべて営業秘密侵害罪を構成する。この共同犯罪で、方某氏が主犯であり、その関与または組織、指揮したすべての犯罪に基づき処罰しなければならない。龚某氏、胡某氏、謝某氏、丁某氏、夏某氏、李某氏らは共犯であり、処罰を軽減或いは減刑しなければならない。被告会社と被告6人はいずれも自白しており、処罰を軽減することができる。被告の龚某らは自首し、処罰を軽減するか減刑することができる。F社は被害者の上海R社と和解契約を締結し、被害者の損害を賠償し、被告と各被告人は開廷前に罰金を前納しており、情状酌量し処罰を軽減した。F社は生産製造型企業として、過去の生産事業において一定の成績を上げ、被害者との対立から和解・互恵に向かっており、各被告人は企業の役員或いは中核技術者であり、罪を認め悔い改める態度がよく、居住するコミュニティに悪社会的影響がなく、早期の社会復帰は企業の正常な生産事業の回復に有利であり、また被害者も各被告人に執行猶予を適用することに同意することを明確に表明したため、企業の発展を保護することから、各被告人に執行猶予を宣告した。これにより、営業秘密侵害罪で被告F社に罰金1千万元、被告人ら7人はそれぞれ懲役3年から1年の禁固に処し、いずれも執行猶予を適用し、相応の罰金を科した。
意義
 国内のハイテク企業及び現地の重点保障企業であるF社は、主管者側の方某氏及びその他の直接責任者が権利者の営業秘密を侵害し、権利者の損害額が大きくなり、刑を受けた。事件後、被告会社、被告らは積極的に権利者と賠償について協議し、最終的にはF社が上海R社に関連する損害を一括して賠償することを約定した『和解了解協定』を締結し、F社は権利者に相応の費用を支払った後も関連特許を使用し続けることができ、それを基礎にして、権利者は『刑事了解書』を発行し、F社及び各被告人の行為に対して理解を示した。また、F社と被告人は自発的に罪を認め、起訴審査の段階で「供述調書と刑罰受諾書」に署名し、違法所得と罰金の前納を脱退し、罪を認め、悔い改める態度が良い。本件は法に基づいて穏当に処理され、権利者と被告部門は競争から協力へ、対立からウィンウィンへ、国内外の権利者の合法的権益を平等に保護するだけでなく、犯罪とサービス保障を打撃することも重視されている。

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