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【KY28】清原達郎『わが投資術』の深読み

私はこの本を読んで、所感としては自分の考え方と近いところがあって、むしろそれより先を見ているので、とても学びになりました。
ただ一般向けかといえば、「どうせ大半の人(同業者含め)は理解できないだろう」的なところが行間から読めて、ノウハウを惜しみなく出しているかといえば、そうではないなと思いました。

そこで今回は、私自身が読んで気になったところとかを、自分なりの解釈で書いてみます。

清原達郎「わが投資術 市場は誰に微笑むか」(講談社)


第2章 ヘッジファンドへの長い道のり

P60

『私がNY支店に異動してしばらくし、日本株のバブルが頂点に近づくと、株価が割高になりすぎて、もう理屈で説明できる範囲を逸脱してきました。
そこで、「土地の含み益」を純資産に加えてそれで時価総額を割った「Q Ratio」という指標がにわかに証券会社の応援旗の役割を果たすようになります。
しかし、これは土地の評価額がばかばかしく過大評価されているのでまったく意味がない概念でした。「K電鉄は、株価1,000円、一株当たり利益(EPS)10円でPER100倍。でも、土地の含み益が膨大でQ Ratioで見ると割安」なんて、米国の機関投資家には真顔で説明できませんよ。』

ところで日本のバブル期のPERは、70倍ぐらいだと言われています。今は16倍ぐらいです。
ちなみに、米国のPERは約24倍です。全世界は約17倍ぐらいだそうです。

最近は米国がバブルではないというエコノミストの意見がありますが、論拠に日本のバブル期のPERが取り上げられることが多いです。
しかし日本のバブル期がQ Ratioで運用されていたとしたら、あまり参考にはならないです。

日本のバブル期と比較して米国はバブルではない、というのは印象操作かもしれません。

P68

『米国では、この転換社債と普通株式の裁定取引は以前より行われていました。しかし、あまりに簡単な裁定取引のため儲けのチャンスがなくなっていました。そこで超割安な日本の転換社債・ワラント債という巨大な市場が忽然と姿を現したのです。裁定取引を得意とする米国のヘッジファンドはこのチャンスに飛びつきました。』

ちょっと分かりにくいです。
バブル期に日本の証券会社は、資金需要がないのに企業に社債を発行するよう、ジャンジャン営業していました。手数料が儲かるからです。
しかし資金需要がないのにお金を持っていても仕方がないので、企業は証券会社に任せて財テクをしていました。証券会社はさらに手数料が儲かります。

そしてこの転換社債がたくさん市場にあふれていて、しかも株価はピークを付けていたのです。つまり米国のヘッジファンドは、例えばA社の株式を空売り(割高)して、同時にA社の転換社債(割安)を購入することで、簡単に利鞘を(安全に)儲けることができたということです。

実は日本のバブル期は、まだ裁定取引についての理解が乏しかった時期だったらしく、海外勢にいいように食い物にされたということです。そしてこの空売りが、バブル崩壊の引き金になったとも言われています。
端的に清原さんは、そのお手伝いをしていたということです(バブルを助長した野村證券が、バブルの幕引きをした?)

この辺のお話はその当時、野村信託のファンドマネージャーだった近藤駿介さんの本に詳しく書かれています。

近藤駿介「1989年12月29日、日経平均3万8915円 元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実」(河出書房新書)

まあきれいごとばかりではないのが、投資の世界だということですね。

第3章 「割安小型成長株」の破壊力

P112

『しかし、低PER、低PBRで評価されている正当な理由は、他にもまだ可能性としていくつかあります。」
…9. 株を相続する時のために(相続税を安くするために)、できるだけ株価は安いほうがいいとオーナー社長が思っている…』

オーナー経営者が株を譲るのは、死亡が原因(相続時)とは限りません。生前贈与の方法があります。
零細企業を除くと、大抵は顧問税理士がいます。彼らの専門分野の一つに相続があります。相続税のタックスプランニングというものです。

日本の最高税率は55%で、オーナー社長が死亡すると大抵は相続人は複数いますので、事業承継は困難です。したがって、資産会社を設立したりして、生前贈与で対応することが多いです。
オーナー社長は徐々に持分を、次期社長に譲るわけですが、上場株式は時価で評価されるので、なるべく株価を抑えたいです。
それでも贈与税が多額になります。そこで金融機関から借入したりすることで、資金を工面します。

ここがポイントです。贈与時は株価は低いことが好ましいですが、贈与後は高い方がいいのです。

どういうことか?
贈与後は持分を売却して、金融機関への借入返済します。また配当も高い方が、現金が貯まります。オーナー社長が死亡すると、財産は相続人へと相続されますが、現金が多い方が分配が楽です。どうしても後継者に引き継ぎたいものまで現金化するより、残りの株式を売却して他の相続人には現金化して分配した方が経営権が安定します。

このように考えると、決して株価が安ければ良いわけではありませんし、オーナー社長は、必ずしも株価が安ければいいとは思っていません。

第4章 地獄の沙汰は持ち株次第-25年間の軌跡

P174

『リーマンショックは金融危機です。金融がだめになると不動産セクターは壊滅的打撃を受けます。我々のファンドもそこが大打撃を受けました。』

私は米国経済の動向が気になるので、元ファンドマネージャーなどの意見を参考にしています。
皆さん、総じて金融危機にフォーカスされています。どういうことかというと、ITバブルやチャイナショック、コロナショックなどについては感度が鈍く、金融危機に対しては非常にアレルギーが強いのです。

最近は中国経済が低迷しており、不動産不況と言われていますが、彼らはあまり危機的状況と思っていません。欧米の投資家は中国債券への投資を減らしており、ポジションをほとんど有していないからです。
つまり、世界的な金融危機にならないから大丈夫だと、まあそのような温度感ですね。

ファンドマネージャーがやらかすのも、金融危機がほとんどだからかもしれません。逆にジョージ・ソロス(アジア通貨危機)やマイケル・バーリ(リーマン・ショック)のようにスターが生まれるのも金融危機だからかもしれません。

ですが、私が気になるのはリーマン・ショックは不動産バブルが原因だったことです。ファニーメイやフレディマックのような連邦住宅抵当公庫などが、いい加減な不動産貸付を行い、それを金融機関が債券化し仕組債にして売りまくった結果でした。
それが金融危機になると、認識していなかったということです。

つまりファンドマネージャーは、金融危機をほとんど予測できないし、バブルに対する危機感も、一般的なアンテナより感度が低いのかもしれません。
プロフェッショナルの意見であっても、鵜呑みにしてはいけないということですね。

第5章 REIT-落ちてくるナイフを2度つかむ

P204

『本当に私だけしか買ってないのであれば、必ず儲かる安い値段で買えばいいわけですからリスクなどありません。』

必ず儲かる、リスクはない、は禁句かなっと(笑)
まあ、投資の初歩なので鵜呑みにしてはいけませんね。

第7章 実践のハイライト-ショート・ベア・トレード

P235

『空売りの状況はプライムブローカーに聞くとだいたいわかります。これが、私が個人投資家にショートをオススメしない一番重要なポイントでもあります。海外には日本株の大きな貸株市場が存在します。その大きさは日本の信用取引での空売り規模をはるかに上回ります。』

私はショートが苦手で、狙ったタイミングと落ちるタイミングが全然合いません。なので、ほとんどしません。
個人が空売りで不利なのことは知っていたのですが、こうはっきり言われると、納得ですね。ショートは、指数が大きく反転するときにETFを買うぐらいが、自分には向いています。
それでもタイミングが合いません(笑)

第9章 これからの日本株市場

P270

『いつ暴落するかわからないので「暴落したときにだけ安く買う」ことは難しく、「暴落した時も株に投資する」ことで良しとしなければ』

一見するとロングポジションだけのように思えますが、ショートポジションも含まれていますし、アセットアロケーションとして債券や金などの先物を含めて考える必要があります。

P277

『私の予想では日本の金利は大きくは上がりません。それを前提にすればやはり円での運用は日本株式が圧倒的に有利です。』

これは至言です。
もちろん円以外での運用も、考える必要があるということです。

今回はここまで。次回またよろしくお願いいたします。

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