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気まぐれ小説『猫』

『私、、
もっと貴方と一緒にいたかったな。。

生まれ変われたら私、
猫に生まれる事にする、、
だから、
私が死んだ後、
猫、、飼ってね』
妻はそう言ってスッと微笑むと、
そのまま息を引き取った。。。
目にはうっすらと涙が残っていた。


妻とは、結婚して30年。
享年62歳。
やっと仕事が落ち着いて
これからはたくさん一緒に過ごせるねと喜んでいたのに、、。

仕事の都合でなかなか家にいられなくて、家の事、子供の事、ほとんどさせてしまった。
強そうに見えて小心な妻。
大丈夫そうにみえたんだけど、
もしかしたら無理させてたのか、
俺が仕事を変えて家にいるようになって、しばらくしたら、
ガタガタっと体調を壊して、
あっという間に
あの世に旅立ってしまった。

こんな事なら、もっと旅行とか、
一緒に出かけるとかしておけばよかった。後悔と悲しさで胸が苦しい。

娘は、
葬式の後、
しばらくいてくれたが
仕事が忙しいらしく、
初七日を待たずに、今朝地方にある自分の家へと戻っていった。
『さすが俺の子だな』と、
誇らしく思った。
しかし、家には俺1人。
慣れない。。
どこに何があるかわからない。
こんなに、家って静かだったっけ?
冷蔵庫の音がやたらうるさい。

ふと、
遺影の微笑む妻の写真が目に映る。

生前、妻が作ってくれたご飯、
ちょっとしたしくざや、
声なんかがフラッシュバックして
涙が出てしまう。

『もう君はいないのか』

そう思うと
胸にぽっかりと穴が空いてしまったような
喉の奥がキュッと締め付けられる
ような
そんな感じで、どうしようもない。

『俺、こんな女々しい人間だったか』
情けないなと気を引き締める。


「このままじゃ眠れないな
 酒でも飲むか」

冷蔵庫から生前、妻が冷やしておいてくれたビールをとり『カシュ』と開ける。
キンキンに冷えたビールは美味い。
その美味しさに不思議と力が出る。
適当にさぐったら、おつまみにポリッピーが出てきた。
ポリポリとつまみながら、
さっき開けた冷蔵庫の中を思い出す。

「ビールあと3本だったな」

なんだか、
飲んじゃうのが惜しい気がした。

「追加で買ってくるかな、、
 ついでに
 なんか食い物も買ってくるか」


重い尻をよっこらせと上げて、
日も暮れた夜道を歩きながら、
近所のスーパーへと買い物に出た。


「まいったな、、どこに何が置いてあるのか分からん」
探すのにやたら時間がかかってしまった。
いかに妻に任せきりだったか、
こんな形で思い知るとは、、。
男ってダメだな。
そんな事を思いながら帰り道を歩いていた時だった。

「ニィー」

子猫の声がした。

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