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Vol.1 Modo Livre/Ivan Lins 〈今のところnoteでまだ誰もレビューしていない名盤たち〉

Modo Livre(1974) Ivan Lins

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 Ivan Lins は1945年生まれの76歳、MPB(Mùsica Popular BraziLeiraの略でボサノヴァ以降のブラジル産ポピュラーミュージックの総称、日本で言うとJ-Popくらいの大雑把なジャンル設定になる)の第一線で未だに活躍しているレジェンドだ。南国の1歌手という枠を超えて世界中で愛されていて、クインシー・ジョーンズやエラ・フィッツジェラルドにカバーされたり、椎名林檎嬢のアルバムに呼ばれて参加してたりする。


 MPBって一口に言っても色々あって、シューゲイザーとかアンビエントとかよりもジャンル内での幅が広い。あえて他のポピュラーミュージックとの違いを上げるとすれば①ストリングスとホーンセクションの多用 ②ボサノヴァ由来の生楽器、特にアコースティックギターの響きを生かしたアンサンブル ③西洋の音楽に回収されきっていないリズムの導入による、強靭かつ独特なクルーヴ などが挙げられるかと。イヴァンはこれらの要素を兼ね備えているのはもちろん④普遍性のあるグッドメロディーという、ソングライター全員が喉から手が出るほど欲しいものを持っている。イヴァンが世界中から愛されているのはこの④によるものだ。個人的にはThe MPBと言いたいくらいのミュージシャンだ。


 「Modo Livre」はイヴァンの4枚目のソロアルバムで、アルバム全体で見れば恐らく最も人気の高い一枚。イヴァンのディスコグラフィの中でもスムースかつ踊れて、AORやフュージョンのもつ都会のスマートなポップネスとそこに付きまといがちなシリアスなムードをMPB特有のウォーミングな気分で浄化した、一筋縄ではいかないイヴァン流のメロウが奏でられている。また彼は優れたジャズピアニストでもあり、フレーズに耳を傾けてみるとそのエッセンスが十二分に伝わる。ブラジルにはジャズをルーツにしているミュージシャンが数多くいて、それがこの国の音楽全体に流れるスムースなムードを支えているのかもしれない。


 冒頭にリンクを貼ったM6もだけど、この時期のイヴァンはコーラスワークの使い方がうまくて曲構成も非凡、デビュー4年後にしてメロディーの練度もめきめき向上している。つまり、ソングライターとして無双状態だ。M9の「Essa Marè」なんかはエレピとパーカッションでぐいぐい引っ張っていって、そこにフルートとイヴァンの伸びやかな歌声が絡みついていくだけなのだが、もうどうしようもない説得力に溢れている。同じくブラジルのマルコス・ヴァーリや70年代後期のハービー・ハンコックなどのキーボーディストにも通じるグルーヴの牽引力を、イヴァンは遺憾なく発揮している。

 都会の持つムードとブラジルの伸びやかでイノセンスな感覚が合流した、イヴァンにしか表現できない全時代対応のグルーヴィーな傑作だ。ジャケットのように流れる水のごとくかけっぱなしのBGMとしてもいいし、立ち止まて味わうだけの強度も十分に持っている。自信をもってすべての人にお勧めしたい。

 

 

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