見出し画像

Vol.2 Octógono/Rodrigo Carazo 〈今のところnoteでまだ誰もレビューしていない名盤たち〉

Octógono(2020) Rodrigo Carazo

画像1

 Rodrigo Carazoはアルゼンチン出身のSSWで、クラシックギターの演奏を主とするがその他にもピアノやパーカッションなど多彩な楽器を操る。ロドリゴのみならずブラジルのAntonio LoureiroやLeonardo Marquesなど、南米の才人にはマルチ・インストゥルメンタリストが多い。個人的に、パーカッションに長けているかどうかは曲の強度にダイレクトに影響すると思っているので(あのヤマタツも演奏家としてのキャリアは小学校~中学校時代のドラムからスタートしている)この手のアーティストがパーカッションを叩けると聞いただけで期待値が跳ね上がってしまう。 


 冒頭に貼ったリンクはこのアルバムのオープニング曲。アルバムの中で、最も静かで繊細な曲が冒頭に添えられてある。この世界観に引き込まれたら最後、37分後まで元の岸には帰ってこれないようなスケールを痛感させられる。スペイン語圏のアルゼンチンには独自のフォーク文化があって、タンゴやフラメンコの意匠を借りつつもダンスには安易に回収されない響きを持ったアーティストが21世紀になって表れてきた。このロドリゴのアルバムもひとまずその流れの中にあるとはいえるのだが、僕は全く違う聞き方をしていた。そもそもアルゼンチンのフォーク文化に明るいわけではないので、そんな聞き方はできない。


 僕はこのアルバムを世界最先端の、先鋭的なフォークだと思って接してきた。アルゼンチンの諸先輩方よりもむしろ、Sam AmidonやAngelo De Augustineなどの楽器と声の隙間をたっぷり味合わせてくれる、そんな風な印象を抱いた。生々しいアコースティックな音を多角的に録音して、その中から浮かび上がってくるシルエットによって具体ではなく抽象的にリスナーへと訴えかける手法は、同じく2020年に発表されたBlake Millsの傑作「Mutabel set」と同期性を持っている。


 優れたフォーク作品には霊性が宿ると、僕は考えている。これはアシッドフォークにも、フリーフォークにも言える。プレイヤーとリスナーの距離がとても近く、誤魔化し難いジャンルゆえにプレイヤーのインナースペースがダイレクトに作品に現れるからだろうか。「Octogóno」には間違いなく霊性が宿っている。アルゼンチンフォークの流れを汲んだ佳作、という枠に留めておくことなど到底できない傑作に間違いない。アコースティックな癒しを求めるすべての人々にフィットすること間違いなし、フォーク史の中でも屈指のアーティスティックな一枚だ。日本で特に評価が高くて、去年の私的年間ベストに選んでいる人を何人も見かけたし、君島大空が絶賛してたりした。確かにこの周辺とか好きそう、君島さん。




 


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?