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「ブラジル音楽?あぁ、ボサノヴァね」

1度インプットしたものを、簡単には変えられない

「好きな音楽とかあるの?」

あー、最近はブラジルばっかり聴いてるかな

「ブラジル音楽?あぁ、ボサノヴァね」

もう何度交わしたか分からない、ささいな会話のハイライトだ。

そう言われた後、たいてい僕は「いや、最近は面白いアーティストが多くて...」とすかさずフォローしようとする。しかし、会話相手のブラジル音楽へと貼られたレッテルの固着具合と、そのレッテルを貼った時に相手がしていたであろう冷ややかな仏頂面まで勝手に推測してしまい、「で、ですよね~」とニマニマするほかないのだ。

もちろん前提として、作品には何も罪がない。僕はボサノヴァだってすごい好きだし、恐らく一般人よりは長く聞いている。以前に某ラジオ番組で音楽プロデューサーの松尾潔氏が「日本のOLが生きていくのに必要なR&Bなんて10曲くらいじゃないか」という趣旨の発言をしていて、えらく首肯した覚えがある。多分、ボサノヴァもそれと同じかそれ以下の曲数さえあれば一生いきていけるだろう。

いわんや、ブラジル音楽。いや、ここではもう少し踏み込んでワールド・ミュージックとあえて雑に括りたい。ハッキリ言って、そこそこの音楽好きでもここら辺のリスナーは相当に少ない。USとUKと自国のチャートと関連作を追っているだけで日が暮れるような時代だ。別にそれは悪いことではない。

真に悪いのは、未知のものに対するラベルを貼るときの態度だ。名前を付けてラベルを貼ることは、既知でないものへの見方をクリアにさせてくれる一方で、安易に乱発しすぎるとラベル以外を見ないようになってしまう。端的に、作品そのものの魅力を味わう前にラベリングを考え、それを無造作に貼ったが最後、それをはがして詳細に観察することはついにない。台紙の下でうごめく「何か」は、「この前見た/聞いたアレ」としての役割を全うするだけの装置として機能し続けるほかない。

そして、何よりラベリングは楽で便利だから、それを簡単にはやめない。僕だってめちゃくちゃするし、端から端まで咎めたくて言ってるわけじゃないし。一度見方を固定したものを、人は簡単には変えれない。その見方を放棄するということは、それまで自分が脳内で保管してたコンテンツの棚をリセットするくらい、恐ろしくて難儀な行為だからだ。

そのような状況において、ブラジル音楽は結構な苦戦を仕掛けられてきた。60年代の黎明期を過ぎた後にも、もちろん面白い作品――例えばゼロ年代のアート・リンゼイのような、ボサノヴァを要素分解してポストパンクの上で福笑いさせて遊んでいる怪作――は発表されている。そしてなにより、ブラジル音楽はボサノヴァだけじゃない。日本がシティポップだけじゃないように。僕らが「日本と言えば竹内まりやだよねぇ~」と言われたときに、胸の奥で微かに感じる、抗いたいようで抗えないもどかしさ。それを僕は、タイトルになっている言葉を言われるたびに感じてきた。

言葉に残して抗う

この状況を打破するためには、言葉で残して好きなものの面白さを伝えるしかない。責務とは言わないまでも、この悔しさの解消は少しの公益性を伴う。

僕は、こと芸術作品に関してはとことん性善説で、基本的に公に発表されている作品はすべて素晴らしいと思ってる。好きかどうかは別として、適切な力加減でその作品を言葉や思想によって心の中で研磨すれば、かけがえのない素晴らしい光を発することができると、結構本気で信じてたりする。その研磨の方法を探り当てるために、レビューは存在しているとも。

「ブラジルには面白い音楽がたくさんある」このような言葉を吐くとき、僕は暗に「あなたが知らないものの中に、あなたが好きそうなものがたくさんある」と叫んでいる。

がんばります

今回のnoteで言いたいことはこれに尽きる。がんばります、がんばるかぁ~。がんばるぞ~としか言えない。

最近、このような文章をTURNさんに掲載させてもらった。こんなに大好きなものばっかりを集めて書いたのが載っていいのかという反面、好きな気持ちを防護壁にしてジリジリ前進する以外に道はないとも思った。好きなものを口にする、それもできるだけ間口を広げて面白く。

先ほどの記事が手前味噌Vol.1で、これがVol.2。

ということで、ブラジルにいる数多のミュージシャンを紹介するためのプロジェクトとして、ブラジルを拠点する若手~中堅ミュージシャンの今年出た新曲だけのプレイリストを作成しました。タイトルは「NeoBrazill」。現時点で40組越えですが、これからもっと更新していきます。

ジャンルはあえて雑多にしました。SSWが多い関係上、フォーキーな曲が多めです。それでもラテンジャズやエレクトロニカ、Vaporwaveやシューゲイザーも脈絡なく入っています。これはラベリングへの抵抗であり、単純にディガーへのやさしさでもあります。この分野のディグに関してはひとまず任せてくれ。


ということで、最後に手前味噌を2回もかましたところで終わります。今後もガシガシ書いていくので、また見に来てください。

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