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裁判における目撃証言の証拠能力について

司法・犯罪心理学Ⅱ

第2課題第1設題レポート評価S

裁判において、目撃証言は、被疑者の判決に影響する、非常に重要な証拠となり得るものである。それと同時に、誤った目撃証言は冤罪を生み、さらなる被害をもたらすことにつながる深刻な問題であるともいえる。

冤罪の約7割が間違った目撃証言

アメリカでの「イノセンス・プロジェクト」において、間違って有罪とされた可能性のある人達のDNA鑑定が行われた。その結果、2019年までに367人の冤罪が証明され、そのうち21名は死刑判決を受けており、誤った目撃者の識別が冤罪の主要原因であったものは約7割であった。DNAに関する証拠試料が残っている事件は、性的暴行など限られた範囲の犯罪であり、全体の犯罪のうちの極めて少数でしかない。つまり、イノセンス・プロジェクトで判明した冤罪は、誤認による間違った有罪判決が出された多数の事件のうちのごく一部である、ということが考えられる。

目撃証言の取り方

人物同一性に関する目撃証言の代表的な手続きとして、アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアなどで最も頻繁に用いられる「ラインナップ」が挙げられる。この方法は、目撃者に複数の人物の実物または写真を呈示し、その中から犯人を識別させる手続きである。日本において、ラインナップはほとんど使われておらず、被疑者を1人だけ目撃者に見せる「単独面通し」が用いられている。

間違った有罪判決について検討した多くの研究によって、冤罪の主要な原因は目撃証人による誤認であるということがわかっている。誤認はどのくらいあるのかを調べた研究では、イギリスのパレードと呼ばれる手続きにおいて、資格のある専門の警察官が独立に実施し、バイアスがないように選ばれた8人以上のフォイル(偽物)とともに被疑者を並べて選ばせるが、他の目撃者と隔離して同調が起きないようにし、そこに犯人がいない可能性も事前に告げる。そのような状況においても、得られた目撃証言の約3分の1が誤りであった。このことは、日本における単独面通しの、強力にバイアスのかかった誘導的・暗示的状況であるという問題点を明確にしている。

なぜ間違うのか

誤認の原因についてゲリー・ウェルズは、評価変数とシステム変数の2つに分けて考えることを提案した。評価変数とは、事件がいつ、どのように起こるか、被害者や目撃者の特徴・記憶、事件後に目撃者に何が起こるかなど、警察にはコントロールすることができない変数である。

評価変数には非常に多くの要因が影響する。目撃者が犯人を見ることができた時間の長さや、武器により注意が引きつけられる武器注目効果、目撃者にかかるストレスの効果や異人種間における誤認率の増加、年齢、アルコールの影響、犯人の変装などが挙げられる。また、たまたま事件現場の近くにいた人物を犯人と間違えてしまうなど、顔を見たときの情報や体験の文脈に関する情報の混乱が、無意識の転移現象を引き起こし、目撃者の記憶を変容させてしまう。

次に、システム変数とは、警察や刑事司法制度によって直接的に統制されているもので、目撃証言を得る際の目撃者に与えられる教示の仕方や、ラインナップに選ばれるフォイルの選任、ラインナップの呈示法、警察担当者が被疑者が誰か知っているかどうかなどの要因である。

まとめ

以上のようなことから、非常に多くの変数によって、目撃証言の正確性は変動してしまうということが考えられる。さらに証人の確信度は、陪審員や裁判官が、証言が正確かどうかを判断する際に大きな影響を与えることがわかっている。アメリカでは、イノセンス・プロジェクトの活動がきっかけとなり、目撃証拠の適切な扱いをまとめたガイドラインや、目撃証言の識別・尋問の信頼性を高めるための手続き方法などが発表された。誤認となる原因は複数明らかになっている。様々な評価変数によって、目撃証言の証拠能力は大きくも小さくもなる、ということがいえる。

参考文献

目撃者の記憶を歪めるフィードバック -識別後フィードバック効果研究とその展望-_pdf (jst.go.jp)
目撃証言のエラーja (jst.go.jp)
目撃証言の信頼性評価_pdf (jst.go.jp)
司法犯罪心理学 越智啓太 サイエンス社

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