見出し画像

ドリンク代込、3500円の人生

ラジオや舞台の裏方をやって数年、アイドルさんやタレントさんからこういった相談を繰り返し受けることがある。

「ファンの方から『リプ返してくれないならファンやめる』『配信でコメント拾ってくれなかったからもうライブ行かない』って言われたんですよ」

この手の話、実は結構よく聞くのである。ファンに限らず、「クライアントに容姿いじりをされて嫌だったけど、仕事を貰ってる身だから何も言えなかった」とか、「ライブの主催者に嫌なことを言われたけど、次回のライブに出してもらえないのが怖くて言い返せない」とか。多分、芸能関係だけじゃなく普通に会社内とかでもある。(というか、あった)

私が毎回真っ先に思うのは

「そんな奴は叩き斬れ」

ということである。勿論実際に叩き斬ったら犯罪だし、宇宙兄弟の六太みたいにたとえ相手に非があっても頭突きをしたらクビになるのが現実だ。それに、彼女たちにそんなアドバイスを易々と言えない事情もある。
彼女たち、人気商売を生業とする人たちの生活を支えているのは紛れもなくファンである。特に事務所に所属していないフリーのアイドルやアニソンシンガーや役者はファンこそが第一のクライアントになる。ライブのチケットバック、チェキやCDなどの物販、配信での投げ銭等々。それが彼女たちの食費になり、光熱費になり、家賃になる。見方を変えれば、(多少語弊があったり過大表現だったりするかもしれないが)ファンに「養って」貰っているともいえるかもしれない。そんな貴重な(これも誤解を招くかもしれないが)「収入源」を切れ、というのは正直酷な話である。

ファンというのはすごい、とつくづく思う。その人の情報を逐次追い、時間をかけてその人に会いに行き、更に一番大事な「お金」を支払ってくれる。その時間とお金があれば、もしかしたら美味しいものが食べられたかもしれない、欲しい服が買えたかもしれない、友達と遊びに行けたかもしれない、家族にプレゼントができたかもしれない。そういった選択肢を全て捨ててお金と時間をかけて会いに来てくれるわけだ。

愛情やお金を他人からもらうのは難しい。私自身、実父から中高時代に「穀潰し」と呼ばれていたし、親戚から「お前のせいで貧乏になった、俺を扶養しろ金を払え」と全く意味のわからない裁判を起こされたりした(勿論、あまりにも荒唐無稽な話だったので却下の判決となったが……)ので、親族でさえ「お金を払ってもらえる」というのはかなり貴重なことなんだなあと痛感している。だからこそ、ファンという存在がどれだけ彼女たちにとってありがたく、かけがえのない存在であるか少しは理解できるわけだ。

ただ、一方でこうも感じる。

「仕事って、自分の生き方を売るもんじゃないか」と。


芸術系、芸能関係、それから教師やカウンセラーなんかは特にそうなんじゃなかろうか。私自身、役者や喋り手の端くれであるからそう思う。シンガーソングライターなら歌を、役者なら役を、モデルやグラビアアイドルなら写真を通じてその人の生き方を見せているし、ファンもその生き方に感動し、共感し、勇気づけられるからこそ対価を払ってそれを買うものじゃないのか。

だから、たった一人の(自称)「ファン」のために、その生き方を歪める必要があるんだろうか。そこに他のファンが欲するあなたの生き方ってあるの?と問いたくなる。

一人の「ファン」が来てくれなければ、一枚分チケットが減る。だけど、あなたの人生は、生き方は、ドリンク代込み3500円のチケット一枚と天秤にかけなきゃいけないものなのかな。彼女たちに届くか分からないが、この言葉が少しでも支えになることを願うばかりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?