見出し画像

名曲コード解説No.1~幸せの黄色いリボンTie a Yellow ribbon round the ole oak tree/Tony Orland&Dawn

個人的に「ものすごく良い曲だな」と感じる曲のコード進行を解説していこう思う。

初回は自分の中の3大「こんな曲が自分にも書けたらな・・・」の1曲である1973年のヒット曲トニーオーランド&ドーンの「幸せの黄色いリボン/Tie a yellow ribbon round ole oak tree」を取り上げたい。

一聴すると特にひねりもない明るく単純なポップスに聞こえるが基本を押さえつつ随所にヒネリを利かせた非常に良いサンプルだ。一度聴いたら・・・どころかその場で聞きながら一緒に歌えそうなぐらい覚えやすい。

加えてのどかな陽光を思わせるアレンジ、なかなかに感動的でストーリー性のある歌詞・・と全てが高レベルで結実した曲で1973年に全米を始め各国チャートで首位を獲得し、その後も歌い・聞き継がれている学ぶのに不足のないエバーグリーンな大名作だ。

記事の性格上、どうしても楽典に関する音楽用語が多くなってしまう事をご容赦願いたい。 

原曲キーはFなのでそれに従い作成したワンコーラス分のコード譜と連動させた簡易アレンジ音源動画を置いておく。




キーFのダイアトニックコードは

①F②Gm7③Am7④B♭⑤C7⑥Dm7⑦Em7-5・・・となる。

逆に言えば登場するこれ以外のコードの正体を説明できればこの曲のコード進行の分析はできたようなものだ。

初回なのでダイアトニックコードと各コードの役割・・みたいな話を最低限だけすると、上でいう①③⑥は落ち着いた着地点として機能するトニック系、②④がちょっと不安定に感じるサブドミナント系、⑤⑦が不安定で安定した響きに行かせようとする機能があるドミナント系でここではメロディーバッキング共にかなり自由な音使いが可能・・・というのが多くの楽曲で用いられているセオリーの基本中の基本だ。お馴染みの「起立→礼→着席」で鳴っている音はこの「トニック→ドミナント→トニック(C→G7→C)」である・・・といえばイメージがつかめるだろうか。このダイアトニックコードの作り方云々・・という話までするとその話だけで終わってしまうので今回は割愛。

以下部分的に詳細を解説していこうと思う。まず最初の8小節

ストレートにトニック1度のFから始まりトニック代理のⅢマイナーであるAm・・・とこの世に沢山存在する素直な進行のパターンだ。
そして次いで出てくるCmとD7がまず最初の注目ポイントであるキーFにおけるダイアトニック外のコードになる。これはそのすぐ後に出てくるGmに向けて部分転調をすると生じるコードである。曲キーFにとってGmはサブドミナント代理の2度マイナー、俗にいうツーファイブのツーだ。このFキーにおいては2度マイナーのGmをキーの1度トニック・・と仮定しGmのダイアトニックコードを考える。①Gm②Am7-5③B♭④Cm⑤D7⑥E♭⑦F・・・となり、Cmはサブドミナント4度となり次ぐD7はドミナント5度・・になる。GmキーにしてみればⅣm-Ⅴ7-Ⅰmという進行になる。FキーにおいてはCの和音はドミナント5度のC7になるはずだし、Dの和音はトニック代理のDm7になるはずだ。

ところでこのCmのルート音CをAにすればAm7♭5となりGmに向けてAm7♭5-D7-Gm・・・という「マイナーキーのツーファイヴ」を組む事もできる。あくまで解釈次第だがCmの前のコードがAmなので綺麗にAm-Am7♭5-D7-Gm・・・というルート音の流れを作る事を優先するならそっちの進行でも響きが損なわれることはない。

続いてサビ前までの Gm/B♭m/F ConE/Dm/G7/G7/B♭m/C7

まず2個目のB♭mで、曲キーFにしてみれば本来ここはただのB♭でサブドミナント4度・・・となるところだがマイナーにして変化をつけるサブドミナントマイナーという手法。これも一瞬ここだけキーが本来のFからFmになってFmキーのサブドミナントを採用している・・・と考える。キーFmはキーFとは同主調という関係にある。これも手法としては他の曲でも良く出てくる。

続くF ConE/Dmの部分のConEは単なるCではなくCの3度のEをルートに置いてF→E→Dというスムーズなルート音の流れを作るためのコードアレンジだが、別にただのCでもコードの機能を損なうわけではない。次のDmはそのまま元の曲キーFの6度マイナー、トニック1度の代理コードである。
このⅠ→Ⅴon♭Ⅰ→Ⅵm・・・と言う進み方は少し使われ方が違うが、一昔前の日本のポップスでもかなり使われた定番進行である。

次のG7もFキーのダイアトニックコード外でここもやはり部分転調・・・だが次のコードが本来のC7ではなくB♭m、とFのサブドミナントマイナーになっている事に注目。聞いていて期待を裏切る良いフックになっている。

続いてサビ

最初の12小節はAメロとほぼ同じ進行で乗っかるメロディーを変えてサビとしての変化をつけている。コード進行が同じでも乗せるメロディーが違うとこんなにも印象が変わるのだ・・・・という良いサンプルである。

続いてサビ13小節目以降

まずF/Faug/F6/の部分はオーギュメントコードを効果的に使った進行だ。コード内の5度の音が半音ずつ上がっていく響きは多くの楽曲で使われている手法だ。自分がパっと思いつくのはDave Clark fiveのBecauseという60年代の名曲。こちらも素晴らしい曲だ。

以上がこの曲で押さえておくべきポイントで、良い曲を作る条件の一つは部分転調をいかに使いこなすか・・・が重要なのが分かると思う。言葉にすると 簡単に済んでしまうが選択肢は無数にあり、やり方も千差万別・十人十色だからこそ可能性は無限大で、曲を作るのは面白いのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?