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【模型】プラモ製作は商売になるか ~トランぺッター 1/72 90式戦車~

模型をやっていると、こんなことを考えることがある。

「模型の完成品を売れば商売になるんじゃないか?」

考えてみれば、中国の工場で大量生産で作っている食玩やガチャガチャがあれほど売れているからには、「何かを小さくちぢめたモノ」すなわち模型を欲しがる需要というものは一定数あるはずだ。
事実そういう食玩などは、よくもあのコストでここまで塗装できるもんだと感心させられるものだが、さりとてモデラー目線で見た場合パーティングラインの処理はおろか細かい塗り分けなどは筆で雑に色を置いているだけというような仕上がりなので、モデラーがちゃんと作った作品と比べたら月とスッポンもいいところだ。
また世の中には家庭の事情で有機溶剤を扱うことができないとか、曲がりなりにも専門の設備が要る塗装をやるだけのカネをかける余裕がない、仕事に忙殺されて自分の時間などカケラもないといった理由で自分で模型を作ることができない人も多いだろう。
たまたま子供の買い物に付き合っておもちゃ屋のプラモコーナーで今どきのプラモを見たお父さんが、なんだと今はこんなキットがあるのか?!と目が釘付けになり、これは欲しいぞ、でも作れるだろうか?という逡巡の買うたやめた音頭を何回か踊ってからやっぱりあきらめてプラモコーナーを立ち去るまぎわにもう一度プラモの箱を一瞥し、肩を落として子供のガンプラのカネを払いにレジに行くという光景は、何も私の妄想だけではなく実際の日本中の模型店で週末に何度も展開されているに違いないと思うのである。
それではそういう人に代わって模型をきっちり仕上げ、その代価を頂くということが商売にはなりはしないか?
これまでバカみたいにカネを注ぎ込んできたエアブラシやらコンプレッサーやら数えるのもあほらしくなるくらい揃えた塗料の瓶の減価償却を今こそ行うべきだ。
需要があるのだから供給するべきだ。
そんなことをモデラーならきっと考える時期があるのではないかと思う。

今から15年くらい前私は中国で仕事をしていたのだが、夜にカラオケに行って100元札を何枚も無為に浪費するとかいうことに何の興味もなかった私は、仕事が終わった後はかなり自由な時間があった。
住んでいたマンションでエアブラシを使っていても日本と違って中国はその程度の騒音は騒音のうちに入らないので、徹夜で塗装していてもどこからも文句は来ない。
また当時中国のプラモデルは中国国内での価格がかなり安かったこともあり、今から思えば模型製作にとってかなり恵まれた環境だったといえる。
そんな折に、トランぺッターの1/72のミニスケールキットが中国のネット通販のTAOBAOでは広州のプラモ屋よりもものすごく安く買えることを知り、同じキットが日本ではピットロードが3000円近い価格で販売していることを調べた上で、この価格差は十分事業化が可能なのではないかと思い立った。
そこで、これをきっちり仕上げて完成品として販売しようじゃないか。
同じものをまとめて作れば効率が上がってコストダウンにもなり、作れば作るほど自分の経験も積めるじゃないか。
これでおれの前途はバラ色だ、実際に塗るのはOD色だが、がぜんやる気がわいてきた。
キットをそのまま内地価格で転売するのではなくちゃんと作って売ろうというのは今ながらにしてえらいえらいとおもうのだけれども、果たしてどうなるだろうか。
今回はそんなお話だ。

※この記事は2011年8月31日のmixi記事より転載加筆を行ったもの

トランぺッター 1/72 90式戦車

それにしてもこの円高はなんとかならんものか。
とりあえずこっち(註:中国の広東省)で食っていくには固定の月給で何ら問題はないが、日本においても毎月保険やら年金やらでカネがかかるのであり、これは当然ながら日本円での支出となるのである。
日本円の収入がなくなって半年が経過したが、このままでは内地の貯金を食いつぶすようでどうにも精神的によろしくない。
なんとなれば日本から来る人や日本に一時帰国する人に現地通貨をお渡しして内地の口座に日本円で入金してもらうことはできんことはないが、なんといっても強烈な円高であるので、えらく目減りしてしまうのが実に口惜しい。
18000元の給与は数年前の1元=16円の時代であれば288000円となり、そう悪くない話であるが1元を12円で換算した場合216000円となり、なんと72000円もの減額となるのである。
よって1ドルが二桁しかないうちは外貨での収入は日本円にしない方がオリコウサンである。
思えば駐在時代は日本円で給与をもらっていたので円高になるほど元が安くなってウハウハ言っていたものだが、逆転してしまったではないか。
とはいえ内地にカネを入れなければ貴重な日本円の貯金はいずれ年金と保険で食いつぶされてしまう。
そういうわけで、なんか効率的にカネを日本に送る方法はないかと思ったのである。

さすればモノを送って日本で換金してはどうか。
ヤフーのオークションで昔荒稼ぎもしたことがあるが、あれはある程度まとまった数量でなければ仕入れコストを圧縮できず、かといって売れない在庫を大量に抱えてしまったのでは何をしているやら分からない。
仕入れを低く抑えて付加価値を付ける方法はないか。
そこで考えついたのがオークションでの完成品プラモの出品である。
中国製のキットはこっちで買えば恐ろしく安く、あとは私の手間代ということだが、もともと趣味でやっていることであるのでコストは0と見て差し支えない(註:2023年起業している現在の目から見たら原価計算が雑すぎるな)。

ではキットの選定をどうするか?
模型仲間はガンプラがよいというが、ガンプラは思ったよりも手間がかかり、出品数が多いことから普通の出来ではキット代とトントンになってしまうのでなにをしているのやら分からん。
もっともガンプラは輸送中の破損に強いという点と大陸ではマスターグレードのパチモンが安く買えるというメリットもない訳ではないが、私はガンプラを作っていても楽しさを感じることができないので、心情的に私の手間代のコスト0という気にならないのである。
落札状況を分析すると、戦車等のAFVもきちんと作ってあるものについてはそこそこよい価格で落札されており、市場は確立されているようである。
ただこちらから実家に一旦まとめて発送することを考えると1/35では輸送中の破損に弱そうだ。
では1/72のミニスケールならどうか?
これなら梱包も万全を期すことができるし、何よりキット代が安いのが魅力的である。
そういうわけで、まずは陸自の戦車を手がけてみることにした。
自衛隊マニアというのは一定数存在するもので、そういうひとびとの琴線に触れる仕上げをしてやろう。
またミニスケールであれば大きさはタバコの箱程度で、机の脇にさりげなく飾れるという意味でも意外とよいかもしれない。
ちゅうわけでこっちのネット通販のtaobaoでキット6個を発注、1個が35元であるから元手は2730円、日本への持ち込みは10月の一時帰国時にハンドキャリーする予定なので、塗料代なんかを含めても3500円くらいか。
どうなるかわからんが、まずはやってみようということで、このところ毎日少しずつ進めているのである。

6台の同時進行というのは思いのほかしんどかったが、塗装をまとめて済ませられるメリットがある。
とはいえミニスケールはパーツがめちゃめちゃ細かいので、パーツを落としては床にへばりついてアラーの神様のお祈りよろしくパーツを探しまわったり、かつパーツがどうしても見つからないので涙をのんで自作ということもたびたびであった。
.50機関銃の弾薬箱ならランナーをヤスリで削りだしてなんとかなったが、90式戦車の前照灯をなくした時は泣きそうになり、泣きながらランナーの極薄切りとのばしランナーでこさえたもんだ。
いい加減パーツを落とさない方法をなにか考えなければならん。
ともかくようやくサフ吹きまで進めることができた。

やっぱミニスケールのメリットは数の暴力ができることであろう。
イマドキのミニスケールはちょっと前の1/35並みにパーツ点数が多いので、組み立てる手間は1/35とそうは変わらん。
それどころかパーツが小さくて整形がやりづらい上に、パーツをなくしてはアラーの神様のお祈りに割く時間がバカにならん。
それでもようやく組み立てが完成、サフを吹くと今までの苦労がなんだか報われる気がする。

おびただしい数の転輪

戦車6台分であるからまったくとんでもない。
これ全部転輪ゴムの筆塗りをやるのかと思うとぞっとするが、案外こういうのはまとめて気晴らしを兼ねて作業していれば意外と効率よくできそうな気もする。

戦車兵の改造

キットではそれぞれ2体の乗員がついていたが、そのままでは車体に載せることができない。
もっとも1/72のフィギュアはけっこう姿勢の変更が簡単で、モノが小さいので1/35のように気合いを入れまくらなくてもそこそこサマになってくれる。
こいつに正確な陸自Ⅱ型迷彩を施してやるというのを私の付加価値にしてやろうとたくらんでいるのである。

基本塗装とデカール貼り完了
小物類はワリバシに両面テープでくっつけて取り扱うとなくさずに済む
ウォッシングしトップコートを吹いて完成

一応販売を前提としているので、あまりこきたない模型だとよくないと思いウェザリングはごく最小にとどめた。
他のミニスケールの陸自戦車と同様このキットもなかなか精密感があるが、74式や61式と比べるとパーツ点数も少なく、整形の手間やそれに伴う紛失やパーツ自作といった二次被害もあまりないため効率よく作り上げることができた。

90式独特のせり上がった車体後部
個人的にはこのアングルが気に入っている
ファインモールドの昔の陸自隊員とならべてみる

さて、完成したところでハタと我に返り、これを商売にしたら一体どうなるのかを考えてみた。
ミニスケールのキットはどうあがいても工程別に下記のような時間がかかる。
・パーツ切り出し&整形 1-2時間
・組み立て及び塗装前までの準備 2時間
・塗装(エアブラシおよび筆塗り) 4時間
・その他もろもろ 1時間
合計して9時間としよう。
はじめは自分の作業はゼロコストだとあまいことを考えていたが、とてもそんなものでは済まない事にさすがに気が付く。
一応技術を要する作業ということで時間単価を2000円とすると、作業コストは18000円にも上ることになる。
これに比べたらキット代の35元なんてものはあってもなくても同じようなもので、まともに値段をつけたら20000円くらいで売らなければとても話にならない。
タバコの箱くらいの戦車模型に20000円も出す人が世の中に3人は存在するのかもしれないが、そういうものは市場とは呼べないだろう。
模型は自分のために作るから愛情が入るのであって、販売前提で作るならいかに時間を短縮するかということばかり考えることになって、作ることが全然楽しくなくなる、むしろ苦痛になるというのが有意義な発見だった。
そんなわけで、残念ながらプラモを売って生計を立てるということはかなり無茶な試みであることが分かった。
そんなわけで駐在員と模型製作代行業の二足の草鞋を履くのは無理だと判明、やっぱり模型は趣味でやるのが一番のようだ。

2023年3月8日加筆

実のところ中国時代には日本の友人からしばしば模型の製作を頼まれることがあって、日本に一時帰国するたびにフェラーリばっかり山ほどスーツケースに詰め込んでげんなりして中国に戻っていったものだ。
カーモデルの研ぎ出し塗装はただでさえ手間が恐ろしくかかる仏壇職人のような作業が必要で、ちょっとしたミスですべてがパーになるリスクだらけで大変なのだけれど、これを自分のためでなく製作するとなると、楽しさなどはみじんもなくて苦痛とプレッシャーだけが残る。
そういう模型には愛情が込められることもなく、まったく不幸なことだ。

なお中国で現地就職した会社が空中分解し一夜にして失業者になった時は藁にもすがる思いでなんとか模型で稼げないかと考え、日本の友人に最近の流行を聞いて妖怪なんちゃらの何とかニャンとかいうのを2体作ってヤフオクで売ったことがあるが、自分が何の興味もないものを作るというのはやっぱり苦痛だったことを覚えている。
あの時の落札価格はたしか3000円くらいだったと思うが、かけた時間を考えるとまるで割に合わない。

そんなわけで、模型は自分のためにやるのが一番よろしいと思う。
考え方を変えるならば、まともに仕上げるためには20000円かかる模型を手に入れるとして、自分で作るならたった2000円で済むというわけだ。
他の人なら10倍カネがかかることをキット代+α程度でできるのはモデラーの特権といってもいいだろう。
そう考えるのが自分には一番いいように思う。

さりとて世の中には模型製作業を事業として営む人もいて、それできっちり食べているというのだから、よほど作業の効率がいいに違いない。
私が知っている人で艦船モデル専門の製作工房を経営していてスタッフも数人抱えている人がいるが、あんな手間がかかるものをよくもまあ業務として取り扱って利益が出せるもんだと大変恐れ入る次第。
業務である以上仕事を取るための営業も必要であれば、出荷に伴う破損やその他仕上がりがイメージと違う等のリスク管理も必要になってくるが、そのあたりはどうやっているんだろうか。
世の中にはすごい人もいるもんだ。

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