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電子工作を始めてみよう

私は中国時代の後半3年を深圳の電子メーカーで勤務していた。
といっても学校で専門の教育を受けたわけではないので、電子のことはまるっきりわからない。
ここで日本市場向けの企画営業とプロジェクトマネージャのようなことをやっていたのだけれども、企画営業は理系とはまた違う要素が必要とされるので、なんとか給料をもらえる程度には役に立っていたのだろう。
とはいえ理系の知識がないというのが何とももどかしかった。
プロジェクトマネージャというと格好がいいように聞こえるが、要は開発エンジニアのケツ叩きで、顧客から要求された仕様を期限内に商品として仕立て上げるのが仕事だ。

さて電子製品は「電子」「機構」「ソフト」の3つの要素から構成される。
電子というのは文字通り電気が流れることで何かの仕事をさせるための仕組みを作ることで、回路図を考えたりするのが仕事だ。
機構というのは製品として形にするためのハードウェアの設計をする仕事で、どんな形にするのか、内部の電子パーツをどう収めるのかということを考える。
ソフトはそのキカイをどのように制御して仕事をさせるかのプログラムを考えるのが仕事で、文字通りハードウェアに対してソフトウェア的なことを考える。
私は製造に長かったのと趣味で模型をやっていたので機構に関しては結構大きな顔をしていたのだけれども、電子とソフトは全く訳がわからない。
電子回路図というものがあって、眺めているだけでなんだか楽しくなる絵があるが、これが理解できたら楽しいだろうなと思いながら顧客に送ったりしていたものだ。
さらにソフトとなると全く異次元の世界で、私は中国語はわかるがプログラムなんてものは謎の呪文と大差ないようにしか見えないもので、とにかく電子とソフトのエンジニアにだけは頭が上がらなかったのを覚えている。

今時の中学生はなんだかすごいことをやっているらしい

ところで最近電子工作に興味が出てきて、学研の電子ブロックを組むくらいでは飽き足らず、ちょっとした回路を考えてはんだ付けするようなことをやってみたいと思うようになったのだけれど、元々は単に半田付けという楽しい作業がやりたかっただけなのかもしれない。
もっとも木工屋として電子工作のスキルが身につくことは商品開発の面でものすごいアドバンテージになることは確実で、例えばチップLEDを好きなように散りばめた独自の電気スタンドや、木工品としてしっかりしたデザインのラジオなんかも作ることができる。
さらに、電子楽器でテルミンというのがあって、無段階の音階で空飛ぶ円盤のような音を出す楽器があるのだが、よい回路があればこれに独自のデザインの筐体を木工で作って組み合わせることだってできる。
そんなわけで、電気の勉強を今年は業務として行ってみようと思い立った次第である。

まずはyoutube動画でそういう入門の動画を見ているのだけれども、なんと最近の中学生は深圳時代の私にとって謎の世界だった電子とソフトを学校で習うのだと知って大変驚いた。
今時の子供はプログラミングを学習するとは聞いていたが、私も40年前にMSX-Basicでちょっとしたプログラムぐらいは作ったもんだぞといい気になっていたら、そんなおもちゃみたいなものではなくマイコン制御の電子機器をブレッドボード上で組んでC言語のプログラムで動作させるというのだから大変驚いた。
まさに電子メーカー時代私に全く手が出せなかった領域ではないか。

私は流行なんてものにはまるで関心もないし、私自身が私の世代からも大きく逸脱している変人なので、今時の若え連中はなんてことは言うつもりも素養もない。
なので、違う世代の価値観は違う世代の連中が楽しんで構築してくれればいいと思っているのだけれども、義務教育で習う分野のことで負けるのはどうも冷静でいられない。
そうか、今時の中学生はちゃんとした奴なら電子設計とプログラム制御までやるのか、これは負けてはおれん。
そんなわけで、デジタルの世界に飛び込んでみた。
これまでは1969年発売の電子ブロックの復刻版で遊んでいたので、時代がいきなり50年も飛び越え、ドラえもんで言うならのび太がいきなりドラえもんの製造元の工場の門を叩くようなものだ。

Arduinoというキット

最近動画でよく名前を聞くのがArduinoというマイコンのモジュールで、こいつにプログラムを放り込み、このモジュールの端子にいろんな電子素子を組み付けることでいろんな電子回路が組めるというものだ。
電子素子は基本的にブレッドボードという有孔ボードに差し込んで空中配線で接続するようになっているので、半田付けは不要、何度でも組んだりバラしたりできるので、21世紀の電子ブロックといったところだ。
このモジュールはアルデュイーノと発音するのだが、なんでもこれを開発したイタリアの大学生が入り浸っていた飲み屋の名前から取ったらしい。
どうも最近の欧米の理系の皆さんの言語感覚は面白いことになっていて、まじめくさった名前をつけるのではなく、なんでこんなたわいもない名前をつけるのだろうというようなものをよく見かけるのだけれども、日本の電化製品のようにしゃらくさい横文字風と違って、かえって清々しさを覚える。
Arduinoと並んでこの手の汎用制御モジュールで有名なものにイギリスのRapsberry Pieがあるが、これも大方ロンドンだかエディンバラだかの大学生が毎日ラズベリーパイを食いまくって開発したのに違いない。

ありがたいことにこのArduinoは広く世の中に普及させる為にライセンスフリーなので、基本キットが大変安く入手できる。
そんなわけでamazonで購入したものが本日届いた。
本日届くということになっていたがいつまでも呼び鈴が鳴らないので、おかしいなと思って郵便受けを見たら、郵便受けギリギリのサイズの箱がピッタリ収まっていて驚いた。
どうも最近のamazonはヤマト運輸から嫌われたのか、自前で配達するようになったようなのだけれども、挨拶なしで置き配とかをやるので油断できない。
今回は郵便受けにかろうじて入るサイズだったのでよかったが、もし入らなかったら配達員は果たして呼び鈴を鳴らしたであろうか。
多分アパートのドアの前に置きっぱなしになって半分雪に埋もれていたのではないかと思う。

これは楽しいキットだ

箱を開けるとプラスチックの部品箱のようなケースにぎっしりと中身が詰まっていて、これだけでうれしくなってしまう。
Arduino本体の基盤モジュールにブレッドボードにワイヤリングの配線材に各種抵抗に、ステッピングモーターやら普通のマブチモーターみたいなのやら、とにかくいろんなものがぎっしりで、中身を出したら2度と同じようには戻せないだろう。
今時の例にならって紙の説明書はなくて、同梱のCDの中のPDFファイルを開いて閲覧するようになっている。
これだけあればいろんなことができるので、説明書のままに組んで遊ぶだけでもたのしそうだ。


早速PCにインストールすると、Arduinoにプログラムを焼き込めるようになる。
まずは手始めに白色LEDをいろんな色に点灯させる回路を組んで動かしてみることにする。
白色LEDというのは原色法三原色の組み合わせで白を表現するようになっていて、RGBの通り赤緑青の組み合わせになっている。
それぞれの色の比率を変えることでいろんな色が表現できるのだが、それぞれの光の強さをどのように加減しているかまでは知らなかった。
おぼろげに、多分それぞれの色を光らせるための電流だか電圧だかを調整しているのだろうと思っていたら全然違った。
パルス変調波による制御といって、オンとオフの時間の長さで強弱をコントロールしているとのこと、なるほどインバータ制御と同じ理屈だ。
この波形をプログラムで設定してやることで任意の挙動ができるわけで、アナログ回路だと単一の働きしかできないのだが、デジタル回路というのはすごい発明なのだなと思う。

プログラムをArduinoにダウンロードして9Vの積層電池を繋ぐとブレッドボード上のLEDがいきなり点灯し、一定間隔でいろんな色に変化する。
市販のLEDを使った製品ではよくみられる挙動だが、こんなふうにやっていたとは知らなかった。
うむ、これは面白い。
勉強のためにこれを買ったが、ちゃんと勉強すればこれを使って自分が作りたい機械が作れるぞ。
ゆくゆくはうちの木工と組み合わせて面白いものが作れそうだ。
そんなわけで只今電子の勉強に夢中、うむこんな面白いもの中学生だけに遊ばせておくのはけしからん、まもなく50歳のおじさんにも遊ばせるべきだ。
これまで未知の領域だった電子やソフトが自分の世界に入ってきたようで、なんだか世界が広がった気がするぞ。

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