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【模型】作る前から楽しすぎるプラモデル 〜坂井精機 1/12 スーパーササダンゴマシン①〜

欲しいものができたよ

家内にそう話したのは今年(2023年)の2月の中頃だったように思う。
「何が欲しくなったの?」
と家内は聞いた。
「・・・スーパーササダンゴマシンのプラモデルが欲しい」と私は答えた。
家内はあっけに取られ、パチクリさせた目には「何だそれは」という素朴な疑問と「何を言ってるんだこいつは」という驚きの色が浮かんでいたのを覚えている。

ちょうどnoteで模型の記事を立て続けに書いていた頃で、noteのほかの記事も読むようになっていた折に、とある記事が目に止まった。

プラモデル事業部とあるが、坂井精機なんてメーカーは聞いたことがないぞ。
それにササプラモとは一体なんだ?
そもそもサムネイル画像には大量の仕出し弁当の包みみたいなものが写っているが、まさかこれがプラモデルの梱包なんじゃあるまいな?

いろんな疑問がたちどころに頭に立ち上がってくる。
このリンク先を開けばその疑問に回答が得られるのだろうか?
そう思ってこのnoteの記事を開いたのが、スーパーササダンゴマシンとの最初の接触だった。

見てみると、スーパーササダンゴマシンというのはプロレスラーの名前で、実際に存在する人物らしい。
それを坂井精機という金型業者がプラモ化したということなのだが、なぜそのプロレスラーをモデル化したのかなと思っていると、そのスーパーササダンゴマシンという冗談みたいな名前のレスラー自身が坂井精機の社長だという。
あまりにもとんでもない話がポンポン出てくるので頭がそれを理解するのに息が上がる思いがする。
そもそもプラモデルというものはプラモデルメーカーが企画開発を行うもので、その設計に基づいて金型業者に委託加工で金型を発注するというのが普通の流れだ。
昔私も中国の電子メーカーで企画営業をやっていた時に金型屋とは付き合いがあって、その時に見聞した範囲内での金型に関わる世界の話をちょっとしてみたい。

金型は度胸と根性

まず商業目的で商品を世に出すためには最初に商品企画というものが行われる。
私が従事していたのはボイスレコーダの企画開発なので、これを例に話そう。
どんなものを世の中のどんな人たちにどのくらいの値段で売り出そうか、その場合売価がこのくらいでこのくらいの利益を取りたいから製造コストはこのくらいに抑えなければならないな、その範囲内で実現できる機能としてどんなことができるだろうか、といったことを考えるわけだ。
そうして基本仕様を決定し、電子設計とソフトウェア開発と同時に外観デザインの検討も進められる。
まずは外観イメージを固めるためにデザイン画が起こされるのだが、これはデザイナーの仕事だ。
これでGOがかかると今度は機構エンジニアに仕事がハンドオフされる。
この人たちは、イメージに過ぎなかったデザイン画を実際の製品で使用するプラスチック成形品として設計するのが仕事だ。
当然中身の基盤やスイッチなどの電子部品がきちんと収まることが求められ、ラジオ機構を持った機種ならば電磁的な干渉も考慮しなければならないので、簡単には進まない。
そうこうしてプロジェクトが半分くらい進んだところで機構設計がようやく完了、ここでやっと金型屋へとバトンが渡されるのである。

ここから先は金型の進捗がプロジェクトの明暗を分けるともいえ、スケジュールに間に合うかどうかの半分は金型次第とも言える。
金型ができあがると、テストショットという試し打ちを行うのだが、これの最初のものをT1と呼んでいた。
T1ではいろんな不具合が出て当然で、湯の流れの悪い部分ができたり成形品の厚みがある箇所でヒケという凹みが出るなど、いろんな要改善点が出てくる。
そこで金型を修正し、再度T2テストショットを打つと、今度はなんとか組めるくらいのものに仕上がってくるので、PP(Preproduction)と呼ばれる量産前先行生産品にはT2のケースを使うことが多かった。
さらに修正を加えたT3くらいでOKが出るが、ここまで3ヶ月くらい、金型が期日内に仕上がるかどうかでプロジェクトがスケジュール通りに上がるかどうかに直結するためT3サンプルがちゃんと上がるまでプロジェクトマネージャは心安らかな日々を送ることはできない。
そんなこんなで量産用パーツとしての成形品が上がってくるのは大体が一歩こけたら終わりになるようなギリギリのタイミングで、とにかくも金型に絡む仕事は心臓に悪かった記憶が多い気がする。

その金型なのだけれども、金型製作費というものがあらゆるコストの中でダントツに高いものにつくので、この扱いは営業的にもなかなかしんどいものだ。
イニシャルコストで数百万もするものなので、新規で金型を作るのは結構度胸がいることで、これをどのくらいの数の製品で償却するかが重要なポイントだ。
どんなに素晴らしい仕上がりの金型が上がったとしても、製品そのものが商品として売れなかったら全くのパーになる。
金型自体はちゃんとメンテナンスしてやれば何十年も使えるものだが、商品が売れなかったらただの数百キロもある鉄の塊として工場の片隅にいつまでも眠る羽目になるのである。
長々と説明したが、要約するとこんな感じにまとまるだろう。

•金型は一度作ったらデザインの変更は基本的に無理
•金型には恐ろしい金額の初期投資が必要
•金型を新規で作るとモトを取るためにかなりの度胸と根性が必要

なので、大抵の場合は相応の資本力と販売力を持つ会社が企画して金型業者に依頼するというのが通常の流れなのだ。

ところが坂井精機という金型屋は、独自でプラモデルを企画設計し金型を作って自ら販売するというとんでもないことをやったらしい。
これを福井県鯖江のメガネ業界で例えるならば、下請けのロー付屋がメガネを一からデザインして製造し、営業から販売まで自分のところでやるというのに等しい。
一見ものすごく無謀なプロジェクトに思えるが、よくよく考えてみると「プラモデル」という商品だからできる大業なのではないかとも思えてきた。
普通プラスチック成形品というものはそれ単体では商品にはならず、機構パーツの一つとして中に電子部品なりその他のものと組み合わせることで初めて商品になるのだが、プラモデルは成形品単体で商品になるという点が違う。
しかもプラモデルの場合は成型機から出てきたランナー付きのままで商品になるので、商品企画が優れていて金型も間違いないものであれば、事業としての収益率は悪くない。
加えて通常は大手からの注文を受ける下請けの悲しさで値段は叩かれまくるところ、自社開発商品なので売価は自分で自由にできる。
ついでに金型は当然ながら内製できるのでコストも低く抑えられる。
なるほどプラモデルか、その手があったか。
そうなると、ではそのプラモデルはどんなものなんだろうということに当然興味が向くのである。

スーパー・ササダンゴ・マシンって誰だ

調べてみるとDDTというプロレス団体に所属する覆面レスラーで、郷土新潟名物の笹団子から取った名前らしく、コスチュームも笹をイメージする緑色だ。
こういってはなんだが今まで全然知らなかった。
DDTという進駐軍の殺虫剤みたいな名前の団体も知らなかったが、これは単にわが家にテレビがないどころかこの25年ろくにテレビを見てこなかった私に限った話なのかもしれないと思い、改めてネットで調べていくうちに、どんどんササダンゴへの興味関心が深まってしまう。
レスラーとしてもかなりアンコ型の体型で巨漢のおじさん、歳は私より5歳ほど年下らしい。
早稲田を出てからプロレスの世界に入り、男色ディーノという目の醒めるような相方とタッグを組んだりしていたそうで、なんでもDDT自体がお笑い系プロレスとのこと、なんだかものすごい世界があるもんだと感心する。
その後30代前半で実家の金型屋「坂井精機」に入り専務職として業務を行う傍ら、時々レスラーとしても活動、その後坂井精機の社長に就任する。
wikipediaによれば三足の草鞋を履くと表現される通り、ラジオパーソナリティや映像作家でもあるらしく、職業として色々並んでいる一番最後に「プラモデル原型師」というのがあるのがすばらしい。
元々が頭のいい人なのだろう、とにかく多彩で馬力がある人物のようだ。
プロレスラーとしての特徴は覆面レスラーであるにもかかわらず結構頻繁に素顔を晒しているようで、実際坂井精機のホームページでは作業服を着て腕を組んだ写真が堂々と出ている。
必殺技は「煽りパワポ」と「垂直落下式リーマンショック」という強いのか弱いのかよくわからん技があるようで、どんなものかyoutubeで見てみたら「煽りパワポ」の凄さにシビれてしまった。
私はこういった「頭がいい人が本気で狙ったギャグ」が大好きで、すっかり夢中になってしまうのである。

いったいどんなプラモデルなんだ

坂井精機は元々カセットテープやフロッピーディスクの樹脂成形品の金型を作っていたメーカーで、今風に言えばB to Bの堅実な下請け業者とのことだ。
それがなんでまたプラモデルに手を出したのかということが凄まじい。
下請けに甘んじていては値段もいいように叩かれるもので、特に近年は業績も下降気味、なんとかして売り上げを伸ばさなければならないと考えるのは経営者として当然のことだ。
その点、前述の通りプラモデルならば成型品自体が商品として成り立つことから、もし自社で販売できるならばかなり効率よく収益を得ることができるだろう。
しかしプラモデルの開発には様々な要素が不可欠で、まずは売れるアイテムでなければならない。
それから模型として鑑賞に耐える造形でなければならず、作りやすさにも十分考慮されなければならない。
つまりプラモデルメーカーとしてのノウハウの積み上げがあって初めて今のタミヤやハセガワがあるのだけれども、当然ながら坂井精機にはそういうものがあるはずもない。
まともなビジネスをやる経営者であれば、そんなものは絵に描いたモチだと一笑に付すところだと思うが、ササダンゴ社長のすごいところはノウハウゼロでもとにかく前に進んだことだ。
通常のプラモデルの開発過程では、まずは粘土なり何なりで原型を作り、または今時だと人間そのものを3次元スキャンしてモデリングしたものを元に金型加工データに落とし込んでいくところだが、ササダンゴ社長は恐るべきことにいきなり3次元CADで自分をモデリングした。
こんなややこしい形状のものをよくもまあいきなりCADで作れたもんだ、寸法なんかは自分の体にモノサシやノギスを当てて測定したのだろうか、モデルは自分なので案外やりやすかったのかどうか知らないが、これは結構すごいことだ。
これを1/12スケールの可動フィギュアにするための設計も本来はノウハウの蓄積がモノをいうところなのだろうが、これも独自設計による機構だというから恐れ入った。
私はガンプラはやらないので可動式人型模型の機構についてはよくわからないのだけれども、プロレスの技がちゃんとかけられるような設計になっているらしい。
さらにすごいのは塗装しなくても見栄えがいいように6色もの成形色による分割を行なっていることだ。
例えばササダンゴのマスクは緑の基本色に目と口の縁取りが紫、実物ならメッシュになっている部分が黒、目の側面に黄色のデザイン、デコチンにはSSMのエンブレムが白で入るというように5色もの色分けがされている。
普通だと左右分割で一つの塊にしたものを適宜塗装で塗り分けたりデカールを貼ったりして表現するのだが、このプラモデルでは色ごとにパーツが違うという恐ろしい仕様だ。
最近だとガンプラがこのように多色成型になっているが、それでも5色も使うだろうか。
色の数だけ金型が必要、製品の射出成型も色ごとにショットを打っては金型をかけ直して都合7枚ものランナーを作らなくてはならない。
桁違いな数が売れるガンプラと違ってマイナーなスケールモデルだと、今から15年ほど前にファインモールドがモデルグラフィックス誌の付録としてリリースした零戦21型のキットがこのような多色成形によるランナー構成だったが、あれは数が出るマガジンキットだからこそできたのであって、プラモデル単品で販売するならば1/72の飛行機だが売価は5000円を下らないだろうと言われていた。
ましてプラモデルに関して何から何まで初めてという新興メーカーがやれることではなく、よくもまあ企画会議が通ったもんだ、それにもましてよく銀行がカネを出したもんだとつくづく世の中は面白いもんだ。

どんな風に売ってるんだ?

坂井精機は4年がかりでこの第一弾のプラモデルを開発し、昨年の2022年12月に初回ロットを発売した。
値段は5500円だ。
1/12スケールだから大きさは大体15センチくらいか、ガンプラでいうならば1/144スケール相当だろう。
そんなもの誰が買うんだと思う人は、世の中の楽しみ方をあまり知らない人ではないかと思う。
ササダンゴのプラモデル化については同社のnoteを読んだ限りでもなかなかにドラマチックな背景があって、ササダンゴ社長自身も下手なマンガよりよほど面白いストーリーを背負っている。
そんなプロレスラー兼金型屋の社長が社員を道連れに、もとい全社一丸となってなりふり構わず製品化したプラモデルというだけで映画一本見る以上の楽しみが共有できる。
こんな無茶苦茶な、もといエネルギッシュな企画は社長がプロレスラーだからできるのかもしれないな。
もし売れなかったらどうしようなんてことを考えていたらこんな企画が前に進むはずがない。
現実として売れなかったら坂井精機は多額の初期投資を回収できず、経営を左右するほどの負債を抱え込むのだけれども、そんなスリリングなドラマが現実に現在進行形のノンフィクションで起きていて、その成果物を共有できるなんてことはとても素敵なことだ。
そう考えると5500円というのは全然高くない。
むしろ5500円でこの壮大で無謀で夢のあるドラマに関われると思うと安い気もするくらいだ。
私も木工業を営む経営者なので、こういう信じられないことをやる人には手放しでエールを送りたい。
ではどこで売ってるんだと思って調べてみると、BASEでの自社直売のみということらしい。
私がササダンゴのプラモの存在を知った2月の時点では通常製品のみ予約を受け付けていて、特別仕様のサイン入り(値段は変わらず)はもう少し待ってくれということだった。
サイン入りのものはササダンゴ社長自身がかすれたサインペンで延々泣きながら何百枚も箱にサインを書いているのだそうで、このオプションを選ぶのはまことに心が痛む思いがしたのだが、それでもこの無謀な社長の揮毫が是非ともほしいと思い、再販通知の手続きを行なった。
3月になると待望の再販通知がメールでやってきたので、早速サイトで購入、発送はいつになるかわからないけどなるべく早くするということらしい。
そんなわけで4月の中頃の先週に、わが家にササダンゴのプラモデルが届けられた。
箱にはしっかりとササダンゴ社長のサインとイラストまで入れてあり、あろうことか社長印まで押してあった。
正直いって忘れた頃に届いたというべきだが、実際に製品を手にすることでようやく実感を得た。
ササダンゴは本当にいたんだな。

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