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時々刻々変わるマスクの需要と供給からみるバブルのダイナミクス:誰が得をして、誰が損したのか?

新型コロナウイルスの流行に伴い、品薄が続いていたマスク市場だが、外国製マスクが供給過剰な状態となってきた今日この頃である。

2020年1月からのマスクを巡る品薄→供給過剰の流れは、時々刻々と移り変わり、振り返ってみればきわめて興味深い現象であった。バブル経済のメカニズムの一端を垣間見たように思うので、後学のためにまとめてみたい。

時々刻々変わるマスクを巡るフェイズ

フェイズ1:2020年1月~2月中旬ごろまで

中国・武漢での新型コロナウイルスの感染爆発がみられ、武漢は都市封鎖。日本ではまだまだ呑気に「がんばれ武漢!」と言っていた時期から、クルーズ船対応を巡りだんだんと対岸の火事ではなくなってきたというフェイズである。

ドラッグストア販売のマスクはかなり品薄になりつつも、まだ全く手に入らないという状況ではなかった。日本人の転売ヤ―も暗躍したが、中国人観光客が各地のドラッグストアでマスクを大量に買い占め高額転売をしていた時期である。日本の各地方自治体も、競って中国へのマスクや防護服の援助を行っていた。

フェイズ2:2020年2月下旬~3月下旬

日本国内での感染拡大が明確化し、マスクが全く手に入らなくなった時期である。国内生産のマスクが少なく、中国生産のマスクに依存していた問題点が浮き彫りとなった。不定期に納品されるマスクを求めて、ドラッグストアに朝から行列ができていた。

シャープがクリーンルームを利用してマスク製造を始めると発表したのが確か2月29日であった。それだけマスクが不足しており、戦時体制のような異業種挙国一致体制が求められた時期でもある。

イタリアやスペインから欧州に感染が拡大し、世界中でのマスク需要も激増した。このことから、海外からのマスク輸入は当面の間望めないという時期だった。


フェイズ3:4月上旬~4月下旬

4月1日に安倍総理大臣はいわゆる「アベノマスク」を各世帯2枚ずつ配布するというエイプリルフールのような発表を行った。洗って繰り返し使える布マスクは、なかなか手に入らない使い捨てマスクの需要を減らす目的があった。

しかし、4月中旬以降様子が少し変わる。相変わらずドラッグストアではマスクが手に入らないが、地域の商店街の小さなお店で中国産のマスクを見かけるようになった。50枚入りで4000円~5000円という高価格で販売されていた(小売業者にとっては、黄金のボーナスタイムといえる)。

中国で供給過剰となったマスクが、非正規の供給ルートを通して地域の小売業に販売されるようになってきた時期である。

4月27日には、シャープのマスクの一般向け販売の第一回抽選が行われた(税抜き2980円、郵送料別)。

フェイズ4:5月上旬~下旬

地域の小さいお店などで中国産のマスクを大量に見かけるようになり、徐々に値崩れを起こし始めた時期である。

シャープは先駆者であったが、他の国内企業もマスク生産に舵を切りアパレルメーカーが布マスクなどを販売しはじめた。

中国産マスクや布マスクは様々な店舗で数多く見かけるようになったが、国産の使い捨てマスクは未だに入手が容易ではない、という状況である。アベノマスクは未だに配布されている地域とそうでない地域があるという現状である。

フェイズ5:6月~(予想)

供給過剰期に入る(と予想する)。ドラッグストアやコンビニにも品ぞろえが戻り、国産マスクもまずまず手に入れやすくなる時期が遠からず訪れるだろう。中国産マスクは更に値崩れを起こし、高価な国産マスクVS安価な中国産マスクVSファッション目的の布マスク、という構図となる。

誰が得をして、誰が損をしたのか?

以上、マスクの需要と供給をめぐる狂騒曲を振り返った。この狂気めいた騒動の中で、一体だれが得をして、だれが損をしたのだろうか?という冷徹な事実を考察したい。

最も得をした者:中国人転売ヤ―/中国企業

フェイズ1で、日本国内のマスクを買い占め、中国へ転売した者たちは、大きな利益を上げたことだろう。さらにフェイズ3で、中国国内で余ったマスクを日本の小売業者に直接流通させ、再びおいしい思いをした者もいるかも知れない。日本人転売ヤ―も一時期利益を上げただろうが、国民生活安定緊急措置法の施行後はそれも困難になった。

2番目に得をした者:フェイズ3の一時期のみ中国産マスクを高額販売した小売業者

中国産マスクが4000円~5000円の高価格帯で売れたのは、4月中旬~下旬までの2週間程度の期間だったと思う。その時期のみマスクを仕入れて販売した者は、大きな利益を上げただろう。

最も損をした者:中国産マスクを大量に仕入れたもののフェイズ3の間にさばききれなかった者

仕入れ価格も相当ぼったくられているはずなので、値崩れを起こし始めたフェイズ4以降、中国産マスクの在庫積み残しがある小売業者は、大きな損をしたことだろう。その利益は、中国企業に吸い上げられたも同然だ。

2番目に損をした者:フェイズ3の高値の時期に中国産マスクを慌てて購入した個人

実を言えば、私も買ってしまった口であるw

もう少し待てば、値崩れを起こして半額以下で買えたわけだ。投資に失敗するタイプ 笑  せめて、アベノマスクがこの時期に届いていれば・・・!

中国企業と小売業者の利益に貢献した形である。

これから損をするかも知れない者:国内マスク製造業者

いずれ供給過剰になることは目に見えていたので、どの企業も当初はマスク生産に二の足を踏んでいたわけだが、その問題はこれから現実になると予想される。安価な中国産マスクに対抗できるかどうか?コロナウイルスの脅威はみんな分かったはずなので、国産マスクというだけでバリューはある。それでどこまで戦えるか。

シャープのような企業が損をするような世の中にはなって欲しくない。政府は、今後数年間、中国産マスクに関税をかけたらどうだろうか?

もともと国内でマスクを生産していた企業は大きく利益を上げたと思われる。実際にユニ・チャームの利益は昨年の1.5倍だったと聞く。しかし、これは本業で利益を上げているにすぎないし、価格を釣り上げたりもしていないだろうから、この騒動で「得をした者」とは考えないこととする。


正しい行動戦略はどうだったのか?

国内小売業者であった場合、4月中旬ごろから、きっと怪しい流通経路から「今ならマスク大量に仕入れることができまっせ」と話があったのだと推測する。ここで欲をかいて大量にマスクを仕入れていたら、フェイズ3の間にさばき切れず赤字を出すことになったであろうから、欲をかかずに2週間ほどの”黄金のボーナスタイム”にさばき切れる程度のマスクを購入して売り切り、早期戦線離脱することが正解であった(と今だからこそ言える)。

他方、個人であった場合には、本来マスクを取り扱っていないようなお店でマスクを目にし始めたときに、中国国内でダブついたマスクが溢れてくる近未来を予想して、もう少し買いを待つべきであった。

しかし、フェイズ3の時期にはまだまだマスクなどどこに行っても売っていなかったから、砂漠で水を手にしたような気持ちになってしまうのもやむを得ない・・・(売る側は、砂漠で販売する水を手に入れたような気持ちだっただろう)。水は、増え始めればあっという間に飽和する。これは「おいしい話」に常に共通する問題のようにも思える。

振り返ってみれば、ビットコインに代表される仮想通貨バブルのときといくつかの共通点があるように思う。「ビットコインが儲かるらしい」という話が、一般人の耳に達した時期というのが、「今ならマスクを大量に仕入れることができまっせ」と耳元でささやかれた時期に類似する。”黄金のボーナスタイム”は短い。短期間で儲けて、早期戦線離脱するのが、バブル期における「投資の原理原則」なのだろう。

「今ならマスクを大量に仕入れることにできまっせ」を、フェイズ4に入ってから耳にして投資をした者は、ババをつかまされるということだ。今後もきっと同様のことは起こるに違いない。

その他の今回の教訓

安倍総理が「布マスクを各世帯に配布する」と胸をはってから2か月ほど経過してもなお、マスクが届いている地域とそうでない地域がある。シャープがマスク生産に参入すると表明してから、一般向けの販売が始まるまで2か月程度の期間を要した。このそれぞれの「2か月」というタイムスパンは、覚えておけば今後同様のことが起こったときの未来予測に役立つかも知れない。

最後に、全体としての教訓を挙げるとするならば、「おいしい儲かり話が実際に儲かる期間は短い」ということだと思う。おいしい話は、早く耳にした者ほど得をして、遅く耳にしたものがババを引く。我々一般人のもとまでおいしい話が回ってくるということは、既にバブルは最終局面を迎えていると考えた方が、きっと傷は浅い。









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