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今さら聞けない「覇権戦争」②:すべての根幹を成す科学技術

「覇権(はけん)戦争」に関して、一つ前の記事では、

覇権とは「オレ流のルールでやれ!」と言える権利であること

覇権を構成するのに「軍事」「経済」「科学技術」の三つの要因があること

を述べた。

本記事では、国家の力の最も根源的な力の源泉である「科学技術」について考えてみたいと思う。

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日本国は科学技術の重要性を再認識するべし

中学生ごろの歴史の授業で、「鉄を発明したヒッタイト族」が古代オリエント世界に君臨したということを習ったと思う。通説では、鉄器と戦車による圧倒的軍事力で、ヒッタイト族は広大な帝国を築いたという。

今でこそ当たり前のように世界中で使われる鉄だが、鉄のない時代に、鉄を持った民族が出てきたら、そのようになるだろう。鉄の発明は、歴史を変えた。

そして我々の日本においても、いち早く「鉄砲」という兵器を導入した織田信長が、天下を統一した。鉄砲のなかった国において、圧倒的な数の鉄砲を持つ軍が出てきたら、当然のことながら無敵だろう。

このように、優れた技術を最初に獲得した国は、他国に対して圧倒的に優勢になる。技術革新を軍事利用すれば軍事覇権を、技術革新を商品化すれば経済覇権を、それぞれ生み出す大きな要因となるのだ。

つまり、優れた科学技術とは、国家の力の源泉そのものだ。鉄のない時代に鉄を生み出そうという努力、それを怠る国に未来はない。

アメリカの力の源泉

19世紀末~20世紀初頭にかけて、アメリカでは数々の発明家が活躍し、イノベーションを引き起こした。そして、科学技術をリードするのがアメリカであるということが決定的になったのが、第二次世界大戦である。

ここに興味深い資料がある(Webファイルから下記引用)。

大戦期の、ドイツとアメリカにおけるノーベル賞学者の推移である.

①1901年~1938年 ドイツ35人  アメリカ14人

②1943年~1955年 ドイツ5人    アメリカ29人

①の時期と、②の時期でドイツとアメリカのノーベル賞科学者の数が逆転している。

ジョジョの奇妙な冒険の第二部に登場するシュトロハイム少佐は、「我がドイツのォォォ~科学力はァァァ~世界一ィィィ~!!」と言っていたが、それは時代的に正しいようだ。少なくとも、①の時期・1938年までのドイツは数多くのノーベル賞学者を生み出していた。

しかし、ヒトラーの台頭により、数多くのユダヤ人学者がアメリカへと渡る。アルバート・アインシュタインをはじめ、Stern, Born, Haber, Wieland, Meyerhof, Linpmannらの名が先の資料に挙げられている。

またノーベル賞学者ではないが、ノイマン型コンピューターを生み出した天才フォン・ノイマンも戦前にドイツからアメリカへと移っている。

皮肉なことに、ユダヤ人学者を迫害したヒトラーは、アメリカに力の源泉を与え続けていたということになる。

その結果が、②の時期におけるノーベル賞学者の数の逆転現象だ。

科学技術こそ、中長期的に国家の力の源泉となるのだ。優秀な科学者を育て、集めることこそ、国力の源となる。

その後、世界にイノベーションをもたらした技術の多くはアメリカ合衆国によって生み出され、現在の世界覇権国家としての地位を確固たるものとしている。

アメリカの力の源泉に気付く中国と、気付かぬ日本

アメリカは莫大な科学技術予算を費やし、あらゆる分野で先進的な研究を行っているが、一番すごいと思うのは世界中から優秀な頭脳を集めているということだ。

日本からも優秀な研究者はアメリカに「留学」という名で学びに行く。日本とは予算がケタ違いであるから、できる研究の幅も広い。そうして、アメリカは世界の知の総本山として君臨してきたわけである。

中国はこの仕組みに気付いたからこそ、千人計画によって世界中から優秀な頭脳を集めているのだと思う。これは、中長期的に、アメリカに代わり知の総本山を目指すということの現れではないだろうか。

つまり、科学技術覇権への挑戦である。

一方、日本は全く逆の方向へと向かっている。科学技術予算は年々減少の一途をたどり、日本国内で研究を行うのは青色吐息。規模の大きな研究をやろうと思えばアメリカか中国へ行かざるを得ない。

これって、有能な科学者・技術者を迫害して追い出していたヒトラー政権下のドイツに似ていないだろうか?

歴史に習えば、今後しばらく日本の科学技術は低迷することになる。これは、日本人が本当に危機感を持つべきことだと思う。

科学・技術への支出は「赤字」ではない。国力をつけるために避けては通れない「投資」なのである。

研究・技術開発に無駄なものはない

研究開発、技術開発に失敗はつきものである。

一つの成功の背景には百の失敗があり、社会を変革するほどの大きなイノベーションの背景には数万の失敗がある。この失敗を「無駄」と考えるならば、そもそも成功への道はない。

研究開発、技術開発は短期的なコストパフォーマンスだけでは図れないものなのだ。

従って、科学技術分野にコスト感覚を持ち込むというのは誤りである。科学技術分野こそ、あらゆる犠牲を払ってでも投資するべき分野なのだ。

「鉄」のない時代に、コスパが悪いからといって「鉄」を生み出そうとする努力をやめてしまう国に未来があるだろうか?

それにそもそも科学技術に無駄なものなどないと個人的には思っている。例えば、戦艦大和は時代遅れの最強兵器で、たいした活躍の場を与えられず最後は沖縄特攻に使用されたとされるが、戦艦としては役に立たなかったかも知れないが、大和を造った造船技術は戦後日本が造船大国になる礎になった。科学や技術の進歩のための努力自体が無駄になることは決してないのだ。

日本人にこそ、特に政治家・官僚・財界人の人々こそ、科学技術が全てを生み出す根幹(=覇権の源泉)であることを理解して欲しいと切に願う。

現代の主要なバトルフィールドは2つ

そして現代において、「次の時代の覇権」を生み出す科学技術の主戦場は次の二つであると思う。ここは科学予算の少ない日本も気合いを入れて戦うべき分野だ。

①量子コンピュータ

量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターが数万年かかる計算を一瞬でこなす能力をもったコンピューターである。

量子コンピューターが実用化されたあかつきには、日本が誇るスパコン「京」や「富岳」など100円ショップで売っている電卓程度の値打ちのものに成り下がってしまうだろう。

「量子コンピューター」は、鉄のない時代に鉄を生み出す以上のゲーム・チェンジャーになる。もしもこの技術が悪意ある国によって独占されてしまった場合、もはや軍事覇権も経済覇権もなく、世界はその国に屈服せざるを得なくなってしまうのではないかと懸念される。

②再生可能エネルギー(脱炭素化技術によるエネルギー)

もう一つの分野が、再生可能エネルギーである。

木をくべて燃料にしている文明と、石炭を使った蒸気機関を動力にしている文明が激突したら、どちらが勝つだろうか?

石炭を使った蒸気機関を動力にしている文明と、石油を使ったガソリン・エンジンを動力にしている文明が激突したら、どちらが勝つだろうか。

人類のエネルギー源は、ザックリというと木材→石炭→石油と変化してきた。ポスト・化石燃料の動力を造ることは、時代を作り替えるゲーム・チェンジャーとなることである。

私が再生可能エネルギー(脱炭素化技術)研究を重視するのは、地球温暖化問題のためではなく、それが新たな技術覇権となる可能性を秘めているからだ。

「石油なんて非効率だよね~」という時代が、いずれやってくる。その時代に備えなければならない。(念のために言っておくと、筆者は太陽光、風力、EVに関しては懐疑的な立場である)

そして、この分野に関しては、日本はまずまず有望な技術がいくつかある。

カーボンリサイクル技術事例集:

だが、お上品にただ研究開発を行うのではなく、アメリカや中国のように、科学技術覇権を取るんだ!というガッツを持って取り組んで欲しいと思う。

次の記事では、技術覇権の移り変わりの歴史をもう少し詳しくみてみたいと思う。


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