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恐怖指数(VIX)と金価格でみるウクライナ危機

VIX(ビックス)という言葉をご存じだろうか。VIX=Volatility Index(変動指数)、通称「恐怖指数」で、株式市場に対する「恐怖感」を最も反映して動くとされている数値である。

「恐怖指数」たるVIXと、「有事の金(ゴールド)」で、ウクライナ危機前後の株式市場を独自分析してみたいと思う。(ロシア侵攻前後の記録の振り返りです)

VIX(恐怖指数)の動き

まずはVIXの動きをみていく。参考にするのは、VIXと連動し、かつ我々も投資ができる国際ETF「VIX短期先物指数」である。

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4月以降は中国の大規模ロックダウンやアメリカの利上げなども大きく影響するため、3月末までの期間に限定して考察を行った。増減ありつつも、大きく2つの山がある様子がわかる。

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これがウクライナ戦争初期における「市場の恐怖」の軌跡である。期間中の大底は2月10日(1765)、天井は3月8日(2677)である。

ここに、実世界で起きた出来事を併記してみる。

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この流れを、落ち着いてじっくり眺めてみると、実に示唆深く思えてくる。

2021年末からロシアはウクライナ国境に10万人を超える軍勢を集結させ、緊張が高まっていたアメリカ1月22日にウクライナのアメリカ大使館の家族に国外退避勧告を出している。その流れの中で高まっていったVIXの山は、北京五輪開始に向けて一旦底へ向かい、一つ目の山を形成している。

続いて、アメリカ大使館のキーウ(キエフ)からの退去が決まったのが2月13日。そして「2月16日にロシア軍が侵攻する」との情報が流れて緊張が高まった。このあたりから、VIXの二つ目の山が高まっていく。

実際のロシア軍の侵攻は2月24日。SWIFTからの排除決定が2月28日。このころには、VIXは山の中腹あたり。そして3月8日に天井をつけることとなる。

このとき未だ戦争は終結の糸筋さえ見えず、長期化の様相を呈していた。にも拘わらず、VIXは下げトレンドに転じている。

これは市場分析するうえで非常に興味深いことだと思う。

改めてまとめてみると、

・実際のロシア軍侵攻時はVIXの山の中腹あたり(すでに上げトレンドは始まっている)

・戦争の長期化が予想される段階でVIXは既に下げトレンドになっている。

・ロシア軍侵攻から山のピークにいたるまでの期間は、12日間(底からピークまでは16営業日)。

このことから、素人がニュースを後追いしてVIXで利益を生み出すのは極めて難しそうである。未来の危機を予測しながら購入し、実際に危機が起きたあとには比較的早期に売却する必要がある。

VIX指数 VS 日経平均

次に、VIX短期先物指数のグラフに、日経平均の推移を重ねてみる。

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VIX(青)と日経平均(オレンジ)はほぼ逆の動きをしていることが分かる。相関係数は驚異のR=-0.85。ほぼ完璧な逆相関関係。

やや見にくくなるが、実際に起きたイベントと重ねてみるとこうなる。

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このことから、日経平均についてはVIXと逆のことが言える。

・実際のロシア軍侵攻時は既に下げトレンドが始まっている。

・戦争の長期化が予想される段階で上げトレンドになっている。

・ロシア軍侵攻から谷底にいたるまでの期間は、13日間。

このことから、やはり素人がニュースの後追いで株の売買をするのは難しそうだ。

ただ、一つ注目すべきことがあるとすれば、市場的な恐怖のピークは3月9日、株価の底は3月9日であったということだ。原発施設を制圧したり、攻撃したりしているころだ。まだ停戦の目処など全くたたず、ロシア側は更に攻撃をエスカレーションする可能性すらあった時期で、トレンド転換を引き起こす象徴的出来事があったわけでもない。

ロシアのデフォルト危機もささやかれていた。にも関わらず、VIXが反転下落に転ずるということは、「市場がロシア侵攻の恐怖を織り込んだ」ということを意味する。ロシアの侵攻開始が2月24日、市場における「恐怖の賞味期限」が、12~13日間程度で切れたということではないだろうか。

恐怖の中、株価は上昇に転じうる。


VIX指数 VS 金価格

次に、VIXと金価格の連動性について分析してみる。

VIX短期先物指数と金価格連動型上場投信の値動きを重ねて表示したのが下の図である。

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明確に3つの期間(フェイズ)に分けることができるということにお気づきだろうか。

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①②③の期間で明確にVIXと金価格の連動性が異なる。①の期間の相関係数はR=0.03、つまり連動性はほとんどない。②の期間の相関係数はR=0.90、極めて高い相関、すなわちほぼ同一の動きを示している。③の期間の相関係数はR=-0.74、一転して高い逆相関、すなわち逆方向の動きを示している。

①無相関、②正相関、③負相関と、3つのフェイズで全く異なる関連性を示しているのが誠に興味深い。

ちなみに②の期間は2月10日~3月10日である。ロシア軍のウクライナへの侵攻の可能性が高まっているという報道があった時期から、VIXがピークをつけて下げに転ずるまでの時期である。

VIXは現実の危機の収束に先んじて下落を始めるが、金価格は現実の危機を反映して上昇を続ける。結果的に見れば、恐怖指数が一時的に高まったにもかかわらず、金の動きが乏しかった①の期間が、金の仕込み時だったといえる。

世界情勢を読み、VIXや金で利益を上げれるか?

金価格と日経平均の関連性を分析しながら、どのような教訓が得られるかということを、リーマン・ショックのときと、コロナ・ショックのときをケーススタディとし、考察を行う記事は以前にエントリーしている。

当ブログ記事は、素人が世界情勢をウォッチし、独自分析しているものであるが、その目的の一つが「世界情勢を読んで株で儲けることができたら良いな~」という淡い期待である。

「有事の金」という言葉があるように、金価格は世界的危機に応じて変動することがまま見られるわけだが、VIXはよりダイナミックな動きをするため、投資先として危険はあるが興味深くもある。

今回のウクライナ危機について、VIXの動きの一つのモデルとして、ここにまとめておく。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。我々は愚者であるため、これを疑似経験とできる機会が訪れればと思う。

その後のVIXと金の経過(2022年12月30日追記)


この記事は、実は2022年4月ごろに作っていたのだが、アップせずにすっかり忘れ去っていました(^^; 

2022年末に今年を振り返っているときに発掘したものなので、2022年末の情報を書き足しておく。

おかげで、その後の長期経過を復習することができるわけだが、その後も下げて上げてを繰り返し、EFT-VIXの数値は5月10日に2022年最高値の2758円をつけた。

その次のピークは6月14日2663円、その後は下落が続き8月16日にボトム1735円、再び上昇して10月15日2529円、そして年末12月22日に1461円と「山」と「谷」を繰り返した。2022年末の時点で、ウクライナ紛争終息の目処は立っていない。

一方、は小刻みに変動し、4月19日に高値6385円を記録、下げて5月19日に5864円、上げて6月13日に6323円、下げて8月2日に5808円、以後は上げて下げての変動周期が短く、同じレンジを上下している。VIXと連動している部分もあるが、基本的には別々の動きをしていると見れる。

ぜひ、未来の羅針盤の一つに!


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