見出し画像

マジョリティ?マイノリティ?~コスモHDが採用した「マジョリティー・オブ・マイノリティ(MoM)」とは!?~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業
弁護士 山﨑俊吾(東京弁護士会所属)


1. はじめに

6月22日、コスモエネルギーホールディングス株式会社(以下、「コスモHD」といいます。)が、株主総会において、有事の買収防衛策を導入しました。

コスモHDについては、これまで、株式会社シティインデックスイレブンス(以下、「シティ」といいます。)による株の大規模な買付が報道されており、注目を集めていましたが、今回、コスモHD側から、対抗策が打ち出されたことになります。

それだけでも話題のニュースではあるのですが、報道を見ると、コスモHDが採用した株主総会での決議手法が注目されています。

それが、「マジョリティー・オブ・マイノリティ」(以下、「MoM」といいます。)と呼ばれる決議方法です。この、MoMとは、一体、どういうものなのでしょうか。今回は、MoMについて、解説してみたいと思います。

2. MoMとは何か?

MoMとは、株主総会での決議において、以下の議決権を除外した議決権の過半数による決議方法をいいます。

  • 買収者

  • 買収の対象となった会社の取締役

  • これらの関係者の議決権

つまり、買収に関して利害関係を有する株主を排除し、それ以外の株主の過半数(マジョリティ)によって買収の許否を判断するということです。

なお、利害関係者以外を「マイノリティ」と呼んでいることになりますが、実際、数の上で少数派(マイノリティ)という訳でもないので、少々ミスリーディングなネーミングかもしれません。

3. MoMの評価

素朴な疑問として、株主総会は、株主で決議をする場ですから、勝手に一部の者を決議から除外するなどということが認められるのか?と思われるかもしれません。

この点、前提として注意が必要なのは、MoM決議が語られる文脈は、会社法上、株主総会決議を経ることが必須のケース、という訳ではありません。いわば、必須ではないけれども、株主の意向を聞くために決議をする(勧告的決議)、という話です。そういう意味では、あえて株主の意思確認というプロセスを経て進めているという観点から、望ましい側面はあります。

ただ、そうはいっても、意向を聞く株主は限定されますし、それを決めるのは買収の対象となった会社です。安易なMoMの使用は、不適切な買収防衛策の導入に対する免罪符のようになってしまうかもしれません。つまり、決議要件が恣意的に設定されるおそれや、買収に対する対抗措置の発動が濫用されるおそれがある、という言い方もできます。経済産業省も、MoM決議による買収防衛策の発動は、非常に例外的かつ限定的な場合に限り認められるべきだという見解を示しているところです[1]。

4. 判例

日本で初めてMoMによる決議方法が用いられたのは、2021年10月22日に株式会社東京機械製作所(以下、「東京機械製作所」といいます。)で開催された株主総会だと言われています。このケースでは、その後、買収防衛策(差別的新株予約権無償割当)の差止が裁判所で争われました[2]。その中では、MoMという決議方法をとっている点で、株主平等原則違反などの指摘も出されました。しかし、東京高等裁判所は、当該事案の個別具体的な事情に照らして、東京機械製作所がMoM決議により買収防衛策を導入したことについては、株主平等原則に違反しないと判断し、最高裁判所も高等裁判所の判断を支持しました。

5. 最後に

コスモHDのケースでは、今後、シティが、差止請求等の法的手段を講じるかどうかは分かりません。もし講じられた場合は、どのような司法判断が示されるのか、注目です。その際には、MoM決議を経て、コスモHDがシティを他の株主と差別的に取り扱ったことが、果たして「株主の平等原則」に反しないか等について、今回の個別具体的な事情に照らして判断することが予想されます。

以上


【注釈】
[1] 経済産業省は、6月8日、公正なM&A市場における市場機能の健全な発揮により、経済社会にとって望ましい買収が生じやすくなることを目的に、「企業買収における行動指針(案)」に係るパブリックコメントの受付を開始しました(経済産業省「「企業買収における行動指針(案)」に係るパブリックコメントの受付を開始しました」2023年6月8日(https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230608002/20230608002.html ,2023年7月3日最終閲覧)。)。
この「企業買収における行動指針(案)」において、経済産業省としては、いわゆるMoMによる買収防衛策の発動が許容され得るのは、買収の態様等(買収手法の強圧性、適法性、株主意思確認の時間的余裕など)についての事案の特殊事情も踏まえて、非常に例外的かつ限定的な場合に限られるべきであるという見解を示しています(経済産業省「企業買収における行動指針(案)」2023年6月8日(https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230608002/20230608002-3.pdf ,2023年7月3日最終閲覧)45頁参照)。

[2] 東京地決令和3年10月29日金融・商事判例1641号30頁、東京高決令和3年11月9日金融・商事判例1641号10頁、最三決令和3年11月18日金融・商事判例1641号48頁


お問い合わせはこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?