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生成AI(AIシステム)と著作権及び不正競争防止法

内閣府知的財産戦略推進事務局 御中
AI時代における知的財産権に関する意見

提出する意見は所属組織、研究会や団体と無関係な個人の意見です。
この意見では、ChatGPTを使用しておりません。

Ⅰ. 生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について

① 生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。

【意見】1 価格形成を市場に委ねる

 政府は、学習対象のコンテンツ提供者(著作者,著作権者)、AIシステム開発・運用者及びAIシステムの利用者が、市場において対等な立場で対価を定め、自由な市場での価格形成がなされるような政策を採用すべきである。

 AIシステムは、ここでは、ユーザーの入力に応じて文章、プログラム、イラスト、絵画、写真、映像、動画、音声、音楽、実演などのコンテンツを出力するシステムとする。大規模言語モデルによる生成AIはAIシステムに含まれる。

【理由・根拠事実】1 
 市場と法の役割分担として、自由民主主義社会では、自由な市場における価格形成が重要である。権利制限規定は、市場が失敗する際に役立つようにデザインすべきであり、価格形成の妨げになってはならない。

【意見】2 価格形成状況の調査

 政府は、学習対象のコンテンツ提供者(著作者)、AIシステム開発・運用者及び利用者が、対等な立場で市場で価格形成をしているか、継続的に情報収集し、その統計を公開すべきである。

 学習対象のコンテンツの入手方法、取引の有無やプロセス(契約締結過程)、追加学習(二次学習,fine tuning,検索拡張生成でのユーザー入力に応じたサーチ・スクレイピング等を含む)、AIシステムが情報処理することで利用される著作物のマクロ的な量の推計、などを調査できるとなお良い。

 この価格形成状況の調査は、AI利用に関する安全保障、人々の安全、セキュリティ、投資、研究開発状況の調査と同時に行うことも想定できるが、産業としての発展を促すには、複雑に関連し合う主体間における取引状況や価格形成状況の調査が欠かせない。

 国家にとって重要な主題については、統計調査が必要である。

 例えば、学習に関する価格形成に焦点を当てて調査をすると、2023年10月末までに下記のような情報を発見できる。

 (1) Adobeは、画像や写真(コンテンツ)の販売サイトへコンテンツを投稿したコントリビューターに対して、2023年9月、学習したことに対するボーナスを支払った。対価額は一方的に定められた額の模様。

https://helpx.adobe.com/jp/stock/contributor/help/firefly-faq-for-adobe-stock-contributors.html

 (2) OpenAIやMicrosoftやGoogleが個別のコンテンツユーザーに学習の対価を支払ったという情報は発見できない。(イニシャルの支払い無し)

 (3) また、AIシステム企業が、生成AI画像が出力するごとに、又は学習による生成AIモデルが稼働する期間ごとに、学習したコンテンツの権利者に対価を支払ったという情報は発見できない。(ランニングロイヤリティの支払い無し)

 (4) 学習(適切なデータインプット対策)については、海賊版のコンテンツを利用している事例が発見された。

 (5) 村上春樹の小説を含む海賊版が学習対象となったという分析が報道された(Book3)。

 (6) ポケモンの公式設定画のまとめを、権利を持たない主体がCC-0(パブリックドメイン)で公開している事例も報告された。つまり、CC-0という仕組みが悪用されており、CC-0の画像で学習したことは著作権についての許諾があることの裏付けとならなくなってしまっている。

 (7) Adobe社は、Adobeストックのコントリビューターに、オプトアウト(学習対象から選択的に外す登録)を認めていない旨、公表している(「AI/ML トレーニングで使用されている Adobe Stock コンテンツをオプトアウトできますか?」)

https://helpx.adobe.com/jp/stock/contributor/help/firefly-faq-for-adobe-stock-contributors.html

 (8) Adobe社は、著作権処理済みのクリーンなAIと標榜しているが、Adobeストックに未許諾が想定される日本の著名キャラクターの画像が含まれている。

 (9) また、著作者から指摘があればストックから海賊版の画像を削除するという仕組みで、Adobeストックにあるすべての画像がクリーンであるという保証はない。

 例えば、Adobe社は「なぜ、AI生成のAdobeストック画像に、私の許可なく私の名前が掲載されているのか、説明してもらえる?」とSNS (X) で指摘されている。

 Adobe公式の^BT氏は「これは生成AIのコンテンツポリシーに反するものです。私たちのチームにこの件をエスカレーションし、確実に対処するようにしました」と反応した。

 さらに、「私たちのチームからの知らせによると、このコンテンツは削除されました。もしまだAdobeストックを検索した際にこのコンテンツが表示されるようでしたら、引き続きフォローアップを行いますので、ご一報又はリンクの共有をお願いいたします」と報告している。

 (10) AdobeのAIシステムは、コントリビューターがAdobe Stockに登録した写真や画像を学習対象としており、そのAdobe Stockには、このように、違法アップロードされた画像が含まれている。著作権者が気づけば指摘をし、指摘された後にAdobe Stockから削除されている。

 しかし、2023年のAIシステムの技術では、AIシステム側では、学習後に学習したデータを個別に削除することはできない。

 (11) さらに、Adobe社は、生成AIによるフェイク画像を販売していると、報道されている。

https://www.crikey.com.au/2023/11/01/israel-gaza-adobe-artificial-intelligence-images-fake-news/

 Adobe社の生成AIはAdobeストックに蓄積される画像を学習しているから、このようなフェイク画像も学習している可能性があり、学習対象となっているのかどうか、透明性はない。

 (12) Stable Diffusion (SD) を提供しているStability AI社は、上院司法委員会の公聴会で、数十億の画像を盗んだことを認めた。

 (13) SDは、LAIONという名のデータセットを学習したことが知られている。そのLAIONには、大量の合法に許諾されたとは想定しずらい漫画の画像が含まれている。

 (14) Getty Images 社は、高品質で商用印刷で利用できる写真のストックをユーザーに販売している。このGetty社は、自社のストックサービスにある1200万枚以上の画像をStability AI社が無許諾で学習したとして、著作権侵害で訴えた。

 Getty社はその後生成AIに参入し、学習への寄与等から、生成AIで出力された際に、ユーザーからの対価1ドルのうち30セントを支払っているという。

 (15) また、OpenAI社のChatGPTは、2021年1月以降の最新のデータを持っていないことになっているが、OpenAI社は複数のIPアドレスから執拗にスクレイピングしていると、報告されている。バフェット・コードは、コンテンツの質の高さで人気のサイトである。

 (16) OpenAI社は、AP通信と提携し、AP通信の記事利用に対して対価を支払うと報道された。金額は明らかになっていない。

 (17) AdobeストックやGettyは写真や画像の提供者に何らかのタイミングで対価を支払っている。OpenAI社はAP通信に記事利用の対価を支払う。
 一方、GoogleやMicrosoftは、コンテンツの学習や利用に対して対価を支払ったことがあるかどうか不明である。

 【理由・根拠事実】2 ハードローからガイドライン、QAの公表など、様々な選択肢があるが、市場で対等な立場での価格形成がなされていれば国家が介入する必要はない。入手できる情報に非対称があったり、市場が失敗している場合には、法制度での介入の根拠がある。

 さらに、望ましい統計を検討することを通じて、AIシステム開発企業等に求める透明性報告書の記載項目も整理されていく。

 また、取引価格の相場は、AIに関する知的財産訴訟における損害額の予見にも有用である。

【意見】3 学習させない権利

 著作権者は、その著作物について、AIシステムに学習させない権利を、明確に行使できる形で、持つべきである。

 著作権者が、AIシステム開発・運用の組織との関係で、学習前の取引において、学習させない権利を行使できるようにすることで、自由な市場における価格形成がなされることを促すべきである。(真の目的は自由市場での価格形成)

【理由・根拠事実】3
 条件に見合わない取引を拒絶することは、自由な市場において価格形成を促すための最も基本的な権利である。

 自由な市場における価格形成は、著作物の「潜在的な価値」の一部が現実の経済的な価値や著作者の名誉に転換される交換であり、貨幣価値による対価額での交換は、民主的な自由資本主義社会を成り立たせている。

 著作物の潜在的な価値を考慮するならば、AIシステム(生成AIモデル)が、1度の利用か、無制限の回数の利用か、利用ごとの対価は発生するか、翻案や二次的利用(小説から映画など)がなされるか、翻案の対価は別途発生するか、著作権者が好まない業種や商品への利用を回避できるのか、等に応じて、イニシャルフィー(学習を許諾する際の対価)が定まるだろう。

 AIシステムは、2023年、イラストから写真風へ、写真風や絵画から文章へと自動変換できるため、学習されてしまえば著作権者は二次利用をコントロールできなくなる。
 さらには、提供した画像は素材となり、著作権で保護される範囲を突破する出力を生み出していく。

 私的利用との関係では、私的利用は自由であるはずだが、現実には、コピープロテクト技術で複製回数やアクセス数を制御している。コピープロテクト技術は、対価を低額に抑えるための技術である。しかし、AIシステムに対しては、一度学習されてしまうとその後の利用を制限できない。
 学習されてしまうと、アダルト利用やディープフェイクへの利用もコントロールできなくなる。そのような不祥事を発生させたAIシステムから画像を引き上げることも、現在は、事実上できない。信頼できないAIシステムに一度学習されてしまうことは、海賊版がインターネット上を彷徨う以上の物理的な被害を生み出すポテンシャルとなる。

 そのようなリスクに見合う対価が支払われないのであれば、学習させないという判断は、人間中心の社会であるとするならば、極めて合理的である。

 例えばAdobe社は、画像提供者に対して学習したことによるボーナスを支払った。しかし、オプトアウトの機能がないため、画像提供したコントリビューター(著作権者)は、Adobeによる一方的な対価での金額を受け入れる以外になく、対等な立場での自由な市場による価格形成がなされなかった。

 著作権者に「学習させない権利」を持たせるという意見の目的は、対等な当事者間の自由市場での価格形成であり、形式的に学習させない権利が認められることではない。

 著作権が機能している自由な市場では、著作権者は、利用希望者に対して、どう使われるかの条件に応じて対価額を定めることができ、その対価を得られないのであれば提供しない(学習させない)ことができる。この対価は自由な市場において多数の取引によって価格形成されていく。著作権の損害額は、この市場における価値に基づいた著作権者や侵害者の利益に応じて計算される。

 例えば、学習させない権利を著作権者が持つ場合、生成AIモデルでコンテンツを100回使われたら学習の効果を削除して欲しい、という要望があみ出されることも想定できる。そのようなニーズが多ければ、一定回数後に学習効果を消滅させることができるAIシステムを開発した企業が、著作権者からの支持を集め成長するだろう。

 そのような市場における漸進的な試行錯誤と、この市場を前提とした知的財産法学の漸進的な試行錯誤が望まれる。

【意見】4 著作物の潜在的な価値と権利制限規定

 権利制限規定の解釈に際して「著作物の潜在的な価値」の考慮を必須とすべきである。明文規定があると良い。

 【理由・根拠事実】4
 著作権者は、市場で獲得し得る対価が、著作物の潜在的な価値に見合わないのであれば、その取引を拒絶できる。特に、AIシステム企業との契約という、新しい利用態様で、相場が形成されていない場合であっても、著作物の「潜在的な価値」を考慮するプロセスがあれば、学習の対価が支払われる未来を構想できる。

 一方、著作物の潜在的な価値を考慮しない権利制限規定は、未来の自由な市場における価格形成を妨げてしまう。実際、文化庁著作権課「令和5年度著作権セミナー AIと著作権」(2023年6月)においても、学習自体は表現を享受していないから「著作権者の経済的利益を通常害するものではない」(スライド36)と整理されている。

 しかし、その後、学習した画像の提供者に学習に対する対価を支払った事例が生じている。学習させること自体の「潜在的な価値」が、AIシステムの学習市場の出現により明らかになった。

 日本国内では、多くの組織やユーザーは、対価なしに学習できると信じてしまい、市場における価格形成がなされず、市場を失敗させてしまった。国家(法制度)が、国際的潮流に反して、日本においてのみ、学習されることに対する対価を零円にすべきではなかった。

 どのようにすれば著作者や著作権者が「学習させない権利」を自由な市場において行使できるようになるか(意見3)は、市場動向の情報収集(意見2)に応じて選択されるべきものと思われる。単純に30条の4を削除すれば実現するというタイプのものではないと個人的には想定している。

 30条の4に「潜在的価値」の考慮事項を追加したり、同一性保持権が30条の4の適用外(制限されない)という解釈を政府が公表するなり、AIシステム開発運用企業に透明性のあるガバナンスとしてオプトアウトの機能を義務付けるなりの政策も考えられる。

【意見】5 著作物の潜在的な価値と著作権者の利益

 権利の制限を吟味するに際して、著作物の潜在的な市場や価値、特に「著作物の潜在的な価値」を考慮していれば、高性能なAIシステムの登場に際して、学習許諾に対する対価(学習許諾に関する市場)という著作物の新たな(潜在的な)価値を想定できた可能性が高い。

 しかし、30条の4には「著作物の潜在的な価値」を考慮すべき旨は定められておらず、著作物の潜在的な価値を考慮するどころか、著作物の価値を強制的に零円と説明してしまい、学習許諾に関する市場での価格形成を妨げ、市場を失敗させてしまった。

 米国フェア・ユースでは「利用された著作物の潜在的な市場や価値に与える利用の影響」という、著作物の潜在的な価値が考慮事項として明文化されている。

 著作物や著作権の価値は、著作物や著作権そのものを分析しても判明しない。著作権の価値は市場の取引価格を媒介して実現する。従って、著作物の潜在的な価値の吟味に際しては、どのような市場が生じ得るかの考慮が求められる。米国のフェア・ユース規定は、この潜在的な価値を考慮できる。

 私見では、だからこそ、市場の失敗に対してフェア・ユースが機能すると想定している。フェア・ユース規定による権利制限が、理想的な市場の機能を創り出すのである。

 一方、著作物の潜在的な価値を考慮しない制限規定は、市場を失敗させてしまった。

 はたして、立法時に、米国フェア・ユースにある「著作物の潜在的な価値」を30条の4に考慮事項として含めることを、検討したのだろうか。

 いずれにせよ、学習への対価の支払事例が現実の経済社会で生じた以上、同種の学習は、著作権が制限されると学習の対価を得られなくなるという「著作権者の利益を不当に害する」こととなる。

【理由・根拠事実】
 著作物の潜在的な価値と、学習許諾市場が生まれ始め対価の価格形成が始まっていることとの関係で、「著作権者の利益を不当に害する」ことに含まれる類型を改めて整理すべきである。

 著作権等の知的財産権が、市場を媒介として利益を生む(損害が発生する)ことについては、田村善之教授が「特許権の侵害は、有体物の毀損という形ではなくて、市場を媒介として損害が発生するので、可視的に把握することができない」と説示している(『知的財産権と損害賠償』425頁)。

【意見】6 同一性保持権と消極的表現の自由(憲法)

 同一性保持権を憲法の表現の自由の裏付けのある形で理解すべきである。この解釈は、人間中心のAIがある社会を目指す基盤となる。

 【理由・根拠事実】
 著作者人格権の保護法益を「消極的表現の自由」と把握することができる。
「どの著者にも、自らの意図しない表現を強制されない自由、換言すると著作物の改変を拒む権利がありそうである。これは(略)著作者には原典とは違う表現物で評価されないという法益が保護されるべきであるといえそうである」(大日方信春『表現の自由と知的財産権』第66頁)

 著作者はイラストレーター、原典はそのイラスト、違う表現物はAIシステム(生成AIモデル)の出力画像に対応する。

 生成AIモデルの出力画像で、目だけ改変されたり、曇り空を青空に改変されたりといった改変を拒む権利は、憲法の表現の自由の文脈では、「改変された表現がその著作者の表現であると誤解されて評価されない」という法益であり、これが著作権との関係における消極的表現の自由であり、同一性保持権の内容となる。

 この消極的表現の自由は、アメリカではフェアユースとの関係で、欧州でもパロディとの関係で理論化が試みられていると紹介されている(同第65頁注130、 第66頁)。つまり、ベルヌ条約以上に強力な我が国の同一性保持権の規定を必須とする理論化ではない。

 消極的表現の自由は、憲法上の「表現の自由」による要請であり、AIに関する国際的な原理を確立していく際に人間中心の未来を描くなら、最も考慮すべき事項の一つである。

 そして、この消極的表現の自由の限界について、大日方信春教授によると、改変されたものを自分の表現として誤解されないところに保護法益があるのだから、そのような混同が生じないのであれば、消極的表現を保護しなくても良い、との境界を説示した。

 例えば、パロディの発信者と原典の著作者が異なる人であると、パロディ表現の受け手が認識でき、発信者について混同しないなら、消極的表現の自由を保護しなくて良い。諷刺であるパロディ表現が著作権の侵害に該当し得ると著作権法解釈できても、憲法上の表現の自由であるとして非侵害が導かれる。

 逆に、生成AI出力画像の表現の受け手が、学習されたイラストの作者を想起し、何らかの関係をしているのではないかと混同するときには、イラストレーターには改変により誤解された評価を受けないという消極的表現の自由が脅かされる。

 事例的に考えてみると、生成AIモデルの出力画像がSNS等で流れてきて、またはストックサービスなどで販売されていたとき、(生成AI出力だと見抜きつつも)、その表現の受け手が、あるイラストレーターを思い浮かべて、生成AIモデルの出力画像と何らかの関係があると混同して誤解したとしよう。

 このとき、そのイラストレーターの消極的表現の自由で保護される法益、つまり、出力画像により「著作者には原典とは違う表現物で評価されないという法益」が侵害されている。誰しも、自分が関与していない表現に基づいて、誤解により評価されない権利を持つ。生成AIは、原著作者の消極的表現の自由を、あまりに簡単に侵害できてしまう。

 イラストレーターである著作権者は、消極的表現の自由である同一性保持権が侵害されたら、出力画像の複製や公衆送信の差止を求めることができる。

 この出力画像から混同をするかどうかの範囲と、翻案の範囲は、必ずしも一致しない可能性がある点に、憲法上の要請である消極的表現の自由と解釈する実益がある。つまり、著作権法の理論で侵害にみえても、憲法上の要請を加味して著作権法を解釈することで非侵害が導かれたり、逆もあり得る。

 例えば、仮に、著作権や翻案権が30条の4で制限される可能性があっても、その適否を検討することなく、消極的表現を保護すべき要件を満たすなら、同一性保持権の侵害を導くことができる。

 生成AIモデルは学習していない画像を出力できない。従って、モンタージュ・コラージュを出力しがちな機械である。つまり、出力画像を要素に分解(人→顔→目→虹彩や、森→木→葉)していけば、どこかに、創作的表現が残存している。このため、同一性保持権の侵害の範囲は、多くの場合、どこかに創作的表現が残っているから、翻案権の侵害ともなる。

 なお、著作権の権利制限規定に該当する場合、同一性保持権も制限されるとの解釈も有力である。もちろん、引用については、ベルヌ条約の要請もあり、引用が認められる範囲について、著作権法50条の規律や立法時の意図があるとしても、同一性保持権の非侵害を導くべきである。

 しかし、同一性保持権は消極的表現の自由であると理解すると、これは憲法上の表現の自由による要請であるから、著作権法の体系による条文解釈を超えた判断が求められる。

 引用が成立する範囲で同一性保持権を制限することは、多くの学術分野で幅広い支持を受けていると想定できるため賛同できる。しかし、30条の4という現在において社会から改正論が提起されている制限規定に該当するから、条文の素直な解釈を離れて同一性保持権を制限することへの賛同は、集まりやすいとは、言えない。

 しかも、消極的表現の自由は憲法上の要請であり、文化の発展以上の自由民主主義社会を成り立たせる骨幹からの法益である。

 著作権法の体系内の根拠によって30条の4の制限規定に該当する場合には同一性保持権の侵害とならないと解釈できる場合があるとしても、同一性保持権を消極的表現の自由という憲法上の法益ととらえるときは、消極的表現の自由が保護され、著作権者はAIシステムにより改変された出力画像の差止を請求し、損害賠償を請求できる。

 もちろん、同一性保持権を制限する方向での立法論はあり得る(中山信弘『著作権法』第638頁、髙部眞規子『実務詳説著作権法[第2版]』第389頁)。

【意見】7 透明性とAI出力販売事業者の登録制度

 広島AIプロセスの原則にある透明性の推進に賛成する。AIシステムの組織による透明性報告の作成及び公表について、我が国でも推進頂きたい。
画像では、販売サイトで個人が販売し、広告収入の得られるWebページやSNSでAI出力画像を公開しているため、AI出力販売者の登録制度(AI出力販売事業者の登録制度)を設置すると良い。

 ディープフェイク等の抑止、我が国同盟国から寄せられる安全保障に関する今後の要請も想定しつつ、個人ユーザーを含める。

 この登録制度により、著作権者は、発信者情報の開示請求を争う手順よりも簡易にAI出力販売者の氏名及び住所を把握できるようにする。
登録制度としては、例えば法人登記や、自動車のナンバー登録と開示や、また、リモートIDの発信をうながすドローン(無人航空機)の登録制度などの仕組みを参考とできる。

 AI出力の販売事業者に登録するメリットも、登録者に同時に付与することが考えられる。

 AI出力販売者の信頼性確保のために登録制度の国のサイトにて事業者名を公表できたり、AI出力のコンテンツについて、不正競争防止法の商品形態保護(2条1項3号)と同程度の保護の制度が新設されるような暁には保護条件として登録を求めたり、AIを利用した研究開発や新事業を行う際の補助金受給の資格条件としたりする、といったメリットである。

【理由・根拠事実】7
 透明性は自由な市場における価格形成を促す点でも重要である。AI出力は知的財産として保護されないが、不競法の商品形態のように短期間の請求権として保護を認める制度も考えられるが、登録制度への事前登録を必須とすべきである。また、著作権者は、発信者情報開示請求なしに、訴状の送付先を調べられるようにすると、訴訟負担の軽減策となる。

【意見】8 訴訟負担や立証責任の軽減

 透明性の向上に関して、AIシステムの出力なのか、どのAIシステムを利用して生成したのか(何を学習したAIシステムの利用なのか)などをその出力に記録される標準化を早期に実現すべきである。

 立証責任の軽減として、発信者情報開示請求の手順よりも簡易に被疑侵害者の住所氏名を特定できるようにできると良い。意見7のAI出力販売事業者の登録制度が有効である。

 著作権法の依拠に関しては、出力の全体又は部分を取り出して、創作的表現が残存している(表現の本質的特徴を直接感得できる)場合に、その出力をしたAIシステムで学習されたのであれば、利用者は学習結果にAIシステムを介してアクセス可能であったから、個別の画像を知らなくとも、依拠したと理解できる。

 制度としては、依拠(及び過失)の推定規定の新設、依拠の立証責任の転換、原則的な理解のQA等による公開など、選択肢がある。

【理由・根拠事実】8
 AIシステムは前提条件が日々変化する新しい技術であり、技術と人間、技術と社会の新しい関係性を突きつけるものであるため、一律の規律を想定しきることは断念すべきであり、役割分担として、裁判所の判断に委ねることが適している。このため、制度としては、訴訟負担を軽減し、立証責任の軽減を図ることが合理的である。

【意見】9 広島AIプロセスのリーダーシップ

 AIシステムに関する国際的な合意形成に関して、アメリカと欧州の相違の吸収や、製造業として存在感の高い東アジアの国々や地域との標準化など、日本は、国際的なリーダーシップを発揮して欲しい。
そのために我が国現行著作権法の改正が必要になるのであれば、世界に率先して改正すべきである。

【理由・根拠事実】9
 広島AIプロセスを責任を持って推進していることは、大変に誇らしく、関係者に感謝している。

 ところで、30条の4について、私見では、残存すべきか、改正すべきか、大変に悩ましい。しかし、広島AIプロセスを通じて日本が国際的な合意形成のためにリーダーシップを発揮すべきとき、議長国として、我が国国内の既存の規定を維持しようとするばかりに、国際的な合意形成の焦点がぼやけてしまう事態は避けて欲しいと強く願っている。

 広島AIプロセスの過程で、30条の4の改正をするのが素直であれば、改正すべきである。そのような国際的で民主的な議論の後に、(1)削除、(2)「潜在的な著作物の価値」を考慮事項とする改正、(3)維持及びガイドラインの公表など、(4)その他、いずれの結論であっても支持する。

【意見】10 著作権尊重のリーダーシップ

 AIシステム開発・運営企業に対して、著作権をどのように尊重しているか、対価の支払の有無と合計額を含め、透明性報告書で開示させるべきである。

 特に、AIシステムの価値創造の源泉は学習したコンテンツの質であるから、そのコンテンツへの支払いについて、金額や比率の公開が必要である。
コンテンツへの支払額について、全体の費用に対する割合がどの程度であるべきか、多くの人が興味を持ち、議論していくべきである。

【理由・根拠事実】
 AIシステムの開発・運用企業の数社、例えば、Microsoft、Adobe、Googleは、ユーザーが著作権侵害で敗訴や和解に際して著作権者に支払う金額の補償を公表している。

 我が国は、事前に通常のライセンス料を支払うよりも、侵害した後に損害額を支払う方が経済的メリットがある、という歴史を経験しており、法学者による優れた研究の後、数次の法改正があり、判例学説も積み重なっている。

 しかし、AIシステム開発・運用企業は、いま、損害額を支払うと主張しつつ、個別の権利者の同意を得るための対価を支払おうとしていない。これは、侵害し得であった過去の日本と同様の状態である。このような事実に報道で触れつつ、我が国は、何もできないのだろうか。

 また、AIシステムの利用者が利用するのは、ChatGPTとの対話や、出力する画像に何らかの価値を見いだしているからである。これらの価値創造の源泉は、まぎれもなく、学習したコンテンツの質である。

 しかし、費用構造を推察するに、人件費を除くと、学習のためのサーバー利用料と電気代が中心であり、コンテンツへの対価支払はほぼ無い。ビジネスとして、価値創造と費用構造のバランスが歪んでおり、最低限、学習のための電気代やサーバー代を上回る金額をコンテンツの著作権者に支払うべきである。

 例えば飲食店では食材の原価は25%から45%程度と思われる。AIシステムは、食材に相当する価値創造の源泉に対して支払いをせず、収益をあげており、市場が正常に機能している状態とはいえない。

 もちろん、AIシステムを動作させてユーザーの要求に応じた出力を計算する際のコストはあるが、これは全てのWebサービス事業者が負担してユーザーへの対価に上乗せするのであるから、価値創造の源泉の考察から除外して良い。対価を収集しやすくするためにWebサービスとしているのであり、実際には市販のパーソナルコンピュータで処理できると想定できる。

② 生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。

【意見】1 知名度のある絵柄による混同惹起行為

 AIシステム(生成AI)が、同一のキャラクターについての複数の絵画(画像、イラスト、漫画)を学習したり、同じイラストレーターの複数の絵画を学習すると、AIシステムは、原理的には、そのスタイル、絵柄、作風の特徴を残した画像を出力できる。

 一方、著作権法は、アイデアは保護せず表現を保護するから、絵柄が共通する全ての表現や、同じキャラクターであると判別できる全ての表現が、原著作者の著作権の侵害になるとは限らない。

 とはいえ、「絵柄は著作権法で保護されない」という言葉だけを知る者が、AIシステム(生成AI)を使用して、著作権侵害の可能性が大変に高い表現を無許諾で出力し、公開しつつ、「絵柄は著作権法で保護されない」とうそぶいている事例も散見された。

 この点、AIシステムの出力画像で、ある著作権者の絵柄を感じ取れるとしても、著作権法で保護されない表現があるとするならば、「ある著作権者(イラストレーター)の絵柄であると受け手が感じ取れる」ことをもって、不正競争防止法の商品等表示 1号(周知表示混同惹起行為)、2号(著名表示冒用行為)の侵害となる可能性が高い。

 AIシステムの出力画像が、その絵柄のイラストレーターを受け手に想起させるのであれば、混同が惹起されており、この混同がなされたまま、AIシステム出力画像が販売されると、AIシステムの利用者は、その絵柄のイラストレーターの名声や価値にフリーライドした集客ができ、対価を得ることができてしまう。

 この他人の絵柄による作者(出所)を混同させる出力画像の販売や広告収入を得るための公開は、不正競争行為であるから、差止請求及び損害賠償請求の対象となる。

 このように、知名度のある絵柄により混同が生じる場合、不正競争防止法1号、2号により不正競争行為となり、刑事罰もあることを、周知すべきである。

【理由・根拠事実】1
 手書き画像とAI出力画像を対比して、表現の本質的特徴が直接感得できるか否かを吟味したり、創作的表現が残存しているかを検討するよりも、知名度のある絵柄の場合には、混同が生じているかどうかの方が客観的判断をしやすく、訴訟経済上有利であると思われる。

 例えば、理由は色々とあるだろうが、マリオカートのコスプレ衣装についても、著作権についての判断ではなく、不正競争防止法で差止請求を認めていたことは、知名度のあるキャラクターについて不競法の利用が馴染みやすいことを示唆している。キャラクターも、絵柄と同様に、アイデアであれば著作権で保護されず、表現なら保護されるという境界の難しさがあり、不競法の活用が有用である。

 知名度のある絵柄のその知名度には、経済的価値があり、不正な競争から守られなければ、自由な市場の競争環境を維持できない。AIシステムは絵柄を利用者が容易かつ大量に複製できてしまうから、その新しい事実に対応して、絵柄がもたらす混同に関する不正競争行為の類型を整理できると良い。法改正をしなくても充分に保護できると想定できる。

 法解釈としては、まず、1号や2号の商品には、無体物も含む(金井重彦他『不正競争防止法コンメンタール<改訂版>』p.19, 23, )。

 さらに、「商品に著作物のものを含むかは争いがあるが、著作権で保護すべきものは著作権法で保護されるが、取引の対象となる以上は不正競争防止法との重畳的保護がなされることがあることを否定すべき理由はないと解する」(前掲コンメンタールp.19)とされている。

【意見】2 品質誤認

 AIシステム(生成AI)の出力画像を、手書きであるかのように表示をしたり、AIシステム出力画像であることを明示せず手書きであるとの誤認を生じさせて販売した場合には、買い手の品質(内容)に対する期待を裏切るから、不正競争1項20号(品質誤認行為)に該当する。買い手の被害感情としては産地偽装と共通性がある。

 同業者には、公正な競争環境を維持発展させるには、このような品質誤認行為をやめさせる手段が必要である。また、今後、AIシステム出力に関する表示の義務付けが規定されていくとしても、その過渡期及びその後にあっても、不正競争防止の観点から、AIシステムの出力に関する品質誤認を抑止すべきである。

 法改正をせずに品質誤認を抑止できるが、不正競争防止法は他の規律との重畳的な保護ができる法体系であるため、例えばディープ・フェイクやハルシネーションによる品質誤認について、現代的に明確化するのであれば、法改正があると良い。もちろん、不正競争防止法のみでディープ・フェイクを抑止できないため、別途、ビックピクチャーと漸進的な試行錯誤は必要である。

【理由・根拠事実】2
 他者の周知性へのフリーライドや、品質誤認表示があると、自由な市場が正常に機能しなくなってしまう。不正競争防止法は、現行の規定で、このような新しい事態に対応できるのであるから、類型を整理しつつ、QAの公表がなされると良い。広島AIプロセスとの関係で、法改正が検討項目になるのであれば、日本が率先して法改正をリードすることも考えられる。

③ 生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。

【意見】1 学習済み画像の除去

 学習済みの画像(の影響)を、学習済みモデルから削除する技術が開発されると良い。これがないと、AIシステムは、とにかく無許諾で全体を学習しようとしてしまう。また、学習のためにコンテンツを提供するクリエイターからしても、許諾をする際の不安(リスク,不確実性)が高く、取引が進まない可能性がある。

【意見】2 学習されないための技術的保護手段の推奨

 学習することで、学習モデルに悪影響を与える技術的手段が開発されている。これは、技術的保護手段と同様、学習されたくない著作権者が学習されることから自らの著作物を保護しており、この技術的保護手段を突破しての学習は違法と解される。

 一方、この学習モデルに悪影響を与える技術的手段は、学習モデルに対する毒となる機能が発展していくと予測できる。一見、コンピュータウイルスのような機能と同様に解されるかも知れないが、本来、無許諾の学習を回避するための保護手段であり、毒は、まさに、小動物(クリエイター)が捕食者(AIシステム)から身を守る手段である。対価を得てコンテンツを提供する際に、毒を仕込むのではなく、勝手に学習するAIシステムの開発者が、勝手に毒にあたるのである。

 政府は、この学習モデルに悪影響を与える技術的保護手段の利用を、著作権者の正当な権利として、民事・刑事上、なんら違法性がないことを、QA等で表明できると良い。AIシステムの透明性が確保されていない現状では、このようなトゲのある柵を使用することは、正当な防御である。

④ 生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。

【意見】1 対価であり還元ではない

 「収益還元」という用語は不適切である。「還元」は、不動産鑑定評価基準において将来キャッシュフローを現在価値に割り引く際の割引の計算を意味している。「還元」を収益を配分する意味として使われている既存の法律等は発見できない。

 また、著作権の利用に対する対価は、国内も国際的にもイニシャルフィーとランニングロイヤリティであり、学習の許諾時にイニシャルフィーを得て、利用量や期間に応じてランニングロイヤリティを得ることが正常である。これらの対価は、利用する組織が赤字であっても契約による支払い義務があり著作物を利用する組織の収益を還元するものではない。

 ストックサービスなどは販売代行に近く、収益の配分に見えるかもしれないが、販売されているのは著作権者の著作物(コンテンツ)であり、プラットフォーマーは販売手数料を受け取っている。そのような契約類型が多い。プラットフォーマーが赤字であっても販売手数料以上の請求はできず、収益の配分や還元ではない。

【理由・根拠事実】1
 収益の配分と考えると、組織に利益が残った場合の配分を想起する。これは株主への配当である。そうではなく、あくまで、著作権の実務で歴史的に選ばれてきたフレームワークを利用すべきである。それは、著作物の利用に対するイニシャルフィートランニングロイヤリティの対価額、使用料のフレームワークである。この伝統的なフレームワークでの整理が、幅広い関係者の同意形成に役立つ。

 収益還元という発想は入り口からして誤っている。

【意見】2 使用料の配分方法

 AIシステムは、コンテンツとして画像を例とすると、1億枚の画像を学習し、1億人にサービスを提供するなど、サービス面でも大規模な情報処理となっている。

 従って、誰の著作権か、誰が使ったかを特定していくにはコストがかかる。学習したコンテンツ(例えば画像)に対するランニングロイヤリティの配分方法としては、AIシステムの情報処理数やユーザーとの対話による画像の出力数から、1億枚分の使用料の総額を求め、アクセスの多いキーワードに関連する学習画像の著作権者に比例的に増加させつつ手数料を支払うか、または、技術標準で特許件数に応じて配分するように、提供画像数に応じて配分しても良い。

 新聞記事であれば、例えば既存のデータベースでは見出しの出力と本文の出力とで料金が定められており、文字数に比例させてはいないから、AIシステムの出力文字数ではなく、文章を出力した回数で総額計算や配分をしても良い。

 学習内容と表現内容を紐付けなくても、自由市場における価格形成としてリーズナブルな対価を算定することはできる。

【理由・根拠事実】2
 従来、個別の著作物を特定してのライセンス料の計算がなされていた。しかし、例えば特許でのクロスライセンスや、サブスクリプションのように、マクロ的に知的財産権の対価を算定する手法も採用されてきている。AIシステムについても、学習内容と出力画像の関係性の吟味をせず、学習なしに出力はあり得ないのであるから、まずAIシステムの処理量で著作権の使用料(ランニングロイヤリティ)の総額を計算することも一案である。この使用料が、組織の費用構造のうちどの程度の割合を示すかは、世界中の関係者が関心を持つべきであり、AIシステム企業からの透明性報告書の主要な開示事項となることが望ましい。

【意見】3 漁業権放棄との対比

 学習及び利用に対する対価の支払いがなされないのは、特に、学習に対する対価を国家が30条の4で無料にしてしまったのは、創作活動を継続するなという政策に等しい。

 漁業と工業の関係を思い起こす。我が国は、海岸を工業地帯に変革するという国家の政策の実行に際して、漁業者に漁業権を放棄してもらい、補償をしてきた。

 かつての工業化のように、ひたすらにAIを進展させたいのであれば、漁業権放棄のように、クリエイターに創作する権利を放棄してもらい、生活保障をすれば良い。

 創作する権利を放棄してもらうと、まず、新聞記事や報道写真がなくなる。

 そして、数年間は、商品パッケージにせよ、広告にせよ、既存のコンテンツの学習から用途に応じたAI出力を利用していけば、目の前の経済に必要なコンテンツには事足りるのかも知れないが、その間に、新人のクリエーターが生まれない経済社会になってしまい、似たような画像を永遠と見せられ、単調で人工的な声を永遠と聴かされることになる。

 海岸線から工場が撤退しても、かつての海岸の自然は戻らず、漁業の担い手もおらず、漁業の技術は散逸してしまっている。日本のコンテンツは世界で人気であるのに、海外のAIシステムに無料で学習させるのは、どのような政策の根拠があるのだろうか。

 AIがさらに進化し、働かなくとも衣食住足りる世界が到来しても、そのとき、芸術が死に絶えているのである。

⑤ AI 学習用データセットとしてのデジタルアーカイブ整備について、どのように考えるか。

【意見】1 著作権のない著作物、公文書や判決を学習対象として提供すれば良い。

 公文書は文法的に正しい文章の集積であり、判決文は社会の様々な事象を文章にしているものであるから、これらをデータセットとして学習させ、政策や法律に詳しい大規模言語モデルを利用できるようにしてはいかがか。

【理由・根拠事実】1
 学習用データセットとして、著作権がなく質の高い文章のデータを探索すべきであり、この視点からは、条文、公文書や判決文が対象となる。

⑥ ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。

【意見】1 ディープフェイクを見破る技術開発


 ディープフェイクを見破る技術の特許権については、強制実施権の仕組みを使ってでも、適正な対価の支払いを前提に、世界が使わせてもらうと良い。ソフトウエア関連発明への研究開発投資を回収できるというその未来像を示すことで、研究開発をうながすと良い。

【理由・根拠事実】1
 ディープフェイクを見破る技術は、ディープフェイクを作ることのできる技術か、または限りなく近いことが想定できる。AIシステムに投資をしなければ、悪意あるAIシステムの悪影響を防止できない。そのための技術開発を国家がすべて担うことは難しく、民間の研究開発を刺激しなければならない。ソフトウエア関連発明の特許適格性について議論されることもあるが、AI時代の黎明期において、ソフトウエアへの投資は重要であり、裾野の広がりが求められる。この点、特許による保護の水準を下げず、強制実施権等の仕組みの利用を研究すべきである。

⑦ 社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。

【意見】1 次を整理のうえ、AIと著作権についてさらなる情報発信をして欲しい。[1]追加学習、[2]プライバシー、[3]海賊版の学習

[1] 追加学習は、追加無しの基盤となる生成AIモデル出力では満足を得られないために追加学習しているから、享受目的に該当する。
 ユーザー自身によるコンテンツの追加入力と、AIシステム側がユーザーの問いに応じて自動でクローリングやスクレイピングすることによる自動的な追加入力の両方とも、享受目的である追加学習である。検索拡張生成は自動的な追加入力であり、享受目的の学習である。
 この基盤となる生成AIの出力ではユーザーが満足しない場合、生成AIの出力についての価値は、追加学習したコンテンツにある。イラストレーターの絵柄や、新聞社の報道に価値があり、生成AIが出力することに価値があるのではない。通常の学習はもちろん、追加学習は、著作権者の明示的な許諾が必要であり、適正な対価が求められる。

[2] 広島AIプロセスでは、直接の主題ではないが、プライバシーが重要な周辺領域である。欧州のGDPRと日本の個人情報保護法制がどのように相違するかの基礎情報を整理しておけると、AIと著作権の関係を検討していく際に有用と思われる。

[3] 繰り返しだが、違法に収集された海賊版のコンテンツを使って学習したモデルが、現時点においても世界的に大量に利用されている。道徳や倫理を持つ者は、海賊版であることが判明した後に、学習をし直すため、大規模言語モデルのリリースが遅れたりするだろう。海賊版を使い続ける企業が、競争上、先行者利益を利用できるという歪んだ市場となっている。資本主義の内部では解決できない国家が関与すべき課題がある。

その他

【意見】1 透明性報告による検証ができるまで、国家及び地方公共団体によるAIを利用した芸術表現(絵画、音楽、演技、発話等)の利用を禁止して欲しい。

【理由・根拠事実】1
 予算や期限が限られる中で、AI出力を使おうという発想が、国家や地方公共団体等で働く人に生じることは否定できない。

 しかし、透明性が確保されていない段階で、著作権侵害とならない利用方法のマニュアルを作ることもできず、初等・中等教育においてChatGPTの利用を禁止していることもあり、現状、安易にAI出力をWebやチラシに使うことは避けるべきである。

 原則は使わず、例外的に使う場合には透明性を説明する責任がAIシステムの企業から国や地方公共団体に転換されることを、事務連絡できると良い。

以上

参考文献
 市場と法の役割分担、市場に委ねる利点に自由の思想があること、漸進的な試行錯誤、市場の失敗とフェアユース、市場を媒介とした損害など、本意見に出現する多くの用語は田村善之教授の研究成果である。
 正確な意味や使い方は、著作権法概説[第2版]、不正競争法概説、知的財産権と損害賠償[第3版]、編著『知財とパブリック・ドメイン第1巻から第3巻』、知財の理論、市場・自由・知的財産など参照されたい。

 大日方信春『表現の自由と知的財産権』は、ウェポン型のパロディ表現を憲法上の要請から著作権侵害としないようにしていく理論化であるのに、本意見では、その理論の一部の「消極的表現の自由」と「同一性保持権」の関係を取り出して、同一性保持権で権利行使できる範囲の明確化や範囲拡大を目指してしまった。このような学び方は大日方先生の本意ではないかもしれないが、「消極的表現の自由」として同一性保持権を主観的ではなく客観的にとらえる発想には、この社会における根源的な価値を感じている。

 「改変された表現が自分のものであると誤解されない自由」は、おそらくは、市場を媒介して顕在化する著作物の価値と、繋がっている。

意見提出後の追記(2023年11月5日)

参考文献の紹介と引用、さらに引用した内容に応じた私見です。この部分は意見として提出できておりません。

[1] 田村善之『知財の理論』(2019年・有斐閣)
「知的財産法政策学の試み」(同書第3頁以下)には、市場・立法・行政・司法の役割分担として、第1に市場の活用が説明されており「財やサービスについての需要供給の状況に関する情報が主として価格機構を通じて市場にかかわる人々に伝搬され」る結果、効率的な資源配分を導くという長所を指摘している。これらを行政や司法による権威的決定で代替することは容易ではない、と分析している(同第11頁)。
 「市場的決定の権威的決定に優る長所として、市場原理に必然的に伴う自由の思想をあげることができる。市場による選択が機能している場合には特定の個人が配分を決定するわけではなく、その意味で個人は他の個人に支配されないという意味での自由を享受することができるかもしれない」とし「市場が機能しているのであれば、市場に委ねれば足りることになる」(同第12頁)と説示する(同書第86頁「競争政策と「民法」」参照)。
 AIシステムへの学習についても、学習させることに同意するかどうか、および対価について、市場に委ねることが最初の選択肢となる。フェア・ユースは、「著作物の潜在的価値」を考慮することで、権威的決定ではなくできるだけ市場に委ねる仕組みとなっているが、30条の4は対価を無料にしてしまった点で、またはそう誤解させた点で、市場に委ねることに失敗してしまった、と思われる。

 本書「著作物の利用行為に対する規制手段の選択」では、市場の失敗としてのフェア・ユースが論じられている(第386頁から392頁)。著作権侵害ではあるが差止請求権を否定し、損害賠償請求のみとするような事例も参考となる。

[2] 高倉成男, 木下昌彦, 金子敏哉編『知的財産法制と憲法的価値』(有斐閣, 2022.1)
大日方教授は「仮にサタイアにより法律上のフェア・ユース該当性が否定されるとしても、憲法上の表現の自由により免責される場合があり得ると考えるべきであろう」と説示する。「サタイアあるいはウエポン型のパロディと表現の自由」同書第240ページ。

佐々木秀智著「フェア・ユース法理とアメリカ合衆国憲法 」は、エクイティの息づかいがわかるような説示と引用によって理解すべき内容が示されておりフェア・ユース法理への興味が深まった。

小島立著「いわゆる「知的財産権の空白領域」について」は、フェア・ユースの機能に相当する現象として、寛容的利用の他、二次創作コミュニティなどを取り巻く慣習や規範による著作権法の「余白」の存在を示唆していた。生成AIと著作権法でも、余白、特に憲法的価値による余白の必要性を感じた。生成AIと著作権では、30条の4の制限に対する余白がより重要となる。

渕麻依子著「著作権法の解釈と裁判所の役割」は、カナダの法解釈を紹介しつつ日本の「法の解釈」を振り返り「著作権法の憲法適合的解釈」を紹介する。条文の文言の厳格な解釈を離れ「著作権法の目的や憲法適合的解釈が裁判所によって行われるべき」との木下=前田論文を紹介している。

[3] 田村善之編著『知財とパブリック・ドメイン第3巻:不正競争防止法・商標法篇』(勁草書房, 2023.2)
田村善之著「プロ・イノヴェイションのための市場と法の役割分担:インセンティヴ支援型知的財産法の意義—限定提供データの不正利用行為規制を素材として」第8頁には、不競法2条1項3号「商品形態のデッド・コピー規制」について、「商品の創作的価値を問うこと無く、商品形態のデッド・コピーを規制している。なぜ創作的価値を問わないのかというと、規制の趣旨が模倣された商品形態に何らかの価値があることを根拠としていないからなのである」
(3号の)「究極的な目標は、個々の規制によって保護される客体である無形物の商品形態ではない。促されているのは、一般的な商品の開発なのである。だから創作的価値は問われない。その結果、市場先行の利益というインセンティブの下で、具体的に何が開発されるのかということに関しては、法は介入せず市場に委ねられる」(同)
注16(3号の)「要件の構造は、開発されるべき商品の決定は市場に委ねるという筆者(田村教授)の構想が反映されたものにほかならない」(同第9頁)。
 生成AI画像を不競法2条1項3号で保護しようとするとき、その要件の構造からして、創作的価値は問われない。市場先行の利益を保護するというのは、変化の激しい生成AI画像を保護しようとする際の行為規制として適している。
 なお、田村教授の本論文に「AI創作物について特許権や著作権の保護を及ぼすという対策を施す必要はないように思われてならない」(同第11頁)と説示されている。

村井麻衣子「フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論 (3) : 日本著作権法の制限規定に対する示唆」(知的財産法政策学研究, 47, 119-148, 2015.11)には、複数のケースでフェア・ユースの第4の要素がどのように扱われたかが整理されている。Campbell 最高裁判決が、潜在的な市場にてパロディにより被害を受けたかどうかの審理を要求して差し戻したことなどを紹介している(第135頁)。
 Beebeによるフェア・ユースの実証的研究が紹介されており、「第四の要素と総合的な結果は83.8%で一致し、第一要素と総合的な結果は81.5%で一致するという。」(同第138頁)。
 第四の要素が「利用された著作物の潜在的な市場や価値に与える利用の影響)」であり、第一の要素は「利用された著作物の潜在的な市場や価値に与える利用の影響」である。
 第四の要素が結論と最も相関が高いが、第四の要素が他の要素の総合的な内容であるからとの分析もある。

 「潜在的な市場」「潜在的な価値」という未来志向の発想や、市場を通じて自由の思想と繋がることができる要件は、基本的にすでに決まった内容を扱う第一から第三の要素からは発見できない。

 本意見では、この「著作物の潜在的価値」が30条の4に規定されていないからこそ、学習の対価を無料にするような解釈を生み出してしまったのではないかという仮説を持っている。30条の4の立法時には想定されていなかったのかも知れないが、著作物の潜在的価値として、学習を許諾すること自体に経済的価値があることが、大規模言語システムの浸透によって明らかとなってきた。

 今後、生成AIをめぐる米国での裁判について、この第四の要件がどう解釈されるのか、注目していきたい。







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