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愛媛ゆかりの文化、文学のエッセイ

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「愛媛新聞」その他に掲載された拙文をまとめたもの。
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2023年9月の記事一覧

愛媛新聞「四季録」07 内子の活動写真館

  内子駅を降りると驚いた。駅前に蒸気機関車が鎮座していたのだ。文楽や木蝋などで有名な内子町にあって、漆黒の機関車に出会うとは思わなかった。 案内板によると昭和14年製、旧内子線を昭和45年まで走ったという。鉄道ファンには感無量のひとときで、青空の下で黒光りする機関車を眺めた後、保存地区の方へ向かった。 大きな空襲を免れた内子町には多くの建築が遺っている。本芳我家や上芳我邸、大村家などの他に近代の内子座や旧警察署など目白押しで、各資料館やお店も加えるとすぐ一日が過ぎてしま

愛媛新聞「四季録」08 道後鉄道の路線跡と夏目漱石『坊っちゃん』

夏目漱石の小説『坊っちゃん』(明治39)には「汽車」がよく登場する。有名なのは、船で三津浜(と思われる港)に着いた坊ちゃんが汽車に乗る場面だろう。 他にも宿直の坊ちゃんが学校を抜けだして道後温泉に行き、帰りは汽車に乗ったり、また他の箇所でも手拭いをぶらさげて道後まで汽車で行ったりしている。 現代の松山で汽笛を響かせて走る「坊っちゃん列車」はこの「マツチ箱のやうな汽車」を模したもので、レトロな雰囲気を醸しだしている(現物は梅津寺に保存)。 ただ、今も「坊っちゃん列車」が市

趣味や音楽、写真、ときどき俳句26-4 愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼4

※26-3はこちら 現在、宇和島で催される牛鬼まつりは和霊神社の神輿の先導役を担っており、祭りの最終日にあたる7月24日の昼に牛鬼が市内を練り歩き、商店街アーケードにも入って邪気を祓う。夕方頃になると神社の神輿が出御し、牛鬼が清めた市内を練りながら港へ向かい、御座船に移って海上を渡御する。 日はすでに没し、各所を練り歩いた他の神輿や牛鬼は大量の提灯や篝火で照らされた須賀川に集い始める。川岸や橋は見物客で埋めつくされており、やがて海上渡御を終えた神社の神輿が河口付近に現れ、

趣味や音楽、写真、ときどき俳句26-3 愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼3

※26-2はこちら 南予地方の牛鬼を描いた文学で著名なのは、獅子文六『てんやわんわ』(昭和24)だろうか。彼は敗戦後、食糧難やGHQの検挙を恐れて妻の郷里の岩松(現・宇和島市津島町)に疎開しており、そこで見聞した秋祭りの様子を小説に描いている。    文六は小説のクライマックスとして秋祭りに沸き上がる相生町(岩松)の様子を描き、牛鬼も登場させている。映画版『てんやわんや』(昭和二十五年)では作品舞台の岩松でロケが敢行され、敗戦後まもない町並みを牛鬼が練り歩く様子が撮影され

趣味や音楽、写真、ときどき俳句26-2 愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼2

(上の画像は吉田の「八幡宮御祭礼画図」(愛媛県歴史文化博物館蔵)) ※1は下記参照 柱に高々と掲げられた異形の面を見た時、私は宇和島に来たことを実感するとともに、芸術家の大竹伸朗氏(宇和島在住)のエッセイを肌で実感した思いがした。   「和霊大祭と牛鬼まつり」云々とは、宇和島で毎年七月二十二日から同二十四日にかけて三日間催される大規模な祭りである。ダンスや踊り、また牛鬼の練り物と和霊神社の大祭が同時開催となるため、市内あげての熱気が渦巻く時期であり、大竹氏も記すように祭

趣味や音楽、写真、ときどき俳句26-1 愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼1

「きさいやロード」と掲げられた宇和島(愛媛県南予地方の街)のアーケード商店街を初めて訪れた時、道幅の広さに驚いたことを覚えている。優に十メートルを超えており、松山市の大街道商店街並みに広く感じられたものだ。アーケードが南北に長く伸びているのも特徴的で、北側から恵美須町、新橋、袋町の三商店街に架かっており、それで長大に感じられるのだ。 (「ガジェット&旅」チャンネルのTaka-sim氏が宇和島を散策した動画。2:50頃に商店街入口が見える) この三商店街は宇和島商店街として