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『塔』2024年2月号より①

『塔』2024年2月号の月集から、気になった歌をあげて感想を書いてみました。(敬称略)


おそらくは使うことなき石臼が納屋にあれどもそのままにする
/小島さちえ 

p13

かつては日常的に使っていだ石臼。もう使うことはないのだが納屋に置いたままになっている。
下句のきっぱりとした言い方に、捨てたくても捨てられないのではなく、必要なものとして保管しているようなニュアンスがうかがえる。
石臼を単なる道具ではなく、当時の暮らしを支えた大切な存在として感じており、作者の思い出も多く詰まっているのだろう。



どの母を母と呼ぼうか いつしらに思いはめぐる眠れぬ夜は
/沢田麻佐子 

p15

初句二句が重く響く。
母が老いによって変わっていったのだろう。
そのさびしさがかつての母の姿を思い返したとき一層こみあげてくるのだ。しかし現在の母が母であることには変わりはない。
その逡巡が伝わってくる。


遠山までまっ青な空 いずこまで夫の眼に映りているや
/武田千寿 

p16

遠くの山々まで晴れわたった清々しい空を夫と並んで見ている。
そのときふと隣の夫の眼にはどのように映っているのだろうと思ったのだ。夫婦の微妙な距離感と作者の心情がじんわりと伝わってくる。


こころあてに水遣りゆける庭の上(へ)を木星いまし昇りてゐたり
/溝川清久

p19

庭で下を向いて水を撒いている場面から、一気に遥か上空の木星へと視点が転換される。
「庭の上」とあるので庭の地表を想像したが、この「上」は上空であることが後になってわかる。
この錯覚が不思議な感覚をもたらしていることと、水を与えている樹々と木星の「木」が響きあっている点に注目したい。


新しき山靴買はむといくたびか店に入りてはなほ決め得ざる
/村上和子

p20

他の歌から作者が本格的な登山をしていることがわかる。
登山では日常生活よりもより慎重な判断が求められる。
今回は雪山への登山のようで、過酷な状況が待っているのだろう。
登山靴を選ぶ段階から登山はもう始まっているのだ。


今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。

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