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『塔』2024年2月号より③

『塔』2024年2月号の作品1か気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)


材木町の名のみ残りて製材所の跡地のコンビニ昼夜を灯す
/相馬好子

p81

かつては材木商の栄えた土地だったのだろう。
それが現在では廃れて名を残すのみとなっている。
賑やかだった頃に思いを巡らせつつ、時代の流れを寂しんている。
製材所の代わりに建てられたコンビニの小ささと、無機質な印象がそれを際立たせている。


夏を縛る紐がほどけて十月はパフスリーブの袖のふくらみ
/高松紗都子

p82

パフスリーブとは上着の袖口を絞り、その上部をふんわりと丸く膨らませたシルエットを持つ袖のこと。
「夏を縛る紐がほどけて」が魅力的で、夏の暑さがようやく収まり、過ごしやすい秋を迎える、その解放感が伝わる。
こうした感覚は、かつてなら九月がふさわしかったのだろうが、近年の猛暑では「十月」となってようやく秋を感じるようになった。
ここに作者の実感がこもっている。


同性は如何に詠みゐん男歌選りて読みゆく塔十月号
/守永慶吾

p85

短歌を読むときは、作者の属性と切り離して読んだ方がよいとされることもあるが、どう読むかは自由でもあり、そこに個性が出てくる。
作歌のヒントを得るためには、同性の歌が参考になりやすいのだろう。
この一首からは作者が塔誌を読むときの真剣さが伝わってくる。
多くの会員の歌を意識しつつ、作歌に励む作者の姿に勇気づけられる。


曇天にあやとりをするクレーンの赤と白見上げつつ地上へ
/吉岡昌俊

p86

幾台のクレーンのワイヤーロープが垂れ下がっている場面を、クレーンがあやとりをしているとした把握が鮮やか。
また、結句の「地上へ」も面白く、主体がクレーンを見上げながら、地下から階段やエスカレーターで昇ってくる場面を想像した。
上空に吊られているワイヤーと、地下から上がってくる主体の視線が出会い、地上に到達する。
その立体感のある映像に新鮮味がある。


われの足長く伸びたる歩みなりヒースロー空港オートウォークに
/渡邊美穂子

p86

海外の空港を颯爽と歩みゆく作者の姿と、晴れやかな心が一首に表れている。
「ヒースロー」「オートウォーク」のカタカナ表記と長音符(ー)が、長く続く通路と伸びた影を視覚的に表現している。
スタイリッシュで気持ちのいい一首だ。


今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。

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