小説 三枚のペンタブレットを順番通りに重ねる(Pさん)

 濃い空気は、次第に薄い空気と混ざって、濃度が平均化する。その程度もわからないのか、といわんばかりに換気をガンガン回した部屋でサンポールとハイターを混ぜていた先輩が死んでから九年が経った。先輩の理論で言えば、外気は濃度ゼロで、中の空気がどれだけ濃かったとしても、絶えず濃度が平均化するので、ガスは充満しないはずなのである。しかし、先輩は死んだ。空気中のガスの濃度は、平均化しない、あるいは、思っているよりは平均化しないという事実を、身を以て証明した形になる。そんなこと、しなくてもよかったと思う。しかし、身近な人々が口を揃えて言っているように、全くバカげた死に方だったとは、僕は思わない。先輩のアパートの間取りはかなり独特で、左右と正面の、三か所の窓を完全に開け放つことができた。高速道路で車を走らせ、旅行に行くのが趣味だった。僕もよく同行させられた。一番記憶に残っているのが、大阪旅行の時で、大きいたこ焼きの模様の描かれたボールを、全力でぶつけられた。もちろん、こちらからも、先輩に、何の遠慮もなく全力でぶつけた。鼻がへし折れるかと思ったし、相手の鼻をへし折ってやるつもりだった。青空が広がっていたような気がしているが、果たして、この全体は何の場面なんだろうか? どこでそんなことができるのか? 人と同じ大きさの、たこ焼きのボールって、一体何なんだ? 全ての疑問を回収して、竜巻のように上昇して持ち去ったのが先輩だったのだと考えると、一番納得がいく。

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