ヘンリー・ミラーについて(Pさん)
引き続き、というかここではあんまり触れていないかもしれないけど、『ヘンリー・ミラー・コレクション 12 冷暖房完備の悪夢』という旅行記みたいなエッセイを読んでいて、おおいに刺激されている。
信頼できる作家二人が、ヘンリー・ミラーの代表作は、まあ『南回帰線』『北回帰線』はそうだけれども、それ以上にも重要なのが『マルーシの巨像』であると言っていて、この『マルーシの巨像』というのは旅行記なので、ヘンリー・ミラーは生き方自体もそうだけれども小説家というより、というか小説家としてのありかたとしてのというか、旅行記的なところが多分にあるのではないかと思う。
ヘンリー・ミラーの著作全般的に、過剰に性的なところがあり(なので二人の作家はその辺がやりすぎだしそれを差し引いて小説群はすごいけれどもそれよりも『マルーシの巨像』だと言っている)、文体が長ったらしく特徴的なのでなんというか、料理で言えば口当たりみたいなものがかなり独特なのでたぶんそれで引いてしまう人もあるかもしれないけれども自分もすんなりとヘンリー・ミラーを受け入れたわけではなく、最初はその二人の作家が(もう何人かいたかもしれない、正確にカウントすれば自分がかなり信頼しているという作家五人が何らかの形でミラーが、と言っている)言うならばというのである程度無心に読んでいたというのがある。素晴らしいフレーズがあるとかいってもそれ以上に今書いていることはなんなんだという思いが先に立つ。
けれども、南回帰線、マルーシの巨像、それからインタビュー集だけどそれを読んだりして、ようやっとヘンリー・ミラーの文体とか考え方に慣れてきて読みやすくなってきた。実は南回帰線とマルーシの巨像は途中でやめてしまっている。南回帰線やマルーシの巨像は、たしかヘンリー・ミラーのキャリアの最初の方の作品だったと思う。それで、今読んでいる『冷暖房完備の悪夢』は、晩年の方の作品。それで、自動的に、作家の前半生と後半生とはなんだ、とか、最晩年にヘンリー・ミラーはどれだけ旺盛なんだ、とか全盛ではないのか、とかいろいろと余計な事を考えてしまう。
作家の人生を作品に重ねるのは愚であるとか、誰だか言っていた気もするけれども、どうにもとっかかりがなくて作者はこの時苦しんでいたとか、誰と付き合いを始めただとか言うしか他に考えようのない人というのもあるとは思う。最近、作家を含む表現者の伝記というのも、いろいろ読みかじっている。大杉栄と内村鑑三の伝記を読んでいるとはどっかに書いたな。これもこの研究者の体質のまるで対照的なのが面白かった。伝記的背景を読むうえで全く抹消するというのも難しい話だ。しかし、『冷暖房完備の悪夢』は単にその時フランス暮らしから生まれ故郷のアメリカに戻ってアメリカを批判しつくすという文脈だからなんというかそんなに込み入った操作はいらないし立ち位置はわかりやすかった。
それだけに、晩年に、帯文にあるように「裸の自己に直面」し、もう面倒くさい前衛的手法は用いないといいながら、何たる豪奢な文体を持っているんだろうという訝りと不思議さはある。これは普通の文体なんだろうか。全盛期が凄かっただけにこれは普通なんだろうか。僕は記憶力が悪いから一冊読み終わると麻痺してしまうから今読んでいる文体と比較ができない。形態素分析でもすれば、あるいは単に句読点と改行の数をカウントすれば、どれだけ前衛的長文が減少しただのと数値化できるのか知らないけれども、晩年は晩年で、ぜんぜん裸の自己と直面などという無邪気なことも言えんのではないか? とは思う。裸の自己っていう言葉が、胡散臭すぎる。
ミラーが、と言っていた作家はまず佐々木中と磯崎憲一郎の対談で互いに凄いと言っていて、それから坂口恭平もどっかで触れていたような気がする、というか『冷暖房完備の悪夢』は坂口恭平と結びつけずに読むことはできなかった、それから『黒い春』を翻訳したのが吉田健一だ。小島信夫が、『残光』だか他の晩年のエッセイか取材でその『黒い春』について触れていた。クロード・シモンのエピソードについても触れていた。この五人であるが、大江健三郎もどっかでミラーが、と言っていた気がする。だとしたら六人である。
好きな作家を羅列して好きに語るのは気分がいいけれども、いまいち何かを得たような気分にはならない。今回はこれにて終わりです。現在、十一時三十三分です。
今日、書こうとしたことがもう一つあったことを思い出しました。
僕は先日パソコンを買って書くことはパソコンを使うことによって動機を得ようとか思っていたけれども結局また手書きに戻ってしまいました。
なんだか手書きにした方が楽しいので。
それから、ウサギさんが前橋文フリに出るっていうのを聞いたので、僕も行くことにしました。それで、何らか自分で作った本の三冊目を置きたい予定ではあるけれども、今のところぜんぜん書けていません。
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