大人の寄り道

ピッ!

仕事を終えて、タイムカードを切った葵は更衣室に入って、おもむろに着替え始めた。

「今日もヒマやったなぁ……ずっと続く雨の効果は絶大やな」

着替え終えて挨拶をし、店を出た葵は、駅構内のドトールへと足を進めた。
昨日から始めた「思いつき。」を更新するためだ。

「まだ雨ふってるなぁ。でも地下道いけば傘もささないですむわぁ」

蛇の道の様に風に吹かれている雨雲を横目で見送りながら、葵は地下に降り音楽を聴きながらスタスタと歩いていく。

「そう言えば、寄り道する子は不良やったな」

前日読んだジャリン子チエに書いてあった事を思い出した葵。

「そうや、うちは不良やねん」

ニヤニヤしながら歩いている葵は多少気持ち悪く写っただろう。サァーッと人混みが避けていくのを感じた。

ドトールに着くと、店は空いていて、喫煙席も客がまばらにいただけだった。葵はいつもの珈琲を注文し、喫煙席へと向かった。

「一度でいいから、いつもの!って注文したいなぁ。けっこう常連やし」

駅近くのコンビは葵の顔をみるなり、いつもの煙草を用意してくれる。
そんなに覚えられるような特徴的な顔立ちではないのだが、ありがたい事だ。

「まぁ、全然気にはしてへんから、えぇけど」

席についた葵は、煙草を取りだし、フゥと一吹かし。スマホを取りだし、早速更新を始めた。

「うわぁ、栞増えてるなぁ!メチャクチャ嬉しい!」

こんな中身がない小説を読んで頂くのも申し訳ないのに、本当に有難い事である。

「中途半端な事書けへんから、ちょっと気合い入れて書こ!えっと、今日あった事はと……」

つらつら書き始めたのはいいのだか、重大な事に気がついた。オチがないのである!いつも通りに仕事して、いつも通りの帰宅。ドトールに寄った事くらいしかない。

「よし、ウチは寄り道をする不良少女って事にしよ」

そう決意した葵は不良少女として生きていく事に決めた。寄り道は大人でも不良だと勝手に決めつけて。

「よし、書けたわぁ。これからは仕事終わったら、寄り道しよ」

残った珈琲を飲み干して、葵は帰宅の準備をして店を出た。

「雨の中を帰るのは気が進みませんなぁ」

と思った瞬間、ある事を思い出した。

「あっ!店に傘忘れた!」

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