【禍話リライト】出来心の子

祟りってあるんだなって話なんだけど。祟りっていうか、罰っていうか。
急に何だお前って話なんだけど、今さ、40代とかでも結構そういうの信じない馬鹿な人って多いじゃないですか。信じろとは言わないですけど。悪いことしたら何かあるんですよ。
そこでやれカルマだ因縁だって言うつもりはないんですけど、あるんですよ。それは。

と、いうのは。これ、俺の割と近しい奴であった話なんだけど。

結婚して子供がいた人なんですけど。子供が熱出すようになったと。
それこそ、「七つまでは神のうち」じゃないですけど、6、7歳になってからよく熱出すようになったんですって。で、医者にも原因がわからんと。
今までそんなこと全くなかったのに急になんだろう、みたいな。

よく言うでしょ、俺。「オバケのスピードって違うからな」って。オバケとか幽霊さんとかがやり返す時のスピードって。向こうのタイミングで来るんですよ。

子供がうわごとでね、「出来心で出来心で」って言うんだって。なんて言ってるのかよく分からないけど、よく聞いたら「出来心で」みたいなこと言ってるんですって。
6、7歳で出来心なんて普通言わないじゃん。
その時にうわぁ……って思ったらしいんだけど。

その人、めちゃめちゃ金が無かった時があるんだって。自分のせいで仕事クビになって。で、次の仕事も何にも決まらなくて。周辺の奴を頼ろうにも人脈が無くて。前辞めたバイト先に行っても「何しに来たんだお前」みたいな感じになっちゃって。まあそういう人っているじゃん。辞め方が辞め方なのになんでお前今もう一回出来るって思うの、みたいな人。そんな感じになっちゃって。

追い詰められて、そのくせ良いマンションに住んでて、家賃だけはなんとか、ってなって。
普通、じゃあ日雇いとかすればいいじゃん、って話なんですけど。

近所に神社があったんですって。
それが、今から考えたら、その神社、夏になっても祭りとか一切してなかったんですって。大晦日とかも。敷地あるのに。普段は近所の人も結構来てるけど、そういう時には一切行かないんですって。
ただ、拝んでる人は、昼も夜もいつもいる、みたいな。
そんな神社があって。

お賽銭泥棒したんですって。そんなに人がいっぱいいるわけじゃないから。
いつも、ハッと気がつくと一人いるな、くらいのところだから、あんまり期待せずに行ったんですって。
そしたら、めちゃめちゃ入ってるんですって。万札とか。万札が束とかで入ってるんですって。

マジじゃないですか。マジな何かの神社じゃないですか。
かと言って普段そういうお祭りに使わないって、絶対ヤバい神社じゃないですか。

馬鹿だから、合理主義だから。結構使ったんですって。その時に。
そしたら、変な話、色々な支払いが2ヶ月くらい助かったんですって。
神社頼りだったんです。

で、周りが、めちゃめちゃ怒ったんですって。
周りも合理主義だったんですけど。その神社がどういう由来かは知らないけど、そこは。
「いやいやちょっと待て、お前それは倫理的にどうなんだ。それを平然と話すお前も頭おかしいぞ」って。
それでその人、「なりふり構っていられねえだろうが。出来心だ出来心だ」って言ったんですって。
「向こうもな、神様だって分かってくれる。出来心ってことだよ。しょうがねえんだよ」って。
周りは、「いや、そうじゃないと思うんだけどなあ」みたいな。

それを、子供が言ってるわけね。
ヤバいじゃん。
このままずっと熱出てると、ちょっと脳に異常が、身体に何かしら後遺症が、くらいに熱が止まらないんですって。

で、まあ、そういう神社だと思うんですよ。縁切りとか、ネガティブな方向の神社というか。だから祭りには使ってないみたいな。効能バツグンだけど祭りに使うわけにいかないとか。
あるいは表神社があって裏神社かもしれないね、方角的に。田舎だとそういうのあるんですよ。わかんない所にあって、知る人ぞ知るみたいな。人が常駐してるけどそこで特にイベントは無いみたいな。あるんですよ。

で、流石にヤバいと。子供に来るとは、みたいになって。
奥さんには言えないし、じゃあ謝りに行こうと。
今なら貯金もあるから、いやらしい話、倍くらい払えばいいだろうっていう。まあ、その発想もいまいちどうかなって思うんだけど。ずっと一生謝れって話なんだけど。
お金持って、その、大学時代過ごした場所に行ったんです。

行ったら。
地域一帯が大規模に工事されてて、全然わかんなくなってるんですって。区画整理みたいなのがあって、地名も変わってて。
知らなかったから。うわ困ったなって。
田舎特有の細道とかも無くなってるんですって。全然わかんないんですよ。

そうなると、方角的にはこっちかな?みたいな。昼間行ったんですけど、名前も知らないから、「え、この辺にあったけどなー全然わかんない」って。
目印のコンビニとかも無くなってて。家なんかも新築になってて。全然わかんないのよ。
「ここまでは合ってるけど、ここから先、こんな公園無かったし何なんだ」みたいな。
神社が移転した可能性もあるしね、方角的なこと守って。

見つからないまま夕方になっちゃったんですって。
そしたら、なんかそれっぽいぞ、みたいな神社があって。
まあ名前も覚えてないし、入口も若干違う気がしたけど、ここだと思うけどなーって。

中入って。境内もなんだか似たような雰囲気で、やっぱここだと思うけどなーって。
賽銭箱も新しいんですって。
懐から茶封筒出してボンって入れて、ジャラジャラジャラって鳴らして。そこでジャラジャラってのもおかしいんだけど。
「10年前はすみませんでした」って。「ちょっと、子供に来るのやめてくれませんか。何だったら別に、俺が熱出ればいいんで」みたいなこと言って。
「まあすみませんけど、この金額でちょっと、勘弁してもらえませんか」って。二度と来ねえ気かって話なんだけど。
まあ、どこまでもバチに対して合理主義というか。

そしたら。
「あーあ」みたいな声がするんですって。後ろから。
え、と思って見たら。
小さい子で、男の子か女の子かまだわからんくらいの顔の子っているじゃないですか。着物もいまいちどっちかわからんような。髪型もギリギリどっちだみたいな。それこそ七つまでは神のうち、みたいな。
みたいな子がいて。「はーあ……」って。
そんな子がため息つくわけない。へ?って思って。

さっきまでいなかったし、急に出てきた感があるんですって。
うわ、と思ってたら、その子がズッズッズって来て。裸足だったんですよそれが。ペタペタペタって来て。じーっと自分見て。
普通だったらなんだお前とか言うんだけど、なんか、気持ち悪かったんですって。その子の肌の色合いとか、目の感じとか。着てる服もなんか、ん?みたいな。

なんだコイツと思って見てたら、「はぁー……」って困ったような顔して。「系列は同じなんだけどなあ」みたいなこと言うんですって。
その神社じゃなかったらしいんですよ。
「系列」って言ったかどうかはちょっと、わかんないんですけど、「流れ」とかかもしれないんですけど。
とにかく、「流派は間違ってないけどここじゃないから何しても助からんぞ」みたいなこと、もっと難しい言葉で言われたんですって。そいつに。その、男か女かわからん子供に。声も全然わかんなかったんですって。

「助からんぞ」みたいなこと言って、「はーあ……」って、クルって回って鳥居の向こうに行っちゃったんですって。
出てったから。ちょっと何なに、と思って見たら、やっぱりいないんですって。
いねえってなって。ええっ、ってなって。

結局、お子さん亡くなったらしいんですよ。すっごく熱高くなっちゃって。

亡くなって、母方のおばあさんが、「孫がそんなことになっちゃって、孫に着せようと思ってたのに」みたいな感じで、着物持ってきて、それ着せてお葬式、ってなったら、その着物だったんですって。その子供が着てた。

で、おくりびとが来て。「そんなことだったら……」ってやるじゃないですか。
化粧の感じが似ちゃったんですって。

そいつ、それから廃人状態で……。

だから、まあ、系列同じでもねえ。その子も「うちに言われても困るけどねえ」って感じだったと思うんですけど。

ただ、本当だったかなって思うんですよね。その子の物言い。ひょっとしたら同じ神社だったかもしれないよね。断る感じで。
あるいは、言葉が難しかったって言うから、「来るのが遅かった」って意味かもしれないしね。そいつが勝手に自分が間違えたからって思ってるだけで。時期とか時流とか、いろんな言い方あるじゃないですか。難しい言い方されたって言うから。

まあ、祟ったのか、バチというかね。「病気になったけど助けない」という感じになったのか。

そういうのあるらしいんですよね。

だから、皆さんも出来心でお金とか盗るの、駄目ですよ。



※ツイキャス『禍話』2018/9/14放送回(震!禍話 二十五夜 最後は加藤よしき話)の一部を抜粋して文章化したものです。書き起こしにあたり表現を変えた部分があります。