【禍話リライト】き・ん・じ

70年代の話。
Aさんの勤務していた学校では、こっくりさんは禁止されていなかった。
皆冷静だしこっくりさんをしてもパニックなどは起きないだろう、ということで先生方は放任していた。


「頭の良い進学クラスに限ってそういうことするよね」「やっぱりガチガチに勉強してるからその反動でそういうオカルト的な方向にいっちゃうのかもな」
Aさん達が職員室でそんな話をしていたちょうどその時、進学クラスの生徒達数名が悲鳴をあげながら飛び込んできた。
言ったそばから?と笑いながらも話を聞くと、彼らはやはりこっくりさんをしていたのだという。そして、教室には自分達しかいなかったはずなのに、質問をしたタイミングでバーンッ!!と教卓を叩く音がしたのだという。
「へえ、怖いね」
集団幻覚なら「呪ってやるー」とか「死ぬ」とでも言われそうなものだが、教卓を叩く音とは割と明後日の方向だなとAさんは思った。

しかし、生徒達の怖がり方がどうもおかしい。
「たしかに怖いけど教卓だってボロいんだからそれで音が鳴ったんじゃないの」と言うと、生徒達は「いや違うんです」と言う。
「あれ、剛田先生の叩き方でした」
剛田先生は生徒を威圧するタイプの教師で、よく授業中に教卓を叩いていた。その感じが全く一緒なのだそうだ。
なお、剛田先生は現在休職中である。

「剛田先生が来ちゃった」
「いや来ねえよ。『こっくりさんこっくりさん〜』って言ったんでしょ? 『剛田先生剛田先生〜』とか言ったわけじゃないでしょ?」
「いや違いますけど、でも叩き方が剛田先生だったんですよ」
「じゃあ何聞いてたの? 剛田先生に関係すること、例えば『先生はずっと休んでますけどいつ復帰しますか?』とか聞いたの?」
「いや全然関係ないです」
どうやら、彼らはこっくりさんへの質問が無さすぎてほぼ世間話のようなどうでもいいことを聞いていたようだ。
「体育の鈴木先生、イケメンじゃないですか。でもいつもジャージじゃないですか。」
確かに鈴木先生はシュッとした人で、スーツが似合いそうである。
彼らはこっくりさんに言った。「スーツ着たら似合うと思いませんか?」と。
すると、十円玉が動いた。
「き、ん、じ」
は?と思った瞬間、バーンッ!!と教卓が鳴った。

「それは関係ないねえ」
鈴木先生はとても温厚で、男女問わず生徒からの人気があるような人である。教卓を叩くような真似はしない。
「すげえな、不思議だな。でも不思議なもんってのはそういうもんかもしれねえな。俺らにはわからんことかもしれない。だから気にすることないよ。そんだけとりとめもなく脈絡もないわけだし」
でもこういうことがあるからこっくりさんなんてやっちゃ駄目だよ、と言うと生徒達は「そうですよね、やっぱやめます」と言い、帰っていった。


残ったAさん達先生方と他の生徒で「不思議なことはあるもんだね」と話していると、ある生徒が「そういえば剛田先生はいつ復帰されるんですか?」と聞いてきた。
剛田先生は授業中に男子生徒を殴ってしまったのだ。その生徒は軽い脳震盪を起こしてしまったのだが、それで保護者が激怒したのをきっかけにそれまでの体罰が色々と発覚した。
当時は体罰がまかり通っていた時代であり、またそれまでは剛田先生の体罰により怪我をする生徒もいなかったために黙認されていたのだが、今回の件により、剛田先生は教師生活で初めて怒られることとなった。そして保護者から理詰めできつく責められ、それが原因で休職している。
「いつ復帰なのかわかんねえな」

ところが。それから3日後、剛田先生は自殺してしまった。
教育委員会としては別の職場に移動させようとしていたのだが、それが本人のプライド的に許せなかったようだ。

葬式があり、鈴木先生はスーツで出席した。

生徒たちは言う。
「き・ん・じ」とは「近日」だったのではないか、と。
こっくりさんが自殺させたわけじゃないとは思うけどドンピシャじゃん、と。

怖いからもうこっくりさんはしないのだそうだ。


・ツイキャス『禍話』2020/2/29放送回(THE 禍話 第31夜)の一部を抜粋して文章化したものです。書き起こしにあたり表現を変えた部分があります。