【禍話リライト】地下鉄の窓

福岡の地下鉄の話。
今の地下鉄には危険防止のバーや自動ドアがあるが、そういったものがまだ無かった頃のことだそうだ。

ある日、Aさんは地下鉄の普段使わない路線に乗った。どこの駅の乗客が多いかなど知らなかったAさんだが、途中に人が全然乗ってこない区間があることに気付いた。寂れているらしい。

後日、再度その路線を使うことになった。
夕方頃だった。
ここ人乗ってこないんだよね、と思っていると取材クルーのような格好をした4、5人が乗り込んできた。大学生の映像研究会か何かのようで、カメラを持っている。
その集団はAさんの向かいの座席に座った。やけにテンションが低く、全員がてんでバラバラの方を向いて「はぁー…」とため息をついている。
取材で疲れているのだろうか、と思ったが、会話を聞くとどうも誰かを病院に連れて行った帰りのようだ。「○○さんあれ大丈夫かなー…」というようなことをお互いに目線を合わせない感じで言っている。

「でもあれ○○さん言い出しっぺだからしゃあねえっしょ」
「昼間だからって行っちゃいけない所はあるな」
「いくら管理者がはっきりしてないからって行っちゃいけない所ってある」

変なことを言う人たちだな、とAさんは思った。
廃墟にでも行ったのだろうか。例えば踏み抜いて病院行きになったとか、その○○さんが言い出しっぺで威勢よく行ったけれど怪我をしたとか、そういうことなのだろうか。
そんなことを考えていると、突然彼らがAさんの方を見て「うわぁ」「あーっ」と悲鳴を上げた。
えっ俺何にも、と一瞬思ったが、どうやらAさんの後ろの窓を見ているようだ。

地下鉄の窓は外の暗さのため鏡のように姿が映る。しかし、Aさんの後ろの窓に彼らの姿は映っていなかった。

自分たちの姿が映っていないことに気づいた彼らは怯えた様子で「うわー、うわーヤバい」「絶対あんなとこ行くべきじゃなかった」と口々に言いながら電車を降りていった。
彼らは一体、どこへ行って何をしてしまったのだろうか。


※ツイキャス『禍話』2019/3/14放送回(禍ちゃんねる パワプロスペシャル)の一部を抜粋して文章化したものです。書き起こしにあたり表現を変えた部分があります。