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ファッションから紐解く『なつぞら』主人公「なつ」の成長

2019年現在、絶賛放送中の連続テレビ小説『なつぞら』の主人公なつの成長を主に東京に上京後、東映動画に採用されて以降のファッションから紐解いていきたい。

なつという主人公自身はファッションに対して一切興味がなさそうなのは初回からご覧の方には分かると思う。基本的に彼女が育つことになった十勝ではおそらく彼女の養母富士子が作ったと思われる服や作業着を数着、または高校の制服をずっと着回してる。まあ、だからといって、ファッションに興味がないと言い切れないのは、『なつぞら』の舞台が昭和30年代だからだ。既製品は殆ど存在せず、お金持ちでない限り日替わりで服を変えるのが難しいはずだ。よそ行きの服という言葉が当たり前にある、そんな一般的な社会において、服を着回してる事=ファッションに興味ないとはいいきれない。ただ、その為に現代より自分が積極的に興味をもたないとファッションセンスがあまり培われない環境であったことは確かだろう。

一度、兄探しのために上京した際にはこのワンピースともう一着のスカートを着回している。どちらも養母のお手製のよそ行きの服と考えるのが自然だろう。

さて、そんなファッションセンスを持たない(というか持つ機会のない)彼女に転機が訪れる。

なつが東映動画の仕上課に就職するのを機になつの兄咲太郎と兄の養母亜矢美と同居するようになった事である。
この亜矢美は新宿のムーランルージュで一世を風靡した元ダンサー、現在は居酒屋の女将さんであるが、羽振りの良かったダンサーの頃に買ったまま手放せていない大量の衣服と思われるものを所有しており、なつは同居する際にその衣服をそっくりそのまま譲り受けることになる。

そして、東映動画への入社初日。
なつは亜矢美に、あれ着ろこれ着ろと着せ替え人形のようにコーディネートされて、出社することになる。おそらく全体的に田舎くさい上に服に無頓着な彼女に亜矢美がお節介したという所であろう

その通勤初日(亜矢美コーデ)の服装がこちら。

一言でいうと派手である。とはいえ、新宿のムーランルージュでダンサーやってた亜矢美の選んだ服装ですよ、と言われると、まあ納得いくなと思う服装でもある。その後も亜矢美によるなつの衣装コーディネートは続く。

出社二日目。

仕上課の同年代の先輩モモッチと比べても分かる。またしても、派手。亜矢美さん曰く初日の服装は「控えめ」だったそうである。確かに二日目は一日目より柄は大きくなり、配色も大胆になっている。
それ以降のなつの服装は以下の通り。

三枚目の服装で仕上課のなつが作画課に出入りしていた為に、なつは作画課の麻子から「男をあさりに来ている」と誤解を受けて、ショックを受ける。(本当はゴミ箱の書き損じをあさりにきていた)

その翌朝、再び亜矢美にコーディネートしてもらう最中、もっと地味に、となつは要求するが、結局、亜矢美に挑発されて「やっちゃってください!」と亜矢美の派手なコーディネートを受け入れて出社する。それが以下の服装だ。

さて、この後も、なつは亜矢美から譲り受けた大量の服装を毎日、違う装いで着回していく。(なお、これはなつのアニメーター編の参考となっている奥山玲子氏の「毎日違う服を着てきた」という実話を参考にしている。)

そして、仕上課に入社して日が経ち、なつのコーディネートは更に変化していき、思わぬ人に影響を与える。

仕上課で、なつの教育係を兼ねている隣の席にいるモモッチだ。
モモッチはピンク系統の色をこれでもかと使い、しかもアイテムの全ての柄を変えるという派手な服装に変化。
なつも以前着ていた服を着回しているが、これまで履いていないパンツスタイルになっている。しかもなつの場合、派手な大きい柄×大きい柄は消え、パンツも無地。控えめなドット柄になっている。

モモッチにしろ、なつにしろ、いっそ以前のコーディネートの方が良いんじゃない??と思ってしまう奇抜なファッションだが、彼女たちのファッションは段々と変化している事がわかる。
さて、この間、『なつぞら』を視聴している方の間では、なつが亜矢美の着せ替え人形であることに自主性がないと嘆かれている方もいらっしゃった。が、亜矢美が確実にコーディネートした二日目の衣装と、この同じ花柄のイエローのジャケットに合わせた無地の青のパンツ、シンプルなドット柄のコーディネートを見比べてほしい。
そこから分かるのは、「これは亜矢美さんがチョイスするだろうか??」という無難な柄の服と絶妙に組み合わせが微妙に上手くいってない感。(亜矢美がコーディネートしたとわかる服は派手は派手だが、なつに微妙に似合ってなかっただけで、そのコーディネートのレベル自体は高い)

まあ、その後も『なつぞら』をご覧になった方には周知の事実だが、なつが亜矢美の着せ替え人形化していたのは「最初の一週間だけ」で、あとは自分で磨けと、なつは最初の一週間以外は自分で服を選んでいる事実が、なつの台詞で説明される。
そんなの後だしで説明されても、という方もいらっしゃると思うが、なつが徐々に服装を変化させていったことは言葉で説明がされていないだけで、なつの服装の変化を中心に見ていくと「はて?これは亜矢美さんに選んでもらってるか?」まではわからずとも、ただの着せ替え人形ではなく、自分でも「こういう風にしてください」とオーダーぐらいはだしているかも?という事ぐらいはわかるようになっている。

更に仕上課の仕事が一段落し、トレースの勉強をする頃の服装になると、おしゃれ素人感は減り、服に着られてる感も減る。見切れているが、モモッチもまた色柄のチョイスが段々と上手くなっていく。面白いのが、モモッチはなつと比較して、服装の形に変化は少なく、「色や柄のチョイスとその組み合わせ」に重点を置いて変化している点だ。仕上(彩色)の仕事にやりがいを感じ始めた彼女の将来を暗示させる変化だ。

そして、動画の試験を合格し、仕上課としての出勤の最終日。

東映動画の入社日だったころの亜矢美に着せられるがままの「奥原なつ」は自分で立派に服装をコーディネートできるようになっている。ハイライトのネックレスまで入れるオシャレっぷりだ。
モモッチもど派手なピンク系統と柄×柄で組み合わせていた頃のモモッチとは隔世の感ありのコーディネートを見せている。

『なつぞら』の仕上課のなつは、仕上の仕事も遅いながらも丁寧に頑張りながら、その裏で動画として採用される為に努力し、成長していき、ニ度落とされても試験を受けて、ようやく動画として採用された。

その成長過程をファッションを通じて、『なつぞら』のスタッフは見せてくれている。

まだまだアニメーターとして”卵”のなつが今後、どのようなファッションを見せてくれるか、それもまた、『なつぞら』の楽しみ方の一つである。